「流石にアレはない。反則だろう」
褪せ人軍団を前に戦略的撤退を決めた王子が疲れたように言う。いくら何でも想定の上を行く展開にもはや笑うしかない。
「しかし、このまま放っておくわけにもいきませんよ…」
困ったようにそう言うアンナの意見は最も。現状、ドッペルゲンガー達が動く気配は無い。相手も分かってはいるのだろう。褪せ人の力を真似ようとも、追い詰められているのは変わりない。下手に動こうとすると王国軍が損害を無視して攻撃に移る。そうなって困るのは恐らく向こうも同じ。ある意味で、膠着状態であった。
「帝国の援軍を待つという手もありますが…」
「向こうがそれまで動かないという保証はない。それに、あれを相手に後手に回るのは危険だ」
今のドッペルゲンガー、その再現性については疑問が残るが、楽観視するのは危険だった。最悪の場合、あそこにいる百数名が全員歩く戦略兵器である可能性すらあるのだ。それが動いてから対応を決めるのは危険だと、王子はそう判断する。
「なぁ、アタシはその褪せ人ってのに会ったことないんだが、どんな奴なんだァ…?」
デステリカが口を開く。単なる勝負事ならご法度だが、今は殺し殺されの戦争。何より、デステリカをして英雄揃いと認める王国軍が、その姿を視認しただけで撤退を決めるような男。少しでも相手の情報は知りたかった。
「そうだな…まず、でかくて力が強い」
「あらゆる武器を同時に振るい」
「雷光を操る!」
「炎も出しますなぁ」
「後、茹でた海老が好きなようです」
「怪獣かなんかか…?」
おおよそ人について語るような内容ではなかった。デステリカも熱い勝負は望むところだが、怪獣退治は専門外だった。
「あの褪せ人軍団についてなんだが、王子くん、いいだろうか」
「タラニアか、何か分かったことがあるなら教えてくれ。今はどんな情報でもありがたい」
タラニアが、王子に向かって口を開く。褪せ人ともそれなりに肩を並べていた彼女だ。どんな些細な発見でも、今は貴重だった。
「ボク達が撤退する中で、彼らは当然追撃をしてきたわけだけど、ちょっと気になってね」
「というと?」
「ボク達を遠距離で追撃する者もいたが、同時に、走って追うものと、何もせず動かないものが居た。前者は、最初から聖印や遠距離攻撃が可能な武器を持っていた者達。後者は遠距離からの攻撃手段を備えない武器を持つ者達だ。彼らが褪せ人を完全に模倣しているというのなら、わざわざこちらを追いかけるのは、妙な話じゃないかい?」
その言葉を受け、王子は考え込む。そして、タラニアの言葉、その真意に辿り着いた。
「つまり、奴らは武器の切り替えが出来ないという事か…?」
確証があるわけではない。しかし、先の追撃での行動が真実なら、可能性は高いだろう。彼らは、褪せ人の能力を模倣している。ならば、全員が祈祷で遠距離攻撃で追撃をしてもおかしくはなかった。仮に、そのような事があれば、今頃撤退を決めた王国軍も無傷では済んでいないだろうが、少なくともそうはならなかった。
「仮にこれが真実だった場合。かなり勝ちの目が出てくる。ボクと王子くんの中で、褪せ人くんの強さ。その根幹が何かという見解は一致していると思うんだ」
「そうだな…」
褪せ人、あの男の強さについて、王子もまた、幾度も思いを馳せた。圧倒的な膂力、無数の武器、強力な祈祷。そのいずれもがあの男を強者たらしめているが、その根幹にあるのは圧倒的な手札による対応力。それに尽きるだろうと王子は考える。
武器も、祈祷による遠距離戦も、回復も。一つの要素を抜き出してみれば、あの男に比肩しうる、あるいは凌駕する者も王国には存在する。だが、それら全てに対応する存在など、存在するはずがなかった。
あの男が、初見の相手に対する時、大盾と大槌によるカウンタースタイルを好むのは、相手の行動から分析し、最適な装備と戦法を選択するのに最も適しているからだ。膨大な選択肢から、敵対相手に最も効果的な装備を、あろうことか戦場で相手しながら選べるのだ。これほど理不尽な事はない。
相手が適応していくのに対して、こちらは無数の装備で常に戦いのリズムを変える一人の戦士を相手取ることになる。特に一対一であの男を相手取るのは、困難極まると、そう考える。
ドッペルゲンガーには、それが無い。強力な武器や祈祷、確かに脅威ではあるが、適切な相手に、有利な味方を配置してしまえばいい。つまりは、いつも通り、そういう事だった。
「ならば、まずはここにいる全員で情報共有が必要か。褪せ人の武器について、知っていることを話してほしい」
その一言で、それぞれが知っている褪せ人の武器について話し出す。そしてそれを元に、誰をぶつけるか、あるいは避けるかを分析する。
そんな中で、ふと、アンナが何かに気づいたように声を上げる。
「そういえば、ドッペルゲンガー達が、『この地で見た最強の戦士』と言っていたような気が…」
アンナの突然の言葉に、王子は訝しみ、しかし声を上げた
「ん…?あ、あぁ!あいつ、もしかして帰ってきてるのか!?」
ドッペルゲンガーと直接会話した王子が、その会話を思い出し、気づく。色々と衝撃的な絵面が襲ってきたおかげですっかり抜け落ちていた。あのドッペルゲンガーは、この地のどこかで、褪せ人に接触している。
「そ、それは一体どういう事ですか…?」
「ドッペルゲンガーが、この地で褪せ人を見て、真似てるんだ。つまり、あいつは自由都市の近くに居たってことだよ!」
イリスが、その反応に恐る恐る声を上げる。それに王子が答えると、イリスはその場に座り込んでしまった。
「イリスさん!?」
突然座り込んでしまったイリスに、アンナが思わず声を上げる。しかし、イリスの顔は涙を浮かべながらも、しかし安堵の表情が広がっていた。
「すみません、少し、力が抜けてしまって…。信じてたのに、変ですよね…生きていたと、そう思うと安心してしまって」
「いいえ…何も変な事はありませんよ」
アンナが、座り込んでしまったイリスに微笑みかける。ずっと気を張っていたのだろう。無理もない事だった。
「ふふん。まぁ、ボクも信じていたからね!この程度、驚きもしないよ!」
「へっ!目元潤ませて言うような事じゃねぇだろ」
「何をーっ!モーティマだって泣いてるじゃないか!」
「泣いてねぇしっ!山賊頭が泣くわけねぇだろ!?」
タラニアもモーティマも、なんだかんだで心配だったのだろう。この苦境にあって、その生存の可能性は、間違いなく希望だった。
そんな仲間たちの姿に笑みを浮かべながら、王子もまた、口を開く。
「よし!ひとまずは魔界を探すよりずっと楽になったな――この戦いに勝って、散々心配かけたあいつに文句の一つでも言ってやろうじゃないか」
散々に心配をかけて、褪せ人軍団などという厄介事を押し付けてほっつき歩いている男に文句を言ってやろうじゃないか。そんな言葉に、全員が力強い返事を返した。
「改めてみると壮観…というか圧迫感が凄いな」
廃墟を背に、整列する重装の偉丈夫集団。ただ一人ですらかなりの迫力にも関わらず、それが百人近く並んでいるのはそれだけで威圧感があふれていた。
王国軍は再び、廃墟へと進軍する。褪せ人軍団もまた、こちらに応じ、迎え撃つ姿勢だった。
「正直、どの武器を相手にするのが嫌だったりするんだ?」
王子が、近くに居たタラニアに声を掛ける。何という事はない、気を紛らわす、雑談のようなもの。
「どれが…というか、あそこの集団には絶対に行きたくはないかな」
それに、タラニアは指差しながら答える。その先に居た褪せ人達の装備を見た。
逆棘を開く黄金の剣。何か得体の知れない蠢く肉がへばりついた剣。そして――
「あれは…武器なのか…?」
黒い、枯れたヒマワリのような花を抱く褪せ人が居た。もはやどう使われるのかも想像がつかない、あれで殴るというのか。
その他にも、巨大な回転鋸がついた武器など、あの区画だけ異様に殺意が高い。タラニアが行きたくないというのも無理はなかった。
「…あそこにはありったけの魔法部隊と弓兵をぶつける事にしよう」
「それが良いよ。あそこは近づいて碌な事には絶対ならない」
気を取り直し、王子は褪せ人の集団を見遣る。仮に武器の切り替えが出来ないとしても、固まられては実質的に同じこと。まずは散らし、分断する。その為にまずは一当て、相手に一か所に固まる事がリスクだと思わせなければならない。
「フレデリカ、いけるか」
「任せてください、とびきりの一発、いきます…!」
王子の声に、フレデリカが応える。
ビッグキャノン。砲術士である彼女の持つ巨大な大砲が、整列し、こちらを待ち構える褪せ人軍団に向かって、放たれる。褪せ人の一人に着弾、凄まじい爆発が周囲の褪せ人を巻き込む。
黒煙が辺りを包む中、あわよくばこれで終わってくれないかと僅かに期待した。
「まぁ、これ一発で終わるわけないよな…!」
黒煙を抜け、続々と褪せ人達が前進する。様々な武器、聖印を持つ彼らが、目の前の脅威を撃滅せんと行動を起こした。先のフレデリカの砲撃を警戒してだろう。それぞれが距離を離しつつ、前進を続ける。ひと先ずは狙い通り、仮にこれでフレデリカに向かって全員突撃などされたら目も当てられなかった。
そして、その褪せ人の中でも、一際突出してこちらに向かってくる者達。身体を雷光に変え、高速で接近する彼らが居た。その斧は、王子も以前見たことがあるもの。
「扱いづらい武器とかって話だが、最強戦士が負けるわけねぇだろ!行くぞおおぉぉあ!!」
叫びながら、くすんだ黄金の斧を振るう。しかし、そこに雷光の斬撃が降り注いだ。それらは褪せ人達に直撃し、その身を雷撃で焦がす。
「――紛い物の雷光では、ボクには敵わないよ。真なる雷光の煌めき、その目に焼き付けるといい!」
――ランページソード
目にも止まらぬ雷光の二連撃。それが、突出して迫りくる褪せ人全てへと降り注ぐ。それも一度や二度ではない。立て続けに乱射されるそれは、雷の雨。それに晒された褪せ人達がよろめき、足を止める。
「ちぃっ!ならば、祈祷だ!遠距離から奴らを――」
「詠唱なんてさせるワケねぇよなァ…!」
果たして、いつ頃そこに居たのだろうか。祈祷を発動しようとしていた褪せ人達に、デステリカが銃を構える。
「バレットカーニバルだ。派手に行くぜェ…!」
両手に構えた銃が火を噴く。素早く動き続けるデステリカを目で追える者はこの場には居ない。絶えず、全身を撃ち抜かれ、褪せ人達が悶絶する。
彼らの鎧は、あくまでドッペルゲンガーが変化したもの。硬質化し、強度は増してはいるものの、実質的には生身なのだ。鎧の破壊は、そのまま肉体の損傷へと直結する。
「おい、まじかよ、夢なら覚め…」
祈祷しか戦う術を持たない褪せ人は、その詠唱の隙を与えられぬまま、ただ的になる。
しかし、それでもなおドッペルゲンガー達は依然として健在。新たな褪せ人達が前へ出る。それらが構えるのは巨大な剣、大槌。それぞれ褪せ人が持つ圧倒的な膂力によって振るわれるそれ。
「イリスさん、私の後ろへ。貴方への攻撃は、絶対に通しませんから」
「は、はいっ!サポートは任せてください、ミレイユさん!」
それらを前に、ミレイユが立ちはだかる。背後のイリスが、ミレイユに対して結界の加護を付与する。
「何だ貴様、そんな細腕で、この一撃が受け止められるとでも思っているのか…!」
「…あの方なら、間違いなくそのように相手を侮る言葉は吐かないでしょうね。身の程を教えて差し上げます」
「あぁ!?やってみろよ!!」
問答無用とばかりに振るわれる大剣の一撃、しかしそれは容易くミレイユの槍によって受け止められた。聖槍ロンゴミニアド、彼女自身の槍の技能。そして、イリスによる守護結界によって今のミレイユは城砦もかくやといった有様だった。槍によって受け止められた衝撃は、そのままミレイユの放つカウンターに上乗せされ、返される。
自身の力任せの一撃、その代償を支払うことになった褪せ人の胴に風穴があく。そして、膝をつき、倒れた。
「さぁ、次はどなたが相手してくれるのですか?」
慄く褪せ人達を前に、悠然とミレイユが構える。彼女は、こと近接戦闘に限り、褪せ人を倒しうる可能性を持つ一人だった。
「何故だ…こんなはずでは」
戦況を観察していた一人のドッペルゲンガーが呻く。勝てる、とまでは思っていなかった。彼ら自身、観察力に長ける種族。自分たちの褪せ人の再現精度と、王国軍の戦力。それらを鑑みれば、分の悪い戦いだったのは否定しない。
しかし、それでもここまで一方的にはなるはずがなかった。彼らの勝利条件は、少しでも多くの同胞がこの包囲網を抜け出す事。生き残りさえすれば、後はまた人間に紛れ、数を増やしていけばいい。しかる後に、再び王国を内側から喰い破る。そういう勝算のもと、戦いを始めた。
だが結果はこれだ。コピーした戦士の、そのスペックを活かしきれていない。彼らが、褪せ人の装備に対して、有利に運ぶ相手を選別している。迫る敵に対して、対処可能な人員を割り当て、こちらの有利を潰している。
ここにきて、最初の砲撃こそが罠だったと悟る。損耗を嫌い、固まらないよう散らばったのが向こうの狙い。個人の、隔絶した力に信を置いたが故のドッペルゲンガーの行動が、完全に裏目となっていた。
「これで終わりだ。ドッペルゲンガー」
「終わりだと?そうやってノコノコ出てきてどうするのだ!貴様さえ殺してしまえば、王国軍など容易く瓦解するというのに!」
静かに王子がドッペルゲンガーへと告げる。しかし、それに応えたドッペルゲンガーは嗤う。貴様さえ殺してしまえばそれで済むのだと。
リーダー格のドッペルゲンガー、その両脇から褪せ人が前に出る。それぞれ大盾と大槌。最も多用するが故に、最も再現度の高いそれ。そしてその背後には聖印の褪せ人と大砲を構えた褪せ人。
計五人の褪せ人が王子を取り囲む。
「この数を相手に、果たしてどれだけやれる!?」
「どれだけだと?無論、勝つとも」
王子が、武器を構える。それは、常の直剣ではなく、曲剣。そして、その装いもまた、常の質素なものでは無かった。
獅子刀ズルフィカール。それは、砂漠の国において目覚めた神獣、スフィンクスを討伐したことによって、砂漠の国より贈られた宝刀。それに宿る力は強力無比、しかし、それ故に使い手を選ぶ代物。
「なんだ、その剣は…。まぁいい、やってしまえ!」
初見の武器を手にする王子に、ドッペルゲンガーが声を上げるも、結局何を持とうとも関係ないと思い直す。そして、褪せ人達へと指示を出した。
背後に控えた褪せ人が祈祷を発動する。祈りの所作と共に、褪せ人の背より無数の白い糸が射出される。それは、王子を追尾し、その身体を貫かんと迫る。
しかし、その無数の糸が王子を貫くことは無かった。飛来する糸、その全てを王子は回避する。まるで獣のような動きで糸の間を搔い潜ると、反応できない褪せ人達をすり抜け、背後の祈祷使いへと迫る。
「なっ…!速すぎる!」
そして、接近され、成す術もない褪せ人の首を、その獅子刀が刈り取った。跳ね飛ばされた首が、地面に落ちると同時にその擬態が剥がれ、ドッペルゲンガーの生首を晒す。
さらに息をつかせぬ間に、ボルトを装填しようとしていた褪せ人へ連撃を加える。全身を切り刻まれ、何もできぬままに大砲の褪せ人が倒れ伏した。
「なんだ、これは…知らないぞ!王国の王子がこれほどとは…!」
王国の王子、剣技に長ける男だというのは知っていたが、個人の武勇などたかが知れている。そのはずだった。あの男を脅威たらしめているのは、その天性のカリスマ性。ただ前線で戦っているだけで仲間たちが奮い立ち、その力を引き出す。それこそがこの男の強み。戦力としては個人の強者、その域を出ていないはずだった。
「だが、まだだ。戦いは数なのだ…!貴様がどれほど優れようとも、数でかかればどうとでもなる…!」
さらに二人、大盾持ちの褪せ人が追加される。複数で迫れば、いくら王子と言えど勝てる。何より相手は軽装。こちらの一撃で致命傷になりうるのだ。その算段だったために。
「――これで終わりな訳がないだろう」
ずっと、あの男の背を追いかけてきたのだ。ただの武器一つで並べるなどと思ってはいない。故に、それを目指したのはある意味必然だった。
獅子刀ズルフィカールが王子の手から消える。そして、代わりに握られるのは神獣の牙を大槌へと加工したもの。
「馬鹿な、装備が変わった…!?それはあの男の…!」
「そうさ、あいつの真似事だ。だが、ただの真似で終わるつもりは無い」
一つの武器で追いつけないなら、あいつと同じように複数の武器を戦場で使いこなせばいい。王国を襲う神獣ベヒモスを討伐し、二つ目の武具を手に入れることになった際に、王子は王国の賢者達と、一流の鍛冶職人達に相談した。
紆余曲折あったが、試行錯誤の末に、それは結実した。あの男のように自由自在とまではいかずとも、疑似的にそれを再現するに至った。そして、思わぬ副次効果も得られた。
武器が変わると同時に、その身に纏う装いもまた、変わる。先の身軽な軽装から、神獣の骸から作られた力強い重装へと。
「これが俺の…一つの答えだ」
王子が牙槌を振り上げる。先の俊敏な身のこなしは鳴りを潜め、重装さながらの重々しいそれ。隙だらけなのではない。生半可な攻撃など、今の王子には何の妨げにもなりはしない故に。
「馬鹿な…今の我々が…敗れるだと…そんな、そんなことが…!」
振り上げた牙槌が地面に叩きつけられる。その一撃は大地を揺らし、衝撃波を伴い周囲の褪せ人を飲み込んだ。一撃必殺の衝撃波に晒された褪せ人達はもはやその形を保てず、紫の人型へと変じると、粉々に砕け散る。
ただの一撃で、周囲のドッペルゲンガーは消滅した。
「ふぅ…何とかうまくいったか」
ひと段落ついた王子が息をつく。今回、これを実戦で使用したのは初めてだったために。切り替えがうまく機能しなければ、多勢に無勢であったことは想像に難くなかった。
とはいえ、現状それなりの数は削ったが、それでも褪せ人軍団は健在。今のところは仲間たちがうまくやってくれているが、重装故かとにかく耐久力が高い褪せ人軍団を前に果たしてどれだけ持つか。
休んでも居られないと、王子が次へ向かおうとして――その背後の黒い鎧に気が付いた。
「…!!」
反射的に牙槌を振るう。一体どうしてこれほどの接近を許したのか。戦闘の小休止による気の緩みに他ならないと、己の不甲斐なさを恥じる。振るわれた牙槌が大盾によって阻まれる。だが、問題ない。劣化コピー程度に防がれるそれではない。このまま圧し潰せる。そのはずだった。
牙槌が、激突するも、その男は倒れない。
「…!?」
計算外だった。揺るぎもしないその男に、己の失策を悟る。だが、このまま終わるわけにはいかない。再度、牙槌を振るおうとして、無防備な腹を蹴飛ばされる。バランスを崩し、仰向けに倒れる。敵の追撃が来る。それを避けようと身を起こそうとした時、その男が口を開いた。
「落ち着け」
「は…!?何を、お前」
「私だ。落ち着けと言った」
その男がこちらを追撃する様子はない。むしろ、呆れたようにそう言われ、一つの可能性に気づく。
「もしかして…本物か!?」
「そうだ。とはいえ、この状況では信用もできんか」
「そりゃそうだろ!どんなタイミングで出て来てるんだ!」
「…正直、どのタイミングでもこうなると思ったのでな。逆にいつ出てきても良いと判断した」
そう言うと、倒れたまま叫ぶ王子に手を差し出す。王子はその手を掴み、起き上がると、その先で戦う仲間達を見た。
「随分と面倒をかけたようだ」
「本当にな。どうするんだこれ。お前を探していたのは事実だが、こんなには要らないぞ」
「違いない」
褪せ人の態度は、居なくなった時と変わりない。戦場にあって、揺るぎもせず。常と変わらぬ気負わないそれ。その頼もしさに、王子が笑う。
「故に、責任を果たしに来た」
褪せ人がそう言うと、こちらに向かってくる褪せ人軍団に向かって歩みを進める。
その手には、一振りの剣。
「その剣は…」
王子が思わず声を漏らす。一目見て分かった。あれは、今まで褪せ人が振るってきた武器の中でも特に極まったものだと、そう直感的に理解したのだ。
「オリジナルか…!丁度いい。このまま数で押して、喰らってやる…!」
褪せ人軍団がこちらを視認すると、褪せ人を喰らわんと襲い掛かる。それを見遣りながら、その剣をゆっくりと構えた。黄金の光が、その剣に収束していく。
「見たことない武器だ…!いいぞ、もっと見せろ!」
力に溺れたドッペルゲンガー達が新たな武器に、喜悦を漏らす。それを見ながら、褪せ人は動じない。真似られるものなら真似てみせろと、言葉無くそう言っていた。
その剣は、ただの剣ではない。永遠に死なぬはずの神。その遺骸が、剣の形を成していた。
それの放つ光は黄金律の体現。その力を得ようと、瞳を黄金に焼かれたドッペルゲンガー達は気づけない。それはもはや、再現など出来るはずのない絶対の光。
溢れんばかりの黄金を刀身に宿したそれを、横薙ぎに振るう。黄金の波が、大地を覆いつくす。進路上のあらゆる物を薙ぎ払いながら広がり続けるそれは、遂にこちらへ向かってきたドッペルゲンガー達を飲み込んだ。飲み込まれたドッペルゲンガー達は一切の抵抗すら許されずその身を破壊に晒される。
断末魔の声すら上げることなく。一度にして十数体の褪せ人は消し飛んでいた。
「行くぞ」
「あ、ああ…」
破壊の限りを尽くし、しかし褪せ人の態度は変わらない。淡々と、次の目標を定め、歩みを進める。その様子を見ながら、仲間たちを援護すべく、王子もまた走り出した。
褪せ人の活躍と、途中合流した帝国軍の増援によって、ドッペルゲンガーは遂に全滅した。
文字通りの劣等殲滅波
王子強化につきスフィンクスとベヒモスはカット。どこかで神獣とは殴り合わせたいですね。エインヘリヤルかな…