今ひとたび、英雄たらんことを   作:blue man

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冥界の双王

 

「——微睡みの中、ただあなたの事を想っていました」

 

 庭園に花が咲き乱れる。萎れた花が色を取り戻し、朽ちた花園に彩りを取り戻す。

 美しさすら感じる冥界の変化に、されど褪せ人達が感じたのは、濃密なまでの死の気配。

 

「あなたの腕に抱かれたい。ただそれだけを夢見ていました」

 

 庭園の花々に囲まれ、立つのは一人の女。その身をドレスに包み込み、妖しく輝く瞳をベールで隠す。

 

「あぁ……あぁ……!」

 

 その姿に、ハイドースが歓喜に震える。この時ばかりは、憎き白の帝国も、己を止めるべく立ちはだかる冥界の亜神達も目に入っていない。

 一歩、また一歩と女の下へと歩み寄る。

 

「ずっと、君に会いたかった。ひび割れる庭園に、君への愛が薄れていくのを感じて……怖かった」

 

「でも、あなたは来てくれた」

 

 ハイドースとペルセフォネが抱き合い、互いの存在を確かめ合う。しかし、そんな中でも死の気配はひたすらに濃くなっていく。冥界の炎が燃え上がり、庭園の花はより一層輝きを増す。

 

「——さぁ、世界を滅ぼしましょう。生まれゆく苦しみから、全ての生命を救うの」

 

 腕に抱かれたままそう言うペルセフォネにハイドースは微笑んだ。

 

「あぁ……勿論だ! 白の帝国に鉄槌を、アダマスに滅びを……そして、全ての生命に死の安らぎを与えよう……!」

 

 抱き合った二人が離れる。そして、褪せ人達に向き直った。ハイドースが二股の槍を抜き放ち、ペルセフォネが魔力を滾らせる。

 

「うえぇ!? このままハッピーエンドみたいな流れだったじゃないですかぁ!? 奥さん蘇ったし話し合いで終われません!?」

 

 メーアが叫ぶ。愛する妻が蘇ったのだからそれで良くないかと。だが、そんなメーアにヘカティエが首を振る。

 

「無理よ、神の在り方は変えられない。彼女は、死をもって世界を救う気だったのだもの」

 

 完全に蘇ったペルセフォネの目指すところはただ一つ。死をもって、この世界から悲しみを消し去る事だけ。生の喜びが無ければ、喪失の悲しみもまた生じない。それこそが、彼女が女神と争ってまで勝ち取ろうとした優しき世界なのだから。

 

 褪せ人が一歩前に出る。武器を抜き、冥界の王達へと相対する。

 相手が誰かなど、己には関係ない。王も神も、今まで幾度も殺してきた。

 そんな褪せ人に、ハイドースも視線を向ける。

 

「あぁ、異界の英雄よ。世界に見捨てられた哀れな子よ、お前の旅路も今日で終わる。ただ、安寧の死に抱かれ眠るがいい」

 

「…………」

 

 褪せ人は何も答えない。ただ、静かに殺意を向ける視線だけが、何よりも雄弁に語っていた。

 

 

 

 

 

 

「これが私の舞台。あなたとなら、ずっと踊っていられるのだから」

 

 ペルセフォネが庭園で舞う。妖しく咲き誇る花園に、冥界の炎が燃え上がる。舞に呼応して、何かが地の底から這い出て来る。

 それは三つ首の獣だった。青く燃え盛る鬣に、鎖で繋がれたそれは、冥府の番犬。

 

「ケルベロス……!」

 

「いいえ、違います。あれは……」

 

 タラニアの言葉を、ヘリューズが否定する。

 魔獣ケルベロス。どこまでも酷似したそれはしかし、ケルベロスよりも巨大で、何よりも内包する魔力が桁違いだった。口から漏れ出る冥府の炎は、生者の魂を凍てつかせ、たちまちその身を焼き尽くすだろう。

 

 ペルセフォネが獣の鎖を握り締める。三つ首の獣がその顔を上げた。

 

「——愛を。哀れなる人の子らに、離別の苦しみなき世界を」

 

 獣達の口から放たれるのは、冥界の炎。それらは空気を凍てつかせ、真っ直ぐに褪せ人達へと向かっていく。

 

「……!」

 

 大盾を構え、褪せ人が炎の一つを受け止める。凍てついた魔力が大盾を伝い、褪せ人の身体を焼いていく。

 

「この……!」

 

 ペルセフォネへと駆け出したのはフーロンだ。褪せ人に向けて炎を放つ獣目掛けて、竜鱗刀を横薙ぎに振るう。

 

「抗わなくとも、良いのです」

 

「……ッ!?」

 

 竜鱗刀の一撃は、獣の爪によって阻まれた。そしてその腕をフーロンに向け、薙ぎ払う。

 

「貴方もまた、離別に苦しみに喘ぐ者。貴方なら、理解出来る筈。愛した者達と会えなくなる喪失感、無力感を」

 

 吹き飛ばされたフーロンに向け、獣の口から炎が放たれる。それを、今度はカゴメの壁が防いでみせた。

 

「フーロン!」

 

「大丈夫です! ったくさっきから好き勝手言って……!」

 

 フーロンが壁の後ろから飛び出す。放たれる炎を躱しながら、ペルセフォネへと肉薄する。

 

「こっちはとっくに振り切ってるんですよ! 今更知ったような口を、聞くな!」

 

 竜鱗刀を構える。放たれるのは、氷の雷。青く輝く刀身が、三つ首の獣を斬り裂いた。

 

「浅い……!」

 

 フーロンが歯噛みする。硬い毛に覆われた獣は、氷雷の斬撃を受け止めてみせた。しかし、全く効いていないというわけではないのだろう。己を斬ったフーロンに、獣達が鋭い眼を向ける。

 

 そんな獣を見て、褪せ人が駆ける。褪せ人が握るのは、黒く萎れた刃先を持つ両刃剣だ。フーロンへと反撃しようとする獣へと振るわんと肉薄する。

 

「——貴様の相手は我がしよう」

 

 そんな褪せ人の前に、ハイドースが立ちはだかる。褪せ人は駆ける速度を緩めない。ただ、己を阻むもう一人の冥界の王へ向け、両刃剣を振るう。

 二股の槍と両刃剣がぶつかり合い、火花を散らす。

 

「ほう、力押しだけの男と思っていたが」

 

 両刃剣を巧みに振るい、攻め立てる褪せ人を感心したようにハイドースが槍でいなす。実際、重量武器で敵を圧倒する事を選択しがちな褪せ人にしては珍しい選択なのは事実。しかし、両刃剣の扱いもまた一廉のもの。ハイドースの槍を掻い潜り、その刃が迫る。

 

「むっ……!」

 

 ハイドースが上体を逸らし、躱すも僅かにその頬が切れる。その時、褪せ人の持つ両刃剣、その黒ずんだ刃が僅かに黄金を取り戻す。

 

「これは……!」

 

 ハイドースが褪せ人から離れるように大きく飛び退く。警戒したのは、褪せ人の振るう両刃剣の輝きだ。幾度も打ち合い、少しずつそれは力を増していく。否、取り戻しているといった方が正しいか。

 

 何を狙っているのか分からない。ハイドースは己の槍を掲げる。

 

「冥界の炎よ……」

 

 ハイドースの魔力に呼応して、黒炎が庭園のあちこちに降り注ぐ。黒炎に熱はなく、冥界の花を燃やすこともない。だが、庭園に蔓延する濃密な死の気配はより一層濃度を増した。

 黒炎が燃える。この庭園の生者、その命を薪として。

 

 その危険性を即座に理解したレオラがメーアに命令を下す。

 

「メーアちゃん! 黒炎を消すのよ!」

 

「や、やってみます!」

 

 そんな疑問を持ちながら、メーアが馬を駆けさせ、最も近くの黒炎へと向かう。

 

「冥界の炎って水で消火出来ますかね!? せぇいっ!」

 

 槍を振るい、放つのは水流の槍。魔力によって生じた水が、黒炎へと殺到する。メーアの一撃を受け、黒炎が消失する。

 

「やったっ! 次は……!」

 

 次に向けて駆けるメーア。そんな彼女を阻むように、何かが立ちはだかった。それは、骨の巨人だ。巨人の骸、生命なきそれがメーアへと槌を振るう。

 

「いつの間に!?」

 

 振るわれた大槌を何とか躱し、メーアが馬を駆けさせる。骨の巨人だけではない。庭園の下から、次々と魂なき骸の兵士が這い出てくる。

 黒炎の魔力が、庭園に死者達を召喚しているのだ。

 

「手の空いている者は黒炎への対処を!」

 

 アスバールが叫びながら、タクトを振るう。魔力の雨が、死者達諸共黒炎を巻き込んでいく。

 だが、降り注ぐ黒炎に終わりはない。死の濃度が強まり、生ける者達から生命力を奪っていく。それに呼応して、死者達もまた強さを増していく。

 

 そして、それはハイドースもまた同様。

 

「ふっ……!」

 

「……!」

 

 ハイドースが褪せ人に再び肉薄する。先よりも踏み込みは速く、放たれる槍の突きは鋭さを増し、黒炎を帯びている。褪せ人が辛うじて両刃剣でいなすが、その黒炎は褪せ人を焼き、その魂を蝕んでいく。

 

「此処は冥界、我らの領域。どのような企みであろうとも、打ち砕いてくれよう」

 

 途切れぬ猛攻。だが、褪せ人もまた退くことはない。

 両刃剣が輝きを増す。萎びた黒が、黄金の芽吹きを取り戻す。

 

「なお退かぬか。だが、貴様の足掻きももう終わる」

 

「——いいえ、終わらせません」

 

 褪せ人へと槍を振るうハイドースに、魔術の火球が迫る。ハイドースがそれに気付き、槍を持たぬ手で障壁を作り出し、火球を防ぐ。

 ハイドースの向ける視線の先、そこに居たのはヘリューズ。

 

「ヘリューズ……死の嘆きに苦しむお前ならば、我らの憂いも理解出来ると思っていたが」

 

「……嘆きとは、生への執着。生命に意味があるからこそ、死者は嘆き、喪失を悲しむのです」

 

「ならば——」

 

「——だからこそ、価値ある生を奪って良い理由にはなりません」

 

 ヘリューズは、ハイドースの願いを否定する。同じ死者を慈しみ、憂う者同士。だが、そこから導き出される答えは違った。

 生に意味があるからこそ、人は死を恐れ、離別に悲嘆する。限りある生を謳歌するからこそ、今を生きる人々は、神すら目が眩む程に眩い光を放つのだ。

 

 そんなヘリューズの言葉に、ハイドースは目を細める。

 

「なるほど……良き出会いがあったようだ」

 

「えぇ、冥界に閉じこもっていたこれまでとは違います」

 

 ヘリューズの言葉に、ハイドースは槍を掲げる。穂先に、黒炎の魔力が渦巻いていく。

 

「ならば、せめてその出会い諸共、我らの死で抱いてやろう」

 

「遠慮しておきます。彼女達には……そして彼には未練なく生を謳歌してもらわないと困りますから」

 

 ちなみに、その彼の死後の行き先は既に決まっている。地獄でも天国でもなく、ヘリューズの館行きだ。

 

 杖に魔力を込め、ヘリューズが魔術を放つ。ハイドースもまた、黒炎を放ち、魔術を迎え撃つ。

 

「……っ!」

 

 拮抗する互いの一撃。しかし、少しずつハイドースが押していく。黒炎の魔力、そして他ならぬペルセフォネの後押しを受けたハイドースの魔力は、亜神として文字通り格が違う。

 

 だが、それで良い。

 

「……!」

 

 褪せ人が両刃剣を掲げる。黄金の輝きは既に満ちた。褪せ人の手で、それは回転し、やがて光の渦を描く。

 

「貴様……!」

 

 ハイドースが褪せ人に気付き、しかしより強まったヘリューズの魔術への対処を強いられ、動けない。そんなハイドースを前にして、光の渦が輝きを増し、その聖性を強めていく。

 

 エウポリア。それはかつての角人達の至宝。黄金の輝きは、かつての繁栄の象徴である。

 

 褪せ人が回転する両刃剣をハイドースへと向ける。光の渦、そこから放たれるのは黄金の光。

 黄金の芽吹きは、死の魔力すら上回り、ハイドースに向けて放たれる。

 

「何だ……その力は……!」

 

 ハイドースが目を見開き、黄金の光に向けて黒炎を放つ。だが、その黒炎もまた光の渦に飲み込まれていく。

 

「おのれ……!」

 

 ハイドースが再び黒炎を放とうとして、しかしそんなハイドースの前にペルセフォネが黄金の光から庇うように立ちはだかる。

 

「ペルセフォネ……!」

 

 ペルセフォネが獣の上で舞う。青い炎が障壁を成し、黄金の光を受け止める。激しい衝突。聖性と魔力がぶつかり合い、爆発が生じる。

 

「大丈夫、私達の舞台はまだ終わらない」

 

 爆発の中、獣とペルセフォネは未だ健在。それでも、エウポリアの渦を受け止めきれなかったのか、獣の身体は傷付き、聖性に焼かれている。

 獣の視線が、褪せ人を射抜く。

 

「さぁ、貴方ももう休みましょう。永き戦いは既になく、安寧と安らぎだけが待っています」

 

 三つ首の獣、その全てが褪せ人に向けて口を開いた。漏れ出るのは、凍てついた炎。

 青い炎が吐き出される。迫り来るそれを、しかし褪せ人は躱す事なくただ見つめる。

 

 褪せ人を炎から守るように、白亜の壁が聳り立つ。

 

「さっきから安寧とか安らぎとか……聞いてられませんね!!」

 

 白亜の壁で褪せ人を守りながら、カゴメはペルセフォネへと吠える。この神とは分かり合えない。妖怪である彼女もまた目の前の神へと敵愾心を剥き出しにする。

 

「人類に安寧も安らぎも不要です!! 苦難、困難、試練上等! 無限に頑張ってこそ、人類は輝くんです!!」

 

「それはそれで話が変わって来ないかなぁ!?」

 

 極端から極端に振り切れるカゴメにタラニアが思わず叫ぶ。もし彼女が神だったなら、それはそれで恐ろしい事になったに違いない。

 タラニアが壁の後ろから飛び出す。庭園の石畳を軽やかに蹴り、雷鳴の如くペルセフォネへと肉薄する。

 

「何故、分かり合えないのでしょう。私達はこんなにも、貴方達の事を想っているのに」

 

 タラニアを迎え撃つように獣が片脚を振り上げる。青い炎を纏った爪が、迫り来る獲物を引き裂かんと振るわれる。

 

「——決まっているでしょう。つまらないのよ、貴方達の世界は」

 

 遥か後方、タラニア達とペルセフォネを視界に収めながら、アブグルントはグランサクスの雷を握る。

 

 離別なき世界。死への恐れも、生への苦しみもない安穏な世界。それは何とも——つまらないではないか。

 

 放たれたのは、古竜の槍。赤雷の一撃が、今まさにタラニアへと迫らんとする脚を貫いた。

 獣の懐に潜り込み、タラニアはアステールの薄羽を振るう。獣達の眼前に、星雲の光が広がった。

 

「爆ぜろ!」

 

 星雲が爆ぜ、魔力の爆発が獣を襲う。怯み、大きく退がる獣の頭部を再び赤雷が貫いた。

 

「あぁ……!」

 

「ペルセフォネ……!」

 

 ペルセフォネの苦悶の声に、ハイドースが思わず声を上げる。

 怯むペルセフォネに、褪せ人が追い討ちをかけるべく立ちはだかる。握るのは英雄の武器。二刀一対の黒鉄の大剣。

 

「やらせるものか……!」

 

 ペルセフォネへと迫る脅威を前に、ハイドースが前に出ようとする。だが、そんなハイドースにまた別の脅威が迫る。

 

「お前の相手は」

 

「俺達だ」

 

「邪魔立てするか、女神の信徒共め……!」

 

 アイギスの神器を槍で受け止めながら、ハイドースは忌々しげに顔を歪める。そのまま王子を弾き飛ばし、迫る皇帝へと突きを放つ。

 

「何たる有様だ、アダマス! 人の為に己の肉体を砕くなど……!」

 

 己の復讐を愚弄するつもりか。そんな怒りすら込められたハイドースの言葉に、しかし神器は答えない。

 放たれた槍の一撃を紙一重に躱しながら、皇帝がハイドースに向けて神器を振るう。

 

「ハイドース、貴様は此処で俺達が斬る」

 

「愚かな……!」

 

 ペルセフォネに意識を割いているのだろう。ハイドースは苛立ちを隠さずに白の皇帝を迎え撃つ。

 神器が輝きを放ち、魔力の斬撃がハイドースへと迫る。

 

「この程度……!?」

 

 ハイドースが斬撃を弾こうとして、しかし受け止めた槍が大きく弾かれる。

 黒炎から収奪した力が減っている。ハイドースが周囲に目を向けた。

 

「王子! 黒炎は全部消したわ!」

 

「今のハイドースはまともに力を振るえねぇ! やっちまえ!」

 

 トラムとアトナテスの言葉に頷き、王子はケラウノスの神器を構える。

 放つは神雷。全てを滅ぼす破壊の雷。

 

「ぐぁ……おのれえぇぇ!!」

 

 雷に貫かれ、ハイドースが怒りに顔を歪める。神器の一撃をまともに受け、しかし倒れる様子はない。ハイドースは皇帝と王子から距離を取る。

 

 そんな中、褪せ人はペルセフォネへとその剣を振るう。

 己の身に光を宿し、双大剣を手に跳び上がる。そして、光となってペルセフォネへと突進する。

 

「……!?」

 

 迫る力の大きさに獣が大きく反応するが、光速で迫る一撃は既に獣の眼前へと迫っていた。両手に持った双大剣が、光と共に振り下ろされる。その一撃は獣の首の一つを落とし、遅れて突き立った無数の光の柱が獣の身体を貫いた。

 

「あぁ!」

 

 獣もまた、彼女の一部。英雄の一撃を受け、彼女もまた痛みに悶える。

 無論、褪せ人がその隙を逃すはずもない。

 すぐさま立ち上がると、黒鉄の大剣に光を纏わせる。放たれるのは、王者の斬撃。光の斬撃を振るい、残る獣の頭を落とす。

 

「ペルセフォネ……!?」

 

 ハイドースが叫ぶ前で、頭を失くした獣が倒れる。ペルセフォネもまた、獣の上で項垂れている。

 

「やりましたか!?」

 

 メーアが思わずガッツポーズを取る。崩れ落ちた獣を前に、褪せ人が剣を両手にペルセフォネへと歩み寄る。

 

「——いいえ、私達の夢はまだ終わりません」

 

 ——獣の身体が起き上がる。

 

 頭を失くしたまま立ち上がり、片脚を振るって褪せ人を吹き飛ばす。

 

「褪せ人様!」

 

「問題ない」

 

 イリスにそう言いながら、褪せ人は立ち上がるとペルセフォネの方を見遣る。

 落ちた頭が引かれるように宙を滑り、焼けた肉を縫い合わせるように再び繋がる。

 

「——愛を。永遠に続く生と死の円環に、終わりの時を」

 

 三つ首の獣、その首の一つが何かを咥える。

 それは剣だった。人が持つにはあまりにも巨大な、柄に鎖が巻かれた剣。

 三つ首の獣が咆哮し、その身の内から魔力が溢れる。鬣が燃え、庭園に再び濃密な死を撒き散らす。

 

「……人の子らよ、この悲劇に満ちた世界に幕を引きましょう」

 

 獣が再び咆哮する。再起する冥界の王を前に、褪せ人は静かに武器を構えるのであった。




ペルセフォネのイラスト見ながらぶち込むなら此処だなと思いました。
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