今ひとたび、英雄たらんことを   作:blue man

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猟犬

帝国での依頼の後、褪せ人達は帝都へと繰り出した。

依頼による具体的な指示は追って連絡役をよこすのだという。ならば、折角の空き時間を無為に部屋で過ごすのも味気なかった。

あまり目立つなと言われた為に鎧は着ていない。今の己は、帝都に来たばかりの田舎者にしか見えないだろう。

 

カゴメを連れ、街を歩く。ラピスは神殿に用があるとの事で早々に別れてしまった。アブグルントもまた、メフィストのところへ向かったようだ。

 

「ちなみに、次はどこ行こうとしてます?」

 

「アテはない。ただ、見て回るだけだ」

 

現状、明確な目的を持って歩いている訳ではない。強いて言うならば、武器を置いている鍛治工房なのだが、残念ながら己の納得のいくものは無かった。

決して品質が悪いものではない。だが、大国故か発達した鍛治技術は量産に力を入れているようで、規格の統一された、良く言えば信頼性の高い、悪く言えば、面白味に欠けるものでしか無かった。

 

——つまらないものは、それだけで良い武器ではあり得ない。

 

果たして誰が言ったのだったか。褪せ人としても非常に同意できるものだった。

そういう意味では、鍛治職人に関しては王国の方が好みではある。残念ながら、ドワーフの姫君には嫌われてしまったようだが。

 

とはいえ、目的も無く歩いても仕方ない。何か食事でもするべきか。帝都でも評判の店を聞いておけば良かったなどと思いながら雑踏の中、歩みを進める。

 

「アタシは偶にはこうしてブラブラしてても良いんですけどねー」

 

何が楽しいのか、いつも以上に機嫌が良い。

そんな風に、雑踏の中を歩いているとふと、人混みの中で視線を感じた。明確に此方へ向けたそれはほんの僅かの間、圧を放ち、すぐさま消える。此方を試しているのか、随分と器用なことをする。

 

「ついてこい」

 

「んー?」

 

褪せ人がカゴメを呼び掛ける。どうにもこの妖怪は気付いていないようだ。カゴメを連れ路地裏へと入る。誰も居ない薄暗闇の中、褪せ人は口を開いた。

 

「そろそろ出てきたらどうだ」

 

「……?誰に話し掛けて……?」

 

突然誰もいない路地裏で何者かに声を掛ける褪せ人にカゴメが戸惑ったような声を上げる。薄暗い路地には、人の気配などありはしない。

 

「——フーム、やはり気付くかね。流石は我らがアダマス様を救った英雄と言ったところか」

 

そんな戸惑うカゴメを他所に、低い声が路地裏に響く。路地の闇の中、まるで影が這い出るようにして、鋭い目をした初老の紳士が現れる。

 

「わざと気付かせた癖によく言う」

 

「試すような真似をしたのは謝罪しよう。——ヴィクターだ。レオナ様から君への連絡役を任された者だよ」

 

ヴィクターはその鋭い目を細めて笑い、此方に歩み寄る。その立ち姿と表情から教養ある好々爺に映るが、その目の奥はどこまでも冷たい。

その雰囲気はどこか、火山館の戦士達を思い起こさせた。この男は陽の当たる世界の住人ではない。

ヴィクターが褪せ人達へと口を開く。

 

「明日、皇帝陛下が軍の演習の視察に帝都の演習場へと赴く。奴等が何かをするならばここだろう。君には不測の事態に備え帝都中央で待機していていてもらいたい」

 

それは、仕事の指示であった。

ただ帝都の中央で待機しろという指示。

何が起こるか分からない、或いは何も起きないかもしれない。褪せ人の存在はあくまで不測の事態における保険に過ぎなかった。

 

「良いだろう。明日、帝都中央で待機しておく」

 

「デートの邪魔をして悪かったね。私は退散させてもらうよ」

 

褪せ人の返事を聞くと、ヴィクターはカゴメの方を見ておどけたようにそう言う。そして、路地裏を後にすべく、踵を返した。

 

「待て」

 

「まだ、何かあるのかね」

 

首だけで振り返りヴィクターが鋭い目を向ける。

今、この時を逃す訳にはいかない。この男ならば知っているだろう。

褪せ人が今最も欲しい情報について、ヴィクターへと尋ねた。

 

「この辺りで、最も美味い店はどこだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、それで二人きりでランチをしたのね?私を置いて」

 

「むふー」

 

帝都の散策を終え、城内の割り当てられた部屋へと戻るなりアブグルントが珍しく不満そうにそう訴えた。対してカゴメの方はこれ以上なくご満悦である。

 

「デーモンにとって食事はそう重要ではないだろう」

 

「そういう問題ではないのだけれど。人がせっかくメフィストから面白い話を聞いてきたのに。埋め合わせが欲しいわ」

 

デーモンにとって食事は必ずしも必要なものではない。だが、そうではないのだとアブグルントは言う。

埋め合わせも何もないが、話が進まない。

 

「その話の内容次第だ。何を聞いてきた」

 

「この国、内乱の種だらけよ」

 

メフィストからその話を聞いた時、アブグルントは思わず笑ってしまった。それ程までに、この国の奥底で多くの歪みが生じていたのだ。

 

「帝国主義による領土拡大による他種族の反発。過度な実力主義による帝国貴族達の不満。現皇帝派閥と旧王家派閥の反目。その他諸々……よくもまぁこれだけ溜め込めるものよね?」

 

それは、白の帝国という世界有数の大国が、いかに薄氷の上に成り立っているかを物語っていた。

 

かつて白の王国と呼ばれていたこの国は、肥沃な土地を求め周辺国家を攻め入り、併呑していった。やがて王国は帝国となり、当代の女王は初代白の皇帝となった。これが、白の帝国の始まりである。

 

全ては民を飢えから救う為。生きる為に、戦う事を彼女は選んだのだ。

それは、一つの国家として当然の選択だった。だが、問題はその後に起こる。白の帝国という存在を磐石にし、帝国こそ世界の覇者で在れと、その道を定めた男がいた。

 

——第三代白の皇帝 骸帝

 

血と骸による勝利の上に立つ真なる皇帝と呼ばれ、今なお伝説の英雄として語り継がれるその男は、圧倒的な力を持って周辺国家を蹂躙し、覇道を突き進んだ。

 

現在、白の帝国が領土拡大を推し進めているのは、魔物達に対して巨大な一つの国家として対抗する人類の守護者たらんとした結果である。

しかし、それは間違いではないものの、正確ではない。

 

止まれないのだ。最早、帝国には覇道を突き進むより他は無い。外に敵を作らねば、内に潜む敵が国家を食い荒らす。帝国に敗北し、領土を追われたダークエルフや獣人達はまさにその筆頭だろう。

 

当代の白の皇帝も、それは分かっているのだ。しかし、その歪みを正さんと足掻くその男こそが、新たな歪みを生み出している一人。

 

「彼は王家の血筋ではない。先帝に見出されただけの、元は流浪の傭兵よ」

 

実力で皇帝の地位をもぎ取った。そう言えば聞こえは良いだろう。

実際、陣頭に立って帝国軍を指揮する彼は、民達から高い支持を誇る。間違いなく皇帝の素養を持ち合わせた英傑の一人。

しかし、旧王家の血を引く帝国貴族からすればこれ以上なく憎い存在である。

 

単に強いだけの男。アダマスの神器に認められようとも先帝のお気に入りというだけで王家の血筋を引かぬ者が皇帝の後を継いだ。帝国貴族にすればそのようにしか見えない。

いかに帝国が実力主義であるとはいえ、これで不満が出ないわけが無い。

それでも、彼らが表立って現皇帝と敵対しないのは、本来なら正当な後継者となるべき先帝の忘れ形見、アンジェリーネが現皇帝を支持しているからである。

旧王家の血を引く彼女が認めている以上、帝国貴族達も認めざるを得ない。

 

「まぁ、それも時間の問題でしょうね。不満を抑え込むのにも限界はある」

 

今や白の帝国は水面下で数多くの爆弾を抱えた状態である。何かキッカケがあれば、連鎖的に爆発し、たちまちに帝国は大混乱に陥るだろう。

 

「今回の暗殺計画。首謀者が掴めないのはね。心当たりが無いからじゃないの。心当たりが多すぎて、絞れていないのよ」

 

アブグルントは嗤う。帝国は破滅の道を歩んでいる。最早、現皇帝の力では止めようがないだろう。見ものではある。或いは、褪せ人が居なければメフィストの下でこの国の足掻きを見るのも悪くはなかっただろう。

 

「つまり……どういうことです?」

 

「この国はとても頑張りがいがある、という事よ」

 

「じゃあ問題ありませんね!」

 

カゴメは横で話を聞いていたが、恐らく半分も理解できていないだろう。否、今のやりとりから全く理解できていない可能性もあった。

 

「どうかしら?貴方の興味を引ける話だと思ったのだけれど」

 

結局、人も神も身内で争うか。何ともやるせない話ではある。それでも、興味深い話ではあった。

デーモンを相手に反故にする訳にはいかないだろう。褪せ人はアブグルントへと口を開く。

 

「埋め合わせだったか。何を望む」

 

「デート」

 

「……食事に付き合ってやる。それで今回の話は終わりだ」

 

「やったっ」

 

見た目相応の少女然とした笑顔で喜ぶアブグルント。

人を弄んで愉悦に浸るこの女にしては素直な反応ではあった。或いはまた何か企んでいるのか。

もう少し面倒な事を頼まれる覚悟もしていたが、その程度なら良いだろう。

 

しかし、今の話を聞いてしまえば、どうにも明日の己は保険では終われないような気がした。

明日に備えて、本日は解散する事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

帝都中央にある公園、人々が思い思いに過ごしている中、褪せ人もまたベンチに腰掛けていた。

例によって軽装の褪せ人は、ここで不測の事態に備え、待機している。カゴメもアブグルントも、共に居ると目立つ為にここには居ない。演習の視察自体、行われている時間ではないだろう。

正直に言えば、退屈であった。こういう時は手慰みに武具の手入れをしたいのだが、そのような事をすれば不審に思われる。

果たしてどう時間を使ったものかと考えているところに、己の方に近づいてくる気配がした。

 

意識を向ければ、そこに居たのは獣人の女。犬のような耳に、鋭く切長の目、凛とした佇まいの女だ。髪の色も相まって黒い猟犬という印象を持った。何か武術でもやっているのか、体幹はしっかりとしている。かなりの手練れだと、褪せ人は判断する。

そんな女が、此方を真っ直ぐに見据え、歩み寄ってくる。そして、褪せ人に向かって口を開いた。

 

「——今、手は空いているか」

 

果たして何の用なのか。不躾なその言葉に、無言で女を見遣る。その鋭い目からは何を考えているのか読めない。

褪せ人が口を開く。

 

「何の用だ」

 

褪せ人の返事を聞き、女は手に持ったボールを静かに此方へと投げ落とした。

見たところ何の変哲もない、ただのボール。益々意図が読めない。

 

「このボールを、出来るだけ遠くへ投げてもらえないか」

 

「……」

 

落とされたボールを拾う。やはり、何の仕掛けもない唯の遊び道具にしか思えなかった。言われたように、褪せ人は公園の端へとボールを投げる。

 

「フッ……!」

 

その瞬間、女は駆け出した。獣人の身体能力を十全に発揮し、公園の生垣を飛び越え、空中でボールを咥えた。褪せ人をして、見事な動きだと感心する体捌きであった。咥えた理由は分からないが。

すると、ボールを咥えたまま再び此方へと戻ってくる。そして、此方にボールを投げ落とした。

 

「もう一度だ。このボールを遠くに投げて欲しい」

 

「……」

 

再び拾い、ボールを投げる。再び女はボールを咥えると、此方へ戻るなりボールを投げ落とす。

 

「もう一度だ」

 

「……」

 

再び投げる。女は咥えては戻ってきて此方に投げ落としてくる。

幾度か繰り返し、流石の褪せ人も疑問を口にした。

 

「何のつもりだ。これに一体何の意味がある」

 

「意味だと?そんなものはない。私が楽しいだけだ」

 

こともなげに放たれた女の言葉に、褪せ人は困惑した。何の意図もなく、己は初対面の女の遊びに付き合わされていたのか。

 

「自己紹介がまだだったな。私はキンドライヒ。皇帝の犬だ」

 

思い出したようにそう言って、髪を払う。その仕草は実に様になっていたが、その背後で尻尾がブンブンと揺れていた。

どうにも妙な女だが、一つ気になる事を言っていた。皇帝の犬とはどういう事か。

 

「そのままの意味だ。私は飼い犬で、皇帝は私の飼い主だ」

 

今代の白の皇帝は、随分と爛れているらしい。権力は人を歪めるのだろう。獣人の女を犬扱いして侍らせるとは。

 

ここに皇帝がいれば全力で否定したのだろうが、不幸にもこの場には褪せ人しかいない。この誤解が解けるのは、遥か後の事であった。

 

「その皇帝の犬が何故此方に構う」

 

「皇帝に遊んでくれとせがんだら断られてな。他の連中も忙しいとかで全然相手してくれないんだ。それで一人渋々公園で歩いていたら、暇そうな貴方を見つけてな。これはもう——遊んでもらうしかないだろうと」

 

褪せ人の問いに、至極真面目な顔でキンドライヒが答える。初対面の男に遊んでくれとせがむそれは、猟犬というよりは駄犬であった。どうにも見た目の割に童女のような事を言う。これも皇帝の好みか。

 

「貴方は良い人だな、犬は好きか?」

 

「犬は……嫌いだ」

 

「こんなに可愛いのにか……?」

 

犬には良い思い出が無いのだ。そんな事を言うと耳と尻尾を垂らして此方を見るキンドライヒ。何故こうも妙なのばかり近寄ってくるのか。

どう引き剥がそうかと考えていると、帝都の一角で叫び声が上がった。ついで響くのは何かが壊れるような音。

 

始まったか。

褪せ人が立ち上がると、キンドライヒもまた騒ぎのある方を見る。その顔は最初に見た時と同じ凛々しいもの。

 

「向こうは……黒の軍団の演習場か」

 

そう言うと、キンドライヒが走り出す。

どうやら、場所に心当たりがあるのだろう。キンドライヒを追うようにして褪せ人も走り出した。

 

帝国の民衆が逃げ惑う方向を逆流していけばすぐさま原因が分かった。黒いゴブリンの群れが、暴れ回っている。人々を襲おうと迫るゴブリンを、必死で帝国騎士達が抑え込んでいる状況だった。

 

「これは、皇帝の犬としては見過ごせないな!」

 

キンドライヒが両手に犬を模した風変わりな籠手を嵌めると、ゴブリンへと躍りかかる。そして、その籠手から放たれる拳撃によってゴブリンを粉砕していった。獣人としての身体能力を活かした体術こそが、彼女の得意とするところなのだろう。ゴブリン程度であれば、容易く屠る事は可能なはずだ。

 

帝国騎士達がゴブリンから民間人を守っている。褪せ人はその戦場の中で、重装の鎧を身に纏い、砲槍を振るう男を見とめる。

以前、自由都市で出会った帝国騎士、ゲオルグであった。絶えず帝国騎士達に指示を出しながら、ゴブリンを屠っていく姿から、この場の指揮官であると判断し、接触するべく駆け出した。

 

褪せ人は魔物の群れに囲まれたゲオルグに向かって走りながら、武具を選ぶ。

どうにも錯綜している。入り乱れての戦いなら取り回しの良さを重視すべきか。

 

選び取ったそれを、武器と認識できるものは果たしてどれほど居るか。

それに実体は無い。まるで虚空に刻まれた文字をそのまま刃として振るうような不可思議なもの。

 

両手に光の刃を宿し、褪せ人がゴブリンへと飛び掛かる。酷く興奮した様子のゴブリンが此方を認識すると同時にその首は抵抗なく落とされた。

続け様に褪せ人は近くのゴブリンの喉へと秘文字の刃を突き入れる。

実態はなく、しかし二本指の言葉を武器としたそれは、純粋な聖性の塊である。

突き入れた喉は、その聖性に焼き切られる。実体のないそれは、正しく刃として機能していた。

ゴブリンを次々と斬り捨てながら褪せ人はゲオルグの近くへと向かう。

 

「来たか、ヴィクターから聞いている。手を貸せ、雇われ」

 

「無論だ」

 

此方を認識したゲオルグの求めに、褪せ人は言葉少なに応じる。

数は多くとも、所詮はゴブリン。褪せ人達の加勢によって、その場は瞬く間に鎮圧されていった。

 

 

 

 

 

 

 

「チッ、予定より早いな」

 

広場で、瞬く間に鎮圧されていくゴブリンを街の影から見ながら、闇の組織の幹部、ファイブが舌打ちをする。陽動も何もありはしない。最初から気づかれていたのだろう。こんなザマでは、皇帝の暗殺など出来ようはずもなかった。

 

「それにしても、あの男は何者だ?」

 

帝国の重装砲兵、猟犬が出張ってくるのは良い。だが、突然湧いてきた光の刃を振るう男については情報がなかった。

当然である。闇の組織の知る褪せ人とは鎧を来た大男。今目の前で大立ち回りをした軽装の男とは似ても似つかない。

故にファイブの視点では、突然現れた見たこともない武器を振るう在野の強者に他ならない。同一人物だなどと思わないだろう。

 

「——ファイブ、仕事は終わりだ。撤退するぞ」

 

「あぁ、依頼は失敗。さっさとずらかるとしよう、ツー」

 

闇の中、音もなく現れた片眼鏡の男、ツーにファイブが応える。

今回やったことと言えば、黒の軍団のゴブリン達に飲ませる薬剤を取り替えて暴走させただけ。これでは金になどならないだろう。

しかし、ツーはそのファイブの言葉を否定する。

 

「失敗?違うな。私達は役割を果たした。依頼は完遂している」

 

「何……?目的は暗殺だろう?陽動がこの有様だ。間違いなく此方の計画がバレている」

 

まさかこの期に及んで暗殺をけしかけようと言うのか。そんな風にファイブがツーを睨むも、涼しげな顔を崩さない。

 

「この騒ぎも、皇帝暗殺の計画も、全て囮だ。本当の目的は——」

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ!装備は変わったようだが、戦い方は相変わらずか」

 

ゴブリンを鎮圧し、ゲオルグが褪せ人へと歩み寄る。以前、ドッペルゲンガーが滅ぼした村で会った以来ではあるが、ゲオルグは目の前の男の、その苛烈な戦い振りは気に入っていた。

 

帝国騎士達が魔物の死骸を片付けている。幸いにして民間人に怪我はない。帝国騎士も負傷こそすれど致命的な傷を負ったものは居ないようだった。

 

「何が起きた」

 

「黒の軍団が暴走しやがった。原因は調査中だが、試験的に使った増強剤が原因じゃないかって話だ」

 

褪せ人は何が起きたかを問うと、ゲオルグが事の次第を語った。

黒の軍団。帝国魔神団長であるメフィストの手によって構成された魔物達の軍勢。少なくない反対を受けながらも、押し切って運用されるこの部隊もまた、帝国の齎す歪みの一つであった。

そんな黒の軍団の突然の暴走。薬物の事故にしては、タイミングが良すぎる。

 

「貴様もそう思うか。とはいえ、この程度の騒ぎでは、とても陛下の守りを潜り抜けられるとは——」

 

「——ゲオルグ様!至急、お耳に入れたいことが」

 

一人の兵士がゲオルグへと報告を上げる。その内容を聞いて、ゲオルグはその傷だらけの顔を歪めた。

 

「北の砦が制圧された。やったのは旧王家派閥の最大手、ベラート伯爵。やられたな、皇帝陛下の暗殺など嘘っぱち、本当の目的は——」

 

——クーデターだ。

 

白の帝国。その足元に、静かに戦乱の足音が近付いていた。




帝国のかっこいい男達好き
帝国の変な女達も好き
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