今ひとたび、英雄たらんことを   作:blue man

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神を討つ聖槍

シャディアからグングニルの情報が渡されてから暫く。

王国内で特段事件のようなものは起きなかった。

精々が王国の周辺で盗賊団や強盗団が幾つか消えたくらいである。

 

とはいえ、褪せ人としては今回の空白期間は左程苦にはならなかった。

個人としてはシャディアから渡された情報を疑っていなかった事から、遠からず王国が裏付けを取ってくるだろうという確信があった為である。

目的が定まっているのならば、待つ事に否やはなかった。

 

そして、そんな日々も今日で終わる。

褪せ人は王国からの召集を受け、いつものように執務室に居た。

 

「シャディアの情報の裏付けが取れた。砂漠の国の奥、ピラミッドの一つに隠されているらしい」

 

王国の古い書庫、その古文書にまるで隠されるように記述されたそれは、王国の識者達が集まってもそう簡単には見つからなかった。

しかし、そこに書かれた情報は間違いなくシャディアのものと一致した。

それ故に、非常に確度の高い情報であると王国は判断したのだ。

 

「既に砂漠の国には協力を取り付けてある。王国軍を送ることに支障はない」

 

世界各地を魔物の手から解放し続けた王国。

砂漠の国においても、神獣スフィンクスの討伐をはじめ、数々の功績を立てていた事が功を成し、今回の遠征についても現女王より快諾は得ていた。

彼女達にとって王国は救国の英雄、協力を惜しむつもりはない。

その言葉に、褪せ人が口を開く。

 

「守護者が居るのだったか」

 

「代々一族でその遺跡を守り続けているらしい。砂漠の国も今まで不干渉だっただけに、直接交渉をする他無いだろう」

 

懸念事項としてはそこだった。

砂漠の国の守護者、彼女達の協力を取り付けられるか否かで遺跡の探索の難易度は変わるだろう。

 

「帝国にも応援要請は出した、さらにシャディアから別の協力者も合流予定だ。今回は万全を期しておきたいからな」

 

そんな王子の言葉に、褪せ人が疑問を挟む。

 

「別の協力者だと?」

 

帝国に協力を求めるのは理解できる。

しかし、それとは別に協力者というのは一体何者だというのか。

 

「俺も聞いた時は驚いたとも。まぁ会ってからのお楽しみといったところか」

 

そう言って笑みを浮かべる王子。

どうやら、面識のある相手らしい。とはいえ、王国が了承したのであればこれ以上何も言うことは無かった。

 

「具体的な日程は追って連絡させる……ついに元凶を断つ時が来た、長かったな」

 

褪せ人がこの地に呼ばれ今まで。様々な事があったが、遂にその使命まで手の届くところまで来ていた。

ケラウノスと魔王、元凶である二柱を討つ絶好の機会、逃す手などあるはずも無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

熱砂の砂漠。見渡す限り岩と砂で覆われた大地。

緑はなく、得られる水もごく僅かなこの不毛の地は、おおよそ只人にとっては過酷な環境であった。

 

そんな砂漠地帯を王国軍が進む。かつて、褪せ人が魔界に迷い込んだ間に一度この国には遠征している。砂漠地帯の行軍も慣れたものだった。

 

「暑くはないんですか?」

 

「然程気にならん」

 

イリスの心配そうな問いに、褪せ人は簡潔に答える。

伊達に今まで鎧を着込んではいない。かつては火山地帯だろうが溶岩の上だろうが鎧を着込んで駆け抜けたのだ。

 

「こっちは見てるだけで暑いんだけどね……」

 

汗を拭いながら、タラニアが言う。

魔術師達のお陰である程度熱の遮断が行われているとはいえ、王国の一部は些か肌の露出が激しい者達も多い。砂漠地帯の日射は少々厳しいのではないか。

そんな褪せ人の疑問に、タラニアは答える。

 

「そういうのは魔力で軽く身体を覆って防護するのさ」

 

生活魔法というらしい、便利なものである。

褪せ人も近い術は持っているが、より強力な炎や雷から身を守る為のものであり、燃費という意味ではまるで常用に向いていない。

戦いでしか術を使わなかった弊害である。或いは狭間の地にも、生活の為の術はあったのだろうか。

 

そんな彼女達がそうまでして肌を晒す理由は何も見てくれに拘っているという訳ではないらしい。

無論、それも理由の一つではあるのだろうが、主な理由ではない。曰く、肌を外気に晒していると魔力の吸収率が良いのだという。

その為、魔術師の流派によっては好んで肌を晒すのはそう珍しいものではない。

 

そういう話なら理解は出来た。己も時折、狭間の地で全裸の何者かに襲われる事があったが故に、強さを追い求めた結果そこに行き着く事もあるのだろう。

それはそれとして、王国の魔戦団長はもう少し恥を知った方が良いだろうが。

 

「どうされました、褪せ人殿?」

 

「いや……」

 

褪せ人が此方を見ているのに疑問に思ったのか、イングリッドが褪せ人へ問い掛ける。

褪せ人もこれ以上その件を掘り下げるつもりはなかった。非常識な人間扱いされる事の多い褪せ人だが、この世界の常識も大概おかしいと思うのは、やはり己が異界の人間だからだろうか。

 

「暑い暑いとだらしがないな貴様ら! 我輩は平気だぞ!」

 

「お前は中身が無いだろうが」

 

そんな褪せ人達の会話を横で聞き、声を張り上げて威張り散らす者が居た。それは、褪せ人同様に全身を鎧で包んだ大男。

薄ら笑いを浮かべたような兜が特徴のリビングアーマー、デシウスである。

そんなデシウスの言葉に、王子が呆れたように言葉を返した。中身のないリビングアーマーに暑いも寒いもありはしないだろう。

 

「それにしても、まさか貴方が協力者とは……」

 

イングリッドが意外そうな声を上げる。

それに関しては褪せ人も同意見だった。

シャディアの言っていた外部からの協力者とは、デシウスの事だったのだ。

 

「ふん、何も好き好んで貴様らに協力する訳ではないわ! 勘違いするんじゃないぞ!」

 

「確か、こういうのをツンデレというのだったかしら?」

 

「ち、違うわ馬鹿め!」

 

アブグルントの言葉に上擦った声を上げるデシウス。

エインヘリヤルの時から今まで、幾度か王子の前に現れては衝突を繰り返してきたこの男は、しかし今回ばかりは味方であるらしい。

 

「我輩はケラウノスを殺せればそれで良いのだ。貴様らの手を借りるのは癪だが、今回は騙し討ちをするつもりはない」

 

「何故、ケラウノスを討つ?」

 

この男の行動はどこまでも力を追い求めるものであった。

恐らくは、ケラウノスを討つ為の力を手に入れんと奔走していたのだろう。

その執念の源、それを褪せ人は尋ねる。

 

「……話すつもりはない」

 

しかし明確に拒絶される。そこには何処までも暗い復讐の炎が滾っていた。

 

「そうか」

 

理由は分からず、しかし強い想いを抱いたそれに、一先ずは信用しても良いだろうと判断する。

邪魔にさえならなければ、別に何をしようとも構わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見えました、ピラミッドです」

 

暫く砂漠の太陽の下を行軍していると、王国の弓兵、ソーマがその優れた視力を以て遠方よりピラミッドを視認し、声を上げた。

 

変わり映えのしない砂漠から、漸く目的地を見つけた事により僅かばかりの安堵が周囲の兵達に伝播していく。

 

目的地を見据え、一行が近づき、ピラミッドの全容が露わになったところで、その周辺の様子がおかしい事に気づく。

 

「何者かが戦っている……?」

 

ピラミッドの前、砂漠の国の装束を身に纏った戦士達が迫り来る何者かと戦闘を繰り広げていた。

白い翼に光輪を持つそれは天使、即ち神の使いである。

 

「ケラウノスか……!」

 

「ヌゥ……先を越されたか! 王子、急ぐぞ!」

 

王子の言葉に、デシウスが焦ったように声を上げる。

聖槍の守護者達がケラウノスの配下に襲われている。

そう判断し、王国はその行軍の速度を速めた。

褪せ人を筆頭に、騎兵達が先陣を切り、天使達へと突貫する。

 

「何者だ!?」

 

「我々は王国より来た! 敵ではない!」

 

突然の王国軍に混乱する砂漠の守護者達に、王子は簡潔に自分達が敵ではないことを告げる。

 

「聖槍の力を借りにきた! どうか我々に協力して欲しい!」

 

「貴方達が女王様の言っていた王国の英雄ですか!」

 

話自体は通っていたらしい。王子が天使達を撃退しながら叫ぶと、守護者を率いているだろう長の女が声を上げる。

 

「天使達は既にピラミッド内部に侵入しています! 恐らく目的はピラミッドと聖槍の破壊……!」

 

「馬鹿な……!」

 

事態は一刻を争うらしい。

此方の動きを掴んだケラウノスがグングニルを破壊しようとしていた。

直ぐにピラミッド内部へと向かわなければならない。

褪せ人は長の女へとトレントで近付くと案内するように求める。

 

「聖槍の下へ向かう、案内しろ」

 

「……分かりました、遺跡の奥は罠も多い。私が案内しましょう」

 

褪せ人の言葉に女は頷くと、褪せ人の手を借りてトレントの背に飛び乗った。

 

「ネフティと申します」

 

「行くぞ」

 

褪せ人がトレントで駆ける。目指すはピラミッドの奥、聖槍グングニル。

聖槍が破壊されてしまえばこの世界の唯一の神殺しの手段を失うことになる。

それだけは避けなければならなかった。

 

「此処は私達が引き受けます、王子もピラミッドの中へ!」

 

イングリッドが叫び、魔法剣を振るう。

王国が来てから、天使達の数が増している。此方を認識し、ピラミッドへ向かわせまいと一気に攻勢に出ているのだ。

 

「ここは通しませんよ!」

 

天使の軍勢の前に巨大な壁が迫り上がった。

カゴメの壁がピラミッドの入り口を塞ぐようにして天使達を受け止める。

その様を見ながら、王子は声を張り上げた。

 

「死ぬんじゃないぞ!」

 

「王子こそ、どうか御武運を!」

 

王子の言葉に、イングリッド達が応える。

王子は背に鬨の声を聞きながら、仲間を連れて褪せ人を追うようにピラミッドの中へと入るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ピラミッドの内部を褪せ人達が走る。

聖槍を守る為に設置された罠に掛かった天使達を横目に、まるで迷路のようなピラミッドの通路を進んでいく。ネフティの案内が無ければ、思わぬ足止めを喰らっていただろう。

 

「この奥です、ここに聖槍が……!」

 

ネフティが声を上げる。

重い石扉の向こう、開けた空間へと褪せ人達は出た。

静謐な雰囲気に満ちたその部屋の中心にあったのは巨大な槍。

恐らくはあれが聖槍だろう。

どうやら、まだ壊されてはいないようだった。

 

「おぉ、あれがグングニル……!」

 

デシウスが感嘆の声と共にその槍へと近付く。

シャディアの情報の通りであった。その槍はあまりに巨大で持ち運ぶには到底不可能、武器として使うなど論外であった。

しかし、その槍が纏う神々しい気配は間違いなくそれが神器であるという証左。

 

「後はこれに力を注ぎ込めば……」

 

「待って下さい、よりによって貴方が使うのですか? 王子か、百歩譲ってそこの鎧の男の人が使うべきでは……」

 

デシウスが聖槍の担い手になる事にネフティが待ったをかける。

よりによって一番悪そうな見た目の男が聖槍を使うつもりなのか。こういうのは王子の役目だと思っていただけに戸惑いを隠せなかった。

そんなネフティの言葉に心外とばかりにデシウスが口を開く。

 

「ふん、見た目で判断するでないわ。我輩が聖槍の担い手になれば、ケラウノスを殺すなど——」

 

 

 

 

「——浅はかな、一体誰を殺すというのです」

 

 

 

 

デシウスの言葉に被せるように、声が響く。

当然、その声には聞き覚えがあった。聖槍の間に、溢れんばかりの神気が満ちていく。

王子達が警戒する中、それは舞い降りた。

黒い装束を纏い、巨大な翼を持つ女神。

真なる神にして人の愚かさを嘆く者、滅びの雷。

 

「ケラウノス……!」

 

「愚かな人間達……聖槍に辿り着いた程度で、この私を滅ぼせるとでも?」

 

討つべき怨敵を前に、デシウスの声に憎しみが滲む。

そんなデシウスを意に介さず、ケラウノスは嘲笑混じりに言い放った。

聖槍を前にしてもなお、余裕の態度に褪せ人は僅かに疑問を持つ。

そんな褪せ人の疑問を他所に、デシウスはケラウノスに問いただしていた。

 

「ケラウノス、何故我輩の祖国を滅ぼした! 我輩の国は、貴様を信仰していたのに……!」

 

「……? あぁ、貴方はあの国の生き残りでしたか」

 

デシウスの言葉に一瞬、目を丸くするも、直ぐに合点がいったように笑みを浮かべる。

己を召喚し、くだらぬ願い事をしてきた愚か者達の集まり。

信仰する神なのだから叶えて当然、そんな思い上がった欲に塗れた人間達は、千年間耐え続けた彼女の怒りの引き金を引き、滅んだのだった。

 

「愚かな願いをしてきた人間を滅ぼした。ただそれだけです」

 

「それだけだと……? それだけで我輩は主君を、友を、家族を奪われたというのか……!?」

 

こともなげに言い放たれたその言葉はデシウスにとって到底許されるものではなかった。

 

平和な国であった。

騎士として生まれ、友と語らい、愛する家族の下へと帰る。それだけでデシウスは満たされていたのだ。

しかし、そんな日々は突如現れた魔物の軍勢によって奪われる。

 

誰一人として死んで良い者達は居なかった。

全身に傷を負いながらも、道中で斃れている友の姿に胸を掻き乱されながらも、それでも一抹の望みを込めて家族の下へと駆けたデシウスが見たのは、無惨にも変わり果てた家族の姿であった。

 

デシウスは誓った。必ずやケラウノスを殺し、祖国の仇を討つのだと。

その為ならば、どんな卑怯な手も、人の道から外れようとも構わなかった。

 

「だが、それも終わる……! 此処で貴様を討ち、祖国の仇を討つのだ!」

 

「やってみなさい、不可能でしょうが」

 

ケラウノスの嘲笑を無視してデシウスは聖槍へと力を注ぐ。

ケラウノスを指定し、その神の権能を奪い去るべく願いを込めたそれは、しかし応える事は無かった。

 

「何故だ!? 何故聖槍が動かない!?」

 

「ふふ、愚かですね、簡単な事です。今の私は、神であって神でない」

 

ケラウノスの余裕、それは己が聖槍に討たれる事はないとわかっていたからであった。

どこまでも余裕の表情で、ケラウノスは語る。

 

「今の私は人間の器を依代に物質界へと降臨しています。その聖槍は神を討つ武器でしょう? 今の私を聖槍は神と見なしませんよ」

 

聖槍は純粋なる神を討つ為の神器。

しかし、今のケラウノスはかつてデシウスの祖国が召喚をするべく一人の少女を依代に物質界へと降ろしていた。

魔王と同様、彼女は今、人の器に入り込んでいる。

それ故に彼女に聖槍が力を放つ事はない。

 

「馬鹿な、それでは我輩は何の為に……!?」

 

絶望するデシウス。

それを横目に、褪せ人は武器を構えた。

手に持つのは黒い岩から切り出したような刀身を持つ剣。

運命の死を封じられたその剣は、不滅の筈の神を殺す事の出来る可能性の高いもの。

 

「褪せ人……」

 

「聖槍が使えずとも問題はない、あの女神はここで殺す」

 

聖槍が使えないこの状況下で、それでもこの男は折れていなかった。

ならば、最後まで足掻くのも悪くはない。王子もまた、アイギスの神器を構える。

 

褪せ人の構える剣を見て、ケラウノスは目を細めた。

 

アイギスの呼び出した戦士。最早ケラウノスにとって唯一敵と言って良いのはこの男のみであった。

聖槍を無効化しようとも、目の前の男は己を滅ぼし得る。

 

「成程……アイギスも随分と危険な者をこの地に呼び出したものです。一歩間違えればこの者こそが滅びへ導くでしょうに」

 

悪足掻きとはいえ、妹も随分と思い切った事をしたものだった。

しかし、そんな悪足掻きも今日で終わる。

 

「終わらせましょう、人の希望は今日ここで潰えるのです」

 

ケラウノスが両手を広げると、膨大なまでの力が空間を満たしていく。

 

「……!? これは、まさか!?」

 

「私は戦士でも魔術師でもありません、神なのですよ」

 

焦りの声を上げるネフティを前に、ケラウノスが嗤う。何故態々お前達の土俵に降りてやらねばならないのだと。

 

狙いは単純であった——この女神は、ピラミッド内の空間全てを雷で埋め尽くそうとしているのだ。

 

防御も回避も許しはしない。この一撃を以て王子と褪せ人を消し飛ばすのだと、そう言っていた。

 

避けるのは無謀、故に褪せ人は祈祷を発動する。

王子達を含め、褪せ人達の身体を黄金の守りが覆う。

しかし、これでもなお足りないだろうと、空間を揺らす膨大な力に褪せ人は剣を構え、駆け出した。

 

雷撃が放たれる前に討つより他ない。

決死の覚悟と共に剣を振りかぶる褪せ人に、しかしケラウノスは嘲笑を浮かべた。

 

「——遅い」

 

「……!!」

 

無情にも雷撃が放たれる。

部屋全体が眩い光に包まれ、その直後に轟音が鳴り響く。

褪せ人の放った雷の防護など焼け石に水であろうそれは、ピラミッド内部を駆け巡り、悉くを蹂躙した。

 

圧倒的な破壊の雷。真なる神としての力をまざまざと見せつけたそれは、褪せ人達を消し炭にする——その筈だった。

思わぬ邪魔立てに、ケラウノスが忌々しげに睨みつける。

 

「忌々しい、まだ人を守ろうというのですか——アイギス」

 

「勿論です——姉様」

 

ケラウノスの雷は褪せ人達を傷つける事は無かった。

光り輝く盾が、ケラウノスより放たれる雷撃を受け止めていたからである。

神々しくも、慈悲に溢れた声が頭上より響く。

 

「まさか……貴方は……!?」

 

イリスが目を見開いて声を上げる。

放たれる神気が、その姿が何よりも雄弁に語っていた。

黄金の髪に白い翼。

真なる神にして人の営みを見守る者、万物を守護する盾。

 

「人の子よ、良くぞここまで辿り着きました」

 

——女神アイギス

 

褪せ人達を滅ぼす雷は、女神アイギスの力によって相殺される。

ケラウノスがアイギスを睨む中、アイギスは王子達へと語り掛ける。

 

「人の子よ、諦めてはなりません。これより私の残された力でケラウノスを器から切り離します」

 

かつて女神アダマスがケラウノスによって精神と肉体を切り離された。

それと同じ事をアイギスはやろうとしているのだ。

 

「愚かな、死に損ないのアイギス一人でそのような事出来るはずがありません」

 

しかし、そんなアイギスの言葉をケラウノスは嘲笑と共に否定する。

永きに渡り封印され、力を殆ど失っているアイギスにそのような事が出来るはずがない。

 

「——ですが、二人ならば?」

 

「ッ! その声は……!」

 

再び響く声に、ついにケラウノスがその表情を歪めると、意識を声の主へと向ける。

そこに居たのは女神アダマス。

アダマスはアイギスの隣に降り立つとケラウノスへと相対した。

帝国に居るはずのアダマスがここにいる事にケラウノスが驚きの声を上げる。

 

「馬鹿な、何故ここに!?」

 

「今代の英雄に運んでもらいました」

 

そう言って指し示す先に居たのは白の皇帝。

しかし常ならば泰然と構えていた男は、今回ばかりは息も絶え絶えの様子だった。

 

「はぁ……はぁ……流石に女神、人使いが荒い……!」

 

「す、すみません……」

 

皇帝の言葉に、アダマスは小さく謝罪する。

王国からの応援要請によりピラミッドへと遅れて向かっていた最中、アダマスより一刻も争う事態が起きている事を告げられる。

軍で向かっては間に合わない、そこで皇帝はアダマスを抱えて砂漠を全力疾走し、こうして馳せ参じたのだった。

 

アダマスが苦々しげに顔を歪めるケラウノスに向き直り、言い放つ。

 

「力を失ったといえど私達二柱の力、ケラウノスお姉様に防げますか?」

 

そう言うとアダマスとアイギスがケラウノスに向けて力を放つ。

二柱の女神の力がケラウノスの精神へと干渉し、依代の肉体から切り離さんと全身を駆け巡る。

 

「くっ、やめなさい……! 貴方達は、自分が何をしようとしているのか、分かっているのですか!?」

 

女神二柱の力に抵抗しながら、ケラウノスが焦りと共にアイギスとアダマスに訴えかける。

しかし、アイギス達は応えない、応える余裕が無いというのが正しいか。

ただでさえケラウノスは三女神の長姉、最も力ある神である。

今のアイギス達の力では、二柱でも辛うじて上回っていると言ったところ。

 

「ぐぁぁあああ! おのれアイギス! おのれアダマス!」

 

しかし、その均衡は崩れ去る。

ケラウノスの抵抗虚しくアイギスとアダマスの力によってケラウノスの身体が器から切り離される。

器であった少女の身体は崩れ落ち、その背後でケラウノスが膝をつく。

 

「今です、人の子よ、聖槍グングニルを!」

 

「デシウス!」

 

「うおおおぉぉぉ!!」

 

王子の声に、デシウスが聖槍へと力を注ぎ込む。

デシウスの想いを汲み、聖槍が光を放つと、その力を発動させた。

 

「ケラウノスを討てえぇぇぇ!!」

 

「があぁぁぁぁ!!」

 

デシウスの叫びと共に放たれた光がケラウノスを穿つ。

その光はケラウノスから神としての権能を奪い、その力の悉くを消失させた。

力を奪われたケラウノスが地に落ち、膝をつく。

 

「やってくれましたね……! 愚かな人間が!!」

 

「さぁ、これで最後です。人の子よ、ケラウノスを討つのです!」

 

アイギスの声に王子と褪せ人、そして皇帝が剣を構える。

膝をついていたケラウノスはゆっくりと立ち上がると、そんな英雄達を睨みつけた。

 

「絶対に許しませんよ……貴方達は手ずから殺してあげます」

 

怒りに震えるケラウノスの声に呼応して天使達が現れる。

聖槍によって力を奪われてなお、その力は強大。一筋縄では行かないようだった。

そして——

 

「我が意に応えよ——ガリウス」

 

ケラウノスの前に魔王が召喚される。

以前より力を増したそれは、少しずつ本来の力を取り戻しつつある証左であった。

 

「ここからが正念場か」

 

「やれるとも、俺達ならな」

 

皇帝の言葉に、王子が答える。

聖槍は発動し、ケラウノスから力を奪い去った。この機会を逃せば、いよいよ以て世界は滅ぶのだろう。

 

「不甲斐ない天使達……忌々しい妹達……そして何より未だその目から光を失わない英雄達……! どいつもこいつも、この私を苛立たせる……!」

 

ケラウノスが抑えきれないとばかりに言葉に怒りを乗せる。

気に入らなかった。

どれほどの絶望を叩きつけても決して光を失わぬその目が。

それ程の物を持ちながら、過ちを繰り返す人間達が。

 

怒りに呼応するように彼女の周囲には雷霆の光が溢れ、輝いている。聖槍の影響を受けてもなお、その力は健在だった。

しかし、それでも先程のような絶望的な差はありはしない。

 

「死んで平伏しなさい! 私こそが『神』だ!!」

 

ケラウノスの叫びに雷霆が迸る。

ここに、神を討つ為の戦いが幕を開けたのであった。

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