今ひとたび、英雄たらんことを   作:blue man

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大総力戦

二体のアズラの獣人が、英霊達の一人へと躍りかかる。彼らは古竜を祀る古き霊廟を守る戦士達。特に、選ばれた彼らの武器には古竜の赤き雷が宿っていた。

そのアズラの獣人の猛攻を双剣のエインヘリヤルはいなしていく。彼らもまた、かつての英霊達の再現。獣人二体を相手取るなど造作もなかった。――その背後に、黒き刃が迫っていなければ。

獣人の対処に気を取られていたエインヘリヤルの背後に、黒き刃の刺客が纏わりつくようにして取り付くとその手に持つ短刀をエインヘリヤルの胸に突き刺した。

死を宿した刃が、エインヘリヤルの霊体を蝕む。僅かな抵抗の後、双剣のエインヘリヤルはその姿を消失させた。

その死を確認すると死の刃はすぐさま背後へと死の斬撃を浴びせかける。死のルーンの力が乗せられた斬撃が向かう先には、此方へと弓を射かけんと構えていたエインヘリヤル。突然の攻撃に、僅かに狼狽するも、回避を試みる。しかし、そこを古竜の騎士が雷の槍で貫いた。回避を妨害され、雷と死の一撃をその身に受ける。弓兵のエインヘリヤルもまた、その身体を維持できずに消失する。

 

「何ですかこれは…!?一体何が起きて……!?」

 

狼狽する天使の一人へと人蝿達が群がる。それは、女性と蟲を歪に融合させたような異形の姿であった。それに気づいた天使が抵抗しようとするも、数に押されて押し倒される。そして、その顔へと人蠅達は毒液を吐きかけた。

 

「や、やめなさい……!こんな死に方、そんな…!?」

 

神によって、限りなくその意思を薄められて造られた彼女達にも心はある。自身の最期がこのように終わる事に彼女は強い忌避感を抱くも、抵抗虚しく、痙攣した後、動かなくなった。

そして、人蠅の羽音を耳にして、かぼちゃのような兜を被った大男が狂乱する。地面に己の頭を何度も打ち付け、手に持った連接棍を振り回す。狙いも何も無いそれは、運悪く近くで戦っていた天使を打ち据え、絶命させる。

 

あちこちで遺灰達と神獣、天使の戦闘が繰り広げられる中で、褪せ人は状況を分析する。現状は拮抗状態にあった。遺灰達は次々と天使とエインヘリヤルを撃破しているが、エインヘリヤルもまた、神獣に相応しい力を持つ存在。

こうしている間にも、エインヘリヤルが斧を振るい、結晶人の、硬い身体を打ち砕く。槍のエインヘリヤルが、その神速とも言える槍捌きで火の騎士を相手に渡り合っていた。何より、打ち倒した傍から扉の奥より新たなエインヘリヤルが補充されていく。千日手であった。

 

褪せ人はその様子を見ながら、エインヘリヤルとは、あの扉こそが本体であると推測する。明らかに扉周りの防衛が厚い。試しにと祈祷で扉へと攻撃を試みると、強い反応を示したのだ。

それならば、遺灰達を一斉に扉へとけしかければ事は容易いのだが、そうもいかなかった。エインヘリヤルの抵抗が激しいのも理由の一つ。しかし、何よりも褪せ人は遺灰達の行動を自由に指示することは出来ないのだ。

遺灰達は、褪せ人の召喚に応じ、敵対者へと立ち向かってはくれるが、あくまでそれは彼らの意思、戦術、あるいは本能、生態に縛られる。極一部、己の意を汲んで戦ってくれる者達も居るが、基本的には、褪せ人の命令を柔軟にこなすようにはできていない。

仮に、命令できたとしてもこの戦場の中で褪せ人が的確に彼らへ指示できたかも怪しいものだが、王子達のようにはいかぬものだと褪せ人は内心で独り言ちる。

 

とはいえ、扉に対して攻撃の意思をちらつかせている限り、エインヘリヤルがこの場から離れることは無い。この戦場で、唯一戦況を把握できる褪せ人は、的確に支援型のエインヘリヤルと天使達を処理していきながら、霊喚びの鈴を鳴らす。鈴の音が響き、エインヘリヤル達によって滅ぼされた遺灰達は再度戦場へと召喚される。

この森の中にいる間、遺灰達を喚ぶ事に何の制限もなくなっていた。あるいは、この地に眠る英霊達が力を貸してくれているのかもしれない。本来必要なはずの魔力や体力を、肩代わりされているようだった。

 

褪せ人が再び、鈴を鳴らす。そして、地上に一滴の雫が垂らされた。その雫は徐々に形を変え、一つの人型を成す。それは、褪せ人と全く同じ姿の霊体と化した。手に持つ武器、それは神の遺剣。

黄金の光が戦場のエインヘリヤルと天使達を飲み込んでいく。それは、永遠の都が、王を創らんとした遺物。ドッペルゲンガーが再現できなかったその黄金の力すら己が物にする。

 

「ありえない……こんなことが……!」

 

大天使長より今回のエインヘリヤル解放の指揮官を任された天使は、想定外の状況に混乱する。

情報はあった。彼が我らが神の、その妹神より召喚されし戦士。その力が魔王の影程度なら容易く屠る実力者であるとは聞いていた。だが、神獣を相手に拮抗状態に持ち込める存在など、あってはならない。それが許されるのは、それこそ神に連なる者達だけだろう。

 

「力を持ちすぎるものはすべてを壊す……」

 

天使の意識下に神の命が下る。人類の滅亡という神の目的とは別に、あれは秩序を破壊するものだ。それが仮に、極めて限定的な状況下で実現していようが関係はない。力を持ちすぎたものを、神の意志は認めない。

 

「貴方はここで抹消する。『神』はそう判断しました」

 

ここに神は、明確に目の前の存在を敵と見定めた。取るに足らぬと、ただ不快な羽虫の一匹から、この世界から消去すべき『例外』へと認識を改めたのだ。

 

「この世界に、貴方は不要です……!消えなさい、『イレギュラー』……!」

 

エインヘリヤルと天使達の攻勢が激しさを増す。それを前にして、褪せ人もまた、武器を構え直した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、エインヘリヤル討伐作戦。その概要を説明します」

 

王国へ帰還した王子は、すぐさま神獣エインヘリヤルの出現を伝達。動ける部隊をすぐさま動員するように呼び掛けた。驚くべき速さで兵達が招集され、部隊が編成される。この驚異的なフットワークの軽さこそが、各地を魔物から解放していった王国軍の強さ、その最たるものの一つだろう。

眼鏡をかけたブロンドの女兵士、王国の戦術教官であるケイティが部隊長達へと概要を説明する。

 

「現在、エインヘリヤルは出現が確認された聖なる森から動いていません」

 

「どういう事だ?伝承によると、エインヘリヤルは英霊達を無尽蔵に召喚する神獣。すぐに英霊達で溢れかえり、進軍を開始するのではないか?」

 

ケイティの言葉に、王国へと合流を果たしたレシアが疑問を投げかける。最後に見たエインヘリヤルの圧力、間違いなく完全に復活を果たしていた。伝承が事実なら、既に被害が出ていてもおかしくはないはずだが。

 

「今、褪せ人が足止めを行っている。恐らくはそのおかげだろう」

 

「褪せ人…というと王子殿下と共に居た彼か?確かに只者ではないと思っていたが、いくら何でもそれは……」

 

王子の言葉に、俄かに信じられないとレシアは首を振る。確かに暗黒騎士団を相手にした彼は尋常ならざる強さを誇っていた。だが、無尽蔵に湧き続けるエインヘリヤルを相手にたった一人でなどと、そんなことが出来ようはずがなかった。

 

「そうだな。だが、どういう手段を用いているのか分からないがこうして結果が出ている。あの男がやるといった以上、今この状況を成したのはあの男だと、俺はそう確信している」

 

王子の認識としても、褪せ人の強さが文字通り個人として隔絶してはいても、エインヘリヤルという英雄の軍勢に太刀打ちできるとは考えにくいと、そう思ってはいた。だが、あの男の有無を言わさぬその姿に、賭けたのだ。そして今、あの男の言葉通りに時間稼ぎは成し遂げられた。ならば、次は己達の番だろう。

 

「で、でも褪せ人様でもいつまで保つか……助けに行かないと!」

 

イリスの焦った声に、王子がケイティへと視線を向ける。そして、再び作戦の概要の説明を再開する。

 

「はい、しかしエインヘリヤルもまた、スフィンクス、ベヒモスと同様に『神の威光』を備えています。そのため、大群で攻め入っては強制転移で部隊は瓦解し、討伐は叶いません。ですので、部隊を分け、波状攻撃を仕掛けます。『神の威光』発動を確認次第、次の部隊を突入させます」

 

エインヘリヤルの持つ『神の威光』、それへの対策は過去の神獣達と同じ。複数の部隊に分け、波状攻撃によって攻め落とす。王国軍の豊富な人材から成せる力技であった。

 

「問題は、『神の威光』が発動し、次の部隊が戦場につくまでの間、王子が取り残されてしまう事ですが……」

 

「今回は問題ないだろう。あいつが居る。不味いと思ったら撤退するさ」

 

前回までは『神の威光』の発動に先駆けて王子は撤退、そして再出撃を繰り返した。神獣戦において、ただ一人その波状攻撃の全てに参加していたのである。そして、それは今回も。加えて今回は撤退すら不要だろうと考えていた。

 

「はぁ……あくまで前線に出るというのですね。言っても聞かないでしょうし、分かりました。危険だと判断したら無理はなさらないよう、お願いいたします」

 

「ありがとう。……じゃあ、皆、『大総力戦』だ。皆の力を貸してくれ」

 

王子の言葉に力強い返事が返ってくる。そして、各々が配置につき、第一陣が出撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一陣が到着した時、その戦場を見て、起きている事を理解できた者は居ないだろう。混沌を極めた戦場を前に、呆気に取られる。

 

「アイツのやる事だからもう驚くまいと思っていたが、これは…」

 

青白い、統一感のないシルエットの霊体達が天使とエインヘリヤルを相手に戦っていた。その霊体達も千差万別。一目で只者では無いと分かる圧力を放つ英雄然としたものからゴブリン達とそう変わらないだろう異形まで、ありとあらゆる霊体達が戦場を駆けていた。

右を見れば、首のない騎士がエインヘリヤルをその槍で貫き、また別のエインヘリヤルがその双剣を以て霊体の兵士達を一掃する。その戦場を大型のネズミが何をするでもなくチョロチョロと走り回る。

左を見れば、褪せ人の持つものと同じ黒鉄の大槌と盾を振るい、槍のエインヘリヤルと渡り合う騎士。そしてその脇で何をするでもなく腐った死体が歩いていた。

 

「せ、聖なる森が…!」

 

余りの混沌とした様相にレシアが呻き声を上げる。静かで神聖な空気に包まれた英霊達の眠る聖域は、今や戦士と怪物のひしめく混沌の森と化していた。

 

「聖、なる…?」

 

「魔界でしょこれ」

 

「一緒にするな。魔界の方がマシだ」

 

「ぐ…うぐぐ…」

 

背後で好き勝手に物言う王国軍の面々に物申したい気持ちが大いにあったが、他ならぬレシアが認めてしまっていた。助けて貰っている手前、文句は言いたくない、言いたくないのだが…。

 

混沌の戦場を眺める王国軍の前に、一人の霊体が向かって来る。それは狼に跨った、鎖帷子の鎧を纏った女であった。おおよそ味方だろうと判断していても、突然の接近に王国軍は僅かに警戒を示す。その中で王子だけが前へ出て、女へと口を開いた。

 

「味方だと、そう思って良いんだな?」

 

その質問に、女は言葉を返さない。代わりに無言で戦場の一角を指差した。そこは、この戦場にあって最も多くのエインヘリヤルと霊体が集まり、激しい攻防が繰り広げられている場所。

 

「あそこに居るんだな、アイツは」

 

その言葉に、頷きを返すと女はついてこいとばかりに身を翻す。そして、戦場へと狼を走らせようとした、その時である。

 

「——待ってください!」

 

女の背にイリスが声を掛ける。女は振り向くと、言葉の続きを促した。

 

「私も連れていってください。あの人、きっとまた無茶しているでしょうから」

 

その言葉を聞くと、霊体の顔が微笑んだような気がした。そして、女はゆっくりと背を向け、狼を座らせる。背中に乗れと、そう言葉なく言っている気がした。

 

「よし、皆、準備は良いな」

 

王子の言葉に、全員が力強い返答を返す。褪せ人の稼いだ時間、それを無駄にする訳には行かない。今なお最も激しい戦場で戦うその男を救うべく、王国軍はエインヘリヤルへと突撃を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

エインヘリヤルの一体が双剣を振るう。その双剣を大盾で防ぎ、弾かれ体勢を崩した相手へと黒鉄の大槌のカウンターが放たれる。双剣のエインヘリヤルが消失するのを待つ事なく槍のエインヘリヤルが褪せ人へと槍を突き出す。その槍を身を捩り回避しようとするも、僅かにその身を傷つけた。

そして、間髪入れずに追撃が放たれる。そして横合いから弓の援護。褪せ人は矢を避ける事を諦め、槍の一撃を盾で防ぐ。肩に英霊の矢が突き刺さる。その痛みを無視して褪せ人は奇跡を発動した。僅かな溜めと共に、黄金の衝撃波が褪せ人を中心に放たれる。それは、褪せ人を取り囲んでいたエインヘリヤル達を纏めて吹き飛ばした。しかし、一掃してなお次の英霊達が褪せ人へと迫り来る。

 

「諦めなさい。最早、貴方に生き残る術などありはしないのです」

 

上空から見下ろし、そう告げる天使の声を無視して褪せ人は戦闘を続ける。無数のエインヘリヤルからの攻撃を躱し、防ぎ、反撃をする。しかし、多勢に無勢と言う他無かった。少しずつ被弾が増え、褪せ人が血を流していく。

エインヘリヤル達は、霊体を喚び出している褪せ人へと集中攻撃を開始した。召喚主を倒せば、霊体は消失する。ある意味でエインヘリヤル達と同様であった。扉が壊されるか、褪せ人が斃れるか、そのどちらかの勝負。そして今、この状況は褪せ人が押されていると言わざるを得ない。

エインヘリヤルはその全てが神獣の分身体。霊体同士の連携は、相手の方が上手であった。

 

「諦めなさい。貴方一人が足掻いたところで、人の滅びは避けられない」

 

「それは、私が足を止める理由にはならない」

 

褪せ人が天使へと反論する。己はただ、成すべき事を成すだけなのだ。避けられぬ滅びだなどと、知った事ではない。この身が動かなくなるまで、前へ進むのだとそう決めていた。

 

「……やはり、貴方は危険です。『例外』である貴方はここで消去します」

 

褪せ人がエインヘリヤル達を前に武器を構える。その意思は未だ折れる事を知らなかった。褪せ人へとトドメを刺そうとエインヘリヤル達が迫り来る。

——魔力の矢が、エインヘリヤル達を貫いた。

突然の攻撃に狼狽えるエインヘリヤル、その隙を王子は見逃さなかった。牙槌を振りかぶりながら褪せ人とエインヘリヤルの間へ割って入ると、地面へと叩きつける。衝撃波がエインヘリヤルを飲み込み、その霊体の身体を消失させた。

 

「無事か、褪せ人」

 

「問題ない」

 

「ふっ、結構ヤバかった癖によく言う」

 

遅れて狼に跨った女、しろがねのラティナとイリスが褪せ人と王子のもとへと辿り着く。間髪入れずにイリスの奇跡が褪せ人の身体を癒していく。

 

「王国軍…!?馬鹿な、早過ぎる…!」

 

「それが王国の良いところだからな」

 

王子が撤退してから軍の編成、ここに戻ってくるまでのスピードが余りにも早過ぎる。どのような手筈を用いたのか。王子に言わせれば、この程度日常茶飯事。これくらいでないと世界を救うなどと言ってられないと得意げに言ってのける。

 

傾きかけていた天秤が、再び戻される。エインヘリヤルと天使を前に、褪せ人と霊体達、そして王国軍による第二戦が始まろうとしていた。




ケラウノス「何てもん呼び出してんだ!ふざけんな!」

アイギス「知らん…何それ…怖…」

大体こんな感じです。
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