今ひとたび、英雄たらんことを   作:blue man

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覚醒とかその辺りは大分ふわふわ設定で書いております


ダークエルフの女王

 

「さーて、どうしたもんかねこれは……」

 

ダークエルフの魔術師、ネヴィンは今、決断を迫られていた。

その理由は目下、デーモン達が支配する、否、支配していた奴隷地区に現れた謎の集団。

奴隷地区を襲う集団が居る。そんな報告を受けて来てみれば、目を疑うような光景が待っていた。

種族も、装備も統一性はまるで無い寄せ集めのような彼女達は、しかし突如として奴隷地区を襲撃すると、瞬く間に制圧。そればかりかデーモン達を一人残らず殲滅してしまった。

 

「間違いなくアイツらは協力者たり得る。だが……」

 

彼がダークエルフの女王から下された命。それは、レヴィアタンの復活を阻止すべく協力者を集めること。

奴隷地区のデーモンなどどうでも良い。寧ろ忌々しいこの地区が無くなること自体は歓迎すべき出来事だろう。

この地区を襲うということは、レヴィアタン派のデーモンの敵対者。彼女達の中にもデーモンは居るが、それ自体は不思議ではない。レヴィアタンが復活する事を快く思わないデーモンも少なからず居る。

 

故に、圧倒的な力を誇る彼女達を協力者に引き込めれば、レヴィアタン復活阻止へと大きく近づく。やらない手は無いのだ。

それでも、ネヴィンが一歩踏み出せない理由は、ただ一つであった。

 

「怖すぎるんだよなぁ……!!」

 

とにかく怖い。それに尽きた。

ネヴィンの心からの叫びに、配下のダークエルフ達も言葉無く同意した。

彼らは必要とあれば、実力を測るために襲撃する事も視野に入れていた。心底嫌悪する奴隷地区のデーモンであったが、あの集団の力を見るための犠牲になってくれた事だけは感謝しても良い。そんな事を考えていた。もしも、試す目的であの一団を襲撃していたなら、果たしてどうなっていたか、想像したくもなかった。

 

そして、一際強烈なのはそんな一団を率いた鎧の男。

魔将と竜人を率いて、異形の剣を振るうその男は、どこまでも得体が知れなかった。何故、力ある竜人とデーモンが大人しく付き従っているのか。それは一目見れば分かった。単純に、強いのだ。あの集団にあって、あの人間は埋もれるどころか抜きん出ている。あれを、人間と称していいのかは議論の余地があるだろうが。

あの剣が自分に向けられたらと思うと、怖気が走った。デーモンを相手に、まるで作業のように淡々とあの剣を突き立てていく様に、ダークエルフ達も、遠目からその様を見て、心底恐怖した。

 

「ドロテア様、絶対『謁見』なされるよなぁ……」

 

仮に、協力者としてダークエルフの住まう魔界都市まで連れて行ったとして、心配事はまだあった。それは、女王への『謁見』である。

ダークエルフの女王、ドロテアとの『謁見』とは、物質界の者達の考えるそれとは、大きく異なる。言わば、魔界流と呼べる行為。

つまりは、女王自らがその力を試すべく兵を率いて、戦うのである。

そんな魔界流の『謁見』が、あの恐ろしい集団に行われればどうなるか。当然、えらいことになる。レヴィアタンによる世界崩壊より先にダークエルフが崩壊しかねない。

 

「アイツら説得して、それからドロテア様との『謁見』を何とか穏便なものにしねぇと……!」

 

胃がキリキリと痛むのを感じながら、いつもより重い足取りで、ネヴィンは元奴隷地区へと歩みを進めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「王国本隊への報告は完了。ここの者達は、王国にて全員保護するとの事です」

 

「あの男なら、そう言うのだろうな」

 

ハルモニアからの報告を受け、褪せ人は頷く。

奴隷地区のデーモンを全て殺し尽くし、先遣隊はひとまず奴隷として捕えられた者達を一箇所に集め、王国本隊の決定を待つこととした。

その結果は分かりきっていたとはいえ、王国は彼らを保護するようだった。

 

「本日はここで休息を取り、明日の朝出発にするのがよろしいかと」

 

「良いだろう。今日はここで一夜明かす。全員に伝えておいてくれ」

 

「承知致しました」

 

奴隷達の居た区画は劣悪極まりなかったが、デーモン達の住まうところは、整った設備を有していた。であれば、ここで一先ずは体を休めるのが良いだろう。ハルモニアの進言に、特に否定する理由は無かった。

 

「あっ、じゃあさ、デーモン達が溜め込んでた食料。ここの人達に振る舞っちゃって良いかな?」

 

「好きにしろ」

 

シェイドの言葉に、褪せ人が了承を示す。食料の備蓄自体は十分にある。嵩張る為、持っていくわけにもいかないだろう。腐らせるよりは余程良い。

 

「ありがと、じゃあ厨房行ってくるね」

 

「私も手伝おう。大人数だし、力仕事なら任せてくれ」

 

「私も、手伝うわ」

 

厨房に向かうシェイドを手伝おうと、リキュノスとソシエが後を追う。

手伝おうかと考えたが、鎧の男が厨房で出来ることなどそう無いだろう。デーモンに攫われた者達が手伝いを進み出ているのを見て、褪せ人は武具の手入れを始めた。

 

「あのっ!」

 

手入れを始めて、幾らもしない内に、褪せ人へと声を掛ける者がいた。声の主に意識を向ければ、そこには、デーモンによって虐げられていた踊り子の少女、シャルキーが、緊張した面持ちで立っていた。

 

「怖がってしまって、ごめんなさいっ!」

 

そう言うと、シャルキーは深々と頭を下げた。気にしていないと言えば、嘘になるが、それも無理からぬ事だとは理解している。わざわざ謝罪を受けるようなものではない。

 

「所詮、兵士など武装集団に過ぎない。恐怖を抱くのも無理はないだろう、気にすることではない」

 

「ちょっと待って下さい。これ今カラザ達も一緒くたにしてますね?違いますから、怖いのは貴方だけですから」

 

近くで話を聞いていたカラザが、聞き捨てならないとばかりに近寄ってくる。

 

「この部隊に居ると、風評被害が凄まじいです。カラザ達竜人組は、断固として無実を主張します」

 

カラザは単にチヤホヤされたいだけで、別に畏怖されたい訳ではない。真っ当に奴隷解放に尽力したのに、これでは堪らないと強く主張した。

 

「待て、それなら私達デーモン組だって……」

 

「デーモン組はそこの白いのを何とかしてください!」

 

デーモン組とてまともであると、そう主張しようとしたラピスに、カラザはまずアブグルントを何とかしろと指差した。

 

「ふふっ」

 

そこに居たのは、先の戦闘より機嫌が急上昇中のアブグルントであった。何が楽しいのか、笑顔で遠目から此方を見ているそれは、事情を知らなければ可愛らしい少女にしか見えないだろう。だが、そんな彼女に近づく者は居ない。今浮かべている笑顔と同じ表情で、彼女が鼻歌混じりに同胞を殺し歩く姿を多くの者が目撃していた。話しかけようとする者は居るはずもない。

 

「……今回は勘弁してやる」

 

それを見て、渋々といったようにラピスは引き下がった。彼女が己の主張を曲げる程度には、あれの性格矯正など不可能であると、知っていたからだ。

 

「ええと、その……」

 

「まぁ、色々割って入ってしまいましたが、彼の言うように気にする必要はないですよ」

 

突然のやり取りに困惑気味なシャルキーに、ハルモニアが優しげに答えを返す。それを受けて、シャルキーは元気よく褪せ人達に声を上げた。

 

「助けていただき、ありがとうございました!物質界に戻ったら、シャルちゃんの踊りを見に来てください!私に返せるものは何もありませんが、精一杯皆さんの為の踊りを披露しますから!」

 

そう言うと、彼女は背を向けて走り去っていく。聞けば、旅の一座に売られ、芸を仕込まれた挙句にデーモンに攫われたのだという。そんな壮絶な経験をしながら、ああも真っ直ぐな心根を持っているのは中々に得難いものだと、褪せ人は思う。

 

暫くして、料理が出来たのだろう。シェイド達が次々と料理を運び込んでくる。随分とデーモン達は贅の限りを尽くしていたようだ。ここの者達に振る舞っても十分に足りる量がテーブルの上に運び込まれてくる。

 

「では、食事にしましょう。食べられる時に食べておいた方が良いでしょうから」

 

ハルモニアの言葉に、褪せ人が手入れを中断する。なんだかんだで、この地での食事には興味が尽きなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばアタシ、さっきの戦闘の後パワーアップしたみたいです」

 

各々が料理に舌鼓を打つ中で、カゴメが唐突にそんなことを言う。パワーアップとは、果たして一体どういう事か。

 

「何というか、前々からなんですけど褪せ人と居ると畏れが凄い集まるんですよねー」

 

「それは……まぁ確かに集まるのだろうね」

 

カゴメの言葉に、トリシャが納得したような声を上げる。

妖怪の力の源とは、人から得られる畏れである。信仰とも恐怖とも取れるそれは、妖怪にとって生命線であり、人を襲い、喰らうのも畏れを得る為に行われるもの。

王国に来て褪せ人と行動を共にする事の多かったカゴメは、各地で依頼をこなす褪せ人に隠れて、王国の民達に畏敬の念を抱かれていた。褪せ人の苛烈な戦い振りが、間接的に彼女へと畏れが集まるようになった部分も少なからずあるが。

そして、先の奴隷解放の戦いにおいて、多くの奴隷達が先遣隊へと畏敬の念を抱いた。蓄積された畏れが、今ここで開花したという事だった。

 

「それで、具体的にどうパワーアップしたんだい?」

 

「私の壁を殴ると皆さんが回復します!」

 

「何で……?」

 

「さぁ……?」

 

その原理は本人もよく分かっていないようだった。しかし、それが本当ならば強力なもの。彼女の壁を壊すのは至難。しかし無理を通して攻撃を加えようものならば、応報の呪いによるカウンターに加え、周囲の仲間の傷すら癒してしまうという。敵にとってみれば、これ程厄介な相手は居ないだろう。これで分身もできるというのだからこと守るという一点において、彼女の右に出るものは王国はおろかこの世界でも一握りしか居ない。

 

「まぁ、よく分かりませんが、頑張るのでドンドン頼って頂ければ!」

 

「後衛の私達にとっては、これほど心強いものもないね」

 

カゴメの背後から魔法を撃つだけでも、十分に対処困難な盤面と化すだろう。彼女の覚醒は、歓迎すべき出来事ではあった。

 

「隊長、少しよろしいでしょうか」

 

「何だ」

 

「ダークエルフの一団が、話をさせてほしいと奴隷地区の入口に」

 

周囲の雑談をよそに食事を続けていた褪せ人に、ハルモニアが近寄り、耳打ちをする。ダークエルフが、コンタクトを取ってきたのだという。

寧ろ好都合だろう。此方から接触する手間が省けた。目的は分からないが、話がしたいという事ならば敵対的な相手ではない。

褪せ人が立ち上がり、シェイドへと声を掛ける。

 

「シェイド、仕事の時間だ」

 

「えぇ〜、まだ食べてるのにぃ」

 

若干、不服そうな顔をしたが、すぐに席を立つ。己の役割自体は分かっているのだろう。軽い調子の目立つ彼女だが、この部隊ではかなり真面目な部類であった。

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、やっぱり来るのはアンタか……」

 

「何……?」

 

「いやいや、こっちの話だ。ちょっとアンタらと話がしたくてな」

 

奴隷地区の入り口、魔術師を思わせるローブを身に纏ったダークエルフの男が居た。此方を見るなり、気落ちしたような表情を見せるが、直ぐに表情を引き締める。

 

「あれ?ネヴィンじゃん、久しぶり〜!何してんの?」

 

「まさか……シェイドか?何だ、お前の知り合いか。助かった、本当に助かったぜ……」

 

どうやら、この男は知り合いらしい。諸々の手間が省けた。相手の方が心底安堵した様子なのは気になったが、彼女を連れてきたのは正解だったらしい。

簡単な自己紹介と、双方の目的の擦り合わせが行われる。

 

「成程ね。アンタらもレヴィアタンをどうにかしたいって腹か。コイツは良い、俺達もまさにそれが目的で動いてたんだ」

 

どうやら、最近になって魔王軍、天使軍がレヴィアタンの体内へと侵入を繰り返しているらしい。幾度となく撃退していたが、遂に防衛網を突破、恐らく心臓に何らかの術式を施したという。

 

「まだ、復活の兆しは無いが、このままじゃ十中八九レヴィアタンは復活する。だが、俺達だけじゃ魔王軍の連中は止められねぇ」

 

「それで、協力者か」

 

既に心臓は敵の手に落ち、復活の準備が進められている。思いの外、猶予は残されていないのかも知れない。

 

「アンタらを、俺達の女王に会わせたい。本隊は後からって話だが、先ずはアンタらだ」

 

「本隊からはたった今先行の許可が降りました。どうされますか?」

 

魔法で本隊と通信していたであろうハルモニアが、此方の判断を伺っていた。許可が出たのならば、否やは無い。

最終的な決定権は王子にある。ダークエルフとの会談そのものは本隊が到着してからになるのは間違いないだろう。

 

「良いだろう。明日の朝出発する。案内を頼む」

 

「あぁ、承知した」

 

予定よりも早く事が運びそうだ。褪せ人はその場を後にすると、明日に備えて、武具の手入れを再開するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔界都市はもう少しだぜ。ちなみにあっちに行くと、あるデーモンの治める小さな領地に着く。タケノコの名産地だからまた今度寄ってみると良い」

 

「その情報要ります?」

 

奴隷地区を後にした先遣隊はネヴィンの観光案内を聞きながら、魔界都市へと向かっていた。案内のおかげか、道中にトラブルは無く、極めて順調な道のりであった。

 

「止まれ、この先は我々ダークエルフの住まう魔界都市。如何なる用でここに来た」

 

「俺だ。協力者を連れてきた。ドロテア様に会わせてくれ」

 

「ネヴィン様でしたか!お待ちください、直ぐに『謁見』の準備を——」

 

ネヴィンの言葉に、警戒を解いたダークエルフの兵士が魔界都市へと向かおうとして、慌ててネヴィンは腕を掴む。

 

「待て待て!良いか、『謁見』は無しだ。物質界流の穏便なやつでいこうぜ、な?」

 

「し、しかしそれではドロテア様が納得——」

 

「——私が、どうかしたか?」

 

果たしてどうやって説得しようかと、ネヴィンが頭を悩ませる暇もなく、魔界都市の門から威厳に溢れた声が響く。そこに立つのは、褐色の肌を惜しげもなく晒し、杖を持つ長髪の女。細くしなやかな身体に、覇気を漲らせたそれは、疑いなく王であると、褪せ人をしてそう思わせた。

 

「ドロテア様!?」

 

「如何にも。ネヴィンよ、そこの者達がお前の推挙する協力者だな?」

 

「え、ええ、その通りです。しかし……」

 

鋭い視線が、先遣隊の者達を射抜く。此方を推し量っているのだろう。隊員達を一人一人に視線を走らせ、最後に、褪せ人へと視線が固定される。

 

「成程、期待以上だ。お前が心配するのも分かる程にな」

 

ドロテアの、ダークエルフの女王として培った眼は、目の前の部隊がダークエルフ等ものともしない程の力の持ち主である事を瞬時に見抜いた。そして、ネヴィンが頭を悩ませている事情も大体は予想がついた。

 

「そうですか、それなら——」

 

「——だが、試さない訳にもいかない」

 

これなら『謁見』は無さそうだと、安堵し、口を開こうとしたネヴィンを、ドロテアは鋭い声で制する。

 

「これは面子の問題である。力を試さず、デーモンを含む他種族を受け入れようものならば、我らダークエルフの中でも不服に思う者が出よう。『謁見』とは、力を試すと同時に、我らダークエルフが同じ方向を向くために必要な儀式である」

 

ダークエルフが皆、ドロテアのような慧眼の持ち主ではない。ただでさえ排他的なダークエルフの民を納得させるには、力を以て証明する事こそが最も確実なのである。ましてや、本来は敵対者であるはずのデーモンも居るのだ。『謁見』は避けられない。

 

「……だが、ネヴィンの懸念も大いに理解できる。故に、少々形式を変えよう」

 

とはいえ、ネヴィンの心配事そのものはドロテアとてわかっていた。ダークエルフが束になっても、この部隊の相手は荷が勝ち過ぎる。故に、より穏便な形にする事自体はドロテアとしても望むところであった。

 

「一騎討ちだ。此方の最強と、其方の最強。その闘いを以て力を証明してみせよ」

 

ドロテアの視線が、褪せ人へと向けられる。出てこいと、言葉なくそう言っていた。褪せ人が前に出て、口を開く。

 

「私が出る。其方は」

 

「——アンブレよ」

 

ドロテアに名を呼ばれ、一人のダークエルフの剣士が前に出る。

 

「一騎打ちにはお前が出よ。お前こそが、今の我らダークエルフにおける『最強』だ」

 

「——はっ!」

 

ドロテアの言葉に、力強い返事で応える女剣士。ダークエルフの頂点として他ならぬ女王が認めた『最強』。それが、彼女であった。

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