今ひとたび、英雄たらんことを   作:blue man

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今更ですが、アイギスはゲーム版をベースにしてます。
それはそれとして、実装時期や顔出しイベントを守ってるといつまでたっても好きなキャラが出せないので無視できそうなものは意図的に無視してます。
ご容赦ください。


雷光の魔剣士

褪せ人一行が再び神殿へと歩を進め、しばらくの時が経っていた。

 

森の中を歩く褪せ人達の隊列は整然と組まれていた。

先頭にはイリス、その後ろには褪せ人が続き、非戦闘員を挟んで、最後尾にレアンが位置する。

褪せ人は終始沈黙を守り、周囲の者も疲れと、緊張からか言葉数は少ない。

その空気は重く、気まずい道中となっていた。

 

しかし、その緊張とは裏腹に先の逃避行とはうってかわり、魔物の遭遇のない、穏やかな道のりが続く。

 

「見えました!あそこです!」

 

森へ抜け、しばらくのそのイリスの声に一同の視線が指の指し示す先へと集中する。

褪せ人もまた、その先を見る。

 

石造の古い建物が見えた。

恐らくはそこが、アイギス神殿なのだろう。

イリスの声も、安堵からか幾らか弾んでいるように聞こえた。

 

「どうやら、他にも人が居るようです。

行ってみましょう」

 

イリスの言葉に、一同の表情が僅かに緩む。

人がいる、少なくともその事実が、彼らを安堵させた。

イリスは神殿の方へ歩みを進める。

褪せ人達もそれに続いた。

 

神殿内は、予想以上に人々で溢れていた。

一時的な避難所として機能し始めているようで、逃げ延びた神官や兵士たちが、黙々と物資を運び込んでいる。

他の村や街から辿り着いただろう避難民たちの表情は暗く、不安の影が色濃く残っていた。

その人々の流れの中で、イリスの目が入口にいる一人の神官を捉える。

彼女の表情が、僅かに和らぐ。

 

「あぁ!イリス様!ご無事で何よりです!

王都へ行ったと聞いた時はもうお会いできないものかと…」

 

神官の声に、安堵と喜びが溢れる。

その反応に、イリスが聖女として如何に大切にされてきたかが如実に表れていた。

 

「孤児院の子ども達を連れ、何とか逃げて参りました。この方達が居なければ、私達も魔物の手にかかっていたでしょう」

 

イリスの言葉に、神官の視線が褪せ人とレアンへと向けられる。

その目には、感謝の念が見て取れた。

 

「イリス様を、子供達を救っていただき感謝致します。道中、お疲れかと思います。部屋を空けて参ります、どうぞそちらでお休みになってください」

 

その言葉に、一行は安堵の息をつく。

しかし、褪せ人が突如として足を止める。

 

「褪せ人殿…?」

 

レアンが訝しげにそちらを見る。

褪せ人はなにも言わず、遥か遠くに見える森の入口を見つめていた。

そのスリット越しの眼差しが、何か異質なものを捉えていた。

レアンもまた、警戒を強める。

目の前の男が、無意味な事に時間は割くまい。

短い付き合いではあるが、その程度には褪せ人について理解を示していた。

神官は、その場の空気の変化に戸惑いを隠せない。

 

そして、直にそれは訪れた。

森の奥、深い闇が漏れ出るようにして、それらが現れる。

 

魔物の大群が、こちらへと押し寄せてきたのだ。

 

「なっ!?魔物だと!?」

 

レアンが思わずといったように声を上げる。

 

魔物達は、まっすぐにこちらを目指しているようだった。

その進軍には躊躇いはない。

 

「そんな…どうして…」

 

イリスもまた、目の前の光景に声を震わせる。

ようやくたどり着いた安息の地。

その安息の地がまた、魔物達によって蹂躙されようとしていた。

 

褪せ人が、無言で神殿の外へと向かう。

 

「待て、あの数を迎え撃つつもりか?」

「それしかあるまい」

 

焦りの混じった声にそう短く返す褪せ人。その姿に動揺の気配はない。

レアンが僅かに躊躇い、しかし決意を固める。

 

「…ならば、私も戦おう。貴方の言うように、逃げ場はないんだ。

壊れた鎧とて、無いよりはマシだろう。」

 

そう言って、レアンもまた剣を構え、前を見つめた。

背後には戦えない者たちが数多くいる。

王国の兵士として、それを見捨てる選択肢はありはしなかった。

 

 

 

 

 

 

「お困りのようですな」

 

 

戦いに臨まんと歩みを進める二人に突如としてそんな声がかかる。

レアンが、その声の方へと振り向いた。

 

「神官戦士ニコラウス、信仰と鋼の肉体を以て今、助太刀致しますぞ!」

 

筋肉の鎧を纏った巨漢の神官兵が、そう力強く宣言した。

 

「貴方は…」

「だっはっは!流れの神官兵よ!

立ち寄った村が魔物に襲われましてな。村の者たちを連れて、こうしてアイギス神殿にまで避難しておったのです」

 

レアンの声に豪快に笑いながら答える。

ニコラウスは禿げ上がった形のいい頭をなでながら近づいてきた。

 

「すると、貴方達がやってきて、あろうことかたった二人で立ち向かおうとしているではありませんか!これはワシとしても助太刀せんといきますまい!」

 

そういうと、二人に並びたつ。

ニコラウスの言葉にレアンの表情が和らいだ。

 

「ニコラウス殿、助太刀に感謝する。

…イリス様、どうか民達に神殿の奥へと隠れるようご指示願います。貴方のお言葉であれば、民達も混乱せず従ってくれるはずです」

 

「は、はい!皆さん、どうか、ご無事で…」

 

そう言うとイリスは神官を伴って神殿の奥へと走り去っていった。

 

「これはまた、壮観ですなぁ」

 

魔物の群れはゴブリンを中心として構成されているようだった。醜い声が不協和音を奏で、近づいてくる。

そんな大軍を前に感心したように声を上げるニコラウスの横で、褪せ人が武器を構える

その手には常の大槌ではなく、大剣が握られていた。

 

それは、大剣というにはあまりに異質であった。

一本の黄金の角に、幾本の逆棘がまるで蔓のように巻き付いている。

所々が血が付着したように赤みがかったそれは、見るものに戦慄を覚えさせた。

 

「その剣は…」

「正面から行かせてもらう」

 

思わずといった声でレアンがこぼした疑問には応えず、淡々とした調子で続ける。

 

「それしか能がない」

 

そういって大軍の中へと飛び込んでいった。

 

「だっはっは!剛毅なものですな、彼は!

さて、レアン殿でしたかな。我々は神殿の前で彼の討ち漏らしを処理いたしましょう。

幸いにして、神殿の入口は此処のみ、彼のお手並み拝見といったところですな!」

 

そういってメイスを構えるニコラウスに同意を示し、レアンもまた、剣を構えた。

 

 

褪せ人が殺到するゴブリンの群れの中へと消える。

走る勢いをそのままに群れの中へと跳躍し、手に持った劫罰の大剣を突き立てる。

そして、突き立てられた大剣をさらに深く押し込んだ。

右手の柄越しに、刀身が脈動するのを感じる。

刀身の逆棘が、地中を蠢き、魔物達を突き上げた。

次々と串刺しになる魔物達の血で大地が赤く染まる。

 

大剣を引き抜きながら、即座に褪せ人が祈祷を発動、左手に光が収束し、光輪が形を成す。

その手を褪せ人が振るうと、光輪が射出された。

それは、三方へと進み、魔物達を次々と引き割いていく。

 

再び大剣を振るい、魔物をなぎ倒しながら、前へと進む。

まるで、それは死の川であった。

 

「これは…なんとも、凄まじいお方じゃな」

 

神殿に迫る、ごくわずかな生き残りたちを殴りつけながらニコラウスが呟く。

その声に感嘆と、わずかな畏怖が混じっていた。

 

褪せ人の殺戮を前に、しかし本来は臆病なはずの魔物達の勢いが衰えることは無い。

まるで何かに追い立てられるようにして、神殿を目指していた。

 

そして、その違和感の正体はすぐに明らかになった。

森の奥、咆哮が聞こえる。

地響きを立て、木々をなぎ倒しながら、それは姿を現した。

 

先のバフォメットを凌ぐ巨体、鎧の隙間からは隆起した筋肉が垣間見え、威嚇するように大斧を振り回すたびに脈動する。

 

ミノタウロス。

かつてそう呼ばれた魔物が褪せ人に向かって迫っていた。

 

ミノタウロスの大斧が、空気を切り裂く音を立てて振り下ろされる。

褪せ人は大盾を構え、その一撃を受け止めた。

重装の褪せ人を、ミノタウロスがその膂力をもって吹き飛ばす。

吹き飛ばされた褪せ人は空中で体勢を整え、着地すると迫り来るゴブリンを薙ぎ払った。

 

付近の魔物を薙ぎ払いながら、褪せ人が現状を分析する。

現れた大型の魔物、恐らくは魔物が退くことができない要因はこれにあるのだろう。

その膂力は脅威ではあるが、これだけなら恐らくはどうとでもなる。

ただ力任せに暴れる魔物、その程度に遅れを取るつもりは毛頭なかった。

しかし、今回の目的は防衛戦である。

神殿へと殺到する魔物を処理しながらとなると現状は厳しいと言わざるを得なかった。

 

こうして、ミノタウロスと対峙している間にも、魔物が褪せ人より後方に抜け、神殿へ殺到している。

レアンとニコラウスが応戦するが、範囲攻撃に乏しいらしい二人には迫りくるそれらへの対処が難しいと言わざるをえない。

いずれ限界が来るのは見えていた。

 

――出し惜しみは下策、目の前のアレを素早く処理する必要がある。

 

多少のダメージは覚悟の上で討滅を急ぐ必要がある。

褪せ人がそう考え、前へ出る。

 

その時であった。

 

「――君の声を聞いた」

 

突如として飛来する雷光の刃が、魔物達を両断する。

 

「数多迫る魔物を前に退かず、強大な魔物を前になお、戦い続けんとする君の声を聞いた」

 

その声の主が、軽やかに跳躍し、褪せ人の前へ躍りでる。

 

「さぁ、雷光の剣たる僕をよべ!」

 

「僕こそが、夜闇を引き裂く雷光!タラニアだ!!」

 

一人の少女が、栗色の髪をたなびかせながら、褪せ人に向かってポーズを決めながらそう高らかに名乗りを上げた。

 

 

――また、妙なのが出てきたな。

先のニコラウスもそうだったが、この国では名乗りを上げるのが礼儀なのだろうか。

 

狭間の地にも、無くはない文化ではある。

しかし、口上はこれほど長くもなければ、妙な構えも必要ない。

 

褪せ人が、少女に対し特に反応を示さないでいると、何を勘違いをしたのか弁明を始めた。

 

「んん!君の言いたいことは分かるとも!『今は昼なのに夜闇を引き裂くとはどういうことだ?』だろう?

だって仕方ないじゃないか!昼に使う口上はまだ考え中――」

 

背後でミノタウロスの咆哮が聞こえる。

突然の乱入者に手を止めていたが、限界のようだった。

 

「そんな事言っている場合ではなかったな!君、後ろの雑魚は僕に任せろ。

遺憾だが、このステージの主役は君に譲るとしよう!」

 

そういって、少女は素早く褪せ人の背後へ駆けていくと、剣を振るい魔物へと躍りかかった。

雷光の斬撃が、次々と魔物達を屠っていく。

 

ふざけた言動ではあったが、その身のこなしといい実力は本物のようであった。

 

これならば、彼女の言うように目前の魔物に集中して構わないだろう。

 

褪せ人がミノタウロスに意識を集中させる。

 

邪魔者がいなくなり、再びの闘争の気配にミノタウロスがその闘志を募らせる。

大股で、一息に接近、大斧を振り下ろした。

 

褪せ人はそれをローリングで躱す。

そして隙だらけの脚部を斬りつけた。

しかし、ミノタウロスの足甲に阻まれる。

それでも、劫罰の大剣の持つ聖性は魔物の身体を焼いた。

 

ミノタウロスが苦悶の声を上げ、褪せ人を引きはがすように暴れまわる。

褪せ人もまた、巻き込まれないよう、距離を置いた。

 

褪せ人は相手の状態を観察する。

ダメージ自体は与えられているようだが、相手はいまだ健在。

このまま続ければ勝てるだろうが、それはあまりにも時間がかかりすぎる。

 

――金属鎧。であれば、これは辛かろう。

 

褪せ人が祈祷を発動。左手に雷の槍を生成し、投擲する。

しかし、それだけでは終わらなかった。再び褪せ人の周囲に複数の紋章が浮かび上がり、再度雷撃が射出される。

騎士の雷槍。雷の槍の上位に位置する祈祷であった。

 

果たして、ミノタウロスに突き刺さった雷撃は、褪せ人の想像通りの結果をもたらした。

ミノタウロスの全身に、雷が走り、その巨体を痙攣させる。

 

その硬直を、見逃さなかった。

 

劫罰の大剣。その剣の真価は範囲攻撃にあらず。

跳躍した褪せ人が、今なお痙攣するミノタウロス、その脳天に剣を突き立てる。

その刀身が脈動し逆棘が体内で開かれ、ミノタウロスの肉体を蹂躙した。

肉を貫き、そしてその臓腑を焼く。

そして、体内から勢いよく逆棘が飛び出した。

地面に大量の血が流れる。

物言わぬ肉塊と化したミノタウロスは、褪せ人がその剣を引き抜くと、支えを失い、倒れ伏した。

 

周囲には魔物の気配はない。

先の少女と、神殿前の二人が殲滅したようだった。

 

「見事な戦いだったよ君!特にあの雷の槍!あれは中々…僕ほどではないがカッコよかったよ!

でも、あの剣を振るうのは少し控えた方がいい!ちょっと怖い」

 

そんなことを言いながら近づいてくる少女をどうやり過ごしたものかと考える。

 

しかし、その必要は無いようであった。

森の奥から、再び魔物が湧き出てくる。

 

「おいおい…増援かい?流石に芸が無いと言わざるを得ないね」

 

それに気付いたタラニアが僅かに焦りの混じった軽口とともに再び臨戦態勢をとる。

再度アイギス神殿へと殺到するそれに、褪せ人もまた足を向けた。

 

「総員、突撃ぃぃ!」

 

突如、背後から声が聞こえる。

森の奥、魔物が沸き立つ場所とは別の方角から、鎧の響きとともに兵士が殺到し、魔物達と激突する。

 

魔物たちと兵士たちが入り乱れ、剣戟の音が響き渡る。

 

「すまない、よく戦ってくれた。

後は、俺たちに任せてほしい」

 

混沌とした戦場を縫うようにして、一人の男が馬上から褪せ人に近づいてきた。

 

その男の姿は、一見すれば他の兵士と変わらぬ質素なものだった。

装飾を排した鎧と剣。しかし、その佇まいには言い知れぬ気高さが漂っている。

 

後に英雄王と呼ばれることになる王国の王子その人であった。

 

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