今ひとたび、英雄たらんことを   作:blue man

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道化人形

フォーが褪せ人へと躍りかかると同時に手に持った爆弾を放り投げる。その対象は褪せ人と――シックス。

 

「………!!」

 

アイリーンが咄嗟に暗器を爆弾へと放る。軌道の逸れた爆弾はあらぬ方向へと飛来し、爆発する。褪せ人もまた、大盾によってその爆発を防いだ。周囲が強烈な火薬の匂いで埋め尽くされる。

同じ組織の仲間の凶行に、シックスが声を上げる。

 

「フォー、貴方、一体どういうつもりで…!?」

 

「いやいや、ちょっとお手伝いをね!それに、常々お前も言っていたじゃないか。仲間を思えばこそ、さ。今回はお前の番、それだけの話だろう?」

 

つまりは口封じ。捕まって情報を相手に渡すような人間を組織は生かしておかない。それは他ならぬシックス自身も分かっていた。今までは処理する側だった自分が、今や逆の立場にある。その事にシックスは歯噛みする。

 

「その男には聞くことがある。連れて離れていろ」

 

「承知致しました」

 

まだ聞くべきことを聞いていない。シックスにここで死んでもらうわけにはいかなかった。アイリーンがその言葉を受け、シックスを引き摺っていく。

 

「あーあ、殺し損ねちまったなァ。まぁ良いか、遊び相手が居る事だしなァ!」

 

シックスを取り逃したことに、しかしフォーは執着しなかった。口では組織のためと言いつつ、そんなことをこの男は露とも考えてはいない。ただ殺せそうだったから、その程度の認識。そして改めて自身の遊び相手たる褪せ人を見遣る。

再びフォーが爆弾を投擲する。それを視認しながら、褪せ人はフォーへと肉薄する。爆弾の火力こそ脅威ではあるが、その戦闘技能については先の絡繰り忍者と比べるべくもない。この程度の相手に、いちいち時間を掛けている暇はなかった。爆弾の投擲を掻い潜り、黒鉄の大槌を横薙ぎに振るう。

フォーは防御する素振りすらなく、もろにその一撃を受けた。横薙ぎに振るわれた大槌に胴をくの字に曲げながら吹き飛ぶ。その感触に違和感があった。おおよそ人体を殴った時とは異なる、硬質なそれ。

吹き飛んだ先、仰向けで倒れたフォーが、まるで糸に吊られたように起き上がる。

 

「ハハハ!そりゃそうだよなァ。絡繰り忍者をぶっ壊したお前がこの程度で――」

 

いちいち喋る道化に暇を与えるつもりはない。起き上がり、しかし無防備を晒すフォーへと容赦なく追撃を加える。振り下ろした大槌がフォーの脳天を直撃し、叩き潰す。

 

「ぎゃっ」

 

そのまま地面に倒れたフォーに二度三度と大槌を振り下ろす。石畳を砕きながら、加えられる攻撃に、しかしフォーは口を開く。意外としぶとい。その異常な耐久力に違和感を覚える。

 

「馬鹿な…こんなことは…」

 

疑念を覚えるも、手を緩めるつもりは無い。とどめとばかりに、渾身の一撃を放つ。それは、寸分違わずフォーの頭部を打ち据えた。硬質な何かが砕ける音。間違いなく、破壊した、その確信があった。

 

「――とでも、言うと思ったかい?この程度、想定の範囲内なんだよォ!」

 

しかし、フォーの声は未だ響いていた。哄笑と共にその胴が膨れ上がる。爆弾の投擲で誤魔化されていたが、この充満する火薬の匂い、それは他ならぬフォー自身から発せられるもの――

 

褪せ人が飛び退くも、僅かに遅かった。胴体に敷き詰められた大量の火薬が爆発を起こす。

爆風に巻き込まれた褪せ人が、その衝撃で吹き飛ばされる。石畳に投げ出され、すぐさま体勢を整える。また、この手合いか。先の絡繰り忍者といい、些か芸が無い。

 

「褪せ人殿!?」

 

「問題ない」

 

ウルスラが駆け寄ってくる。しかし、先の絡繰り忍者で消耗した体力は冒涜の聖剣によってある程度は癒されていた。不意を打たれたとはいえ、問題はない。しかし、これで終わりではないだろう。今なお続く耳障りな笑い声に、油断なく武器を構える。

 

「ハーハッハッハッハァ!俺を倒した!俺の人形を殺しやがったぞォ!」

 

港町に響くフォーの声は怒りとも喜びともつかない感情の振り切ったようなそれ。褪せ人はそれに応えず、冷静に発言を整理する。人形、つまりは本体は別にいるという事か。

 

「褪せ人、漸く見つけたぞ!さっきの爆発は何だ!?」

 

ここにきて、王子達が褪せ人へと合流を果たす。先の爆発が結果として、目印となったようだった。

 

「問題ない。敵を倒しただけだ」

 

「問題ないって…そうだ、セブンは…!?」

 

まさか敵とはセブンの事ではないだろうなと、王子は慌てて周囲を見渡す。その視界の中で竜人の少女とメイド、忍者というイロモノ達が気になったが、そこに震えているセブンを見つけた。

良かった、爆死したのはセブンでは無かったのかと、王子は震えるセブンを安心させようと近寄る。しかし、その姿を認識したセブンは目を大きく見開くと、アイリーンの背に隠れてしまった。その目には恐怖の色がありありと浮かんでいる。

今まで女性にそのような反応をされたことのない王子は、密かに心にダメージを負う。

 

「セ、セブン…?一体どうして…」

 

「お、王子…やっぱり、アタシを殺しに来たんだ…?」

 

「何でそんな話に…褪せ人!お前また何かやっただろ?」

 

怯えるセブンの何やら誤解した様子に、王子が褪せ人を問い質す。今はそんなことをしている場合ではないはずだが。褪せ人はそう思いながらも王子へと答える。

 

「何もしていない」

 

「嘘つけ!」

 

文句ならそこで薄い笑みを浮かべている白いデーモンに言ってもらいたい。己はただ、逃げる裏切り者を追いかけただけに過ぎない。必要以上に恐怖を与える真似などしていないはずだった。

 

「おっとォ、ここに来てお仲間の登場か。良いじゃないか、盛り上がってきたねェ!」

 

再び響くフォーの声に、王子達も警戒し始める。恐らくは、まだ何かをするつもりだろう。王子がズルフィカールを構えながら、褪せ人へ説明を求める。

 

「…状況は?」

 

「闇ギルドの幹部、フォーと交戦している。爆発する人形使いのようだ」

 

「相変わらず面倒な相手にモテてるようで何よりだよ」

 

言葉少なな褪せ人の説明を聞いて、王子は皮肉を言いながら、表情を険しくする。厄介な手合いであるのは間違いなかった。

 

「まぁやるんなら派手にやろうかぁ!?その方が楽しいだろォ!ハハハハハ!」

 

果たして、どこに隠れていたのか。港町の廃墟から無数のフォー人形が現れる。見渡した限り、十や二十ではきかないだろう。夜闇に無数の道化が笑い声をあげるその様は、気の弱い者が見れば、それだけで恐怖を覚えるだろう。

 

「悪趣味な人形だ」

 

「そう?可愛くて良いと思うわ」

 

ラピスが現れた人形に眉を顰めながら口を開く。それに対して、アブグルントは独特の感性から反論する。相変わらずではあった。

 

四方を囲うフォー人形が一斉に動き出す。その一体一体が、火薬の敷き詰まった動く爆弾。ひとたび接近されれば爆発の雨に晒され、粉微塵に吹き飛ぶだろう。王子達と褪せ人が構え、迎え撃つ姿勢を見せる。

 

「――ふむ、ここらで助けて貰った恩返しをしておこうか」

 

その言葉と共にトリシャが魔法を放つ。竜人としての魔力を遺憾なく発揮するそれは強力な代物。迫るフォー人形たちの包囲網、その一角に魔法が降り注ぐ。魔法はフォー人形達を凍り付かせ、やがて完全に機能を停止させた。

 

「良かった。魔力が少ないおかげで失敗しなかったみたいだ。もし失敗していたらこの広場の一角は間違いなく吹き飛んでいたよ」

 

「しれっととんでもない事言ってません?」

 

戦いにかこつけて実験を行うトリシャ。それにウルスラが珍しくツッコミに回る。

 

「と、とにかく包囲網に穴が出来ました!皆さん、囲まれないようにあちらへ!」

 

アンナの呼びかけに応え、王子達はトリシャが作った包囲網の穴へと駆ける。ひと先ずの危機は脱した。廃墟の壁を背に、迫りくるフォー人形達をトリシャが魔法で破壊し、褪せ人もまた、祈祷を駆使して破壊していく。しかし、破壊を恐れぬ自爆人形は絶えることはない。じわじわと距離は縮まっていく。

 

「どうするんだ、数が多いってもんじゃねぇぞ」

 

「これだけの数を操っているんだ。恐らくは近くで見ているはず」

 

モーティマの焦りの多分に含んだ声にトリシャが答える。無尽蔵とも思われるほどに現れるフォー人形。しかし、それを操る本体が居るはずだと。その言葉を聞いた褪せ人が、迎撃しながら、それらしきものを探す。そして、廃墟の屋根の上、月を背にして佇む道化を見つける。明らかに他の人形とは動きが違う。此方を見遣りながらしきりに腕を動かすそれは、恐らく本体だろうとあたりをつける。

 

それを認識してしまえば、もはや躊躇う事はない。迫りくるフォー人形の群れの中、褪せ人は突撃する。そして、祈祷を発動した。

おそるべき山、竜の大母と称される大老竜、その似姿を己の姿に成す。そして、大咆哮を轟かせた。咆哮は周囲のフォー人形をその衝撃波で圧し潰し、破壊する。褪せ人へと躍りかかり、密集していたフォー人形は次々と爆発し、周囲の人形を誘爆させていく。

そして、褪せ人はフォーへと真っ直ぐに駆けだした。迫りくるフォー人形を破壊し、爆発を掻い潜る。しかし、この大群を前に完全に躱しきる事など不可能だった。時に熱風に肌を焼き、飛び散る破片が肉を引き裂く。しかし、それでもなお前へ進むことは辞めない。

 

「絡繰り忍者の時もそうだった…。痛みがないわけでも、苦しくないわけでも無いよなァ!?どうしてお前は前へ進む!?何をしたらお前の歩みは止まるんだ!?見せてくれよ、お前のその顔が絶望で濡れる、その美しい様をさァ…!」

 

フォーが迫る褪せ人に狂喜する。痛みもあるだろう、苦しみもあるだろう。それでも、何故前へ進めるのか。その強靭な精神を支える骨子は一体何処にあるのか。それを折ってしまいたい。フォーはこの最高の遊び相手を、完膚なきまでに壊してしまいたかった。

 

「あら、良い趣味ね。話が合いそうだわ」

 

「敵に同調するな、性悪」

 

シンパシーを感じたアブグルントが反応する。この男はあるいは、褪せ人の前に立ちはだかり続けてくれる。そんな可能性を感じただけに。相変わらずの調子にラピスは呆れながら、配下のデーモンに指示を出す。命令されたデーモンは哀れフォー人形に突撃し、爆発四散した。

 

フォーのその言葉に、応えることなくただ前へと進み続ける。そして、フォーが佇む廃墟、その足元へと辿り着く。褪せ人が祈祷を発動する。構えるのは、騎士の雷槍。渾身の力を籠め、放とうとしたところに、隠れ潜んでいたフォー人形が飛び出してくる。祈祷の発動をすぐさま解くことは出来ない。甘んじて不意打ちを受ける、その覚悟を決めて投擲をしようとした時、背後から手裏剣が飛来し、迫るフォー人形を破壊した。

 

「先の失態、その埋め合わせには足りませんが、援護は任せてください!」

 

三人に分身したウルスラが、人形達へと次々と手裏剣を投げつける。帝国流、もといウルスラ流にアレンジの加えられたその手裏剣は、物理と魔法、それぞれが入り乱れた変則的なもの。フォー人形の外殻を砕き、魔法によってその操り糸を断ち切っていく。

ウルスラの援護の下、褪せ人は再度屋根の上のフォーへと狙いを定める。

 

「ハハハハハ!お前の歩みを止めるには、ちょっと足りなかったみたいだ」

 

「私はもう、歩みを止めるつもりなどない」

 

褪せ人が騎士の雷槍を放つ。雷の槍がフォーの胴体を貫き、追撃の雷撃が全身を駆け巡る。その一撃にフォーは全身を痙攣させながら、しかし笑うことを辞めなかった。

 

「ああ――楽しかった――次は――どんな玩具で――遊ぼう――か」

 

フォーが、その身体を膨らませ、爆発する。そして、周囲のフォー人形もまた、魔法の糸が切れ、機能を停止した。

 

「終わった…のか?」

 

王子が周囲を警戒しながら、口を開く。先程の爆音響く戦場から打って変わって、痛いほどの静寂が辺りを包む。

 

「周囲に魔力の反応は無いね。どうやら、終わったようだ」

 

トリシャが、魔力探知を行った結果を伝える。少なくともこの場に、魔力の反応はない。むしろ、最初から居なかったかのように魔力の残滓すら残されていないことに、トリシャは内心で懸念を抱く。恐らく、フォーは生きている。どういう手筈を使ったのか、トリシャをして分からないが、人形を介してあの大群を操作していたようだ。人間の力量を超えている、そう感じた。

 

「それで、結局懸賞金の事ですが…」

 

「そちらの方は、何とかなるかと」

 

アンナが当初の目的である、懸賞金の取り下げについて口を開くと、それにアイリーンが答える。

 

「貴方は…」

 

「アイリーンと申します。旧闇ギルド長に仕えていたメイドです。今は味方と、そう思って頂ければ。今しがた、闇ギルドの幹部が情報提供に応じました。懸賞金の取り下げ、そちらについては遠からず結果が出るかと」

 

シックスは情報提供に応じるようだった。先のやり取りから、ここで解放されたところで、闇ギルドの刺客から殺されるだろう。恐らく、取引に応じることで王国の牢に閉じ込められた方が余程安全だと、そう考えているようだった。

 

「一件落着、か。なら撤退するとしよう。王国から応援を呼んである。後は彼らに任せよう。褪せ人は戻ったら説教だからな」

 

「何もしていない」

 

「こいつ…はぁ、アブグルントとお前は一回イリスから道徳を説いてもらうように頼んでおくか…」

 

王子はそんなことを考える。後日イリスがその事を聞いて悲鳴を上げることになるがそれはまた別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シックスが失敗したようだな」

 

「あの野郎。しくじったのか」

 

王国がシックスを捕らえた。その報告を受け、闇ギルドの幹部たちが集められる。

シックスの役割、それは闇ギルドの構成員への仕事の斡旋に裏工作、現場指揮に裏切り者の後始末など多岐にわたる。その役割を分担するのは急務だった。

 

「で?どうするんだ、ツー。あいつが居なくなった穴を塞ぐのはかなりの面倒事だぞ」

 

恰幅の良い男、ファイブがツーへと水を向ける。それに答えるように片眼鏡にスーツの男が口を開いた。

 

「しばらくは、私とファイブで分担するしかないだろう。後はスリーの脱獄計画を前倒しにする」

 

「問題児が増えたって変わりゃしねぇだろ」

 

スリー、あの自分勝手な男が増えたところでシックスの穴埋めなど出来やしないだろうと、ファイブはため息をついた。

 

「それもこれもフォー、お前がシックスを連れ戻してくれれば、丸く収まったってのによ」

 

「おいおい、これでも結構頑張った方だぜ?まぁ、趣味に走ったのは否定しないけどさァ」

 

ファイブがフォーに恨み言を向ける。しかし、何処か満足げなフォーはどこ吹く風、そもそもこの男が幹部集会に出席していること自体が珍しいにも程があった。

 

「王国の傭兵、それほどだったか」

 

「ハハハ!思い出しただけで笑えるね。今すぐにでもあの兜の下の仏頂面をぐちゃぐちゃにしてやりたいくらいだ…!」

 

ツーの言葉に、フォーがその殺意と狂気を表出させる。人形越しだったが、あの男の強靭な精神に圧倒された。そんな経験は初めてだったのだ。諸々の邪魔が入って今回は失敗したが、あの男は必ず己の手で殺すのだと、フォーは密かにそう誓った。

 

「――強者か。我らの妨げになるというのなら、容赦は出来んな」

 

「言っとくが、アレは俺の獲物だ。いくらアンタでも、手出しするなら殺すからなァ――ワン」

 

静かに、しかしその発言だけで周囲の空気を変えたフードの偉丈夫に、フォーは殺意を込めて警告する。いくら組織のトップと言えど、あの男を横取りされるのは我慢ならなかった。

 

「良い、俺もまた、雌伏の時だ。その男の始末は任せる」

 

ワンが静かにフォーの発言を否定する。その男に興味があるのは否定できない事実ではあったが、己もまた、成すべきことの最中である。復讐のため、今は力をつける時。

 

「――魔道は天下の天となり、俺はその天となる」

 

目的はただ一つ。己を最強の男として鍛え上げ、復讐を果たす事。この男もまた、ただ一つの目的の為に邁進する、修羅であった。

 




ククク、シックスは闇ギルドの中でも一番の働き者…みたいな話です。
シックスが本来やる役割は隠密牛歩デブことファイブがデスマーチします。瘦せてしまえ。

ワンVS落葉褪せ人とか妄想してますが武器を捨てる理由がないなぁと。まぁ戦うのはずっと先でしょうけど。
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