突然現れた少女と睨み合うヘリューズ。
二転三転する状況で、事態を把握しているのはヘリューズのみであった。
褪せ人はその少女を見て、見覚えがある事に気が付いた。
『恨んでくれて構わないよ、嫌われるのは慣れているからね』
ケラウノスを討ち、魔王ガリウスを後一歩のところまで追い詰めた時、己を背中から刺した亜神の姿であった。
「思い出したみたいだね。まったく、イレギュラーもいいところだよ。あの時から君はずっとぼくの邪魔をする」
「……知っているのですか?」
「一度殺されかけた」
褪せ人の答えを聞き、ヘリューズの視線の鋭さが増した。そんなヘリューズに対して、イコルは涼しげに肩をすくめる。
「妹の男の趣味がここまで悪いとはね。きみがあちこちついて回らなければもう少し裏で動けたのに」
「……一体何が目的なのです?」
「ははは! 教えると思うかい?」
ヘリューズの問いを、イコルは嘲笑する。姿を明かした程度で謀略の亜神が素直に目論見まで暴けると思わない事だ。言葉なくそう言っていた。
「元始天尊様……これは一体……」
イコルの横で、元始天尊は依然として変わらない。静かに足を組み、ただ黙して語らず。彼女を知る仙人には、異様な光景だ。先程までその不自然さを疑問にすら思わなかったというのは、まんまと目の前の亜神の術中に嵌まっていたが故だろう。
「元始天尊様に話しかけても無駄だ。今の我が主は抜け殻みたいなもんだからな」
「普賢、どういう事です」
「元始天尊様はそこのクソ亜神のせいで魂を縛られて傀儡になっちまった。まぁ、私が足を引っ張ってしまったんだが……」
太公望達の前に現れた普賢に対し問い掛ければ、今度は素直に答えが返ってきた。
最強の仙人、元始天尊は裏切りと謀略の亜神の手に落ちていた。華の国における彼女の名声と力を利用し、聞忠と誅子を思いのままに動かしていたのだ。
事の次第を聞き終え、清源妙道真君が再び問い掛ける。
「……普賢、貴方の望みは何ですか?」
「簡単さ、元始天尊様を解放して欲しい。あの方を縛る術式は強力極まりないが、物理的な衝撃には脆い。要はあの方を思いっきりぶっ飛ばせばいいのさ」
普賢もまた、元始天尊に庇われ、心は無事ながらも肉体の制御は奪われている。故に、誰かが来るのを待つしかなかった。
「問題は、そもそもあの方をぶっ飛ばせるような奴がいるかって事さ」
そう言って、普賢は褪せ人へと視線を移す。ただ一度奇襲しただけ。だが、それだけでこの男の底知れなさは十分に伝わった。伊達に仙人となって永くは生きていない。
この男は、賭けるに値する。
「……良いだろう」
普賢の視線を受けて、褪せ人は武器を取り出した。
元始天尊は未だ動かず。しかし、僅かに纏う気の流れが変わった。
「へぇ、元始天尊を相手取るつもりかい? 成程、確かにそれは偉業足り得る」
「貴方の相手は私です」
「構わないよ。久しぶりの姉妹の交流といこうじゃないか」
ヘリューズの魔力の高まりを受け、イコルもまた両の手に魔法陣を展開する。
元始天尊、イコル。二柱の亜神が戦いの意思を見せる中、聞忠は動いていない。
「聞忠よ、聞いていたか? 余達は騙されていたのだ。封神台に仙力を集めたところで、華の国は元通りにはならない」
誅子が聞忠に語り掛ける。華の国が書き換えられる事はない。元始天尊は傀儡と化し、天の声は亜神の策謀に過ぎなかった。聞忠も誅子も、結局は都合の良い駒でしかなかったのだ。
「余の隣に戻ってこい、聞忠」
「……いいえ、まだ戻れません」
誅子の差し出した手は、聞忠によって拒絶される。
先程までと比べれば落ち着いた声音。しかし、その目を見ればどれ程の激情に支配されているのかは明らかだった。
「元始天尊様がやらないのならば、私がやります。私の手で封神台を起動し、華の国をあるべき姿に……!」
「この……分からず屋がぁ!!」
聞忠が鞭を取り出すと、背後に控えていた十天君の亡骸達も動き出す。最早争いは避けられない。王子達もまた、武具を構えた。
仙人、亜神、人。入り乱れた戦場の始まりにイコルは愉快だとばかりに嗤う。
「黄昏の前哨戦だ。やるんなら本気でやろうじゃないか」
最強の仙人と謀略の亜神が地に降り立つ。
ここに、崑崙における最後の試練が立ちはだかった。
褪せ人が元始天尊へと駆ける。普賢はぶっ飛ばせと言った。無論、褪せ人は出し惜しみするつもりもない。
手に握るのは巨大な得物。大古竜の爪を削り武器の形に整えたという異形の特大武器。
元始天尊は動かない。傀儡故に反応しないというのならば都合が良い。容赦なく、大竜爪を振り下ろす。
轟音、元始天尊諸共大地を砕く一撃は狙う通りに直撃した。
「……!」
巻き起こる土埃。確かな破壊力を示したその一撃は、元始天尊を揺るがすには至らなかった。先程まで無手であった元始天尊の手にはグレイブのような長柄武器が握られ、褪せ人の大竜爪を受け止める。
「…………」
元始天尊は褪せ人を見る。魂を縛られ、一切の感情を見せない瞳が褪せ人を映す。グレイブを振り上げ、褪せ人の大竜爪を跳ね上げる。
褪せ人もまた、初撃を防がれた事で元始天尊の動き出しと共に後ろへと跳んだ。
「嘘……褪せ人の一撃がこうも簡単に……!?」
地に足をつけ、身の丈程のグレイブをゆっくりと構える元始天尊。一切の気の乱れは無く、悠然と立つ様は大樹の如く。魂を縛られて尚その力は健在だった。
褪せ人は己の認識を改める。金光聖菩、聞忠、通天教主、今までの仙人とは格が違う。この世界における求道の極地、その行き着く果ての一柱。
「…………」
元始天尊が大地を蹴る。予備動作などなく、流れるような体捌きで褪せ人へと肉薄する。さながら流水の如きそれは、褪せ人をして僅かに反応を遅らせた。
「……っ!」
咄嗟に大盾を構え、振るわれるグレイブを受け止める。その細腕からは想像もつかない衝撃が、大盾越しに伝わってくる。
その艶やかな見た目に騙されてはならない。目の前の仙人の中身は、蛮地の王と何ら遜色のない武闘派故に。
力任せに押し切れる相手ではない。褪せ人は大盾と大槌を構えながら、元始天尊へと再び突進していった。
「ははは、本当に互角にやり合ってやがる」
褪せ人と元始天尊の攻防に、普賢が乾いた笑い声を上げる。何故、王国の連中は褪せ人の一撃が防がれた事に驚いているのか。寧ろ元始天尊を相手に殴り合いが成立している事に驚くべきだろう。
今の一撃とて、元始天尊の流麗な動きからは想像もつかない威力だったはずだ。それこそ、先の褪せ人の大地を割らんばかりの一撃と何ら遜色がない程に。
「ちっ、私もそろそろ限界か……」
自らの意思とは別に、普賢が呉鉤剣を構える。心に従わない身体の不快さに眉を寄せながら、最後の足掻きとして目の前の戦士達に告げる。
「悪いが、そろそろこっちの相手もしてもらおうか。手加減してやりたいが、生憎とそういう訳にはいかないらしい」
「……分かりました」
普賢の言葉に、フーロンが竜鱗刀を抜き、タラニアもまた二刀に魔力を込める。
悪くない娘達だ。どうせ相手をなら見込みのある者達が良い。
「まだまだ道半ばだがこれでも仙人、修行をつけてやるよっ!」
死なせるには惜しい。内心でそう思いながらも身体は言う事を聞かない。呉鉤刀を手にタラニア達へと普賢は矢の如く駆け出すのであった。
元始天尊が動くたびに大地が割れ、轟音が響き渡る。最初こそ助けに入ろうとしていた者達も、その無差別的な破壊の嵐に手を出す事がかなわない。
その嵐の中で、褪せ人はただ一人立っていた。
一撃受ければ褪せ人とて致命。最強の仙人というスペックを遺憾なく発揮して攻めに転ずる元始天尊。今褪せ人が立てているのは、ひとえに膨大な戦いの経験故だろう。
徐に元始天尊が右脚を上げる。ゆっくりと、しかし自然な流れで行われた予備動作。そして、思い切り大地を踏み砕く。
衝撃波が大地を伝い、耐えかねた地面が隆起する。
それを見て、褪せ人は躊躇う事なくその場から跳んだ。遅れて、褪せ人の居た場所を衝撃波が駆け抜ける。そのまま立っていれば、褪せ人の身体など容易く空へと吹き飛んでいただろう。
「…………」
宙へと跳んだ褪せ人を、元始天尊は追撃する。手を翳し、気を収縮すると、それを光弾として放つ。
「ぐ……!」
高速で飛来するその光弾を、褪せ人が大盾で防ぐ。しかし、踏ん張りの効かない空中で、褪せ人の身体は衝撃によって吹き飛ばされる。
辛うじて体勢を整え、正面を向けば、既に元始天尊が褪せ人の目前でグレイブを振り上げていた。
「……!」
褪せ人は振り下ろされる致死の一撃をローリングで躱す。一瞬遅れて地響きが轟くのを感じながら、懐に潜り込んだ褪せ人がそのまま大竜爪で元始天尊を薙いだ。
「…………」
流石の元始天尊も振り下ろした直後の反撃を避けるのは困難。辛うじて片手で胴を守り、吹き飛ばされる方向に跳ぶ事でその衝撃を逃がそうとする。しかし、その上で褪せ人の一撃は痛烈だった。
鈍い音と、その直後に響く空気を裂くような破裂音。大竜爪に込められた古竜の雷が元始天尊を焦がす。
武器を置き去りに、元始天尊が大地を跳ねながら吹き飛んでいく。二度三度と跳ねながら、地面を転がって漸く止まる。
「…………」
だが、元始天尊はすぐさま立ち上がる。追撃を警戒するも、褪せ人が近付いてくる様子はない。代わりに褪せ人が掲げたのは壊れたルーンの光だった。
ミケラのルーン、魅了に抗う力のみが残された残滓。その光を元始天尊へと掲げるが——
「効かぬか」
——元始天尊に変わりはない。
意思なき瞳に輝きは戻らず、ただ褪せ人の行動を不可解なものだと警戒して動かない。土に汚れた衣服をそのままに、元始天尊が再び気を練り始める。
「無駄だよ。君のそれは魅了に対してのみだろう? ぼくの術式は対象外さ」
イコルが嘲笑う声と共に、魔法の弾を褪せ人へと放つ。突如として飛来してきたそれを躱し、褪せ人は元始天尊から視線を外さぬままイコルへと意識を向ける。
「君というイレギュラーについてはこれでも入念に調べているんだ。簡単に解かれては試練足りえないだろう?」
「私から意識を割くなど、随分と余裕ですね」
褪せ人へと魔法弾を繰り出すイコルに対して、ヘリューズが死氷の魔術を放つ。無数の氷槍がイコルへと殺到するが、彼女の笑みは崩れない。
「君は相変わらず素直だね。御しやすくて仕方ない」
イコルの掌の魔法陣が巨大化する。さながら盾の如く掲げられたそれが、次々と襲い掛かる氷槍を受け止めた。
「これは……!」
「返すよ」
魔法陣の輝きと共に氷槍は反転する。ヘリューズの放った魔術は、そのまま彼女のもとへと放たれた。
「くっ……!?」
咄嗟にヘリューズが防御魔法を展開する。遅れて殺到する氷槍に、ヘリューズは顔を歪めるより他なかった。
「ぼくが何て呼ばれてるか知ってるだろう? 狡知の神、アスガルドの悪神だ」
褪せ人へと放った魔術弾などただの挑発。ヘリューズのプライドと、守りたい相手への攻撃によって容易く彼女は乗ってしまった。最初からイコルは彼女がそう動くのを見越していたというのに。
「さて、それじゃあ——」
イコルが言い終わるより早く、彼女は自身の身に何かが迫るのを察知した。
「何……!?」
イコルが魔法陣で受け止める。魔法陣を破らんばかりに突き立てられたのは雷の槍。それが誰のものなのかなど言うまでもない。
「コイツ……」
元始天尊を前にして、此方を攻撃したというのか。イコルが苛立たしげに褪せ人を見る。
この男は自分と致命的に相性が悪い。かねてより観察し続けた彼女は褪せ人に対してそう結論を出していた。
相手を化かし、感情を逆撫でし、その隙を絡め取る。そういった戦い方を好むイコルにとっては天敵なのだ。
躊躇がない。容赦がない。恐れを知らない。ただの猪突猛進の馬鹿でもない。この男は全てを分かった上で尚踏み込んでくる。故に、彼女は褪せ人と戦うつもりはない。
「元始天尊!」
イコルの言葉に、元始天尊が動き出す。大地を蹴り、両手に気を込めて殴り掛かる。だが、そんな元始天尊を空から放たれた光弾が襲う。
その光弾を元始天尊は両手で弾き、立ち止まると天を見上げる。
「最強の仙人、噂に違わぬ力の持ち主よ。悪くない、滾るではないか」
天を背に、元始天尊を見下ろすのは金光聖菩。金光陣によって分身を作り出し、その錫杖は全て元始天尊に向けられている。
「極上の相手だ。まさか独り占めしようなどとは思ってはいまい?」
「好きにしろ」
褪せ人が彼女にそう言いながら、歩き出す。向かう先にあるのは、吹き飛ばした際に元始天尊が取り落としたグレイブであった。
見た目相応、或いはそれ以上の重量を持つグレイブを褪せ人は軽々と持ち上げる。
「……悪くない」
重量、リーチ、頑強さ。いずれも申し分ない。流石に最強の仙人の武器といったところか。助けたら交渉出来ないだろうか。
褪せ人は内心で皮算用をしながらグレイブを構える。
元始天尊もまた、二人を迎え撃つようにして両手を構えた。
褪せ人達が戦いを繰り広げる一方で、王子の率いる王国軍もまた、十天君達の成れの果てと激闘を繰り広げていた。
「一度負けて、死体すら弄ばれる何とも無様だな」
フェイロンが狛天君へと肉薄する。直情的で、荒々しい炎のような邪仙。そんなかつての彼はもう居ない。無表情、魂の抜けた亡骸はただ目の前の脅威に対して己の宝貝を振るう。
「せめてもの情けだ。これ以上お前の死が汚される前にもう一度僕が首を刎ねてやる」
赦した訳ではない。目の前の邪仙もまた、華の国の仇敵だった。死んで当然の悪であり、だが哀れであった。
故に、フェイロンは一切の容赦なく青龍刀を振るう。爆炎でその身が焼かれようとも、躊躇いはない。
「もう二度と起きてくるなよ」
首を刎ねられ、狛天君の身体が崩れ落ちる。そして、仙力と化した亡骸が再び封神台へと還っていった。
「フェイロンさん、お怪我を治しますね!」
「ありがとう、王国の治癒士殿は優秀だね」
傷が癒えるのを待ちながら、フェイロンは戦況を見渡す。十天君の亡骸といえど、宝貝の威力が落ちている訳ではない。生前の彼らと何ら遜色のないそれらは間違いなく脅威であった。
だが、王国は十天君に対して一歩も退いていない。
「カゴメ、壁を並べて展開してあの仙人の術を防いでください。私の合図で壁を消して、私が魔術を放ちます」
「はい!」
アスバールの指示にカゴメは分身を生み出すと壁を並べ立てる。
皇天君が雨水を固めて作り出した無数の水弾は、白亜の壁で容易く受け止められる。
「ふふん! この程度なら100倍あっても崩せませんね!」
「…………」
カゴメの軽口も、死した皇天君には何の意味もない。ただ機械的に目の前の壁へと水弾を放つ。本来ならば皇天君の宝貝によって戦場全体を覆い尽くしただろう雨雲は、しかし辛うじて彼の周りに僅かばかり雨を降らすだけ。
「仙術によって天候を変える……優れた仙術の使い手でしたが今回は相手が悪かったですね」
アスバールがタクトを振るう。彼の周りに渦巻く雨雲は、ただそれだけで支配権を奪われた。小さく縮こまっていた雨雲はアスバールの支配下でその規模を増し、嵐を作り上げる。
「貴方の昂水陣、我が嵐は防げますか?」
タクトを振るう。亜神の命令に、嵐は苛烈さを増す。風と雨が吹き荒れ、皇天君の身体を巻き上げる。雨には魔力が宿り、皇天君のそれとは比べ物にならない雨水が凶器と化した。
嵐が止めば、皇天君の姿は仙力と化して溶けていく。不幸だったのは、王国の側に嵐雨と慈雨の亜神という規格外が居たという事だ。
「やはり憐れだよ、お前達は」
次々と倒されていく十天君にフェイロンがそう呟く。その実力は生前と変わらなくとも、今の彼らには熱がない。例え彼らがどうしようもない悪であったとしても、その野心は間違いなく彼らの支柱だった。
故に、それを失くした抜け殻はこれ程までに脆い。
「手駒が順調に減っていますね。これ以上はやめませんか?」
「…………」
清源妙道真君の言葉に、聞忠は何も返さない。振るわれる忌引鞭をいなしながら、尚も彼女は言葉を紡ぐ。
「貴方の心の内はよく分かります。良かれと思って行った事が全て裏目に出て、自身の愛情を愛玩だと突き付けられ、私達の事を殺したくて仕方ないのでは?」
「……貴方のそう言うところ、本当の本当に心の底から嫌いですよ」
「よく言われます。太公望程ではないと思っていますが」
「何故私に流れ弾が……?」
互いに言葉の応酬を繰り広げながら、清源妙道真君へと鞭を振るう。しかし、その悉くが躱されて終わる。
聞忠が劣っているのではない。ただ、感情を乱され、どうしようもなく平静を失った彼女の攻撃が精彩を欠いているだけ。内心で己の愚かさに気付いているが故に、その一撃は迷いが生じ、故に仙人達には容易く読まれる。
「……聞忠よ、何故分かってくれない。お前だけは、余の友で居てくれると思っていたのに」
「…………」
その言葉は、これ以上なく聞忠の心を抉る。最早、彼女の友を名乗れる筈も無し。だが、それでも彼女に王として正しき道を用意してあげたかった。
「もう貴方の隣に立てずとも良いのです。ただ、私は貴方を守れればそれで——」
彼女が自身の想いを吐露しようとした時、膨大な仙力が戦場を支配した。
「何ですか、これ……は……」
あらゆるものを圧し潰さんばかりの圧倒的な仙力。それは、他ならぬ元始天尊より発せられたものだった。
十天君の仙力を束ねた時のそれを凌駕する仙力が、ただ一人の仙人より発せられている。
こんなものが放たれれば、どうなるかなど想像するに容易い。
「……面倒な事を」
イコルもまた、苦々しげに顔を歪める。とんだ隠し球だ。まさかこれ程の術式を隠していたとは。褪せ人という脅威を前に、元始天尊の肉体が排除を望んだ。その結果が、これだ。
「制御出来ないのですか!?」
「……元始天尊が抵抗してる。ぼくの制御をまるで聞いちゃくれない」
ヘリューズの問いに、イコルが首を振る。
外の事情を知らない魂がイコルの制御を跳ね除け、制御を離れた肉体がイコルを巻き込んで渾身の仙術を放とうとしている。彼女とて、こればかりは想定外だった。
「貴方……馬鹿なんじゃないですか?」
「は? 言葉が過ぎるね。一体ぼくを誰だと——」
イコルがヘリューズの罵声に反論しようとしたところで、元始天尊の輝きが増す。
最早日輪と見紛うばかりの仙力は、その場で屈してしまいたくなる程の圧を放っていた。
「…………」
その圧倒的な仙力を手に、元始天尊はただ無感動に褪せ人を見つめる。
そして、その仙力を解き放った。
——終焉演義
膨大な仙力の爆発が、オリュンポス第二層、崑崙の戦場を覆い尽くした。
元始天尊はゲーム内では遠距離キャラなんですがあんな立派な武器を持ってたら使わせたいですよね。
結果ホーラルーになりました。