今ひとたび、英雄たらんことを   作:blue man

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キメリエス、イベントで一言二言しか喋ってないんですよね。
なので大半が独自設定になっております。


漆黒の槍

巨大な軍馬に跨るキメリエスを前に、褪せ人達はここからが本番であることを悟る。

手に持つ槍、その禍々しいばかりの赤い光にアスバールが険しい顔をする。

 

「あれは——」

 

アスバールが何事かを言う前にキメリエスが駆ける。

先程までの緩慢な動きではない。軍馬により機動力を手に入れたキメリエスは驚く程の速さで褪せ人達へと猛襲する。

重装の騎士と軍馬の突撃、重戦車の如きそれは最早それだけでも脅威になり得る。

重々しい蹄の音と共に迫るキメリエスに、カゴメが壁を生成し、立ち塞がる。

 

「——いけません! カゴメさん、逃げてください!」

 

アスバールが焦りを多分に含んだ声で叫ぶ。

鉄壁を誇るカゴメの壁、先のキメリエスの剛剣すら受け止めたそれはこの場であの魔神の突撃を受け止める上での最適解、その筈だった。

 

キメリエスが漆黒の槍を構えると、そのままの勢いで突撃する。

白亜の壁を前に、槍の穂先が赤く輝き、修羅の魔神の権能が発現する。

カゴメの壁とキメリエスの槍がぶつかりあい、しかし一切の抵抗なくカゴメの壁は貫かれる。

 

「——ッ!?」

 

驚愕に顔を染めるカゴメ。

自らの絶対の防壁がこうも容易く貫かれた事に硬直する。

そして、そんな隙をこの戦乱の魔神は見逃しはしない。

カゴメの小さな身体を刺し貫かんと槍の一撃が迫る。

 

「——仕方ないか」

 

迫る必殺の一撃に、シャディアがカゴメを突き飛ばす。

渾身の力を込めたそれはカゴメを吹き飛ばし、死の一撃から逃れさせる。

 

だが——

 

「——カハッ」

 

「シャディア!?」

 

カゴメを庇い、キメリエスの槍がシャディアを刺し貫いた。

腹部を巨大な槍で貫かれ、夥しい血が洞窟の地面を赤く染める。

そして、キメリエスはシャディアを貫いたままの槍を持ち上げると、無造作に振るう。

投げ飛ばされたシャディアの身体は無抵抗に地面を滑り壁に激突。

彼女が動く様子は無い、千切れそうな身体をそのままに、沈黙した。

 

「クソッ、どうなってんだよ!」

 

セブンが一瞬にして引き起こされた惨劇に叫ぶ。

カゴメの壁の堅牢さは周知の事実である。

実際、先程までキメリエスの攻撃を受け止めていた筈なのだ。

にも関わらず、槍の一撃によって壁は破壊され、シャディアという犠牲を出した。

 

「あの槍には、キメリエスの持つ権能が備わっているようです……あらゆる物を貫く、防御不可の権能が」

 

警告が遅れた事にアスバールが苦い顔をする。

不浄の魔神であるベルゼビュートがその権能を以て周囲に弱体の瘴気をばら撒いたように、キメリエスにもまた権能が備わっていた。

それは堅牢な鎧でも、その強靭な膂力から振るわれる剛剣でもない。

あらゆる物を貫き、壊す絶対破壊の槍。

 

見誤っていたのだ。

アスバールが後悔に顔を歪めながらも、その魔力を練り上げる。

これ以上の犠牲を出さない為にも、この魔神は討たねばならぬとアスバールが覚悟を決める。

 

キメリエスが再び駆ける。

鎧の騎士と軍馬が向かう先に居るのはアブグルント。

 

「……ッ!」

 

アブグルントが槍に魔力を宿し、軍馬に向けて魔術を放つもまるで止まる気配はない。

再び赤い光を宿し、次なる犠牲者へと向かうべく必殺の構えに入るキメリエス。

アブグルントへ向けて致死の槍を振るわんとしたところで、横合いから強烈な衝撃を受け、体勢を崩す。

 

「ほう……!」

 

キメリエスがその下手人を見て、興が乗ったような声を上げる。

褪せ人であった。トレントに跨り、並走し、黒鉄の大槌で横合いからキメリエスを殴りつけたのだ。

聖性を宿すといえど、大槌の一撃は鎧の魔神であるキメリエスにさしたるダメージは通せてはいない。

だが、衝撃までは殺せていないが故に、褪せ人の一撃はキメリエスをよろめかせるのに十分であった。

 

「面白い、我に騎馬戦を挑むか」

 

鎧の魔神の意識が褪せ人へと向く。

これで良い、他者へ意識を向けられるよりも余程やりやすいというもの。

褪せ人がトレントと共に駆け出すと、キメリエスもまた、軍馬に指示を出すと褪せ人を追いかけた。

 

広い洞窟内を褪せ人とキメリエスが縦横無尽に駆けていく。

こうなれば周囲の者達は手が出せない。ただ褪せ人と魔神の攻防に、しかし見ているだけで終わる訳にもいかない。

出来ることを探すべく、各々が思考を巡らせる。

 

褪せ人は駆けるキメリエスの横に並ぶと、トレントをキメリエスの側へと寄せる。そして、再び大槌を振るう。

それを受け、キメリエスが再びよろめくも、すぐさま体勢を整えると槍を横へ薙いだ。

横薙ぎに振るおうとも致死の一撃は健在。

決して受けてはならないそれを、トレントはキメリエスから離れる事で躱し、さらに祈祷を発動させた。

左手に雷の槍を束ね、投擲する。空気を裂くような音と共に放たれたそれはキメリエスへと着弾した。

雷撃が鎧を伝ってキメリエスと軍馬へとその聖性と雷撃を伝播していく。

 

「むぅ……!?」

 

呻くキメリエス。しかし決定打にはなり得ない。

褪せ人がトレントを操り、時に接近戦を、時に祈祷による遠距離戦を仕掛けていく。

翻弄されるキメリエス。魔神もまたその槍を振るい、褪せ人へと攻撃を仕掛けるが、褪せ人の巧みな手綱捌きにより悉く避けられる。

 

一方的に見える攻防。されどそれは薄氷の上で成り立っていた。

褪せ人の攻撃は着実にキメリエスを追い詰めていくが、魔神を滅ぼすには未だ遠い。

それに対して、キメリエスの一撃は一度でも受けてしまえばその時点で戦況が傾きかねないもの。

攻防の最中、キメリエスが声を上げる。

 

「貴様も良い友に巡り会えたようだ」

 

それは魔神に残されたかつての人間性の発露か、込められているのは純粋な賞賛であった。

人馬一体、強固な信頼関係によって成り立つそれにキメリエスの騎士としての側面が強く刺激される。

なればこそ、負けてはいられない。

軍馬へ繋がる手綱を強く握り、己の意思を示す。

共に魔神へと堕ちた相棒、キメリエスとてその献身に応えてやらねばならない。

 

槍と大槌が互いに振るわれ、褪せ人の祈祷がキメリエスへと飛来する。

激闘とも言えるそれに、しかし周囲の者達も見守るばかりではなかった。

褪せ人が戦いを繰り広げている間、準備が整ったララネが叫ぶ。

 

「おじさん、跳んで!」

 

その言葉と共にトレントは地を蹴り、宙へと跳んだ。

キメリエスの駆る鎧の軍馬、その足元に極太の妖糸。

幾つもの糸を束ねたそれに軍馬は足を取られる。

 

「ぐっ……うぅぅ!」

 

糸から伝わる超重量にララネが呻く。

しかし、ここで手放せば無意に終わる。

指先が千切れんばかりの負担が彼女を襲うが、それでも手放さなかった。

しかし、それでもなお魔神として強靭な体躯を得た軍馬は転倒する事なく耐え切った。

しかし——

 

「——よくやったララネ、後は私が引き継ごう」

 

「嘘、何で!?」

 

——キメリエスの槍によって斃れた筈のシャディアが軍馬の足元で槍を構え、立っていた。

鎧は破損し、最早見る影もない、にも関わらず槍によって貫かれた筈の身体は傷一つ見えなかった。

此処に神官は居ない。仮に居たとしても彼女の傷は最早手遅れという他無かったはず。

そんな周囲の驚愕をよそに、シャディアはララネの糸によって足を止めた軍馬へとその槍を振るう。

形を変え、大鎌の姿となったそれは、軍馬の前脚を斬り裂いた。

 

「——!!」

 

鎧の防御を無視して放たれた斬撃に、軍馬はいななきを上げる。

ララネとシャディア、彼女達の奮闘が功をなし、ついに軍馬が転倒する。

その致命的なまでの隙に、リムリィ達があらん限りの追撃を加えていく。

鎧に守られているとはいえ、絶えず放たれる斬撃の雨はキメリエスに少なからずダメージを与えていた。

 

「十分な魔力が溜まりました、これで……!」

 

そしてアスバールによって、転倒したキメリエスへと魔力の雨が降り注ぐ。

全身を破壊の嵐に晒され、キメリエスの重厚な鎧に覆われた身体が跳ねる。

魔力の爆発によって、キメリエスに甚大なダメージが与えられる。

しかし、それでもキメリエスは未だ健在である。

槍を握り、再び立ちあがるべく上体を起こしたところで——褪せ人による致命の一撃がキメリエスの胸部を貫いた。

 

キメリエスが己の胸を見遣る。

そこに突き刺さるのは実体の無い光の刃。

純粋な聖性の塊であるそれが、キメリエスを突き刺し、身の内から焼いていた。

防ぎ得ぬ刃、二本指の言葉である。

 

「おぉ……!」

 

それを受けてもなお起きあがろうとするキメリエスに、褪せ人は一層深く刃を突き入れる。

そして、その勢いのままキメリエスを内側から斬り裂いた。

内側から血のように魔力が吹き出し、キメリエスの存在が薄まっていく。

 

「良い……良い戦争だった」

 

仰向けに倒れ伏し、急速にその存在感を薄れさせながら、キメリエスが笑う。

今回の召喚、つまらない願いで呼び出されたものだと辟易し、ちょっとした摘み食いのつもりで彼等を襲った。

しかしそれは、戦場を望む魔神にとってこれ以上のない『供物』であった。

武器と祈祷を駆使し、人馬一体となって己を打倒する者。

周囲の者達も見事であった。

魔神となり、数多の国を滅ぼしてなお得られなかった戦場に、キメリエスは満たされていた。

 

「再び……相見えようぞ」

 

最後にそう言い残すと、キメリエスの存在は洞窟の闇に消えていった。

残されたのは褪せ人達と、教団員の死体のみ。

 

「終わったようだな」

 

褪せ人の下へとシャディアが歩み寄る。

 

「お、お前さっきキメリエスに……!」

 

「そうだ、腹を貫かれ殺された」

 

まるで幽霊と相対しているかのようにセブンがシャディアを指差す。

そんなセブンの言葉を、彼女が自身の腹を撫でながら肯定する。

 

「これが私が魔王を殺す理由の一つだ」

 

彼女は魔王によって死を奪われた。

今の彼女は、どれ程肉体に傷を受け、魔法で臓腑を焼き尽くそうとも死ぬ事はない、否、死ぬ事を許されていない。

死を許されず、千年もの間、ただ魔王を殺すべく旅を続けていたのが彼女だったのだ。

 

「それは……」

 

「話は後にしよう。今はグリモワールを取り戻す事が先決だ」

 

アスバールが口を開くも、他ならぬシャディアによって制される。

漸く動き出した復讐の道。話したいのは山々だったが、今は目の前の事をやるべきだった。

 

「むぅ……私の壁が役に立てませんでした」

 

キメリエスの槍によって貫かれ、シャディアに庇われたカゴメが悔しげに顔を歪める。

そんな姿に、アイリーンは慰めの言葉をかける。

 

「そんな事はありません、キメリエスの剣を受け止めたのは他ならぬ貴方の力ではありませんか」

 

「役に立たないって言ったらアタシなんて何も出来てないしな」

 

アイリーンの言葉に、セブンが続く。

セブンにしろアイリーンにしろ、戦闘が本領ではないのだ。相応に自衛の手段こそ持ち合わせてはいるが、この規模の戦いでは入り込む余地はありはしない。

 

「……それもそうですね! 次は、もっともっと頑張りますので!」

 

慰めの言葉にカゴメが再び気力を取り戻す。

そんな姿を横目に、褪せ人はキメリエスが倒れた場所へと歩みを進めた。

 

そこに突き立つのは漆黒の槍、キメリエスが握っていたそれに酷似していた。

人が握られるように幾らか小さくなったそれを徐に褪せ人は掴み、引き抜いた。

 

「義理堅いものですね、満足させてくれた報酬のつもりでしょうか」

 

しげしげと槍を眺める褪せ人に、リムリィが声を掛ける。

戦乱の魔神、キメリエスは先の戦いを捧げ物であると受け取ったらしい。

あらゆる防御を貫く力は流石に常に振るえるものではないらしいが、戦技として落とし込まれているようだった。

悪くはない。

褪せ人は漆黒の槍を握ると、祭壇より更に奥へと進むのだった。

 

 

 

 

 

 

祭壇の奥、再び狭い通路と化した洞窟の奥を褪せ人達が進む。

教団員は居らず、ちょっとした備蓄庫のような小部屋が続く。

そして、その一画に、古めかしい書物ばかりが集められた部屋を見つけた。

その部屋の前に立つ一人の教団員が褪せ人達に驚き、しかし瞬く間に制圧される。

 

部屋の中に入れば、静かな部屋の中でページを捲る音とペンが走る音だけが聞こえてくる。

 

そこに居たのは一人の女魔術師、部屋の奥の一室で一心不乱にグリモワールを読み漁っていた。

静寂の中、此方が来ているのを認識しながらも手を止めない魔術師へアスバールが口を開く。

 

「グリモワールを此方に渡してください」

 

「……驚いた、まさか実体のキメリエスを退散させるなんて」

 

声を掛けられ、女魔術師が顔を上げる。

アスバールのように左右の瞳の色が違う、それぞれが金と紫に輝く瞳の女だった。

 

「もう一度言います、グリモワールを、渡しなさい」

 

「悪いけど、邪魔しないで欲しいの」

 

彼女は教団員のように悪魔を過度に崇めたりはしない。

彼女はただ、悪魔達について深く知りたいだけなのだ。

言ってしまえば、趣味のようなもの。しかし、その趣味には、彼女は自身の命をかけても構わなかった。

魔導書の、未だ解読しきれていないページから術式だけを読み取り、発動させる。

何が呼ばれるか分からない。しかし、この状況を切り抜けられる可能性があるとすれば、これしか無かった。

 

彼女の手に持つ魔導書が光を放つ。

それは、新たな魔神が呼び出されようとしている兆候であった。

 

「貴方、まさか!?」

 

「おいおい、流石に二連続なんて洒落にならないぞ!」

 

アイリーンとセブンが彼女を止めるべく掛け出すも、全てが遅かった。

魔導書が一際大きく輝きを放つと、それは現れた。

 

「——ハァイ、私を呼び出したのは貴方かしら?」

 

それは、赤い髪の美女であった。

角と翼、尾を持つそれはハルモニア達のような女性型のデーモンのそれに近いもの。

放たれる圧はキメリエスと比較すればそれ程でもないが、しかし決して無視できるものでもない。

しかし、どうにも呼び出された魔神にキメリエスのような禍々しさは感じなかった。

 

「ええ、そうよ」

 

「何が望みなのかしら」

 

褪せ人達が状況を見守る中、呼び出された魔神が望みを問う。

そして、ヴェルティは己が望むただ一つの物を口にした。

 

「悪魔の知識を、私に」

 

必要なのは知識、それだけである。

彼女はただ知識を得たいだけ、探究にこそ価値があり、善悪に頓着していない。

それは、狭間の地の魔術師であれば当然の価値観だが、この世界では危険視されるであろうもの。

 

「良いわよ、ちょっと偏ってるかもだけど」

 

「構わないわ、対価は——」

 

「——要らないわよそんなもの! アタシの知識があなたの役に立つのならそれでオッケーよ♪」

 

ヴェルティが対価を捧げようとして、断られる。

それは、魔神という存在では異質なものだった。

ここに来て、ヴェルティが違和感を抱くも、悪魔達も千差万別。

此方にとって都合の良い悪魔も居るのだと思い直す。

 

「じゃあ、いくわよ? えいっ!」

 

なんとなく軽さを感じる所作と共にヴェルティの頭に魔神の持つ知識が与えられる。

 

「これが悪魔の知識——!?」

 

ヴェルティが自身の頭の中に流れ込む知識を吟味していこうとして、それに気付く。

与えられた知識、それは彼女の思い描いていたものではなかった。

突如与えられる想定外の情報の波にヴェルティが頭を抱え、苦しみだす。

 

「くぁ……やめなさい、こんなものを私に流さないで!」

 

「大丈夫よ、痛いのは最初だけ、慣れてしまえばへっちゃらよ!」

 

「そうじゃない! ……あぁっ!」

 

苦しむヴェルティに、膨大な知識からの頭痛で苦しんでいるのだと判断した魔神が笑みを浮かべる。

痛いのは最初だけ、直にその知識を使って気持ち良くなれる。だから頑張れ。

そんな魔神の励ましは、ヴェルティにとって要らないものだった。

 

「——それにしても見上げた人間ね、悪魔に縋ってまでエッチな知識が欲しいだなんて」

 

「は?」

 

感心したように頷く魔神の言葉に、セブンが呆けた声を上げる。

他の面々も似たような表情を浮かべているだろう。

 

——愛欲の魔神 ゼパリエッテ

 

それが彼女の名である。

今、褪せ人達の目の前でのたうち回る魔術師は頭の中にエッチな知識を流し込まれているのだ。

 

「安心して、脳破壊は趣味じゃないから、ちゃんと常識の範囲内で知識は抑えてあげる」

 

ゼパリエッテの親切心はどこまでも空回っていた。

魔術師として明晰な頭脳を誇るヴェルティの脳内の大半が性的なもので埋め尽くされる。

ゼパリエッテの趣味が反映された純愛でラブラブの範囲で許されるありとあらゆる知識がインプットされていく。

ヴェルティは恐怖した。このままだと残された脳の容量全てに純愛とイチャイチャに塗れた知識が押し込められると。

 

「た、助け……」

 

遂にヴェルティが助けを求める。

このままでは彼女は悪魔召喚士からただのスケベな物知り女に成り下がってしまう。

流石に哀れに思ったのか、アスバールがゼパリエッテへと声を掛ける。

 

「あの、嫌がってるようですのでそのくらいに……」

 

「……え? あら、いけないわ! 無理矢理は趣味じゃないの、同意の元でないと駄目よ!」

 

漸く勘違いに気付いたゼパリエッテが知識の譲渡を中断する。

すんでのところでヴェルティの脳内は守られた。その脳内の一部に大量の性的な知識を刻みつけて。

ヴェルティは情報の波から解放され、そのまま気絶した。

 

残されたのは赤い髪の魔神とグリモワール、そして褪せ人達である。

 

「えっと……状況が飲み込めてないのだけど、貴方達も欲しかったり?」

 

「不要だ」

 

ここにきて漸く周りが物々しい気配に満ちている事に気付くゼパリエッテ。

取り敢えず目の前の鎧の男に知識がいるか尋ねてみれば切って捨てられる。

 

褪せ人が武器を降ろす。最早闘争の空気ではない。

机の上のグリモワールを確保し、気絶したヴェルティを抱える。

 

「やるべき事は終えた。帰るぞ」

 

あまりにもあんまりな結末に褪せ人の声も何処かやるせなさを感じさせた。

とはいえ、グリモワールを確保した以上、アイリーン達も否やは無かった。

一行は洞窟を後にする。

 

「……えっ、アタシは!?」

 

呼び出されたゼパリエッテは、訳も分からずとりあえず褪せ人達についていくのであった。




ゼパリエッテのおかげでヴェルティは殺されずに済みました。
良かったね……。
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