今ひとたび、英雄たらんことを   作:blue man

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密かにやりたかった展開。


虚構の軍団

目の前で名乗りをあげる少女を見遣り、褪せ人が考える。

ふざけた言動こそしていたが、その隠密はかなりのもの。少なくとも、何の目的も無いというのは考えにくい。帝国忍軍、その言葉を額面通りに受け取るのであれば、この少女は帝国の人間。ここで全滅した部隊からの連絡が途絶えたが故に派遣された斥候。このあたりだろうか。

 

「概ね当たりです!それで、あの魔物達をぶちのめそうとしていたら貴方達を見つけて様子見していたわけですね!」

 

褪せ人の推論に、ウルスラがそう返す。一人であの魔物達を処理しようとしていたのか。そう考えるも、なるほど彼女は忍者。詳細は褪せ人も知らないが、確か東の国で斥候と暗殺を生業とする者達。姿を視認出来なければその姿を真似ることすら出来ないあれらは、隠密の内に殺してしまえば非力な魔物でしかない。彼女の実力は定かではないが、不可能という事もないだろう。

 

「いやぁお強いですね皆さん!あの数を正面からとは、帝国の戦士でも中々見れないですよ!」

 

そう言って、笑うウルスラに、褪せ人は少なくとも敵ではないだろうと結論を出す。狙う機会はあの戦闘中にいくらでもあったが故に。となれば、話は終わりだ。そう思い、村を出ようとした。その時だった。

 

「何より――貴方が一番気になります!」

 

そう言って、凄まじい速さでウルスラがカゴメへと接近する。油断した。殺意も何もありはしなかったが故に、反応が遅れた。カゴメも突然の事に呆けた顔で固まっている。彼女の壁の耐久力は脅威だが、本人を狙われた場合は未知数だった。

ウルスラがカゴメの正面まで来ると、その両肩を掴み、口を開いた。

 

「――貴方、忍者ですよね!」

 

「えっ」

 

「あの壁を出す技!土遁の術ですよね!東の国の資料で見ました!後、分身の術も使ってましたよね!?しかも5人も!拙ですら3人が限界だというのに!」

 

どうやら、問題ないようだった。僅かに焦りを覚えた己の滑稽さに腹を立てる。その様を見て、笑みを浮かべているアブグルントにも。とはいえ、捨て置いても良いだろう。そう考え、ひとまずは放っておくことにした。

 

「ち、違いますよー。アタシは妖怪、忍者ではありませんっ」

 

「いいえ、貴方は忍者です!東の国の、分身する、土遁使い!これで忍者ではないなら何なのです!?」

 

「あれ、確かに…?じゃあ、アタシは…忍者…?」

 

「はい、間違いなく!拙の至宝である巻物にもそう書かれています!」

 

「褪せ人!アタシ、忍者でした!」

 

いいや、お前は妖怪だ。

勢いに流されて、混乱しているカゴメを見て、疲れを覚える。物質界に来たというのに、未だ瘴気が残っているのだろうか。

 

「――ウルスラ。貴様、何をやっている」

 

村の入口から、低く、重い声が響く。褪せ人が見遣れば、そこには帝国の騎士達。そして先頭には、傷だらけの、厳めしい顔の老兵が立っていた。

 

「おぉ、ゲオルグ殿!これから報告に上がるところでしたよ!」

 

「ふん、俺にはそうは見えなかったがな」

 

「いやぁちょっと本場の忍者を目の当たりにして、つい。とはいえ、ここの魔物の全滅を確認しましたよ!兵士の方々は助けられませんでしたが…」

 

「構わん。そちらについてはもとより望み薄だった。貴様は本隊に合流して、次の指示を待て」

 

「承知!カゴメ殿!また、話しましょうね!」

 

そういうと、ウルスラは一足先に駆けていった。

そして、ゲオルグと呼ばれた老兵が、褪せ人へ観察するような視線を向ける。そして、褪せ人の持つ砲槍に目を留め、やがて口を開いた。

 

「なるほど、戦士としては一流。だが…」

 

そう言って、褪せ人に近づき、砲槍を取り上げる。褪せ人もそれには抵抗しなかった。

 

「見ろ。貴様が力任せに殴るから砲身が歪んでいる。砲槍は確かに近接戦闘も視野に入れているが、使い方を誤れば唯の剣よりも脆いのだ。このまま砲を撃てばじきに暴発するだろう」

 

ゲオルグの指し示す先を見れば、確かに砲身が僅かに凹んでいる。先程、引き金を引いて無事だったのは単に幸運だったと、そういう事だろう。

 

「貴様ら、ここで何をしていた」

 

「村に寄ったのは偶々、自由都市を目指してたのよ。それで魔物に襲われたから、応戦しただけ」

 

ここで、今まで黙っていたアブグルントが口を開く。帝国の人間相手にデーモンが話しかけて大丈夫なのだろうか。そう考えた。

 

「デーモンだと?そこの妖怪と言い、貴様ら一体…」

 

「デーモン自体は、帝国だとそう珍しくもないでしょう?特に今は。帝国魔神団長様は、今頃帝国での地盤固めの最中かしら」

 

案の定、デーモンの登場に眉を顰めるゲオルグ、しかしそこでアブグルントが、応じた。どうやらこの悪魔、帝国の内部事情に多少詳しいらしい。聞くことが増えた。

 

「黒の軍団共の知り合いか」

 

「アブグルントよ。メフィストに名前を出して見なさいな。きっと、良い顔をしてくれると思うわ」

 

「…まあいい、ウルスラが問題ないと判断した以上、これ以上問答しても仕方ない」

 

そう言って、ゲオルグはこれ以上の追及を諦めた。もとより、この部隊はそのような事を求められていない。何より、ウルスラが問題ないと判断している以上、そうする必要もなかった。ふざけた言動をしているが、彼女の能力の高さそのものは認めていた。だからこそ、あの忍者かぶれの扱いに困ってはいるのだが。

 

「自由都市に行くと、そういう事だったな。ここに居て、何も知らないというのが疑問でしかないが、もはや自由都市などありはしないぞ」

 

「どういうことだ」

 

これから向かう先が無い。一体どういうことかと褪せ人は問う。場合によっては、方針を変えねばならない。

 

「貴様らが戦った魔物。ドッペルゲンガーによって自由都市は既に滅んだ。今、俺達白の帝国は魔物の偽装都市と化したそこへ殲滅作戦を展開中だ」

 

中々に厄介な事情だった。都市一つを落とす、あの魔物がそれを成したのは最近という事はないのだろう。恐らくはその擬態能力によって、少しずつ住人と成り代わり、その支配を広げていた。都市一つで済んだのはある意味で幸いだろう。あの魔物が人間社会で齎す被害は相当なものであると考えるが故に。

 

「じゃあ、仕方ないわね。直接王国に向かう?」

 

「そうするしかないだろうな」

 

自由都市がそのような状況ならば、仕方ない。直接王国へと向かうしかないと、そう判断する。少々遠いが、無茶というほどでもないだろう。

 

「貴様ら王国に用があるのか、ならば話は早い。王国軍、ここに来ているぞ」

 

「何…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドッペルゲンガー、厄介な魔物ですね…」

 

「ああ、思わぬ罠だったが、今回で芽を摘めたのは僥倖だった」

 

アンナの言葉に、王子が同意する。

事の発端は、自由都市からの救援要請だった。白の帝国より襲撃を受けている故に助けて欲しい、そういう内容である。

白の帝国。力により国々を併吞し続ける覇道を突き進む大国。その目的は、帝国という巨大な力による人類の守護。強引で、身勝手な侵略行為、しかしその真意は王国と同じく人類の救済であった。

それ故に、今回の自由都市の要請に応じた。志こそ同じ、しかしそのやり方は決して相容れないが為に。

自由都市を守るべく、王国は白の帝国と衝突。しかし、それこそが罠だった。自由都市にもはや人は無く、ドッペルゲンガーによって偽りの都市と成り果てていた。狙いは、王国と帝国の共倒れ。双方の戦力を削り、疲弊したところを漁夫の利を狙う。王国軍はまんまと掌で踊らされていたという訳だった。

白の帝国の軍師には今回ばかりは感謝しかない。彼女が途中でその真意に気づかなければ、今頃は双方共倒れ、ドッペルゲンガーの思うつぼだった。

最終的には、帝国と王国で一時的に協力関係を結び、こうしてドッペルゲンガー掃討作戦が行われている。

 

「アタシとしては、偽物とはいえ王子様と遠慮なく戦えたのは悪くなかったけどなァ…」

 

最近になって仲間に加わったデステリカが銃を弄りながらそのような事を言う。開拓地の町から来たという彼女は、好戦的で、戦いを好む人種だった。

 

「そうか?戻ったら本物が相手してやる。偽物相手よりずっと楽しいぞ」

 

「一国の主がノリノリなのはありがてェと同時に心配になるぜェ…!」

 

皆殺しの凶銃、そう呼ばれ、恐れられる彼女は微妙に常識人だった。

 

「それに、白の帝国と協力を取り付けることが出来たのも良かった。あそこの黒の軍団、恐らくは魔界の門についても知っているはずだ」

 

白の帝国、そこで試験的に運用されているのが黒の軍勢。それは、魔物達を支配し、戦力として使用するもの。国民感情的にも王国で運用しようものなら猛反発を受けるであろうそれ。それが可能なのは、白の帝国が、魔物の襲撃を跳ねのけ、また、力こそ全てという極端な実力至上主義が故に成せる業だろう。そして、黒の軍勢を指揮するのは、高位のデーモンだとも聞き及んでいた。であれば、魔界について、大きな情報を握っているのは間違いなかった。

褪せ人が行方不明となってしばらく。依然として魔界へ向かう術は見つかっていなかった。死んではいない、そう信じていても、時間が経てば経つほどその焦燥は大きくなる。特にイリスは、表面上取り繕ってはいるが、かなり無理をしているように思えた。

この戦いが終われば、戦後処理で帝国と話をする機会が設けられるだろう。何としても、そこで情報を手に入れると、そう意気込む。

 

「斥候より報告。ドッペルゲンガーの残党を発見。如何なさいますか」

 

「進軍し、包囲する。一体でも逃がすと事だ。ここで完全に仕留めたい」

 

アンナの報告に、王子は答える。この厄介な魔物を一体でも取り逃すわけにはいかなかった。

どうやら、ドッペルゲンガーは廃墟へと籠城しているようだった。彼らの性質上、何が起きてもいいように広く包囲網を広げる。

 

「ここまでだ、ドッペルゲンガー。もはや、お前たちの企みは潰えた」

 

「ククッ…!来たな、王国軍…!」

 

王子の勧告に対し、ドッペルゲンガーは不敵に笑う。追い詰められた敵の顔ではないと、王子は思った。

 

「王子…」

 

「分かっている。各員に伝達。敵の様子がおかしい、警戒するよう伝えてくれ」

 

アンナも様子がおかしいのに気づいたのだろう。心配そうに王子へと声を掛ける。

王子もまた、周囲の者達に最大限の警戒をするよう指示をする。

 

「多くの同胞を犠牲にしたが、そうするだけの収穫はあった…!この地で我々が出会った中でも最強の戦士の姿、その目に焼き付けるがいい…!」

 

そう声を上げ、一人のドッペルゲンガーが廃墟より現れる。

 

「なっ…!」

 

その姿を見て、思わず声を上げた。その姿は、かねてより探し求めていた男の姿、まさにそれであったために。

重厚な鎧を着込んだ偉丈夫が、廃墟より現れる。大盾と大槌を手に悠々と歩く様、その力強さは鮮烈な記憶として多くの者に刻まれていた。王国軍に動揺が走る。

 

「褪せ人…!?一体、どうして…」

 

あまりに突然の事に王子も戸惑う。ドッペルゲンガーであることは分かっている。しかし、まさか過ぎる人選であった。

だが、確かにドッペルゲンガーが自信を持つのも頷ける。その強さを王国軍はよく知っていたが為に。驚きはしたが、油断はしない。劣化コピーのただ一人の騎士に負けるわけにはいかなかった。

 

――そして、その鎧騎士の後ろから、再び鎧騎士が現れる。

 

「うん?」

 

「えっ」

 

「はぁ!?」

 

王国軍の動揺をよそに、続々と鎧騎士が廃墟より現れる。持つ武器は様々。槍、剣、鞭、あるいは聖印。多様な武器を持ったそれらが廃墟より現れ整列する。

 

「よし――撤退!撤退ぃぃぃ!」

 

――褪せ人軍団、総勢138名

 

火が、光が、雷が、あらゆる武器と祈祷が飛び交う中、王国軍は戦略的撤退を決めた。

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