今ひとたび、英雄たらんことを   作:blue man

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デシウス仲間にするのに12年掛かりましたね……。


荒れ狂う古王

「全員、揃っているようだな」

 

 例によって帝国の作戦司令室に集められた面々に対し、レオナが口を開く。

 

「ここに呼ばれたという事は、冥界軍に何か動きがあったという事か?」

 

「そうなる……が、今回は少し面倒な事になった」

 

 王子の問いに、レオナが答える。いつもの仏頂面に、より一層眉間に皺を寄せたそれが、何よりもその言葉の真実味を雄弁に語っていた。再びレオナが口を開く。

 

「……昨日、ダークエルフ側から助命嘆願があった」

 

「ほう? あのダークエルフが、帝国にかい?」

 

「そうだ」

 

 メフィストが興味深いとばかりに問い掛ける。

 ダークエルフもまた、帝国に領土を追われ、冥界軍に加わった者達。現族長セグナントはダークエルフ達を率いて王国軍を相手に苛烈なまでの攻勢を掛けた。

 王国の戦力には及ばず撤退こそしたが、脈絡なく助命を願い出るような真似はしないだろう。

 

「——ここから先は、私が話した方が良いだろう」

 

 不意に、作戦司令室に耳慣れぬ声が響く。凛とした女の声。

 視線を向ければ、一人の女が立っていた。浅黒い肌、銀の髪に赤い瞳と尖った耳。ダークエルフだ。

 

「お初にお目にかかる。セグナントが娘、イルヴィだ」

 

 視線を一身に向けられながらも、イルヴィは臆する事なく口を開いた。セグナント——ダークエルフの族長の娘直々の助命嘆願。可能な限り穏便に済ませたい帝国にとっては願ってもない申し出である。

 だが——

 

「どうか、私の家族を助けて欲しい。あの化け物を殺せるのはきっと、貴殿らしかいないのだ」

 

 ただ命を助けるなどと、そのような筈はない。誇りをもって立ち上がった戦士達が、それを曲げてまで頭を下げるような事態が起きているのだ。

 イルヴィが作戦司令室の者達に赤い瞳を向ける。切羽詰まった、恐ろしい何かに対する怯えが、気丈な娘の目から滲み出ていた。

 

「どうか死してなお荒れ狂う災禍——三代目白の皇帝を殺して欲しい」

 

 少女の口から出たそれは、帝国の血塗られた歴史。拭いきれぬ功罪であった。

 

 

 

 

 

 

 ——そこは地獄の様相であった。

 

 あちこちの天幕が火に包まれ、煙が空を覆っている。地面は血に塗れ、歩くたびにぬちゃぬちゃと音を立てた。血臭と焦げた臭い。その先には山のようにダークエルフの死体が折り重なる。恐怖と苦悶に満ちたその骸には区別はない。男も女も、老いも幼いも、一切の区別なく物言わぬ肉の袋と化していた。

 

「久しいな、この光景は。かつてはこうして死体の山を作っては、勝利の美酒に酔いしれたものだったが」

 

 骸帝が、どこか感慨深げにそう呟く。久方ぶりの生者の世界。悲鳴と怒号、立ち昇る血の臭いと肌に感じる炎の熱さ。これこそが、己が生きて戻った事を実感させる。

 そんな骸帝の背後、兵士に脇を固められ、両腕を拘束されたダークエルフの男。

 

「……何故、こんな事をする。我らの居留地を焼き、戦えぬ者達まで……戦士としての誇りはないのか」

 

 ダークエルフの族長、セグナントが絞り出すような声で骸帝に問う。拘束されていなければ、直ぐにでも斬りかかっていただろう。

 そんなセグナントに、骸帝は向き直る。そこには、隠そうとしない侮蔑の笑みが浮かんでいた。

 

「敗北者風情が偉そうに。選んで殺すのが、そんなに上等かね?」

 

「……ッ! 貴様、ハイドース様に反逆するつもりか!」

 

 セグナントの言葉を一顧だにしない骸帝に吠える。冥界軍は、様々な思惑こそあれど共に白の帝国への反逆を誓った同志。その輪を乱すような者、ハイドースはただでは置かないだろう。

 だが、それすらも骸帝は嗤う。

 

「反逆だと? 違うな、皇帝こそがあらゆる生命の上に立つ。我が上に立つ者など、最初から居るはずなかろう」

 

 神すらも、取るに足らないと言ってのける。あまりに傲岸不遜、恐れを知らぬ物言いだが、この男は堂々と言い切って見せた。この男にとって、皇帝とはそういうものであると、信じて疑っていないのだ。

 だが、そんな骸帝の物言いを、今度はセグナントが嘲笑う。

 

「時代遅れの亡霊が……今の時代にお前の居場所などありはしない! お前を崇める民も、国も無いというのに皇帝を気取るとは笑わせる!!」

 

 歴史に埋もれたただの英雄が、今更出てきて何をしようというのか。名こそ残っていようが、最早その恐怖は薄れ、忘れられている。今更骸帝を名乗ろうとも、付いてくるものなど居ようはずがない。

 そんなセグナントの言葉を、骸帝は今度は嗤う事はなかった。代わりに、兜の奥の瞳を煌々と燃え上がらせて口を開く。

 

「——故に、思い出させるのだ、皇帝とは何たるものかを。お前達は、その為の贄に過ぎん」

 

 皇帝がそう言うと、セグナントから背を向ける。その視線の先、100名ばかりのダークエルフの女子供が拘束され、跪く。その首には兵士達の剣が当てられ、一様に怯えの目を見せている。恐怖で歪み、今にも倒れそうな者も居た。

 

「セグナント、お前の反逆ごっこに華を添えてやる。死ぬ気で戦い、皇帝の首を持ってこい」

 

「……そうすれば、皆を助けてくれるのか」

 

「勿論だ。お前達に殺されるのなら、今の皇帝はその程度の男だったという事。死力を尽くしたお前達は、褒美として見逃してやろう」

 

 誇りを賭けた戦いを反逆ごっこと言われ、しかしセグナントにはどうする事も出来ない。目の前の人質の為にも、今は耐えるしかなかった。

 そんなセグナントをつまらなそうに見下ろしながら、骸帝は口を開く。

 

「お前も今代の皇帝も、温過ぎる。戦争など結局は殺すしか無いのだ、そうだろう?」

 

 だからこそ、セグナント達は贄なのだ。罪なき民が、必死になって自分を殺しにくる。そんな経験が今の皇帝には足りていない。そしてそんな無力な民を薙ぎ払い、屍の山を踏み締めて、勝利の美酒に酔いしれる得難い経験もまた、足りていない。

 彼らを殺したならば、最低限皇帝の器を手に入れたと認めても良いだろう。もしそうならなかったのならば、世は再び骸帝の時代に巻き戻る。

 

「楽しいなァ、セグナント。お前も楽しめ、笑え、笑いながら死にに行け」

 

「……狂人め」

 

 兵士から解放され、セグナントはよろよろと立ち上がると骸帝から背を向けて歩く。残るダークエルフの兵士を集め、帝国相手に決死の戦いに向かうのだろう。

 

「それで良い。己の命を賭けてこそ、死力の果てにこそ覇道はある。望むものは、他者の血肉の上に立って初めて勝ち取るものなのだ」

 

 骸帝が一人呟く。それは、彼が己の一生を歩んだ上で得られた、決して揺るがぬ価値観であった。

 今代の白の帝国皇帝、それが己の期待に応えてくれるかどうか、それを見定めんと骸帝は火に包まれた居留地を歩むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 平原の向こう、白い鎧で身を固めた兵士達が広がっている。それらは今の白の帝国の鎧と酷似しているが、一様に古めかしい。兵士の構成も騎兵、歩兵が主であり、現帝国の得意とする兵器の類は見て取れない。

 だが、それらは目の前の軍勢を侮る理由にはならない。数多の国を蹂躙し、帝国の名を知らしめたその軍勢は、帝国史上最強だったのだと今なお語り継がれているからだ。

 

「まさか、これら全てが冥界から甦ったと?」

 

「間違いなく、そうでしょうね。ハイドース様が……いえ、ハイドースが権能を行使するのを見るのは私も初めてよ」

 

 レオナの問いに、ヘカティエが答える。目の前に広がる軍勢はその全てが死人。しかし、決してアンデッドではない。冥界の王の力で仮初の肉体を編まれ、その魂を受肉させている。

 そんな帝国兵士を、ヘリューズも険しい表情を浮かべて見遣る。

 

「見たところ、流石に完全な蘇生とまではいかないみたいですね。少しずつ、綻びが出ている」

 

「だが、戦いに支障が出る程ではない」

 

 ヘリューズの言葉に、皇帝が答える。その手にはアダマスの神器は無く、代わりに予備の剣が握られている。何の変哲もない、ただの剣だ。そんな皇帝に、褪せ人が問いかける。

 

「まだ直らないのか」

 

「……鍛冶職人が手立ては見つけたと言っていた。後は信じて待つだけだ」

 

 砕けた神器。最早直らぬものかと思ったそれを、しかし直す術を見つけたらしい。報告を上げた鍛冶職人がどこか複雑そうな面持ちをしていたのが気になったが、それを問うような真似はしなかった。ただ信じて、今はこの局面を乗り切るのみ。

 

「ダークエルフの居留地は既に骸帝の手勢に占拠されている。此方の狙いが居留地の解放である事は、悟られないようにしたい」

 

 帝国はあくまで襲いくる冥界軍を迎え撃つだけ。ダークエルフの居留地に価値があると知られれば、防備を固められ、最悪居留地のダークエルフの生き残り達に危害が及ぶ。

 骸帝の軍勢に悟られないようにしながら、居留地の解放を目指さなければならない。

 

「どうするつもりだ」

 

「ダークエルフの居留地を奇襲する——ミュレ」

 

「はっ! 小官の出番でありますね!」

 

 褪せ人の問いに、レオナは一人の名を呼んだ。それに応えて前に出たのは、黒髪の少女。敬礼と共に気合の入った返事を返す姿は、帝国の中でも真面目な印象を受ける。

 

「隧道掘削工兵、ミュレであります」

 

「ずい……?」

 

「トンネルをドンドコ掘ってどぅるるッドッカーンと奇襲する兵でありますな!」

 

 聞き慣れない言葉にフーロンが思わず首を傾げていると、ミュレが補足を加える。言葉遣いに違和感はあったが、要するに地中からの急襲を目的とした兵科らしい。

 言わんとしている事は分かったが、それでも褪せ人は胡乱な目を向ける。今から穴を掘るなどと悠長な事を、本気でやろうとしているのだろうか。

 

「疑問はご尤も、王国に掘削兵のノウハウはありませんでしたからね。ですがご安心を。トンネルをズガガッと掘るのはこの子の役目ですので」

 

 そう言ってミュレが指し示す先にあったのは巨大な鉄の塊であった。見上げんばかりの巨体を履帯で支え、その先端には巨大な穿孔機が付いている。

 

「——機動旋回要塞。これで骸帝の思惑をドゥルドゥルバッサァーン……と吹き飛ばすのであります!」

 

「これは……」

 

 褪せ人も思わず声を上げる。空を飛ぶ船、鋼で出来た竜と、帝国の技術力には驚かされるばかりであるが、今回もまた褪せ人の想像を超えていた。こんなものがあっては、ツルハシ片手に穴を掘るなど馬鹿馬鹿しくてやってられない。

 

「本来ならば工兵を用いてトンネル構築しながら進むのだが、今回はそうも言ってられない。掘削機内に乗れる最小限の戦力だけで、居留地の奪還を目指す。やってくれるな?」

 

「無論」

 

 レオナの問いに、褪せ人が答える。奇襲の方法が確立されたならば、やる事は明確だ。敵地に乗り込み、無力化する。己に出来るのはただそれだけだ。

 

「話がトントンとまとまったところで、ちゃっちゃか作戦に移りましょう!」

 

 ミュレに促され、褪せ人達は巨大な鉄の塊へと乗り込んでいくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 機動旋回要塞の内部は、褪せ人にとってまるで意外であった。外から見える巨体に比べ、中は想像より狭い。無機質な鋼の部屋に、無数のスイッチが並んでいる。

 

「一度動くとズンドコバンバン揺れるのでご注意ください」

 

「ズンドコバンバン……?」

 

「ズンドコバンバンであります」

 

 席に座りながら、ヘリューズが首を傾げる。ミュレは妙な擬音を付ける癖があるようだが、あまり疑問には思っていないらしい。

 褪せ人も指示されるまま席に座る。土の中を掘るからか、窓のようなものは殆どない。せいぜい、操縦席に最低限設けられているだけだ。

 

「全員、準備はよろしいでありますな! それでは——機動旋回要塞、ズガガッと発進であります!」

 

 ミュレがそう言うと、レバーを引く。起動した掘削機のエンジンが機体を揺らす。やがて、穿孔機が回り始めると、ゆっくりと移動を開始する。そして、しばらくすると、地面を穿ち始めた。機体の中を、先ほどとは比べ物にならない揺れが襲う。

 

「あばばばばば!」

 

「舌を噛むぞ」

 

「むぐ!」

 

 隣に座るカゴメの口を押さえながら、褪せ人もただ揺れに耐える。操縦席に備え付けられている窓には、無数の小石がぶつかり、岩盤を貫く穿孔機の姿が見えた。

 

「計算通りならそろそろでありますな……」

 

 機動旋回要塞が掘削を続けてしばらく、忙しなく操縦席で操縦を続けていたミュレが呟く。掘削を始めて目立った問題はない。計算通りならばそろそろ居留地の真下、浮上予定地にまで到達するだろう。ミュレがレバーを引くと、穿孔機が唸りを上げる。

 

「そろそろザッパァーっと地上に出るであります! 掴まって下さいね!」

 

 一段と揺れが激しくなり、機体が上方に傾いていく。静かに揺れに耐える褪せ人の視界の端で、顔色の悪いイルヴィが見えた。ダークエルフには、こんな揺れは慣れないものだろう。仲間達の心配もあるのかもしれない。

 機内の薄暗い灯りの下、激しい揺れに耐え続ける。しばらくすると、突如機内を光が照らした。

 

「目的地到着であります! サクサク居留地を制圧するでありますよ!」

 

 ハッチが開かれ、褪せ人達が外へと出る。焦げた臭いと、血の匂いが入り混じっていた。機体の上から来た方角を見れば、帝国軍と冥界軍がぶつかり合っている。冥界軍の最前線は、ダークエルフの軍勢だ。

 

「父上……!」

 

 イルヴィがそれを見て言葉を失う。遠目から見てもダークエルフの勢いは凄まじい。それは勇猛と言うよりは更に壮絶な、死兵を思わせる必死さを感じさせる。

 

「一体何が……!」

 

「……人質、でしょうか」

 

 戸惑うイルヴィの横でヘリューズが呟く。ダークエルフの背後に布陣する骸帝の軍勢。それは後詰めと言うよりはダークエルフ達の退路を絶っているようにも見受けられた。

 

「くっ……! 早く居留地を解放しなければ!」

 

「貴様ら! 一体何者か!」

 

 焦るイルヴィ達の元に、白い鎧を纏った兵士が現れる。機動旋回要塞に目を向け、そこに刻まれた帝国の紋章を見ると、即座に剣を抜き放った。

 

「敵襲! すぐさま応援……ぐあぁっ!」

 

 叫ぶ兵士に向け、褪せ人が雷の槍を投げる。兵士はまともに受け、全身を痙攣させると、その場に倒れ伏す。

 それを確認し、褪せ人がイルヴィへと視線を向けた。

 

「案内しろ」

 

「分かった、ついてきてくれ!」

 

 走るイルヴィの背に、褪せ人達も足早に追うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「き、貴様らどこから!? ガハッ……!」

 

「へ、陛下にお伝えを……ぎゃっ」

 

 居留地の中、剣を抜く帝国兵士達をフーロンが雷で貫き、ヘリューズが魔術で凍らせていく。相手は冥界から蘇った死者。躊躇う理由はありはしない。

 イルヴィの案内のもと、居留地を進む。流石に異変に気付いたのか、辺りは騒がしく、徐々に遭遇する騎士達の数も増えていく。

 

「恐らく、敵はこの先にある屋敷を拠点にしている筈だ! そこさえ押さえてしまえば……!」

 

 イルヴィがそう言いながら居留地の街路を曲がる。大通りに出て、その先、屋敷に通じる門の前に、豪奢な鎧で着飾った騎兵が立ちはだかる。

 

「——大手門は、開かぬ門。ここより先、我ら骸帝陛下親衛騎士が通さぬ」

 

「急いでいるのに……!」

 

 目の前に居る騎士達は先程までの兵士達とは違う。白の鎧を、金色に縁取ったそれは骸帝直属の証。騎馬に跨り、長大なグレイヴとフレイルをそれぞれ片手にじりじりと迫る。

 

 褪せ人が武器を抜く。親衛騎士が守っているのであれば、この先がイルヴィの言うように拠点なのは間違いないだろう。

 騎兵の相手など慣れたものだ。応援が来る前に手早く済ませよう。

 

 そんな一触即発の空気の中、不意に門が重々しい音を立てて開いた。騎士達ですら思わず振り向いた先、骸を模した鎧の男が堂々と歩みを進める。

 

「骸帝……!」

 

 イルヴィがその姿に思わず剣を握る手が強まる。仲間達の仇、荒れ狂う戦場の暴君。それが今、目の前に居るのだ。

 だが、骸帝はそんなイルヴィに目をくれる事もない。まるで散歩に出たかのように、無防備な歩みを進める。

 

「へ、陛下!?」

 

「たまらぬ匂いで誘うものだ。えづくじゃあないか……」

 

 狼狽する騎士達を無視して骸帝は呟く。ゆっくりと周囲を見回して、そしてその視線が褪せ人へと固定された。

 

 ——瞬間、その姿が消える。

 

 そして、一瞬にして褪せ人へと距離を詰めたかと思うと、褪せ人に向けて剣を振り下ろす。

 

「……!」

 

 凄まじい勢いで振るわれたそれを、褪せ人が大盾で受け止める。

 

「お前、随分と血の匂いがするな……殺し続けた戦士の匂いだ。戦場でしか生きられない、我らと同じ戦士の匂いだ」

 

「……」

 

 大盾に阻まれながら、骸帝が笑う。そんな骸帝の言葉に、しかし褪せ人が答えることはない。

 そのまま剣を大盾で弾き、カウンターを放とうとして、骸帝に向けてヘリューズの氷の魔術が放たれる。骸帝はそれを大きく飛び退く事で躱す。

 

「貴方のような下劣と、彼を一緒にしないでください」

 

「クク……果たしてそうかな?」

 

 静かに怒りを露わにするヘリューズに、しかし骸帝は笑う。

 そして、骸帝と再び距離を詰めた。目にも止まらぬ踏み込み、その先に居たのはヘリューズ。

 

「……!?」

 

 その速さにヘリューズが瞠目する。防御が間に合わない。咄嗟に杖を構えたヘリューズの前に、褪せ人が盾を構えて割って入る。

 

「クク……!」

 

「……!」

 

 振るわれた剣を防ぐも、盾を掻い潜るように斬撃が放たれる。腹を裂くその一撃は浅いが、それでも褪せ人が眉を顰める。

 再度剣を振るう骸帝に、褪せ人が黒鉄の大槌を振るう。骸帝はそれを剣の腹で受け止めると、その勢いを殺すように自分で飛び退いて見せた。

 

「何だ貴様、首輪付きか?」

 

「……」

 

「だとすれば期待外れだ。今更獣が首輪を付けたからとて、まともに生きられる筈がないというのに!!」

 

 三度、地を蹴る。目にも止まらぬ速さで懐に潜り込むそれは脅威。しかし、褪せ人はそれを読み切って見せた。

 

「何……!?」

 

 振るわれる剣より速く、先読みした大槌が振るわれる。地面を抉り、光の軌跡を描きながら、それは骸帝の胴を捉える。黒鉄の大槌が、骸の鎧を打ち付け骸帝を吹き飛ばす。

 

「グゥ……!」

 

 背後に吹き飛ばされ、体勢を整える骸帝。手応えは弱い。先程と同様に勢いを殺したのだろう。だが、それも完全ではない。骸帝の胴鎧は、大槌によって大きく凹んでいた。

 

「……その程度か」

 

「クク……どうやら期待外れは訂正しなければならないらしい……!」

 

 意趣返しとばかりに放たれた言葉に、骸帝は笑う。

 骸帝が剣を構え、その脇を屈強な騎兵達が固める。フーロンとイルヴィ、カゴメ達もそれに応じるように構える。

 

「今代の皇帝が辿り着くまでの暇潰しだ。せいぜい楽しませろ、首輪付き」

 

 古き皇帝——冥界より蘇った血塗られた覇者が、褪せ人達の前に立ちはだかった。




骸帝→古き王→オールドキング
繋がったな……。
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