今ひとたび、英雄たらんことを   作:blue man

53 / 138
エオヒドの剣舞も良いけど、エレメールみたいにブンブンしたかった。


魔界武術大会 予選

号令と共に一斉に駆け出した闘士達、各々が討つべき相手を求め、武器を、そして杖を構える。

複数人入り乱れての乱戦の中、アスバール達を狙う者達は特に多かった。

 

それはある意味で仕方ないだろう。彼女達はとにかく浮いていた。

各チームがそれぞれ同じ種族で組んでいるのにも関わらず、竜人、デーモン、人間と纏まりが無い。また、代表であるアスバールの種族が分からないのも目立つ原因である。

 

デーモンから見れば彼女は天界の天使に酷似しており、ともすれば他種族からはデーモンにも見える。

正体不明。注目を浴びるのも無理からぬ事だった。

とどめとばかりにそんな彼女達の中に、異様に物々しい鎧を着た男が居るのである。目立つなというのにも無理があった。

 

「断頭剣持って処刑人気取りかぁ!? パフォーマンスなら他所でやりな!」

 

ダークエルフの剣士が褪せ人へと肉薄し、剣を振りかぶる。

あまりにも正直な太刀筋に、褪せ人は囮である事を警戒したが、どうやら先走っただけらしい。

背後で静止を叫ぶダークエルフの仲間を見ながら、褪せ人は冷静に盾で受け止めた。

 

「クソッ、コイツ盾までトゲトゲじゃねぇか……!」

 

容易く受け止められたダークエルフが舌打ち混じりにそう言い放つ。

褪せ人が構えた盾、それは鎧と同じく、鉄の茨に巻かれた木製の大盾である。

粗雑に巻かれたそれは、決して実用的には思えず、ただただ相対する者を威圧するだけのように思えた。

 

そんな大盾を褪せ人はダークエルフに向けて強く押し出す。

突如として押し出されたその盾に、ダークエルフは足に力を入れて押し返そうとするが、ダークエルフの膂力では全く抵抗する事が出来なかった。

容易く押し出され、体勢を崩される。

仰向けに倒れ、すぐさま身を起こそうとしたダークエルフが顔を上げると——大盾で押し潰さんと片手を振り上げる褪せ人の姿があった。

 

「ま、待てっ、そんなトゲトゲしたやつを振り下ろすと——ぎゃああ!!」

 

竜人もかくやとばかりの褪せ人の膂力で叩きつけられたその盾は、それだけで武器として十分であった。

鉄の茨がダークエルフの血で濡れる。

褪せ人が横目でダークエルフを見遣る。気は失っているが、辛うじて息をしているようであった。

死んでいないようで何よりだと、褪せ人は次に狙うべき闘士を探す。

凄惨極まる最初の犠牲者に、一部の闘士が気圧される。

所詮は予選ということかと、周囲の戦士達を冷静に値踏みする。

しかし、それでもなお戦意を滾らせる者達は居た。

 

「素晴らしい……! 見掛け倒しでは無いという事か!」

 

ハイオークのチームがそんな褪せ人を見て目を輝かせる。彼らにとって、強者との戦いこそが何よりも求めるもの。

打算も作戦もなく、一目散に褪せ人へと駆け出し、武器を振り上げる。

 

未だ両者に距離はある。しかし、だからこそ試すには丁度良い。

褪せ人が剣を構えると、その断頭剣の特異性を発露させた。剣身が赤い気で覆われ、妖しく輝く。

そして、剣を振るい、あろうことかそれを手放した。

本来であれば、その勢いのままに剣は投げ出され、地面に転がり落ちるだろう。すっぽ抜けたのだと馬鹿にされるような暴挙。しかし、そうはならなかった。

 

褪せ人の手から離れた剣は、重力に逆らうように不自然な挙動で宙を舞う。

そして、褪せ人の腕の動きに合わせて離れたハイオークを薙ぎ払った。

まるで目に見えぬ手によって振るわれたかのように宙を舞う断頭剣に、ハイオークが驚愕を露わにする。

 

「ヌゥ…!? 剣が飛び回るだと!?」

 

想定外の攻撃に思わずハイオークが面食らう。

断頭剣は単なるパフォーマンスに非ず。

エオヒドと呼ばれる孤高たる修験者の地で磨かれた戦技が宿る、伝説の武器であった。

 

未だ距離が開いていると思っていたのはハイオーク達だけ。彼らは既に、死地に踏み込んでいた。

 

褪せ人はそのリーチというアドバンテージをそのままにオークを薙ぎ払う。

それでもなお、ハイオーク達は怯まなかった。残りのハイオークが未だ宙で踊る大剣を掻い潜らんと前に進む。

少しでも、一人でもあの男に辿り着き、刃を届かせる。そんな決死の覚悟が垣間見えた。

だが、これはチーム戦であり、障害は褪せ人一人ではない。

 

「……貴方達、チーム戦なの、忘れてない?」

 

ハイオーク達の前に黒衣の竜人、ロタンが立ちはだかる。場にそぐわぬ黒いドレスに華奢な身体。そんな彼女に不釣り合いな程に巨大な黒の翼と大剣が、見た目以上に彼女を大きく見せていた。

 

「邪魔だぁ!!」

 

しかし、そんな彼女を頭に血が上ったハイオークは意に介さない。立ち塞がった障害物を排除せんと戦斧を振り下ろした。

膂力に優れたオーク、その中でもさらに上位の存在がハイオークである。

この予選においても間違いなく実力者。アスバール達が居なければ、まず間違いなく本戦出場がかなうだろうと目されていたチームである。

 

そんなハイオークの一撃を、ロタンは手に持つ大剣で容易く受け止める。

衝突音を響かせながら彼女の長い髪が靡くも、彼女の身体そのものは揺るぎもしなかった。

 

「これは……!?」

 

「久しぶりにお嬢さまの前で戦うの。無様は晒せないわ」

 

予想外の堅牢さを見せたロタンにハイオークが呻く。避けるならまだしもハイオークの一撃を受けて微動だにしないなど、考慮していなかった。

しかし、それも無理からぬ事。彼女は他ならぬ龍神の手によって作られた原初の竜人、その一人。

龍神の寵愛を受け、並々ならぬ力を注がれた彼女は並の竜人と比してなお余りある力を持っていた。

 

「久しぶりだから、死なないでね?」

 

ロタンは大剣を構え、力を込める。彼女自身、コントロールが効かないのだ。

故に、ハイオークに向けて警告を放つ。

そして、その見た目からは想像もつかない程の威力を伴う一撃が放たれた。

横薙ぎに放たれた大剣をもろに受け、一体のハイオークが吹き飛ばされる。それは、近くで争っていたダークエルフとデーモンの一団を巻き込んだ。

 

「な、何だ!?」

 

突然の出来事にダークエルフとデーモンが争いを止め、ロタンを見遣る。

 

「ぐっ、横槍とはおのれ——」

 

「——乱戦って言ったでしょ、隙だらけなのよっ!」

 

突然の横槍にいきり立ってロタンを睨みつけるデーモン達を、ヤハールが見計らったように上空から急降下し、その槍を突き入れる。

一体のデーモンが不意を突かれ、倒れる。

それを見る事もなく、すぐさまヤハールは槍に炎を纏わせて投擲した。

魔力の炎が渦を描きながらダークエルフの魔術師に迫り、爆発と共に吹き飛ばす。

そして、再び飛び去ると、次の獲物を狩りにかかった。絶えず動き回る彼女に、周囲の者達は目で追うのが精一杯、反撃など出来ようはずも無かった。

 

「張り切っていますね、ヤハール」

 

「当然! お嬢の前だし、久しぶりの親友の前だもの! かっこ悪いところは見せられないわ!」

 

ヤハールが大立ち回りをする傍らで、仮面を被り、正体を隠したハルモニアが周囲の闘士達を槍で打ち倒していく。

ヤハールに比べ、手堅く、まるで教本に載せたくなるような基本に忠実なそれは、しかし彼女程に極まった練度で振るわれれば驚く程の堅牢さを見せる。

動のヤハールに静のハルモニア。即席の連携としてはかなりのものであった。

 

「皆、張り切っているようですね」

 

そんな様子を後ろから見ていたアスバールが笑う。

守護者達は随分と気合が入っている。褪せ人もまた、風変わりな武器を振るい、その威容を遺憾無く示していた。滑り出しは上々である。

 

何事も最初が肝心なのだ。

魔界武術大会において、予選参加者とは無名の闘士達。最初から強者として目される招待枠よりも期待されていない。

だからこそ、本選よりも誰も期待していないこの予選で、思い切り存在感を露にした方がいい。

見向きもしない観客達を、強引に振り向かせてやろうではないか。

 

「その為にも、主役の私が良いところを見せないと、ですね」

 

そう言って、アスバールは静かにその翼で浮き上がると、ゆっくりと腕を持ち上げる。

その手に握られるのは細く、小さな指揮棒。

おおよそ武器とも杖とも思えぬそれを、まるで指揮者のごとく指先で振るう。

その手の動きに答えるようにして、会場に居る闘士達の頭上に、無数の魔法陣が展開される。

 

「嵐が齎すのは破壊と豊穣。派手にいきましょう♪」

 

軽い調子で言い放つ。しかし齎された結果は劇的であった。

彼女がタクトを振るう度に魔力の雨が闘士達に降り注ぐ。無数の雨の礫は大地に、そして闘士達に触れる度に爆ぜ、会場内に破壊の限りを尽くした。

 

「ぐわぁっ!? 何だぁ!?」

 

「くそッ、何だって予選にこんな化け物が居るんだよ!?」

 

「コイツら一体、何者……!?」

 

破壊の雨に晒され、悲鳴を上げる闘士達。さながら音楽を奏でるようにして一頻りタクトを振るった後に残されたのは、倒れ伏す闘士達と、小規模な爆発に晒され続けて窪んだ大地であった。

 

「派手にやったわね、お嬢……」

 

「封印されていたのが余程溜まっていたのでしょうか……」

 

ヤハールとハルモニアが、予想以上に張り切っているアスバールにどこか呆れた声を上げる。

たった1チームによる一方的な蹂躙劇。その中でも、アスバールは間違いなく抜きん出た活躍を示しただろう。

当初はどこか白けた様子で見ていた観客達も、今や食い入るようにアスバール達を見つめている。注目を浴びるという点では、間違いなく成功ではあった。

 

未だ生き残っている闘士達は、しかしそんな光景を見ながら折れていない。無名でも、彼らは間違いなく闘士であった。

 

「さて、十分に注目は集めました。油断せずに本選出場を果たしますよ」

 

アスバールの声に、褪せ人が無言で剣を構える。

果たして魔界武術大会の予選は、突如として現れた謎の無名チームの話題で持ち切りとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

目前で繰り広げられた蹂躙劇に観客達がどよめく中、王国の面々が突如現れた謎のチームについて吟味を始める。

 

「どう思いますか、王子」

 

「……間違いなく要注意だな、あのチームは」

 

その予選を見ていた王子はアンナの言葉に、険しい表情で答えた。

人間代表として招待枠に収まった王国チームは、そのまま本選に出場が確定している。

その為、本選に上がってくるだろう予選チームの情報収集も兼ねて観戦していたのだが。

予想外の強者の出現に、王国としても警戒を示す。

 

「あの大規模魔法、対処が遅れるとそのまま全滅しかねませんね」

 

王子と共に試合を見ていたイングリッドが口を開く。

魔戦団長イングリッド。王国の魔法剣士部隊の隊長であり、王国における魔法剣士の頂点に立つ実力者。今回の武術大会の闘士に抜擢された一人でもある。

 

「あれは厄介に過ぎる。狙うなら、まずは彼女を落とさないと厳しいだろう」

 

イングリッドの言葉に王子は頷いた。

今回最も多くの闘士を打ち倒した彼女の魔法は、同じ魔法使い達から見ても常軌を逸していた。

観客席でも、彼女が何者なのかと口々に話していたが、どうも明確に知る者は居ないようだった。

アスバールという名に、大昔に消息を絶った亜神ではないかという与太話まで出る始末である。いずれにせよ、確証は無い。

 

「あのデーモン達も厄介ね。魔法への耐性も高い上に、ああも連携して来られると対処が難しいわ」

 

イングリッドに続くようにして答えたのは、銀髪に王冠を乗せた少女。王子と同じく英雄王の血を引く、北の大国の後継者にして王女、シビラ。

 

そんな彼女が警戒しているのはデーモンの二人。

彼女達の連携はかなりのもの。相手にするのならば、何とかして分断するのが望ましいだろう。

彼女の魔剣では、デーモンの高い魔法耐性とは相性が悪いのも事実であった。

 

そんなシビラの評価を聞き、やはり侮れないと判断する。そして王子は己の隣に座る竜人の少女へと声を掛けた。

 

「アーニャは同じ竜人としてあそこに居た彼女をどう思う」

 

「そうですね……」

 

水を向けられたアーニャは腕組みをし、何かを考えているようだった。

天真爛漫な彼女にしては珍しい反応に、王子は彼女について何か知っているのかとアーニャに尋ねる。

 

「何か知っているのか?」

 

「いえ……でもひょっとしたら、あの子は私よりも古い竜の力の持ち主かも知れません」

 

「……アーニャよりもか?」

 

「はい、確証はありませんけど……」

 

長きに渡って醜い竜の姿に変えられていた彼女。王子によって解き放たれはしたものの、その封印によって長い時を過ごした筈である。

そんな彼女ですら、古いと評するほどに原点に近い竜人。ともすれば、自分達がぶつかるであろう相手は、想像以上に格が高い相手かも知れなかった。

種族もまとまりのない謎の集団。自然、最後に残された一人についても話題に上がる。

 

「謎が多すぎる。種族も何もかも分からん」

 

最後に残った五人目。これが最も得体が知れなかった。

異形の鎧を着た素性不明の騎士。並いる戦士達の猛攻を竜人並の膂力で凌ぎ切ったかと思えば、宙を自在に舞う不可思議な断頭の剣を振るい、次々と戦士達を薙ぎ払った。

 

「どこかの騎士崩れ……それにしては装備があまりにも物騒に過ぎる」

 

全身に棘の鉄線を巻いた断頭剣の男。騎士というにはあまりにも不穏が過ぎた。

 

「ですが、あの場で最も戦い慣れているように見受けられました。あの立ち回りは相当場数を踏んでいると見て良いでしょう」

 

イングリッドの言葉に、周囲の者達が頷く。

強さもさることながら、それ以上にあの騎士は戦い方が巧かった。

 

異形の騎士は、その奇怪な見た目に反して、意外な程に堅実な立ち回りを披露した。

まるで大樹の根が張ったかのように微動だにせず攻撃を受け止め、相手の攻撃の間隙に差し込むようにして剣を振るう。

魔術師を相手にすれば、詠唱の隙を潰すようにして断頭の剣が宙を舞う。

 

強みを押し付けるのではなく、相手によって柔軟に対応を変える。

力の差が圧倒的であろうとも油断なく周囲を俯瞰する立ち回りは、老獪さすら感じさせた。

一対一で戦いを挑んだと仮定した時、最も厄介なのがあの騎士であると、そう思わせる相手であった。

 

「……ん?」

 

「どうかされましたか?」

 

鎧の騎士をそう評して、王子はふと何かに気付いたように声を上げた。

アンナがそんな王子に何事かと問い掛ける。

 

「いや、そういえばそんな戦い方をするやつをよく知ってるなと」

 

思い起こしたのは様々な武器や術を駆使して戦うあの男。

派手な技や術に目を奪われるが、それ以上に彼を強者たらしめているのは、その堅牢な立ち回りから繰り出される圧倒的な対応力である。

 

どこか横綱相撲を思わせるカウンター主体の戦いから、相手の底が見えた途端に無数の手の内から解答を導き出す様が、どことなく先程の異形の鎧の戦士と重なったのだ。

 

「あそこの鎧が褪せ人様だと?」

 

「いや……流石にありえないか」

 

あの男はこういった催しに参加するような性格ではない。何より、戦いに対するスタンスが似ているというだけで武器も鎧も違えば術も行使していないのだ。

決め付けるには情報が足りない。

 

「気には留めておこう。いずれにせよ強敵だ」

 

相手は明らかに底を見せてはいないのだ。正体は置いておくにしても注目はしておいて良いだろう。

 

「ハッ、当たらない相手を警戒しても意味ないだろう? 決勝まで勝ち抜くのはオレなんだからな」

 

「ドゥーラか……確か、あのチームとは準決勝で当たるんだったか」

 

オークの女剣士が王子へと告げる。

王子達が彼女達と当たることはない。何故ならば己こそが決勝に進み、王子を打ち倒すのだから。

それは、戦士として磨き上げられた強さに裏打ちされた矜持から来るものであった。

 

「そうだ。アイツらは俺が倒してやる。だから勝ち上がってこい、王子。その時こそ、オレの100%の力を見せてやるよ」

 

それだけ言うと、ドゥーラは観客席を去って行った。

些か自信過剰と言いたいところだが、確かに彼女は強い。そこに疑う余地は無かった。

去っていくドゥーラを見送った後、王子は残りの面々に向けて口を開く。

それは、今回大会参加を余儀なくされた発端について。

 

「大会には当然勝ち進む。だが、捕虜の解放が実際に為されるかは実のところ疑っている。これにはドゥーラ自身は関わっていないからな」

 

ドゥーラはあくまでメッセンジャー。一人の参加者であり、彼女自身はどこまでも真っ直ぐに王子と戦う事を望んでいる。

彼女の中では、約束を果たして、捕虜が解放されると疑っていない。

だが、大会の主催者、恐らくはグレーターデーモンはそうではないだろう。

大会に参加したからといって大人しく解放してくれるとは思えなかった。

故に、保険として別の手を打つ必要があると王子は感じていた。

 

「——チヨメ」

 

「はいは〜い! 超絶有能なチヨメさんを呼びましたか〜?」

 

果たして何処に隠れていたのか、王子に呼ばれ、どこか緩い返事と共に一人の忍びが音もなく現れる。

忍び装束としては些か派手なそれを身に纏うくノ一に、王子が命を下す。

 

「捕虜達の捕えられた場所を探して欲しい、出来るか?」

 

「勿論! チヨメさんに任せなさーい!……でも良いんですか? 助けなくて」

 

「まずは場所だけ確認してくれれば良い。それ以上は一人で無理はするな」

 

いくら彼女が超絶有能だといっても、一人で無理して貰うつもりは王子には無かった。

無事さえ確認出来れば、後は王国の手の者を派遣して救助に向かわせれば良い。

未だ魔界は人にとって敵地なのだ。大会参加者以外にも実力者は控えさせている。

 

「優し〜い。チヨメさん的にも高得点です! まぁチヨメさんは超絶有能なので? 助けて来いと言われてもちゃちゃっとこなせますが?」

 

「いいから、ちゃんと居場所だけ見つけて戻ってこい」

 

「はーい」

 

緩い、間延びした返事と共にチヨメが姿を消す。

忍びというには些か自由な気風の持ち主だがその腕は本物。遠からず捕虜の居場所は知れるだろう。

 

「そういえば、王子と私、イングリッドとアーニャで四人よね? 後一人は誰なのかしら?」

 

ふと、シビラがここに来るまで気になっていた事を問い掛ける。

それは、五人目について。王子が直々に選んだ四人のうち、最後の一人。

それを受けて、王子が口を開く。

 

「ああ、それは——」

 

「——王子様っ! もう、まだこんな所にいらしたのですか? 一緒に出店を見て回る約束でしたわよね?」

 

答えようとした王子へと駆け寄り、抱きつく一人の女。銀の髪に一対の角を生やしていた。

端正な顔立ちに、丸く紅い瞳がどこかあどけなさを感じさせる。

そんな彼女が王子を見上げて不満そうに頬を膨らませていた。

 

「もしかして、彼女を?」

 

「そのつもりだ」

 

シビラが、彼女を見て王子に問い掛ける。この男、どうやら本気で武術大会を獲りに来たらしい。

 

「もう、王子様っ!」

 

「悪かったな。行こうか——シルヴィア」

 

——紅血の皇女 シルヴィア

 

かつて亡んだヴァンパイアの国。

永きに渡って眠りについていた皇女は、王国へと流れ着いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「順調な滑り出しです。この調子で本選も獲りにいきましょう」

 

アスバールの言葉に、ヤハール達が力強く頷く。

予選を終えたアスバール達は、魔界の宿泊施設の一室に集まっていた。

 

「本選は明日からね! 頑張るわよ!」

 

「むっ、貴方も頑張り人ですね!? 頑張りましょう!」

 

「勿論よ! 頑張って頑張って、頑張りまくるんだから!」

 

「おお……!」

 

ヤハールの言葉に、頑張り妖怪が反応する。しかし、ヤハールがそれに狼狽える事はない。

彼女はアスバールが封印されてから、文字通り命を賭けてその手段を模索し続けていたのだから。カゴメとはこれ以上なく意気投合していた。

 

「……本選について、少し報告したいことが」

 

「何だ」

 

不意にハルモニアが褪せ人のそばによると静かに耳打ちをする。

どうにも副長としての態度が抜け切っていない。態々指摘する必要も感じなかった為に褪せ人はハルモニアの報告を聞くことにした。

 

「トーナメント表に王国チームの文字が。恐らくは、王子達も出場しているようです」

 

「……何故」

 

理由が皆目見当がつかなかった。

あの男も大概戦いが好きだが、態々魔界という敵地にやってきてまでそのような催しに参加するだろうか。

 

「理由は分かりませんが……探りますか?」

 

「不要だ。今の私の雇い主はそこの亜神。深入りするつもりはない」

 

何か事情があるのだろう。しかし、態々此方から探る必要性は感じなかった。

あの男なら問題はないだろう。そのくらいには、王子の事は信用していた。

 

「他に要注意のチームは……準決勝で当たるドゥーラ達かしら、最近頭角を現してる凄腕の剣士って噂よ」

 

「ん? 褪せ人! デシウスの名前がありますよ!」

 

トーナメント表を見ながらヤハールとカゴメがそれぞれ気になった名前を上げていく。

だが、そんなものは最早些事であった。

 

「……そうか」

 

「あまり興味がありませんか?」

 

「いや、気にする必要がなくなっただけだ」

 

アスバールの言葉に、褪せ人はかぶりを振る。

単に注意すべき相手がただ1チームに絞られただけの事。

決勝に勝ち上がってくるのは間違いなく王国である。

他チームを過小評価するつもりはないが、それでもこれだけは間違いないと褪せ人は見ていた。

 

「手を抜くつもりはない」

 

たとえ相手が王国であろうと、手心を加えるつもりは無かった。

寧ろ、王国という存在を知っているが為に、手を抜こうなどとは思わない。

 

「良い顔ですね。やはり、貴方を引き込めて良かった」

 

褪せ人の、その兜の奥で浮かべる表情に、アスバールは満足げに笑みを浮かべる。

目的のため、立ち向かわんとするその強き意思。

ベルゼビュートを討つ時に垣間見たその顔こそが、亜神が選んだ英雄に求めたものだった。

 

 




シルヴィアかミレイユでちょっと悩みました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。