今ひとたび、英雄たらんことを   作:blue man

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最後の王

モーゴットが褪せ人へと肉薄する。

巨体に似合わず、驚く程に俊敏なその動きに対応出来たのは、それが何者かを知っている褪せ人だけだった。

 

盾を構え、モーゴットの呪剣を受け止める。

しかし、その程度は予測済だろう。モーゴットが呪剣を持たぬ左手に光を集める。

収束した光が形作ったのは、大槌であった。

モーゴットと比してなお巨大な大槌が褪せ人へ向けて横薙ぎに振るわれる。

 

回避は不可能、大盾を構え、迫る大槌を受け止めた褪せ人はその身体諸共に後方へと吹き飛ばされる。

光の大槌に宿る聖性に身を焼かれ、その痛みに僅かに眉を顰めるも、褪せ人は着地と共に体勢を整える。

 

すぐさま褪せ人が前を向けば、その視線の先のモーゴットの手には既に大槌は無く、代わりに短剣が握られていた。

その短剣を褪せ人へ向け投擲する。

投げたそばから光が収束し、再び短剣が形作られると、それを再び褪せ人へと投げつける。

 

二連続の投げナイフ。

しかし、それそのものはかつて幾度も見た光景。

褪せ人は飛来する短剣を紙一重で躱し、次の攻撃へと備える。

そこには、既に呪剣を構えて突進するモーゴットの姿。

しかし、モーゴットの目の前に巨大な壁が立ち上がり、褪せ人への道を遮る。

 

「やらせませんよ!」

 

白亜の壁、その上にはカゴメの分体の姿。

モーゴットの顔が不快げに歪む。

 

「小賢しい化生め!」

 

モーゴットが毒付き、手に握るのは光の大槌。

渾身の力と共に振るわれるそれが、カゴメの壁へと叩きつけられる。

地響きと共に強烈な衝突音が響き渡る。

 

「ぬぅ……!?」

 

しかし、呻いたのはモーゴットの方だった。

大槌の一撃と共に、己の身に走る痛み。すぐさまモーゴットはそれが目の前の壁によるものだと看破する。

応報の呪い、カゴメの妖怪としての力であった。

 

「忌々しい! 私に呪いをぶつけるとは!」

 

顔を歪め、モーゴットが怒りに震える。

よりにもよって、この身に呪いを振りまくとは。

モーゴットが再び大槌を形作ると、壁へと振るう。

再びの破砕音。応報の呪いがモーゴットを蝕むが、最早意に介していない。

 

「むぅ……! 長くは保ちませんね……!」

 

光の大槌が着実にカゴメの壁に損傷を与えていた。

分体とはいえ、これ程に容易く壁を壊されかけている事実にカゴメが悔しげに顔を歪める。

 

そんなカゴメの壁の背後、体勢を整えた褪せ人へとアスバール達が集まってくる。

険しい表情と共に、アスバールが褪せ人へと口を開く。

 

「説明を求めます。彼は一体何者ですか?」

 

尋常な相手ではない。

先の短い攻防ですら、そうと周囲に思わせるのに十分なものであった。

その問いに、褪せ人が短く答える。

 

「かつて殺した相手だ。だが、油断出来る相手ではない」

 

言葉少なに語られたそれに、周囲の者達も表情を引き締める。

目の前の男がそれ程に警戒する相手。たとえそれが幻で、かつて殺した相手であったとしても、易々と気を緩めて良い相手では無かった。

ゼパリエッテが槍を構えながら、焦りを込めた声で言う。

 

「で、でも、こっちは数が圧倒的よね!? それなら何とか——」

 

ゼパリエッテが言い終わる前に、カゴメの壁が粉砕される。

舞い落ちる瓦礫と共に墜落するカゴメの分体がモーゴットの呪剣によって斬り裂かれ、消滅した。

 

土埃の向こう、障害を排除したモーゴットが右手を掲げる。

その合図と共に現れたのは、くすんだ黄金の鎧を身に纏った騎士達であった。

 

それはローデイル軍。かつての破砕戦争において、君主連合を打ち払った歴戦の古強者達である。

 

剣を、槍を、或いは身の丈程の大弓を構えた騎士達がモーゴットの背後より現れる。

 

これで数の差による有利は失われた。

それも当然か、何せ幾人かの味方が己の苦戦を望んでいるのだから。

 

「お前達のせいだぞ」

 

「アタシ達は悪くないですよ!? それはそれとして無限に頑張ってください!」

 

「そ、そうです。悪いのは魔神マンモンですから! でも頑張ってくださいね!」

 

「ふふふっ、頑張ってね?」

 

モーゴットだけでも脅威だと言うのに、そこに歴戦の騎士達が加われば流石の褪せ人も文句の一つも言いたくなる。

しかし、カゴメやアスバールは何処か目を輝かせながらも否定する。

望んでいただけで、悪いのはそれを形にしたマンモンである、そう主張していた。

 

「……まぁ良い。周りの騎士を任せる」

 

モーゴットから視線を外さずに、褪せ人がアンブレ達に向け口を開く。

アンブレが力強く頷き、ゼパリエッテが槍を構える事でそれに応じた。

 

決して雑兵と侮れない騎士達の姿に、アンブレが呟く。

 

「恐らくは、強者と戦いたいと言う私の願いも混ざっているのだろうな。こんな状況だが、少し心が踊る」

 

異界の騎士達と戦う機会などありはしないだろう。

それだけで、不謹慎ながら此処に来て良かったと思ってしまう自分が居た。

これがマンモン。人の欲望を叶え堕落させる魔神の手腕か。

 

「ねぇアタシの願いは? 愛し合ってる子達がくんずほぐれつぐちょぐちょになるアタシの願いは一体……」

 

「ジャンル違い過ぎて混ぜられなかったんじゃないかしら?」

 

見渡す限り色気もへったくれもない光景にゼパリエッテの物言いが入る。

それを、アブグルントが冷静に答えを返した。

恐らく、今の状況と彼女の願いはまるで相容れない。後回しにされたのだろう。

 

「……まぁ良いわ! 同じ魔神に願い事を叶えられるなんてシャクだもの!」

 

気を取り直したように槍を構えたゼパリエッテが騎士の一人へと躍り掛かる。

普段のふざけた言動が目につくも、彼女は魔神。

彼女の持つ力そのものは間違いなく本物であった。

 

しかし、ローデイルの騎士達もただやられる訳ではない。

王都古竜信仰、竜の雷を自身の武器に宿すと彼女達に向けて振るう。

 

「この雷は、褪せ人殿の……!」

 

アンブレが攻撃を捌きながら、僅かに目を見開く。

一兵卒でありながら、宿る雷の力は侮れるものではない。ローデイルの騎士、その練度の高さが如実に現れていた。

 

「クソ! 戦闘は出来なくは無いがコイツらは荷が勝ち過ぎるぞ!」

 

ネヴィンが毒づく。

女王の側近としてダークエルフをまとめ上げる彼は相応の実力を持つ魔法使いだが、アンブレ達と比較すれば大きく劣ると言わざるを得ない。

そんな彼にとって、目の前の黄金の騎士達は一人ですら脅威であった。

 

「雷霊よ!」

 

ジルヴァの呼び声に呼応して雷の精霊達が召喚される。

彼女はエレメンタラー。その中でも雷を司る精霊を使役するのに長けていた。

雷霊達がローデイル騎士へと向かい、その身を激しく発光させながら雷を放つ。

 

「くっ……! 効いていないの!?」

 

しかし、不運にも雷霊達は相性が悪いと言わざるを得なかった。

本来ならば、金属鎧の騎士達は雷霊達にとって相性は悪くない。

だが、彼らはローデイルの守護者にして古竜の信仰者。

雷に対しての護りの祈祷を施されていた。

効いていない訳では無い。しかし、効果が薄いと言わざるを得なかった。

 

そんなローデイル騎士達が雷霊達に強く反応する。

そして、真なる雷を見せんとばかりに己の武具に雷を纏わせると、ジルヴァ達へと襲いかかった。

 

周囲で騎士達との戦いが始まり、剣がぶつかり合う音を耳にしながら、褪せ人はモーゴットと攻防を繰り広げる。

 

「お前の治世は人を救えたのか?」

 

「……」

 

剣を振るいながら、嘲りと共に語りかけてくるモーゴットのその声に、褪せ人は答えない。

もとより幻を相手に問答するつもりが無いのもそうだが、何より今の己には答えられないからだ。

 

「黄金樹という象徴を燃やし、我が母の意思を奪い、不純な律を組み込んだ。本当にその選択は正しかったのか?」

 

なおも語り掛けてくるそれは、モーゴットの言葉というよりは、常に己の中で渦巻いていた疑問であった。

 

「……良く喋る」

 

大槌を躱し、剣を防ぎながら褪せ人が呟く。

やはり、あの男本人ではないのだ。単に己のつまらない感傷が生み出した、あの男の姿を借りただけの偽物。

 

短剣を投擲し、接近するモーゴット。

最早幾度となく見たその一連の動きを、回避し、いなしては攻撃を重ねる。

 

「呪いに塗れて逝くが良い……」

 

モーゴットが呪剣を床に突き刺すと、その力を解放する。

呪われた血によって形成された刀身を中心として赤い血の魔力が膨れ上がる。

 

「後ろへ飛んでください!」

 

アスバールの叫ぶ声に従い、褪せ人が背後へと飛んだ。

モーゴットの周囲に血の爆発が生じる。

モーゴット自身がその爆発によって傷つく事は無いが、それでも致命的な隙を晒す。

 

「これで……!」

 

その無防備なモーゴットへアスバールがタクトを振るう。

魔力の雨がモーゴットの身体へと降り注ぎ、爆ぜていく。

 

十分な魔力が込められたその一撃。しかし、それでもモーゴットに膝をつかせるには至らない。

 

魔力の雨を凌ぎ切ったモーゴットが片手を掲げる。

上空で光が収束し、その形を成していく。

その予備動作から始まる行動について、褪せ人はよく知っていた。

 

「避けろ……!」

 

褪せ人の叫びと共に、モーゴットの手が振り下ろされた。

光の剣が、モーゴットを中心に雨の如く降り注いだ。

まるで王座の間を分割するようにして放射状に放たれるそれは、円形の地形を5つの戦場へと分断した。

 

戦場が分断され、互いの援護がままならなくなる。

そんな状況下で、ローデイル騎士達が大弓を構える。

矢に宿るのは竜の雷。狙うは己の主君と渡り合う祝福なき戦士。

狙いを定め、弓を引き絞る。

 

しかし、その矢が褪せ人へと放たれる事は無かった。

背後より忍び寄ったアブグルントが無防備な騎士の背に槍を突き立てる。

 

「まぁ、この状況に多少は責任を感じなくもないものね」

 

崩れ落ちるローデイル騎士の一人を尻目に次の相手へと肉薄する。

それを見たローデイルの騎士は弓をしまい、剣と盾で応戦する。

 

アブグルントが騎士の一人を相手取る中、褪せ人へと向かおうとする残りのローデイルの騎士達の前に、壁が立ちはだかる。

 

「アタシも、全くこれっぽっちも悪くはありませんが頑張りますよ!」

 

カゴメの壁に囲まれたローデイル騎士が壁を殴りつけ、その応報の呪いに狼狽える。

モーゴット相手ならばともかく、騎士達がカゴメの壁を越えるのは至難の業であった。

 

 

 

 

褪せ人とモーゴットの戦いが佳境を迎える。

光の剣、大槌を駆使して膨大な手数を用いて褪せ人を追い詰めんとするモーゴット。紙一重で躱し、防ぐ中で褪せ人にも少なくない傷が生まれる。

しかし、それでもかつて見た攻撃である。大振りの大槌の一撃を躱すと、すぐさま褪せ人もまた黒鉄の大槌によるカウンターを放った。

 

「愚かな、見切ったのはお前だけだと思ったか」

 

しかし、モーゴットはその大槌の一撃をバックステップによって回避する。

攻撃を見知っているのは相手も同じである。

背後へと飛びながら、モーゴットは光の短剣を褪せ人へと放つ。

 

大槌を振り抜いた褪せ人に避ける手段はない。

光の短剣が褪せ人の胴を穿つ。

 

「……!」

 

聖性の込められた一撃が褪せ人の身を焼いた。

ダメージはそれ程でもない。だが、問題はこの後である。

 

再びの接近、呪剣が振るわれ、空中に赤い軌跡を残す。

咄嗟に呪剣を回避、しかし一拍遅れて呪剣の軌跡が爆ぜた。

 

「ぐっ……!」

 

呪われた血の爆発に、褪せ人が吹き飛ばされる。

地面を転がる褪せ人へとモーゴットが追撃を掛けようとして、魔力の雨がモーゴットへ降り注いだ。

後ろへ飛んで回避し、モーゴットは下手人であるアスバールを睨みつけると、左手に光の槍を形成。渾身の力で投げ放った。

 

「くっ……!」

 

驚異的な速度で飛来する光の槍をアスバールがすんでのところで回避する。

槍が翼を掠め、その身を焼いた事に眉を顰める。

避けなければ、そのまま消し飛んでいたであろう威力。

だが、目を離す事は出来ない。目の前の男の猛攻がこの程度で終わる事は無いからである。

 

アスバールの想像通りにモーゴットが猛追せんと大地を蹴る。

呪剣を構え、接近するそれを、しかし褪せ人が大盾を以て阻む。

もう片方の手には騎士の大剣。

 

呪剣を防ぎ、返す刀で大剣を振るう。

 

またもバックステップで剣を躱すモーゴットに——騎士の大剣から暗い光の斬撃が放たれた。

 

「何!?」

 

想定外の攻撃にモーゴットは斬撃をもろに受ける。

胴を裂かれ、血が噴き出す。それだけでなく、暗い光がモーゴットの全身を覆うようにして包み込んだ。

 

「おのれ、何をした!?」

 

全身を強烈な脱力感が襲う。何らかの術の影響、恐らくはあの剣によるものだとモーゴットは推測するも、彼の知識にそのような剣の情報はない。

 

「お前は当然知らないだろう」

 

己の記憶の産物、過去より前に進まないお前には分かるまい。

この武器はかつて悪魔に踊らされた哀れな暗黒騎士より託されたもの。狭間の地の武器ではないのだから。

 

暗黒のオーラをその身に受けたモーゴットの動きが目に見えて鈍る。

この好機を逃す訳にはいかない。

 

褪せ人が構えるのは漆黒の槍。これもまた、モーゴットの知識にないものであった。

褪せ人が槍を構え、突撃する。漆黒の槍に紅い魔力が迸る。

 

「ぐっ……!」

 

モーゴットが回避を諦め、防御を選択する。鈍重な身では、その一撃を避けるのが困難であると判断したからだ。デミゴッドの己であれば槍の一撃にも容易に耐える事が出来る。

 

仮に、モーゴットがその武器が何なのかを知っていれば、死に物狂いで回避を選択しただろう。

だが、そんな仮定も無為に終わる。

褪せ人の槍がモーゴットの腕を貫く。デミゴッドの強靭な肉体が、いとも容易く削り取られ、その先の臓腑までもを穿つ。

 

「ガァッ!?」

 

予想外の一撃にモーゴットが呻く。

しかし、デミゴッドの生命力は、槍で抉られた程度では倒れるものではない。

強引に身を捩り、尻尾で褪せ人を薙ぎ払う。

吹き飛ばされる褪せ人、しかし追撃は来ない。

褪せ人が見れば、血反吐を吐き、睨みつけるモーゴットがそこには居た。

 

相手は手負い。

此方も相応のダメージを負っている。

次が決着だろう。

 

褪せ人が祈祷を発動させる。

己の身を大きく回し、その身に嵐を纏わせる。

 

「それは……!」

 

モーゴットが目を見開く。

当然、デミゴッドとして永きを生きたあの男ならばこの祈祷も知っていよう。

だが——

 

「我が名は亜神アスバール。司るのは——慈雨と嵐」

 

——ここから先は知り得まい。

 

アスバールが褪せ人の背後より己の力を分け与える。

亜神としての権能。破壊の嵐を司る力が褪せ人の祈祷を強化する。

 

「英雄よ、私の加護を貴方に。破壊の嵐、眼前の敵を薙ぎ払う力を」

 

神獣の怒れる嵐、その力が大きく増す。

うねりをあげ、灰を巻き上げ、天へと上る。

 

「忌々しい、塔の一族の祈祷が……!」

 

モーゴットが呪剣を振るい、突進する。

あくまでも正面から薙ぎ払わんとするそれは、己が母が粛清を命じた角人達の祈祷を使った怒りからか。

 

褪せ人が迫るモーゴットへと嵐を放つ。

あらゆるものを薙ぎ払い、王座の間の床すら削り取るそれがモーゴットを飲み込んだ。

 

「ぬうぅぅぅ!!」

 

大地を踏み締め、嵐に耐えんとするモーゴット。

しかし、巻き上がる嵐がその肉を抉り、呪われた血を嵐に乗せる。

全身を破壊の嵐に晒されたモーゴットの身体が遂に浮き上がる。

最早抵抗のしようもなく、その身は怒れる竜巻に巻き上げられた。

 

嵐が過ぎ去り、上空よりモーゴットが叩きつけられる。

モーゴットが立ち上がる事は、無かった。

 

「終わったのでしょうか……」

 

アスバールの声を背に、褪せ人がモーゴットへと歩み寄る。

 

倒れ伏したモーゴットの姿は、最早見る影も無かった。

巨体は縮み、骨と皮だけの貧相な身体。ボロ布を纏った老爺の姿は、先程までの力強い圧をまるで感じられなかった。

 

「認めはしない……お前がエルデの王だなどと……」

 

掠れた声でモーゴットが言う。死に瀕してもなお、そこには強い意思が見えた。

そんなモーゴットの言葉に、褪せ人は静かに言葉を返す。

 

「そうだ、私は王などと大それた者ではない」

 

己はただ殺し、エルデンリングを掠め取った簒奪者。

律を書き換え、君臨する事なくその地の意思に全てを投げ渡しただけの男である。

故に、王と呼ばれるべきは己ではない。

 

「今一度眠れ、最後の王よ」

 

たとえ黄金樹に認められなくとも、たとえ己が母に拒絶されようとも、この男は黄金樹と共にあった。

壊れかけた世界で、それでも黄金樹に縋る者達の王だったのだ。

 

その身を灰と化し、崩れ去る黄金樹の番人は、そんな褪せ人の言葉に何も返す事は無かった。

 

 

モーゴットが滅んだのを確認し、褪せ人は周囲を見遣る。

モーゴットが倒れた事で、ローデイルの騎士達も消滅したのだろう。

アンブレ達が褪せ人の方へと戻って来る。

 

「貴公、何とかなったようだな」

 

此方の労を労うアンブレの身体には傷跡があった。

他の者達も程度の差はあれ、傷付いている。黄金樹の守護者は、決して侮れる強さではなかったという事だろう。

周囲の者達と自身をまとめて祈祷で回復させると、褪せ人は静かに王座の後ろ、黄金樹の根本へと目を向けた。

 

モーゴットを倒しても幻は消えない。

ならば行くべき場所はそこにしか無かった。

 

褪せ人が歩みを進める。

そんな褪せ人に口を出す者は居なかった。

この場所について知っているのが褪せ人しか居ないということもあるが、それ以上に今の彼に対して口を挟む事が憚られたのが大きい。

 

階段を登り、その奥、黄金に輝く霧の前に立つ。

既に黄金樹は焼かれている。阻むものは何もありはしなかった。

 

褪せ人が霧に触れると、その奥より溢れんばかりの光が放たれる。

一行がその輝きに視界を覆われ、やがてその光が収まれば、先程とは異なった光景が視界に入った。

 

何処とも知れない暗い闇の中、荒んだ大地が広がっている。

その大地の真ん中に、褪せ人がいた。

 

視線の先には、崩れかけた人型。

辛うじてそれが人だと分かったのは、その足元に女性と思しき頭部が落ちていたからだろう。

 

崩れた胴の内、淡く明滅する光があった。

 

——エルデンリング

 

それは世界を支える律の象徴であり、褪せ人にとって、終わりと始まりの象徴でもあった。

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