王国チーム対アスバールチームによる決勝。
過去の武術大会の歴史を紐解いても類を見ない程に荒れた今大会の集大成。
その凄まじい戦いに観客は圧倒され、魅入られていく。
一進一退の攻防。しかし、その均衡は崩れていく。一人、また一人とアスバールのチームが倒れていき、今やアスバールを背に処刑人の男が王国の4人を相手取っていた。
驚異的な粘りを見せるも、多勢に無勢。4人を相手に退かない姿は賞賛に値するが、どれ程抗おうとも最早王国の勝利そのものは揺らぎようは無い——その筈だった。
「何だよ、あれ」
「処刑人の男だろう? いつ着替えたんだ」
「替え玉じゃねぇのか」
膝をつき、限界を迎えた男が苦し紛れに術を放ったかと思えば、現れたのは装いを新たにした鎧の偉丈夫。観客が戸惑うのも無理は無かった。
その男は瞬く間に王国の魔法剣士を見た事もない武器で打ち倒すと、悠然と王国チームを威圧した。
「あれ、まさか『デーモン狩り』か?」
「馬鹿な、ダークエルフ共の与太話だろう」
「だが、現に奴隷地区の奴らは……」
『デーモン狩り』
ここのところ魔界の者達の口に上るようになった正体不明の鎧の騎士。
曰く、あらゆる武器と術を使い、デーモンに苦痛を齎して殺すのだという。
——黄金の剣を携えた鎧の騎士を見たならば、決して立ち向かおうとなどと考えてはならない。
怯えながらそう話すダークエルフを多くの者が一笑に付そうとして、出来なかった。
何故ならば、一夜にして奴隷地区のデーモン達が消え失せ、奴隷達もまた、忽然と姿を消していたからだ。
デーモンを殺し切るにはその精神を完全に摩耗させる必要がある。そんな事が可能なのは、それこそ『デーモン狩り』と呼ばれるに相応しいだろう。
「じゃあ、あの処刑人が『デーモン狩り』……?」
「正体を隠してたってわけか……!」
「ならば、それを従えるアスバールってのは何者だ……?」
口々に目の前の鎧騎士について観客達が騒ぐのを他所に、ラピス達もまた、その様子を観客席から見ていた。
「正体を隠すのではなかったのか?」
「必要なくなったんじゃないかしら。現に、ある程度は目的を達しているみたいだし」
ラピスの疑問に、アブグルントが答える。
実際、今は突如姿を現した『デーモン狩り』が話題の主であるが、それを従えるアスバールの正体もまた、人々の注目の一つであった。最初から褪せ人が正体を隠さずに居たならば、こうはいかなかっただろう。
「ふん、まぁ良い。……あの男は、今の今まで本気など出していなかったのだな」
「驚きよね、神の楔の力もあるんでしょうけど」
アンブレの時も、ベルゼビュートの時も、あの男は本気では無かったのかも知れない。
竜将たるクロコ、或いはあの男は、その片鱗に触れていたのかも知れないが。
そんな事を話すラピスとアブグルントの傍らでいそいそとうちわを片付け始めるカゴメ。
「もう良いのか?」
「応援は辞めませんよ? でも、ここからは応援する相手が違いますから」
ラピスの問いに、カゴメが答える。彼女が応援を途中で止めるなどあり得ない。だが、ここからは応援すべき相手が違うのだ。
先程までは、制限された中で如何に褪せ人が王子に立ち向かうか。そこにこそ頑張りを見出した。
ならば、完全に枷を外し、力関係が逆転した今、真に頑張らなければならないのは褪せ人ではない。
「——ここから死ぬほど頑張らないといけないのは王子さま達ですからね!」
会場の雰囲気が一変する。
何処か一方的な攻防に、弛緩していた王国チームに緊張が走る。
「どういうこと……? 今まで本気を出していなかったというの?」
「違う、先の私ではアレが限界だったというだけのこと」
シビラの問いに、褪せ人はかぶりを振る。
本気を出していなかった訳ではない。王国を相手に手を抜くなどという選択肢は無かった。
アスバールからのオーダーに応えつつ、その上で全力を賭した。
武器一本と、限られた祈祷ではあの程度。しかし、ここからは違う。
『アスバールの率いる闘士の一人』から『神の見出した英雄』へとその有り様を変える。
褪せ人が構える。
最早言葉は不要であると態度で示すその姿は、王子達をして圧力を感じさせるもの。
それを受けて、王子達も武器を構える。
「シビラ、アーニャ、悪いが付き合ってくれ」
「仕方ないわね。やるからには勝つわよ」
「王子様となら、どこまでも付き合います!」
王子の言葉に、シビラとアーニャが奮起する。
その眼はどこまでも真っ直ぐに勝利を目指していた。
流石に王子の選んだ英傑。ここに来て折れるという事もない。
故にこそ、力を振るう価値はある。
褪せ人が祈祷を発動する。
それは、先にシルヴィアとの戦いでも見せた血盟の祈祷。
虚空より流れ出た呪われた血をその手に滴らせ、王子達へと振り撒く。
「……ッ!」
広い範囲に振り撒かれたそれを三人が躱す。だが、それで良い。
振り撒かれた穢れの血は、その大地を炎上させる。
その様を見ながら、褪せ人は古隕鉄の大剣を構える。
剣身より白光が生じ、その力を以て突進する。
狙いは応報の魔剣の使い手。此方の力を奪い去る彼女は真っ先に打ち倒す必要があった。
「くっ……!?」
シビラが迫り来る脅威に気付き、歯噛みする。
最初の術は牽制。今なお燃え盛り、消えぬ炎は王子達とシビラを分断させた。
最初から自身に狙いを絞り、各個撃破するつもりだったのだ。
「アンサラー……!」
応報の魔剣が呼び掛けに答える。
褪せ人を魔力で包み、その力を奪い去る。
しかし、足りない。此方に迫り、今まさに放たれんとする突きは、アンサラーの力を以ってしてもなお必殺の一撃。
失策を悟り、シビラがせめてもの抵抗に防御の姿勢を取る。
「はあぁぁぁ!!」
しかし、そんなシビラと褪せ人の間にアーニャが割って入る。
燃え盛る大地を強引に突き破ると、シビラを突き飛ばし、アスカロンで褪せ人の突きを受け止める。
「くうぅぅ!!」
受け止めたその一撃は重い。
先に戦ったロタンにも勝るとも劣らない力で振るわれたそれに、竜人の姫たるアーニャが後背へと押し込まれる。
「アーニャ、直ぐに離れて!」
突き飛ばされたシビラがアーニャへと叫ぶ。
あの突きの一撃、それそのものも脅威であるが、本領ではない。
イングリッドを脱落させた爆発が来る。
「遅い」
「……ッ!?」
だが、その警告は遅きに失した。
白光が炸裂する。
古隕鉄の裂け目より放たれる爆発がアーニャを吹き飛ばした。
「くっ……でも!」
警告は間に合わなかった。だが、目の前の男はその戦技の発動により致命的な隙を晒している。
ここを逃す手は無い。魔力の斬撃を振るわんとシビラが魔剣の力を解放する。
「——私が居る事も、忘れないでくださいね?」
しかし、褪せ人の隙を埋めるものが居る。
シビラに対して、魔力の雨が降り注ぐ。
大地を爆発させながら迫るそれをシビラは後ろに飛ぶ事で躱し、その下手人を睨む。
そこに居たのは、タクトを振るい、魔力を練り上げるアスバール。
「やってくれるわね……」
決定的な攻撃のチャンスを潰された事にシビラが苦い顔をする。
そして、そんな中で褪せ人は体勢を崩したアーニャへと追撃を加える。
放たれるのは騎士の雷槍。褪せ人が投げ放つと同時に、その周囲に展開された古竜の紋章からも追撃の雷撃が放たれる。
「きゃあああ!!」
放たれた雷槍が直撃し、アーニャはその身体を痙攣させる。
全身を雷が走り、その白い肌を焼いた。
しかし、未だ脱落には至らない。彼女自身の打たれ強さと、聖剣の護りが、彼女を生き残らせている。
故に、褪せ人は再び追撃を加えようとして——背後に迫る王子の曲刀の一撃に、中断せざるを得なかった。
振るわれる一撃をローリングで躱すと共に、古隕鉄の大剣を横薙ぎに振るう。
しかし、王子はそれを後ろに跳ぶ事で躱した。
再び開く両者の距離。
「今のを気付くか。当てたと思ったのに」
避けられた事に王子が歯噛みをする。
致命的な隙を狙う為に、シビラとアーニャの攻防から密かにチャンスを伺っていたが、見誤った。
王子のもとへと、シビラとアーニャが合流する。
「アーニャ、大丈夫?」
「ぐっ……大丈夫です、まだまだ、これくらい……!」
シビラの問いに苦しげなアーニャが応じる。
まだ戦えはするものの、今の攻防で相応にダメージは負っている。安心は出来ないといったところか。
「竜人と渡り合うどころか競り勝つ膂力の戦士が、魔法使いも顔負けの術まで使っておまけに回復? 本当にとんでもないわね」
一連の攻防にシビラが呆れを含んだ言葉を吐く。
一体どこの御伽噺だ。いや、御伽噺でももう少し遠慮するというものだろう。
そして目の前の男は、未だ底を見せていない。
「凄いでしょう? 私の英雄は」
「お前のじゃないぞ」
その言葉に得意げに褪せ人の背後に降り立つアスバールを王子が睨む。
未だに納得していないし、何より私の英雄という言葉は捨ておけなかった。
「返して貰うぞ、褪せ人を……!」
「ふふっ、手放すつもりはありません。私のです♪」
誰のものにもなった覚えはないが。
謎の因縁に火花を散らす二人を他所に、そんな事を内心で思いながら、褪せ人は武器を構える。
それはくすんだ黄金の長柄斧。
「また武器が変わるんですか!?」
アーニャの悲鳴に近い叫びに、褪せ人が全身を雷撃と化して突撃する。
再びの激突。
褪せ人の行動原理は変わらない。敵を分断し、各個撃破を狙う。
しかし、王子達とてそれは分かっている。
絶えず変わる術と武器に翻弄されながらも、反撃の機会を伺う。
しかし、ここで厄介なのがアスバールであった。
彼女自身は先程までの戦いで疲弊し、褪せ人のサポートへと徹していた。
褪せ人の放つ大技の隙を、彼女の破壊の雨が覆い隠す。
あの男が此方の様子見をする事なく、攻めに徹する事が出来ているのは、他ならぬ彼女の力によるものであった。
必死の抵抗、真綿で首を絞められるような状況が続く。
「はぁ……はぁ……」
精神は摩耗し、王国チームは疲弊する一方。
対して褪せ人は健在。傷を負いながらも致命的なものはなく、一切の揺らぎはない。
「こんな人が、世界には居るんですね……」
僅かな攻防の間隙に、息も絶え絶えなアーニャが呟く。
王国にも数多くの英傑達が集まっている。
魔法の天才、剣術の達人、癒しのスペシャリスト、巨大な絡繰を操る機甲士に永きに生きた仙人。
いずれもアーニャをして強者と言う他無い存在。
だが、目の前の男は常軌を逸していた。
ただ一人、無数の武具と術を扱い、戦況をコントロールする。
彼の言うように、一つの武器で戦うのならば打倒する事は可能なのだろう。
しかし、その仮定に一体何の価値があるというのか。
この男は、そんな制限を課した上でシルヴィアを打倒したのだ。
魔界武術大会の話が出た時、真っ先に王子が呼び出そうとしたのが彼だった。
そのことに人知れず不満を覚えたのは記憶に新しい。
だが、今ならば納得しか無かった。
一瞬の小休止、しかしそれも終わりとばかりに褪せ人が祈祷を発動する。
放たれるのは悪神の火。
褪せ人の頭上に、巨大な燃え盛る火球が生じる。
その火球は、ゆっくりと王子達の方へと向かっていった。
緩慢な速度を維持して迫るそれは避けるには容易い。だが、ここに来てこの男がそのような悠長な行動を取るはずもなかった。
褪せ人の握る武器が変わる。
それは、王子にはひどく見覚えのあるもの。
「あれは……!」
遺跡の大剣。かつて魔界遠征において襲来した三人の霊体。その一人が用いた規格外の武器。
それを持っていることに王子が驚く間も無く、褪せ人が剣を構える。そして放たれるのは崩壊の力。
大地を抉りながら迫る破壊の波と、燃え盛る火球。
加えて——
「ダメ押しをしましょう。これで終わりです」
——破壊の雨が迫る。
「全員避けろッ!」
絶望的な光景に王子が叫ぶ。
相手の狙いが分断にあると分かっていても、避けられない。
全員がその破壊から免れようと駆け出す。
爆発する火球、大地を割る崩壊の波、そして破壊の雨が降り注いだ。
かつてない規模の破壊に、観客達にも動揺が走る。
「無事か、アーニャ、シビラ!」
巻き上がる粉塵の中、王子が叫んだ。
この状況下で相手に位置を知らせるのは悪手ではある。
しかし、それ以上に仲間の状況を確認するのもまた、必要な行動ではあった。
粉塵が晴れ、周囲の状況が明らかになる。
そこには——
「……ぁ……王子さ…ま」
——最早虫の息と化したアーニャの頭部を掴み、持ち上げる褪せ人の姿。
「アーニャ!?」
叫ぶ王子の声を聞き、褪せ人がアーニャを離す。
一切の抵抗無くアーニャの身体が地面へと落ち、倒れ伏す。
そして、褪せ人が向き直る。
手に持つは二刀一対の特大剣。
黒鉄の刀身に獅子の鬣をあしらったそれは、星さえも砕いた英雄の武具。
「どうするの、王子。これ以上はもう……」
アーニャは倒れ、残すは二人。
相手も人数こそ同じだが、その戦力比は圧倒的だろう。
そしてここにきて相手が構えるあれは、恐らくは尋常の武器ではない。
流石のシビラも、これには弱音を吐かざるを得なかった。
王子は静かにアイギスの神器を構える。
勝ち目は限りなく低い。
しかし、だからこそ目の前の男に折れた姿は見せたくは無かった。
「最後の賭けに出る。シビラ、付き合ってくれ」
「仕方のない人。良いわ、付き合ってあげる」
男の意地に、シビラは笑う。
ここまで来たのだ。最後まで王子の可愛らしい意地に付き合ってやるのも吝かではない。これも、惚れた弱みか。
「良いですね、あれ。私達もああいう事言いません?」
「言葉など、既に意味をなさない」
「そういう事では無いんですけど……」
王子とシビラのやり取りにちょっと良いなと思ったアスバールが褪せ人へと話し掛ける。
しかし、返ってくる言葉はにべもなかった。
ただ目の前の敵を打倒する。そのストイックさも悪くはないが、もう少し相手をしてもらいたいところである。
「アイギスの神器よ……!」
「これで最後よ、アンサラー……!」
王子の奥の手、アイギスの神器が解放される。
それに応じて、シビラもまた、魔剣へと呼び掛ける。
「……」
最後の賭けに出た王子達を迎え撃つべく、褪せ人が静かに剣を交差させる。
それに宿るは必滅の光。王者の剣を、神の光が覆っていく。
アスバールもまた、魔力を練り上げる。
彼女も限界は近い。しかし、最早自分の思惑を離れたこの戦いを、最後まで見届けるつもりであった。
「おおぉぉぉ!!」
神器の解放により、限界を超えた力を宿した王子が褪せ人へと肉薄する。
今の王子は、褪せ人相手に勝るとも劣らない力を宿していた。
王子の振るう剣を、褪せ人が特大剣を振るい、迎え撃つ。
衝撃音と共に互いの得物がぶつかり合う。
「……!」
褪せ人に僅かな驚愕が浮かぶ。
神器と言えど直剣を相手に特大剣が互角。その事実に、アイギスの神器の強大さを思い知る。
だが、手は休めない。続け様に特大剣を振るい、王子へと迫る。
そんな一撃を、王子は盾で防ぐ。これもまた、鉄壁とさえ言える程の堅牢さで受け止められる。
だが——
「くっ……!?」
——褪せ人の剣の軌跡をなぞるようにして光柱が走る。
それは、王子の身体へと突き立つと、その身体を聖性で焼いた。
最早、褪せ人に防御という考えはない。
その強靭さでひたすらに特大剣を振るう。圧倒的な質量から繰り出される斬撃とそれに追従する光柱が王子を絶えず襲う。
「まだだ、まだ、お前に届いていない……!」
それでも、アイギスの神器を解放した王子はそれを捌き続けた。
大剣の一撃を紙一重で防ぎ、全身を光に焼かれるも、それでも褪せ人へと一撃を見舞う。
凄惨さすら感じさせる猛攻へシビラが援護すべく駆け出していく。
「殿方の戦いに、割って入るものでは無いでしょう?」
しかし、アスバールがそれを許さない。
英雄達の死闘に、割って入るのは無粋だと語る。
「生憎、そんな出来た女ではないの、私は」
しかし、そんな事は知った事ではない。
後ろについていくだけの女などごめんだった。
二人で歩むと、そう誓ったのだ。並ばなくては、支えなくては意味がない。
「彼は強い、だけど一人だと倒れてしまうの。だから、私達が支えるのよ」
「……成程、貴方もまた英雄、無粋は私でしたか」
言い放つシビラの力強い瞳に、アスバールは英雄を見た。ならば、言葉でその有り様を曲げるのは無粋であった。
アスバールが魔力を練る。それでも、彼女を王子達のもとへ向かわせるつもりは無かった。
「ならば英雄よ、押し通りなさい」
「言われなくとも、そうさせてもらうわ!」
シビラが魔剣を構え、アスバールへと肉薄する。
それを見据えながら、アスバールもまた、魔術を放つのであった。
「はあぁぁぁ!」
一進一退の攻防。王子が攻め、褪せ人が躱せば、返す刀とばかりに特大剣を振るう。
幾度も繰り返したそれに、しかし王子は焦りを覚え始める。
時間が足りない。遠からず己はアイギスの神器による力を使い果たし、倒れ伏す事になるだろう。
それまでに決着を急がねばならない。
そんな思いのもと、剣を振るう。
だが、揺らがない。
決して、王子の剣が届いていない訳ではない。その鎧を血に染め、着実にダメージを与えているに関わらず、まるでそんな素振りを見せない。
そして、均衡は崩れ去る。
王子の攻撃、その一撃を胴で受け止めながら強引に特大剣を振るう。
「ガッ……!?」
吹き飛ばされる王子。地面に転がり、しかしすぐさま立ち上がる。
両者の距離が開く。
神器解放に時間制限があるのは見て取れた。それ故に、褪せ人はその時間切れを待つような事をするつもりはない。
決着をつけるべく、最後の一撃を見舞う。
姿勢を低く、特大剣を構える。
全身に力を込めると、その身の内に膨大なまでの光を宿す。
「そうか、まだ俺は届かないか……」
褪せ人が跳び上がり、己の身を光と化す。
そして、王子に向かって突撃するとその剣を振り下ろした。
斬撃と光の追撃が王子を襲い、その身を蹂躙する。
「悔しい、な……仲間達に、顔向け……出来な……」
その一言を最後に、王子が倒れ伏す。
勝敗は決した。
観客席から歓声が上がる。
それを一身に受けながら、褪せ人は武器をしまうと、アスバールへと歩み寄る。
アスバールが褪せ人へと微笑みかける。その足元には倒れ伏すシビラ。
彼女もまた、限界を超えて戦っていた。王子が倒れると共に、糸が切れたように倒れてしまったのだ。
「よくやってくれましたね」
「依頼は果たせなかったがな」
正体を隠したままに大会を勝つ。それは果たせなかった。
そのオーダーを叶えられなかった時点で、ある意味では負けているのだと、褪せ人はそう考えていた。
「私が良いと言ったのです。それに、私の目的は半ば達成していますよ」
そう言って、アスバールは会場の中央へと歩みを進める。
「さぁ、勝ちの名乗りを上げましょう。ここからが、魔界統一の始まりです」