今ひとたび、英雄たらんことを   作:blue man

135 / 138
悪魔の饗宴

 腐敗の大地を、炎が覆う。冥界の青い炎すら、その鮮烈な赤に呑まれ、塗り替えられる。

 灰を踏み締め、悪魔達の行進が始まる。死者の領分を嘲笑うように、威風堂々と、我らこそが主であると。

 それを見れば、誰もが思うだろう——地獄とはこのような場所を言うのだと。

 

「何なんだよ……コイツらは!?」

 

 武器を構え、ラビリスが怒鳴る。物質界の者でも、冥界の者でもない何か。亜神である彼女をして、まるで未知の異形達。

 

「……ハイドースよ」

 

「何……?」

 

 ヘカティエの言葉に、ラビリスが問い返す。冥界を荒らさんとする外界の悪魔達を冥界の王が招き寄せた。問い返すのも無理はない。

 

「あれを呼び出したのは彼よ。復讐に駆られ、冥界の王としての本分すら忘れてしまったみたいね」

 

 ヘカティエの言葉には、悲しみと失望があった。仮にも冥界の王として認め、共に迷える魂達を導いてきたのだ。だが、復讐の炎に焼かれたあの亜神は、或いはそれすらも薪に焚べてしまったのかも知れない。

 

「ゴアァァァァァ!!」

 

 冥界に咆哮が響き渡る。悪魔の行進、その先陣を切るのは瓦礫の王。大槌を片手に、まるで地を這う獣のように帝国軍に向かって駆け出してくる。その巨体とは裏腹に、そのスピードは信じられない程に速い。

 

「迎え撃つぞ!」

 

 王子の号令に、王国の英傑達が瓦礫の王へと狙いを定める。放たれる魔術と矢弾。だが、瓦礫の王はそれを左右に飛ぶ事で回避する。

 

「速い……!」

 

 回避しながら、瓦礫の王は左手を腐敗の大地に突き入れる。腐り落ちた肉塊を掬い上げるようにして王子達に向けてばら撒いた。

 

「下がってください! はぁっ!」

 

 弾丸の如く放たれた肉塊を、カゴメの壁が防ぐ。白亜の壁に、べっとりと肉塊が張り付いた。

 

「ゴオォォォ!!」

 

 防がれ、瓦礫の王が再び走り出そうとする。その進行方向に、さらに白亜の壁がせり上がる。

 

「好き勝手動かれるわけにはいきませんよ!」

 

 瓦礫の王を白亜の壁が取り囲む。移動を制限された瓦礫の王に、再び攻撃が降り注ぐ。

 だが、思い通りにはいかなかった。瓦礫の王は迷う事なく白亜の壁に向かって飛び掛かる。そして、壁を蹴って更に別の壁へと飛び移ると、白亜の壁の縁に手をかけた。

 

「コイツ、前と全然動きが……!?」

 

 フーロンが戸惑いの声を上げる。以前はもっと、鈍重な巨人を思わせる重々しい動きだった。だが、今は違う。その巨体をそのままに、獣のような速度で縦横無尽に飛び回る。

 

「くっ、カゴメ、一度壁を——ッ!?」

 

 王子が指示を出そうとして、目の前に迫る炎の塊に大きく飛び退いた。先程まで王子の居た場所を炎に包まれた巨体が通り過ぎる。二体の悪魔のうち、片方の角が欠けた悪魔だ。

 

「キエアァァァァ!!」

 

 甲高い悲鳴のような咆哮。傷ついたデーモンが再び王子に向かって駆け出そうとするが——その胴を横合いから飛来した雷が貫いた。

 不意の一撃に怯み、怒りを込めた眼差しでその相手を睨みつける。

 

「褪せ人!」

 

「体勢を立て直せ」

 

 傷ついたデーモンから視線を外す事なく、褪せ人が王子に告げる。周囲を見渡せば、他の英傑達が悪魔達を相手に乱戦を繰り広げている。戦場を見渡し、指揮を取れる者が必要だった。

 

「ここは任せた!」

 

 駆け出す王子を、無言で見送る。傷ついたデーモンの横に、もう一体のデーモンが降り立った。

 

 冥界は一瞬にして混沌の戦場へと姿を変えた。デーモン達の炎が英傑達を襲い、瓦礫の王が猛然と暴れ回る。無論、彼らとて精鋭中の精鋭。乱戦の中でも、互いに補い合い、戦場を駆ける。だが、暴れ回る怪物達を前に、ジリ貧なのも事実であった。

 

「ラビリス」

 

「……何だよ?」

 

 混沌とする戦場。それを見渡し、秩序の番人たるラビリスは苛立ちを隠そうともしない。ヘカティエの呼び掛けに、ぶっきらぼうに返す。

 

「貴方の力を貸して欲しいの」

 

「……本気で言ってるのか? オレとお前達が、どういう立場なのか分かって——」

 

「——承知の上よ。その上で頼んでる。貴方は目の前の無法を看過出来るの?」

 

 ヘカティエがラビリスの言葉を遮る。そして、ラビリスに問うた。私達と目の前の悪魔。どちらの方がより無法なのかと。あれを放置するのが秩序の番人なのかと。

 

 ラビリスは押し黙る。彼女がすぐさま動けなかったのは、他ならぬハイドースとの約定があったからだ。

 だが、そのハイドースは、目の前の無秩序を生み出した元凶なのだと言う。

 彼女は瞳を閉じて僅かに思考し、やがて一つの決断を下した。

 

「……言っておくが、これはお前に言われたからじゃない。法と秩序の番人たるオレが、それが正しいと判断したからだ」

 

「それでいいわ。ありがとう」

 

 礼を言うヘカティエにラビリスは鼻を鳴らす。大槌を灰の大地の上に置くと、ヘカティエに視線を向ける。

 

「アイツらを分断する。オレの魔力だけじゃ足りねぇ、手を貸せ」

 

「分かったわ」

 

 大地に手を置くラビリスに、ヘカティエが魔力を分け与える。冥界の大地が、ラビリスの魔力に呼応して揺れる。

 

「我が名はラビリス! 雷霆の娘にして地上の女王! 冥界第三層、迷宮の主である!」

 

 ラビリスの名乗りに呼応して、冥界に亀裂が走る。亜神ラビリス、冥界第三層を治める女王にして、迷宮の主である。

 

 突然の地割れに、百足のデーモンが落ちていく。慌てて腕を伸ばすも、虚空を掴むだけに終わる。それを皮切りに、瓦礫の王達をも、地割れは飲み込み、落ちていく。

 

「彼女の力で悪魔を分断する! 各個撃破しなさい!」

 

 地割れに戸惑う英傑達に、ヘカティエが叫ぶ。彼女の言葉で、戸惑いは消えた。英傑達は落ちていく悪魔達を追い、躊躇う事なく奈落へと飛び込んでいく。

 光なき闇。行き着く先は冥界第三層。戦場が移り変わる。されど終わりは未だ見えず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ——冥界第三層

 

 灰の大地だった第一層とは打って変わって、そこには石造の通路と水路が広がっていた。

 無数に枝分かれしたそれは複雑に絡み合い、侵入者達を惑わせる。ここはラビリスの領域。冥界の亜神として、そしてかつて人の王としての栄華がそこには眠っている。

 

 そんな迷宮に、巨大な影が落ちてくる。複数の巨大な百足が絡み合ったような異形の悪魔。地響きを立て、迷宮に落ちたそれが身を起こす。

 それぞれの頭が周囲を見渡す。暗い通路を、百足のデーモンの炎が照らす。そして、一歩前へと歩き出す。

 

「——はぁっ!」

 

 そんな百足のデーモンに、迷宮の影から斬撃が放たれる。百足のデーモンの身体を傷付け、雷撃が走る。

 

「グウゥゥ……!」

 

 身体に走った痛みに、百足のデーモンの無数の頭部が一斉に斬撃の先を見る。

 

「うまく分断は出来たみたいだね」

 

 タラニアが二振りの剣を構え、百足のデーモンを油断なく睨みつける。その背後にはフーロンとカゴメ、アブグルントの姿。

 

「ここが正念場です! 皆さん、頑張りますよ!」

 

「……あの人が居なくともこれくらい何とか出来るって証明しないと」

 

 武器を構える少女達に、百足のデーモンが向き直る。無数の頭部を蠢かせ、顎を打ち鳴らす。その背は燃え盛り、身の内で暴れ回る炎が瞳から漏れ出している。

 

 地を揺るがすような咆哮。それと同時に頭部の一つが突き出すように前に出る。真っ直ぐに獲物に喰らい付かんとするそれは、しかしカゴメの壁に遮られる。

 

「行きますっ!」

 

 壁の後ろからフーロンが飛び出す。狙うのは伸び切って隙を晒す頭部。竜鱗刀を片手に疾走する。

 だが、百足のデーモンの突き出した頭部は既にフーロンへと視線を向けている。

 

「……ッ!?」

 

 此方に向かって放たれる噛みつきをフーロンが間一髪で避ける。しかし、まるで別の生き物のように百足のデーモンの頭が追い縋る。

 

「面倒な相手ね、これはどうかしら?」

 

 フーロンを執拗に追う頭部に、アブグルントの雷撃が放たれる。不意の一撃に僅かに怯み、追跡の手が緩む。

 

「今なら……!」

 

 竜鱗刀を大上段に構え、戦技を放つ。放たれる氷雷の斬撃。百足のデーモンの頭部、その体節を断ち切った。

 

「グアァァァ……!?」

 

 頭部をのたうち回らせ、怯む百足のデーモン。タラニアはそんな百足のデーモンの懐に潜り込む。

 

「爆ぜろ!」

 

 アステールの薄羽から放たれた星雲。次々と爆発を起こすそれが、百足のデーモンを追撃する。

 

「効いてる……!」

 

 確かな手応え。タラニアは暴れ回る百足のデーモンから急いで距離を取った。

 燃え盛る溶岩のような体液を滴らせ、百足のデーモンがタラニア達を睨む。

 

「ゴオォォォ!!」

 

 咆哮し、2本の脚に力を溜めると、大きく跳躍する。

 

「えぇ!?」

 

 一瞬にして視界から消えた百足のデーモンにタラニアが目を見開く。慌てて上空を見れば、そのまま此方に向かって落下する巨体。何の捻りもない。ただ大きく、ただ重いそれが落ちてくるのだ。

 

「くっ……!」

 

 巨大な影から逃れるようにタラニアが駆ける。背後から強烈な地響きが聞こえ、迷宮を土埃が覆う。

 

「タラニア!」

 

「大丈夫! これなら何の問題も——」

 

「——違います! 避けてください!」

 

 一体何の事だ。そうタラニアが問うより早く、彼女の身体に衝撃が走る。

 

「ガッ……!?」

 

 何が起きた。タラニアが衝撃を受けた先を見る。それは、フーロンによって断ち切られた百足のデーモンの頭部だった。断面から体液を垂れ流しながら、しかし独立した生き物として蠢いている。

 無数の脚を蠢かせながら、倒れたタラニアに向かって覆い被さろうとしたそれに、雷撃が放たれる。

 

「早く立ちなさい」

 

「ごめん!」

 

 アブグルントに言われ、急いで体勢を立て直す。切り離された頭部は雷撃を受け、痙攣すると動かなくなった。

 だが、安心する事は出来ない。目の前の百足のデーモンが、再び千切れた腕を再生し始める。

 

「厄介な相手ですね……」

 

 百足のデーモンを睨みながら、フーロンが呟く。無数の頭部がそれぞれ独自に動き、不意を撃つことは出来ない。かといって部位破壊を狙えば今のように独立した頭部が襲ってくる。何より、あの再生速度では意味がない。

 

「斬撃は相性が悪い、かといって、この面子だと他に手は……」

 

 前衛を務めるフーロンとタラニアでは攻撃出来る場所が限られる。あの頭部の数では、潜り込むのも至難だ。かといって、アブグルントとフーロンの雷撃に頼るにはあの巨体を相手に火力が心許ない。

 

「……少し、時間を稼げるかしら?」

 

「え?」

 

 思考を沈めるタラニアに、不意にアブグルントが口を開く。

 

「あれをどうにか出来るかも知れない。少しばかり賭けになるけれど」

 

「……分かった。君を信じてみるよ」

 

 どの道他に手はない。フーロンとカゴメに目配せすれば、彼女達もまた頷いた。

 異形の悪魔に向かって、3人の少女が駆けていく。

 

「……さて」

 

 足止めに向かった三人を見ながら、アブグルントが自身の槍から別の槍へと持ち替える。

 否、それは槍というには異質だった。穂先から柄にかけて、幾重にも黄金の枝が絡みついている。

 

「果たして使いこなせるかしら」

 

 ——使い所はよく考えろ。

 

 これを与えた彼はそう言っていた。事実、これの秘めた力は想像を絶する。或いは、この世界における神器にすら勝るとも劣らないだろう。

 

「まぁ、特別な理由なんて無いんでしょうけど」

 

 まごう事なき伝説の武器であるが、残念ながら彼はそういったものを特別視しない。ただ後衛火力に乏しい彼女を補う為以上の理由はないのだろう。

 

「与えられた以上、結果は出さないと」

 

 アブグルントが槍を掲げる。偉大なる大古竜、その残滓が赤い雷を呼び寄せる。槍を赤雷が覆い、膨大な力がアブグルントの身体を駆け巡る。

 

「づぁ……!」

 

 異界の赤雷、それを行使するのは想像以上の負担だった。思わず槍を手放しそうになるが、彼女はそれを必死に堪える。まるで嘲笑うようであった。古竜の雷、それを行使するに能わず。そう言っているようだった。

 

「くっ、あははは!」

 

 彼女は笑う。武器が使い手を選ぶなどと、生意気にも程がある。選ばれた者にしか使えないなど、武器としては落第もいいところではないか。

 暴れ狂う雷を何とか押さえつける。そして、百足のデーモンへと視線を向けた。

 

「はあぁぁぁ!」

 

 古竜の雷撃。膨大な力の塊を百足のデーモンへと投げ放った。槍によって指向性を与えられた雷撃は投げ槍の如く真っ直ぐに飛んでいく。

 そして、百足のデーモン頭部の一つを引き裂いた。

 

「グアァァァ!?」

 

 悲鳴のような咆哮。裂けた頭部を引き摺りながら、百足のデーモンがのたうち回る。

 

「コツは掴んだわ……!」

 

 再びアブグルントが槍を掲げる。だが、百足のデーモンが全ての頭部を彼女へと向ける。口から炎を漏らしながら、猛然と突進する。

 

「させませんよ!」

 

 百足のデーモンを遮るように壁がせり上がる。それを気にすることなく百足のデーモンは突進するが、白亜の壁はびくともしない。

 

「行くよフーロン!」

 

「分かりました!」

 

 注意がアブグルントに逸れた百足のデーモンを、フーロンとタラニアが両側から攻める。百足の頭部を掻い潜り、狙うはその巨体を支える両脚。

 

「せぇあっ!」

 

「ハァ!」

 

 タラニアが二刀で斬り裂き、フーロンが竜鱗刀で断ち切った。その巨体を支える脚を崩され、百足のデーモンが転倒する。

 

「やってください!」

 

 白亜の壁が消える。その先にあるのは、赤い光を伴った白い悪魔の姿。

 

「終わりよ」

 

 再び放たれる古竜の雷。赤い雷撃から必死に逃れようと百足のデーモンがもがくが、両脚を潰され、最早まともに動くことは叶わない。そして、雷撃が再びその胴を貫いた。外殻を貫き、肉を焼き、デーモンの内部を蹂躙する。

 

「グアァ……アァ……」

 

 百足のデーモンはしばらくのたうち回ったが、やがて燃え盛る炎は潰え、光を失った。蠢く節足がばらばらと地に落ち、やがてその肉も崩れ落ちる。

 

「終わった……みたいだね」

 

 崩壊する肉体を見て、タラニアは武器を仕舞う。油断ならない相手だった。だが、これはそのうちの一体に過ぎない。悍ましいデーモン達は他にも居るのだから。

 

「他の皆と合流しましょう」

 

「はい! まだまだ頑張らないといけませんね!」

 

 そう言ってカゴメが迷宮の通路を抜けようとして、立ち止まる。振り返ったカゴメの顔は僅かに困惑していた。

 

「それで……どこに行けば良いんですか!?」

 

 そんなカゴメの問い掛けに、アブグルント達は肩を竦めるばかりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時を同じくして、別の戦場。迷宮の一角、一人のワルキューレが悪魔に追われ、逃げ回っていた。

 

「ひいぃぃぃ! 何で私がこんな目にぃ!」

 

 青い髪を振り乱し、馬を駆けさせ迷宮をひた走る。その背後、迷宮の壁を破壊しながら、燃え盛る悪魔が猛然と迫っていた。

 

「私大隊長に昇進しましたよねぇ!? どうしてこんな囮役やらされてるんです!?」

 

 ワルキューレの少女——メーアが叫ぶ。自分は偉大なる大隊長、数百人の部下を引き連れるそれはそれは偉い立場として、元帥閣下から直々に任命された筈だ。それなのに、どうしてこんな事に。

 

「元帥閣下の鬼! 悪魔! 魔王ガリウス!」

 

「聞こえてるわよ〜? メーアちゃん?」

 

「ひいぃぃぃ!」

 

 後ろの悪魔より怖い元帥閣下が居る。そう思いながらも、メーアは忠実に任務をこなす。指定された位置まで走り、燃え盛る悪魔を連れてきた。

 

「エルミラ、ゲオルグ」

 

「はい……!」

 

「了解した」

 

 帝国元帥たるレオラの言葉に、重装砲兵の二人が構える。狙いはメーアの背後、燃え盛る炎の悪魔である。

 

「放ちなさい」

 

 レオラの号令に、二人の砲が火を吹いた。放たれた黒弾は、メーアを飛び越え悪魔へと着弾。迷宮の通路すらも崩さんばかりの爆発が悪魔を襲う。

 

「キエアァァァァ!?」

 

 甲高い悲鳴、大きくのけぞった悪魔に、レオラは再び号令を出す。飛び出したのは、一人の白い獣人の剣士。

 

「奥義——瞬閃疾風刃」

 

 獣人の剣士が加速する。白い残影をたなびかせ、目にも止まらぬ速度で悪魔を斬り裂いていく。

 

「これでどうかしら?」

 

 無数の斬撃を受けた悪魔。だが、直ぐに体勢を整えると、怒りの満ちた視線をレオラ達に向ける。

 

「駄目みたい。だったらもう一度——!?」

 

 レオラが号令を放とうとして、迷宮が揺れる。何かが壁を壊しながら此方に近付いてくる。それは、もう一体の燃え盛る悪魔であった。

 

「嘘ぉ!?」

 

 メーアが悲鳴を上げる。分断とは何だったのか。もう一体の乱入に呼応して、悪魔の炎が勢いを増す。

 

「これは……元帥閣下!?」

 

 破壊された壁から、悪魔を追っていた帝国騎士達が現れる。どうやら、目の前の悪魔は二体一組の存在らしい。作戦が上手く嵌まった結果、もう一体を引き寄せてしまったのだ。

 

「ちょっと、まずいわねぇ……」

 

 二体の悪魔、此方の攻撃をものともせずに暴れ回る怪物を相手にどこまでやれるか。頼みの綱の皇帝も此処には居ない。正念場であった。

 

「キエアァァァァ!!」

 

 咆哮、両腕を叩き付けながら猛然と悪魔が迫る。迷宮の壁などまるで薄紙のように引き裂き、石畳すら焼き焦がすそれは、まともな人間が受ければただでは済まないだろう。

 

「閣下!?」

 

 メーアが馬を駆けさせるも、到底間に合うとは思えない。レオラは一か八か、回避を試みようとして——

 

「——流石に、見ているだけってわけにもいかないか」

 

 悪魔の巨体を、巨大な斬撃が吹き飛ばした。

 

「何者です!?」

 

 帝国騎士ディアナが誰何する。敵ではないだろう。だが、声に聞き覚えはなく、ましてや今の斬撃など見たこともない。

 巨大な斬撃は、迷宮の壁の向こうから放たれたものらしい。大きく裂けた壁の向こうから、一人の女騎士が現れる。

 

「帝国の鎧……ですが……?」

 

 ディアナは戸惑う。帝国の鎧に非常に似通っているが、酷く古めかしい。それこそ、骸帝のもとにいた帝国騎士のそれよりも更に古い。彼女の記憶が正しければ、あれは帝国がまだ建国されたばかりの頃に使われていたものだ。

 

「まぁ、誰だよってなるよね。だけど、今ばかりは信用して欲しいな。少なくとも敵じゃないから」

 

 女騎士が剣を構える先で、悪魔が身を起こすのが見えた。己を吹き飛ばした相手に、怒りを込めて睨みつける。

 

「怒らせたみたいだね」

 

「——不意を打てばそうもなるでしょう」

 

「あれ、別に任せてくれても構わないよ」

 

「貴方もまだ本調子ではないでしょうから。それに、目覚めたというのに、見ているだけでは不義理というものでしょう」

 

 再び亀裂から何者かが現れる。再び現れた何者かに目を向け、帝国の騎士達は目を見開いた。

 

「な……!?」

 

「これは……まさか」

 

「えっ、誰? 誰なんです!?」

 

 メーアだけが見当違いのリアクションを取っていたが、それに反応する余裕すらありはしなかった。

 帝国に忠誠を捧げるならば、誰もが彼女を知っているだろう。肖像画、或いは教本、或いは彼女を讃える歌。ありとあらゆる場所で、帝国の者達は彼女の事を知っている。

 あり得るはずがない。しかし、彼女の放つ覇気が、身に纏う装束が、そして携えた武器がそんな考えを否定する。

 

「初めまして、でよろしいでしょうか? 私の名はヴィラヘルム。かつて、白の帝国の皇帝だった者です」

 

 ——初代白の帝国皇帝、ヴィラヘルム

 

 帝国の覇道、その全ての始まりが白光を伴って姿を現した。




カゴメが盾してる後ろからグランサクス連打。
百足のデーモン先輩は頑張ったと思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。