「クソッ、あいつら簡単にやられてんじゃねぇか!高い金払って薬草買ってやったんだからちゃんと仕事しろっての」
目の前で、褪せ人と王子達にいとも簡単に鎮圧された冒険者達を見ながら、セブンは毒づく。王子率いる部隊を相手に、戦力を削ることすら出来ないでいた。
「まぁいい。一応、時間稼ぎにはなった。メインはこっちだからな」
とはいえ、主戦力への連絡は終わった。そもそも、冒険者達で王子を捕らえられるとは思っていなかった。数も戦力も、伝え聞く王国軍の精鋭たちを相手にするには心もとないにも程があった故に。
「っとと、あんまり居ないと怪しまれるよな」
王子達が居なくなったセブンを探し始めたのを見計らい、王子達へと近づく。
「あん?お前、どこ行ってたんだ、小便か?」
「そ、そんなわけないだろ!ちょっと色々だよ」
モーティマのデリカシーのない言葉に抗議しながら、密かに倒れた冒険者からくすねたものを懐にしまう。
「セブン、今しまったものを冒険者に返すんだ」
「あ?何でだよ、向こうが襲ってきたんだから別に良いだろ!」
「駄目だ。それは彼らのものだろう、盗みは許さん。…褪せ人もだぞ」
セブンが王子に叱られている傍らで堂々と倒れた冒険者の装備を物色していた褪せ人を見逃すはずもなかった。
「何故だ。向こうもそのつもりで襲ってきたのだろう。倒した相手から装備をはぎ取って何が悪い」
「強盗だぞそれは。はぁ…お前の住んでいたところは無法地帯なのか?とにかく、置いていけ」
王子に言われ、大人しく持ち主へと返す。よく手入れされてはいたが、そう大したものは持っていなかった。
「よし、それで全部だな?じゃあ、気を取り直して先へ進むとしよう」
周囲に魔物の気配もない。冒険者たちも少しすれば目が覚めるだろう。王子達は再びセブンの案内の下、先へ進むことにした。
「よし、この先の洞窟が闇ギルドの支部だ」
先導していたセブンが先を指差す。そこはかつての魔物の襲撃によって滅んだ港町のようだ。夜闇の中、微かに灯りが灯っているのが見える。入口には大量の樽が所狭しと並んでいた。積み荷だろうか。
「見張りが居ないな」
「王子、罠かもしれません。お気を付けください」
王子が見張りが立っていないことに疑問に思う。アンナもまた、罠の可能性を考えていた。警戒しながら、一行は前へと進む。
「それにしても、この樽よう、何というか…」
「誘導されているみたいね、私達」
積み上げられた樽の配置に違和感を抱いたモーティマの言葉に、アブグルントが答える。褪せ人としても、そんな所だろうと考える。既にこちらの動きが気づかれている。その可能性も考慮する。
そして、しばらく先へ進んだところで、褪せ人が武器を構える。
「――おでましか」
王子の言葉に応えるかのように周囲から刺客が現れる。ナイフ、ボウガン、斧に剣と雑多な装備に身を包み、下卑た笑みを浮かべる彼らはまさしくならず者といった様相。その中に幾人か、同じようなフードを被り、油断なくこちらの動きを監視している者がいる。あれらは闇ギルドの者達か。
「ふぅ…ここまで連れてくるのに、バレないかヒヤヒヤしたよ」
セブンは笑みを浮かべ、ならず者の方へ歩み寄ると、王子達へと向き直る。
「セ、セブンさん!?これは一体…」
「まだ分かんねーのか?騙されたんだよ、あんた達は。本当、噂通りにお人好し揃いで助かったよ」
アンナの戸惑いの声に、セブンは嘲笑を浮かべながら答える。全ては王子を捕らえるための計画でしかなかったのだと。
「まぁ、何となくそんな気はしたよ」
王子は、そんなセブンの姿に、肩を竦める。途中から、様子が変だとは思っていた。しかし、いざ裏切られるとなると少々悲しいものがある。
「何だよ、実は気づいてましたってか?だったら、何でついて来たんだよ」
「信じたかったからさ。それに、何か事情があるんだろう?」
裏切られてなお、王子は目の前の少女が根っからの悪人だとは思っていなかった。これでも、それなりに人を見る目はある方だ。そんな自身の直感が、この小生意気な少女が何か重いものを抱えているのだと囁いていた。
「…お前みたいな恵まれた奴が、知ったような口を聞いてんじゃねぇ…!」
王子の言葉を受け、セブンは怒気の孕んだ声音で、王子を睨みつける。王族の、食うに困ったことのない人間に、知ったような口を聞かれるのは我慢ならなかった。とはいえ、状況はもはや詰みだ。後は周りの奴らを適当に倒して王子を捕らえられればそれで良い。
「…セブン、シックスが呼んでいる」
「…ッ、分かったよ。じゃあ後は任せる」
闇ギルドの戦闘員の一人から耳打ちされる。シックス、あの男の所に向かうのは気が進まないが、それもあと少しの辛抱だ。最後に王子達へ振り向いて勝ち誇った笑みを浮かべる。
「騙して悪いが仕事なんでね。あんた達には大人しく捕まってもらうよ」
そう言って、セブンは町の奥へと駆けだした。それを合図にならず者たちがじりじりと近づいて来る。
「おいおい、ちょっと数が多すぎやしねぇか?」
「王子、ここは一度撤退を…」
モーティマが斧を構えるも、あまりの数にひるんだ表情を見せる。アンナもまた、多勢に無勢の現状では分が悪いと王子へ撤退を促した。
「話は終わったか?」
そんな中で、ラピスが前へ出る。その顔は先程までの退屈なやり取りのせいか、心なし不機嫌そうであった。
「もう、良いんじゃないかしら。遠慮何て要らないわよね?」
「問題ない」
アブグルントの言葉に、褪せ人が答える。その言葉を皮切りに、ラピスが魔界の門を作り出す。門から現れるのは自身の配下たる下級デーモン達。
「なっ、デーモンだと!?」
「クソッ、王国は魔物に打ち勝ったんじゃ…」
突然のデーモンの出現にならず者が動揺する。闇ギルドの戦闘員も情報にない出来事に戸惑いを隠せないでいた。それも当然。彼女たちはつい先ほど王国と合流した、ただ暇つぶしについて来ただけのデーモン。情報などあるはずもなかった。
ラピスが力場を展開する。それは、魔界でも使用した敵対者から生命力を奪い去り、仲間へと還元するもの。わずかに動きを止めたならず者たちから奪い去った力が、デーモン達を強化する。
「く、来るな、来るなぁぁぁ!」
「じょ、冗談じゃ…」
デーモンを相手に混乱するならず者を見遣りながら、褪せ人も祈祷を使用する。
それは、自然の、その強大さに魅入られた者達によって成された信仰の力。褪せ人の身体、その一部に獣の似姿が降ろされる。この地に住まうものは知らぬ、大赤熊に神を見出した者達による、その力の具現。
咆哮が放たれる。それは、物理的な圧力を伴って褪せ人を取り囲んでいたならず者たちを吹き飛ばした。周囲の樽に激突し、昏倒する。その祈祷の、あまりに異様な光景に周囲の者達も恐怖する。
「熊だ!人が、熊になった!?」
「王国軍は化け物だらけかよぉ!?」
ただでさえ混乱していたならず者が突如として現れた熊の咆哮に一層混沌とした様相を呈す。圧倒的有利に油断しきっていたならず者に、これ以上ない不意打ちをぶつける。闇ギルドの戦闘員達からも焦りが見て取れた。
「流石は正義の王国軍よね」
「これ、言い訳効くよな?悪いのは向こうだもんな?」
アブグルントの皮肉に、王子は内心で頭を抱える。必死に抵抗するならず者にデーモンが迫る様子を見ながら、王国は魔物の手先だなどと言われやしないだろうかと心配する。これ以上なく頼りがいがあるのは間違いないのだが。
危機的状況は脱したものの、ならず者は未だ健在。相当な数を雇っているようだった。そして、闇ギルドの戦闘員達も本格的に戦闘に参加せんとこちらへ迫る。
「ここは任せる」
「何、どうするつもりだ?」
「あの女を逃がすわけにはいかないだろう」
この程度の相手なら王子達に任せてしまって問題ない。ならば、あの女を逃す方が問題だった。トレントを呼び出し、飛び乗る。
「褪せ人、分かっていると思うが、彼女は…」
「それは向こうの出方次第だ。どのような境遇であろうと、私は同情しない」
それだけ言って、褪せ人は町の奥へと駆けだした。
「あっ、おい!クソッ、さっさとここを片付けないと酷いことになるな…!」
どうして味方にこうも振り回されるのか。セブンがあの男に捕まる前に、ここを処理しないと酷い目に合う。ズルフィカールを構えながら、王子は闇ギルドへと相対するのだった。
褪せ人がトレントで駆けながら港町の奥へと進む。途中散発的に現れる刺客達を処理しながら、セブンを探す。しかし、見つからない。途中いくつか横道があったが、あるいはそちらが正しかったか。いつもなら隅々まで探索するところだが、今は一刻を争う。予想以上に入り組んだ町に辟易する。ひとまずは最も広い道を通るしかあるまい、そう思いトレントを駆けさせようとした、その時だった。
「セブンなら、そちらには居ませんよ」
横合いから声がかかる。そちらの方に意識を向けると、そこにはこの荒れた街並みに似つかわしくない、茶髪にメイド服の女が立っていた。
「何者だ」
「アイリーンと申します。かつて闇ギルドがこうなる前に、旧ギルド長の下、メイドとしてお仕えしておりました」
品のある所作と共に一礼し、こちらに歩み寄ってくるその姿に敵意は無い。あまり、時間をかけている場合でもないのだが、手掛かりがない今、話くらいは聞いても良いだろう。
「そのメイドが、一体何の用だというのか」
「私は旧ギルド長を殺害した者達を追っています。その一人が、恐らくここに。故に、取引を。港町の地理は既に調べてあります。お力をお貸しいただければ、セブンの下まで案内をさせていただきます」
「先ほど、その闇ギルドの者に裏切られたところだ。信用すると?」
セブンに裏切られた今、突如現れたメイドを信用しろというのが無理な話だ。そんな褪せ人に、しかしアイリーンが退くことはない。
「しかし、今の貴方にセブンへとたどり着くことは出来ますか?」
「………」
「それに、信用できずとも、貴方なら私を殺すのは造作もないはず。信用できないというのなら、如何様にも」
確かに、現状で無駄に駆け回るよりはこの女の案内に従った方が良いのだろう。セブンを逃がす目的なら、このまま放置しておけば良かったはず。仮に此方を嵌めようという算段なら、その目論見ごと潰してしまえばいい。
「案内しろ」
「ありがとうございます。それと――そちらの方も出てきて頂いて構いませんよ」
「むむっ、またしても拙の隠密が!」
アイリーンの呼びかけに、人影が飛び出す。出てきたのは何時ぞやドッペルゲンガーの村で出会った忍者、ウルスラであった。
「帝国の忍びが、なぜここに居る」
「ここに闇ギルドのアジトがあるという情報を掴みまして、潜入捜査中でした!」
帝国としても、闇ギルドは目障りなのだろう。ここに居た理由としてはそう不思議な事ではない。とはいえ、この女、素直に話し過ぎではないか。
「褪せ人殿とは一度お会いした身、信頼できる者と判断しておりますゆえ。それに、アイリーン殿についても調べがついております。先の話、信用して大丈夫かと!」
総勢一名の帝国忍軍、その腕は確かだった。それ故に帝国も扱いに困っているというのもあるのだが。
ちなみに彼女は別に東の国の出身という事もない。れっきとした帝国の騎士生まれにして、突然変異の忍者であった。
褪せ人も、思わぬところから裏も取れたことから懸念が消える。まず問題はないだろう。
「では、此方へ」
そう言って、先導するアイリーンに、褪せ人とウルスラはついていくのだった。
「ところで、港町の入口で使っていた熊になるやつ。あれは所謂変化の術というものでは?つまり、褪せ人殿も…忍者!?」
「違う」
「えー!?」
カゴメの時もそうだったが、この女、特殊な術や技巧を全て忍者認定するつもりだろうか。この世界には魔術も奇跡も溢れているというのに。
「忍者は浪漫ですので!」
答えになっていない。一体何故、これほどまでに忍者に執着するようになったのか。
「帝国のバザーで術の巻物に出会ったのが拙の運命の始まりでしたね」
かつて、幼少の頃に出会ったその巻物が全ての始まりだった。彼女は忍びに浪漫を見出し、のめり込む。帝国に先達は居らず、独学で忍びを学び、術を磨いた。忍者になると言えば親に泣かれ、同期に笑われ、教官からも真剣に諭された。それら全てを実力で黙らせたのだが。しかし、今の帝国は忍びには優しくない。
「結局、今の私は帝国騎士という扱いの訳でして」
いずれは正式に帝国忍軍を作るのだと意気込む彼女はどこまでも前向きだった。逆境にあっても前を向く姿勢は悪くはないと、褪せ人はそう思った。
しばらく進むと、荒れた廃墟の立ち並ぶあちこちに檻が置かれている。その中にはみすぼらしい人間が閉じ込められていた。人身売買の商品といった所か。中には着飾った者もいるが、その視線は茫洋としている。何か薬でも盛られているのか。そんな中を歩く、アイリーンの表情は険しい。優しかった前ギルド長が作り上げた組織が、こんな事に利用されていることが不愉快なのだと、そう言葉無く言っていた。そしてアイリーンが町の奥を指し示す。
「この先です。恐らくこの先にセブン達が――」
アイリーンがそう言い終わる前に、目の前に突如として何かが目の前に放り投げられる。それが爆弾であると認識した三人の行動は早かった。
褪せ人は大盾を構え、爆風を受け止める。ウルスラとアイリーンは背後に飛び退くことで爆風を避けた。
「――躱したか。だが、無意味にて候。貴公らの末路は爆死なり」
爆弾を投げた下手人がその姿を現す。赤い仮面に、赤い首巻、どこかウルスラの忍装束に酷似した黒いそれを身に纏う姿は忍者。しかし、本来肌が露出しているだろう部分は硬い金属で覆われていた。
「あれは、まさか…!?」
「知っているのか」
「東の国の資料で読んだことがあります。その身をくぐつに置き換え、闇の中、確実に雇い主の命を遂行し続ける伝説の忍者――」
――絡繰り忍者
「ほう、異国の地で、拙者の事を知る者が居るとは、光栄でござるな」
「うわぁ!本物、本物ですよ、褪せ人殿!凄い、うわぁ!」
興奮のあまり、語彙を完全に失くしたウルスラがはしゃぐ。仮にも此方を殺しに来た相手にここまで喜べるのだから相当なものだろう。
はしゃぐウルスラを無視して褪せ人が武器を構える。どう考えても友好的な相手ではないだろう。
「言葉は不要か。よき戦士だ。主の命により、貴公の命、頂戴仕る」
絡繰り忍者が褪せ人に向かって、接近する。恐るべき速さで接近するそれは、あるいは肉体を機械で置き換えたが故に可能になったのだろう。それを冷静に大盾で受け止める。
「拙を忘れないで頂きたいですな!忍法・三重身の術!」
接近しながら、彼女は印を結び、術を発動する。入手経緯がどうあれ、その力は本物。三人に分身したウルスラが、褪せ人に斬りかかった絡繰り忍者へと躍りかかる。
「異国の忍、我流なれど見事な術よ。だが――」
しかし、人間であればあり得ない挙動で絡繰り忍者が反応すると、蹴りを一閃。三人のウルスラはまとめて蹴り飛ばされる。
「がっ…!?」
「そこで眠っておれ、おなごよ。拙者の相手はこの男のみ。邪魔立てしなければ命までは取らぬ」
吹き飛ばされ、壁に激突した分身が消える。本体もまた、もろに蹴りを喰らい壁と衝突したことにより意識を飛ばされる。どこか内臓を傷つけたのだろう、口元から血が流れていた。
「褪せ人様…」
「これの相手は私がする。そこの忍びの手当てをしてやれ」
褪せ人がそう言うと、アイリーンはウルスラの下へと駆け出す。その間も、絡繰り忍者は油断なく此方を見たままだった。その絡繰り忍者が口を開く。
「では、仕切り直しといこうか」
再度、褪せ人と絡繰り忍者の距離が縮まる。絡繰り忍者の攻撃を大盾で防ぎ、カウンターを返すもその異常な反応速度で回避される。絡繰り忍者もまた、忍び刀では褪せ人の守りを抜けないでいた。
幾度か切り結び、褪せ人の攻撃が空を切ると同時に爆弾が投擲される。それを褪せ人は背後へ跳躍することで躱すと距離の開いた絡繰り忍者へと雷の槍を投擲した。
「貴公の情報は既に得ておる。無論、その術も!」
そう言うや、絡繰り忍者は跳躍する。そして、飛来する雷の槍をその忍び刀にて受け止めた。本来、全身を覆うはずの雷撃は、特殊な忍び刀によって収束し、行き場を失くして暴れ狂う。
「――秘技・雷返し」
そして、その忍び刀を振り下ろした。褪せ人が放った雷の槍、その力が増幅され、返される。それを予想できなかった褪せ人は、もろにその一撃を受けた。
「………!!」
雷撃が全身を走り、褪せ人は痙攣する。その隙を絡繰り忍者は見逃さなかった。
急接近すると、忍び刀を振るい褪せ人へと躍りかかる。褪せ人が何とか反応しようとするも、雷によって思うように体が動かない。斬撃を受け、とどめとばかりに蹴りが放たれる。その一撃は重装のはずの褪せ人を、容易く吹き飛ばし、壁へと激突した。
死体を確認しようと歩みを進めていた絡繰り忍者は、しかしその姿を認めてその足を止める。
「驚いた。まだ、動けるというのか」
土埃の中、褪せ人はゆっくりと立ち上がる。全身を血で濡らしながら、しかしその身体に揺らぎはない。
「見事なり。拙者と切り結び、これ程の粘りを見せたのは貴公が初めてよ――だが」
再度、褪せ人へと接近する。油断は無い。今度こそ仕留めんと忍び刀をその首元へと振るおうとして――全身を凄まじい衝撃で襲われる。
「ぬぅ…!?」
吹き飛ばされ、地面へと投げ出される。物理的な衝撃だけではない。何かしらの力が身体に損傷を与えているのを感じながら、絡繰り忍者はすぐさま褪せ人の姿を視認する。
「これは、変化の術か…!?」
違う。
褪せ人が驚く絡繰り忍者の言葉を内心で否定しながらその力を行使する。
宙に浮き、その姿を変じさせる。それは、時の狭間、永遠に崩れ去る嵐の中心に座した竜王の似姿。その力は褪せ人をして不完全なれど、破壊の力は健在。
竜王の口が黄金に輝く。それは黄金律が掲げられるより遥か昔、古き王が振るった力。黄金の熱線が放たれ、港町の石畳を消滅させながら絡繰り忍者へと迫る。
「ぐっ、ぬぅう!?」
辛うじて回避に成功するも、その余波だけで絡繰り忍者の機械の身体が焼け爛れる。恐るべき威力。直撃など受けられるはずもない。その力の行使に、未だ己は見誤っていたのだと、絡繰り忍者は褪せ人を睨む。
しかし、竜王のブレスは未だ終わらず。吐いた熱線をそのままに首を振り横薙ぎに放つ。廃墟とかした家屋をその熱で粉砕しながら、絡繰り忍者を追従する。
「馬鹿な…!?これほどの力を、ぐぉおおおお!!」
回避しきれずに絡繰り忍者は黄金の熱線に直撃する。滅びの熱線が鋼の肉体を破壊し尽くした。
力の行使を終えた褪せ人がゆっくりと地に降り立つ。滅びの熱線により、ただでさえ荒れ果てた港町は完膚なきまでに破壊されていた。
褪せ人は自身の状況を確認する。あまり芳しくはない。プラキドサクスの滅びにより、随分と力を使ってしまった。とはいえ、動けない事もない。アイリーン達を探し、先を急がねば。そう結論を出し、歩みを進める。
「見事なり。よもや、これ程とは…」
その声に、褪せ人は振り向く。そこには、全身を完膚なきまでに破壊された絡繰り忍者が居た。両腕を破壊され、戦う事はもはや不可能だろう。
「痛み分け…というには少々拙者の分が悪すぎるでござるな」
横薙ぎに振るわれた竜王の熱線、回避しきれないと判断した絡繰り忍者は、自身の核を守る事のみに全力を賭したのだ。分の悪い賭けではあったが、結果として、全身を焼かれながらも核を守ることに成功する。
「私が、その様で見逃すと思うか」
「無論、思わぬとも。しかし、まだ拙者は果てるわけにはいかぬ」
褪せ人が大槌を振り上げる。絡繰り忍者の砕けた外殻の奥、人間ならば心臓に当たるであろう部分で光り、脈動するそれ。恐らくはこれを破壊すればよいのだろう。抵抗しない絡繰り忍者目掛けて、容赦なく大槌を振り下ろした。
その直前に、絡繰り忍者の姿が掻き消える。代わりに、絡繰り忍者が居た場所には爆弾が入れ替わるようにして置かれ、振り下ろす大槌が直撃する。褪せ人の全身が爆炎に包まれ、吹き飛ばされる。痛む体を無視しながら、褪せ人は次なる攻撃に備え、大盾を構えた。
しかし、追撃は来ない。どうやら、逃げたようだった。最後の最後まで油断のならない相手であった。
「大丈夫ですか、褪せ人様」
事が終わったのを見計らい、アイリーンが褪せ人へと近づいてくる。
「問題ない。案内しろ」
「どう考えても問題しかないような気が…いえ、そうですね。先にセブンを追いましょうか。ウルスラ様を起こしに行ってきます」
全身を血に濡らし、しかししっかりとした足取りの褪せ人を見て、アイリーンは密かに戦慄するも、己の目的としてもセブン達を優先した方が良いのは確かだった。手当を終えたウルスラを起こしに向かう。
その間に褪せ人は少しでも体力を回復しようと瓦礫に腰かける。久しく会わなかった強敵。闇ギルドも中々侮れないものだと考えを改める。
「おーい、鎧の君、聞こえるかい?」
体力を回復させるために意識を集中させていたところに、声がかかる。この静けさで漸く聞こえるか聞こえないかといった、どこか感情に欠ける声。あまり大声を出すのは苦手なようだった。
褪せ人は立ち上がり、声を頼りに歩き始める。そして、人身売買の、一つの檻に辿り着く。一際頑丈そうなその牢の中に、彼女は居た。
闇色の瞳に、それと同じく二本の角を生やした黒髪の少女。背には一対の黒い翼と尻尾が生えていた。デーモンに似た特徴だが、違う。それと同じような存在を、王国でも見たことがある。
「竜人か」
「当たりだね。ちょっと魔術の実験で派手にやらかしてね。動けないところをこうして捕まってしまったのだよ」
そう言って肩を竦める竜人の少女に囚われた悲壮感は無い。
「ここは静かでね。魔力が戻るまでここで魔術書を読む分にはそう悪くは無かったんだ。適当に、頃合いを見て出ていくつもりだったんだが、君の暴れっぷりが目に入ってね」
そう言う少女はどこまでも無表情であった。褪せ人もさして人の事は言えないのだが。
「同族…ではないね、君は。少し興味が湧いた。ちょっと私を助けてみないかい?それなりに役に立つと思うよ」
檻の中、褪せ人へと向き直り闇色の瞳を此方へ向ける。
「魔術士のトリシャだ。よろしくお願いするよ」
妖怪デーモンに竜人が追加されました。