褪せ人の邸宅、不躾な侵入者である死氷の亜神と、褪せ人が急遽呼びつけた嵐雨の亜神が卓を囲む。
「…………」
「えへ……」
憮然とした表情で見遣るアスバールと先程までの超然とした表情をだらしなく緩め、にやけ顔の死氷の亜神。
何故か不機嫌そうなアスバールだが、褪せ人は何も言わない。
そんな居室の様子を、ヤハールとロタンが廊下からひっそりと覗いていた。
ロタンが口を開く。
「……修羅場?」
「修羅場ではないでしょうけど、アスバール様めちゃくちゃ期待してたから……」
ロタンの言葉に、ヤハールが首を振る。
修羅場というほどではないが、しかし良い空気でも無い。
一度解散したその日の夜に、話があると気になっている男に呼びつけられたのだ。
アスバールは混乱した。常の彼女であれば、褪せ人がそのような目的で呼びつけることなどあり得ないと分かっただろう。
しかし、迷宮での戦いと褪せ人の過去、そして破滅の力という情報量の多さに少なからず疲労していた彼女は盛大に勘違いした。
アスバールは焦る。
ヤハールに風呂を沸かし直して貰う時間はあるだろうか。
服はいつもので良いか、お酒とかあった方が良いのだろうか。
何せ彼女自身、異性とそういう事に及んだ事がない。
しかし、それはそれとして従者達とはそれなりに経験を積んでいる。
男相手でも何とかなるはずだ。
嵐雨の亜神、嵐と慈雨を司る彼女は転じて豊穣をもたらす神である。
——豊穣神とは、えっちな神である。
並々ならぬ覚悟を秘め、しかしそうと悟らせぬよう嫋やかな笑みと共に邸宅を訪れた彼女が見たのは、いつもと変わりない無表情に若干の疲れを滲み出させた褪せ人と、そんな褪せ人を興味深げに見つめ、笑みを浮かべる異教の亜神の姿であった。
こうして、卓を囲んだ今に至る。
沈黙の中、アスバールがボソリと呟く。
「……いえ、そもそも勘違いして先走った私が悪いんですけどね」
「何の話だ」
このまま黙っていても埒が開かない。
盛大に肩透かしを食らったが、そもそも褪せ人は話があるとしか言っていないのだ。
全ては勘違いした自分が悪い。
何とか平静を取り戻したアスバールが口を開く。
「死氷の亜神へリューズ。異教の神なので詳しくはありませんが、確かアスガルドに災厄を齎すと予言され、冥界へと追放された亜神です」
アスバールが彼女について知っているのは天界での伝承程度の知識でしかない。
天界に存在するアスガルドと呼ばれる地において、災厄を齎す者と予言され、追放された死の神。
それがへリューズであった。
「死氷の亜神、今はそう呼ばれてるのですね」
アスバールの説明に、へリューズは頷くと、ヤハールが気を利かせて淹れた紅茶を口元へと運ぶ。
「追放と言いますか、自ら出ていったのですけどね。あの地もまた、死の絶えない世界でしたから」
しかし、へリューズはアスバールの語る伝承を否定する。
実際は戦乱渦巻く彼の地は死が溢れており、優しき彼女には耐えられなかっただけのこと。
膨大な魔力を持ち、あらゆる生命が潰える様を知覚してしまう彼女は、その嘆きに触れる事で自らが暴走し、アスガルドの災厄となる事を防ぐべく冥界へと独り閉じ籠る事を選んだのだ。
へリューズが何事も無いかのように語るそれに、アスバールが僅かに心を痛めるも、しかしだからこそ疑問が浮かぶ。
「そんな貴方がどうして物質界の、それも彼の所に上がり込むような真似を?」
それは当然の疑問であった。
物質界もまた、死が溢れている。
王都とてかつては魔物の群勢に襲われ、多くの死者を出している。
彼女にとっての安息の地は冥界にしか無い、その筈だった。
「先も彼に語りましたが、彼の周りは少し不思議なのです。彼の周りには死が溢れているのにも関わらず、私は狂う事がない。異界の戦士だからでしょうか、どうにも彼の周りの死は些か私の知るものと異なっているようで、落ち着くのです」
彼女の語る感覚的な言葉。こればかりは彼女にしか分からないだろう。
冥界の神は、とかく褪せ人を気に入り、会いに来たのであった。
「とはいえ、私もその理由が知りたいのでお仕事を持ってきました」
へリューズが褪せ人の方へと向き直ると、あどけなさを感じさせる笑みと共に言い放った。
「依頼を受けてくださいますか? 報酬は私の加護です♪」
「既に嵐と雨の加護があるので間に合ってます!」
「えへ……まぁそう言わずに」
亜神の加護、という部分でアスバールが椅子から立ち上がる。
しかし、へリューズはにやけ面を浮かべながら褪せ人へと迫った。
褪せ人が思考を巡らせる。
実際、亜神の加護というのは魅力的である。
先のマンモンの迷宮において、アスバールが嵐の祈祷を強化したように、この世界の加護によっては褪せ人も更なる力を得られるのだろう。
魔王との戦いにおいて、間違いなく有用である。
不意を打ち、腐敗によって打ち倒したとはいえ、次に相見えた時に同じ手が通用するとは思えなかった。
褪せ人は相手を過小評価するつもりはない。
腐敗という手札を切った今、魔王を確実に殺すには手段が多いに越した事は無かった。
褪せ人がへリューズへと口を開く。
「……依頼の内容は」
「受けて頂けるのですね?」
「……むぅ」
褪せ人の言葉に、へリューズが嬉しそうに声を上げ、アスバールがむくれる。
アスバールとて、死の神の加護が有用なのは否定しない。
それはそれとして先に手をつけた英雄に他の神が加護を与えるのが気に入らない訳だが。
へリューズが褪せ人へと依頼の内容を説明する。
「近頃、一部の魂が何者かによってその死を歪められているのです。それも、私が認識出来てしまうほどに」
数多の死を知覚してしまう彼女に、個人の生命の終わりを知覚する事は難しい。
それこそ、彼女が親しい間柄か、強い力を持った神々でも無ければ。
しかし、そんな彼女にも分かるほどに死を歪め、魂を弄ぶ何者かが居る。
「不死者か」
「ええ、恐らくは死霊術師の類い。それもかなり悪辣なものです」
褪せ人の言葉にへリューズが頷く。
一口に死霊術師と言っても、その全てが悪というわけではない。
死者を蘇らせる以上、それそのものを悪徳と断ずる宗教もあるが、少なくともへリューズは死者達が納得しているのであればそれは許容される範疇である。
しかし、今回はそうではない。
邪悪な何者かがその死を歪め、死者達から安寧の眠りを奪い去っている。
それは心優しい彼女にとって、許される行いではない。
「ですので、その何者かを止めて頂きたいのです」
そう言って、へリューズがその邪悪な者を知覚した場所を告げる。
そこは、魔物達によって滅ぼされた国の、かつて都市として賑わっていた筈の場所であった。
「この地に強い嘆きを感じます。安寧を踏み躙られ、死者の尊厳を辱める者が恐らくここに」
「……良いだろう」
魔王軍との戦いに直接関係はないが、どの道破滅の力に関する情報の精査に時間を要する。
王子達も戻ってきていない以上、依頼を請ける事自体に問題ないだろう。
いずれにせよ、不死者を放置し、余計な邪魔が入る可能性は潰しておくべきだった。
準備が整い次第出向くことをへリューズへ伝えると、彼女は頷く。
「承知しました。その時は私も同行しますのでよろしくお願いしますね?」
そう言うと、へリューズは霧のようにその姿を消した。
卓に残されたアスバールがため息をつく。
「あなたも大概に妙なのに好かれますね……」
アスバールが褪せ人へと苦笑いと共に告げる。その妙なのに自身が含まれている事は棚に置いていた。
とはいえ、いずれこうなるだろう事は予想はしていたのだ。この男は、神が好む英雄に過ぎる。
そんなアスバールの言葉に、褪せ人は何も言わなかった。
好意を向けられる事に慣れていない、故にどのような反応をすれば良いのか未だに分かっていなかった。
そんな褪せ人の様子にくすりと笑いながら、アスバールが立ち上がる。
「何か作りましょうか? その様子だと何も食べていないのでしょう?」
「良いのか」
「勿論♪ 天界仕込みの亜神の手料理、そう食べられるものではありませんよ?」
褪せ人の言葉に機嫌を取り戻したアスバールの様子を見て、従者二人はそっとその場を離れた。
褪せ人に特製のマクルーベを振る舞い、食べる様子を楽しげに亜神は見つめるのであった。
そこはかつて、とある国の交易都市として栄えていた。
商売が盛んで、人々が絶えず行き交い、賑わいを見せていた。
しかし、今は最早見る影も無い。
魔物の襲撃により国は滅び、その都市もまた死に絶えた。
今も復興される事なく廃都としてその姿を晒している。
この世界において、ありふれた場所の一つ。
そんな場所へと褪せ人は足を踏み入れた。
「ここですね。今も、死者の嘆きが絶えず聞こえます」
へリューズが口を開く。
魔物に殺し尽くされ、最早埋葬する者も居ないその地には今なお死が溢れていた。
そんな死者の嘆きを感じ取り、へリューズが憂いの表情を見せる。
「依頼は果たす。この場を離れたらどうだ」
「頼んだ手前、そういう訳にもいきません。それに、この地の嘆きを鎮めるのも亜神としての私の役割でしょう」
彼女の神性に起因する苦しみを聞いた褪せ人がこの場所を離れるように促すが、へリューズは聞き入れなかった。
元来、彼女はお人好しな性分である。実際に訪れ、その嘆きを聞いてしまっては見過ごす事は出来なかった。
褪せ人も、へリューズの言葉にそれ以上何も言うことは無かった。これ以上は彼女の決意に対する侮辱であると考えた為である。
荒れ果てた街路を二人トレントに乗り、進む。
今回、この都市に赴いたのは褪せ人とへリューズの二人のみであった。
急に舞い込んだイレギュラーな依頼であり、目的地が相応に離れていたが故に、トレントに乗っての強行軍となった為である。
アスバールは口惜しそうな表情を浮かべていたが、彼女にも魔界での仕事が溜まっている。そちらを疎かには出来なかった。
街路を進んでいると、不意に遠くから爆発音が聞こえてきた。
褪せ人とへリューズが顔を見合わせ、そしてその音がした方へとトレントを駆けさせる。
程なくしてその音の正体が明らかになった。
一人の女が、スケルトンの群れを相手に戦闘を行っている。
「助けましょう」
へリューズの言葉に、褪せ人がトレントの速度を上げる事で応じる。
女は魔法でスケルトンを焼き払うが、いかんせん数が多すぎる。
魔力も相応に消耗しているのだろう、その戦闘は消極的であった。
そんな女が、トレントの蹄の音に気づき、振り向く。
「君達は……!」
こんな場所に人が来るとは思っていなかったのだろう。
女は目を見開き驚愕するも、すぐさま険しい表情を浮かべ、褪せ人達へと叫んだ。
「逃げろ! この地にはドラコリッチが——」
女が言い終えるよりも早く、褪せ人がスケルトンの群れへとトレントに跨ったまま突撃する。
静止するその声を無視し、スケルトンへとすれ違い様に剣を振るう。
くすんだ黄金の刃がスケルトンを一切の抵抗無く斬り裂くと、歪められた死を在るべき姿へと立ち戻らせる。崩れ去ったそれが再び動く事は無かった。
「その剣は……」
褪せ人の背よりへリューズがその剣を見て、目を見開く。
死を知覚する亜神であるが故に、この剣がどういったものかを理解したようだった。
しかし、その声に構うのは後回しである。
褪せ人が続け様にスケルトンを切り払う。所詮は下位の不死者。今更褪せ人が苦戦する相手ではない。
一刀のもとにスケルトンを斬り伏せ、すぐさま次のスケルトンへと向かう。
「くっ、やむを得ないか……!」
聞く耳を持たない褪せ人の姿に、女は声を上げる。
突如現れた乱入者、しかしその腕は立つようだった。ならば、この場を切り抜ける事こそが先決である。
そう判断した彼女はスケルトン達へと火球を放つ。
聖なる火球がスケルトンを燃やし尽くし、その聖性によって穢れを浄化する。
彼女もまた、不死者に対して有効な手立てを持つビショップであった。
褪せ人の助力も相まって余裕の出た彼女と共にスケルトンを殲滅するのには、それ程時間はかからなかった。
魂を失くし、唯の抜け殻と化した骸の山を背に、女は褪せ人へと歩み寄る。
「助力に感謝する。だが、君達は一体何の用で来たんだ?」
「この地の不死者を殺しにきた」
女の問いに、褪せ人が端的に告げる。
しかし、気になるのは寧ろ目の前の女の方である。
見たところ聖職者。こんな場所に供を連れず、ただ一人で居ることこそが疑問であった。
「目的は君達と同じだ。私はエターナー、この地の不死者を統べる者を滅ぼしにきた」
ビショップの女、エターナーが目的を告げる。
その出立ちからある程度の目的は察していたとはいえ、尚の事一人でいることに疑問を持つ。
「ただ一人でか」
「ただ一人で、だ。まぁ君達も他人の事は言えなさそうだが」
褪せ人の問いに肩をすくめてエターナーは言う。
無謀なのはお互い様だと、そう言っていた。
「この地の不死者について何か知っているのですか?」
へリューズがエターナーへと問い掛ける。
彼女の口振りから、この先にいる不死者について何か知っている様子だと踏んでの事だった。
「知っている、何せアレは私の国を滅ぼした仇敵だからな……」
へリューズの問いに、エターナーが答える。その目には復讐の炎が燃えていた。
「——死竜ドラコリッチ。かつて私達が討ち果たした黒竜が不死となって蘇ったのだ」
エターナーが褪せ人達へと語り始める。
魔物が物質界より溢れ出た時、魔物を率いてエターナーの国を襲ったのがその黒竜であった。
黒竜は強大であったが、多大な犠牲を払い、何とか討ち果たす事が出来た。しかし、あろう事か黒竜は不死者として甦る。
それこそがドラコリッチであった。
度重なる魔物の襲撃で疲弊したエターナーの祖国では、ドラコリッチを前になす術も無かった。
不死者が生者を蹂躙し、エターナーの仲間達も一人、また一人と屍を晒す。
そして、甦るのだ。かつての仲間が、その魂を弄ばれ、エターナー達に刃を向ける。
かくして、彼女の国は滅び去った。
復讐を果たしたドラコリッチは配下と共に国を根城に少しずつその領地を広げていく。
その魔の手が今生き残った周辺国へと伸びるのも時間の問題であった。
「故に、私はドラコリッチへと復讐を果たすべく、再びこの地を訪れていたのだ」
それは無謀な行いであった。
治癒と魔術を行使するビショップと言えども不死者達を率いるドラコリッチを相手にしては無駄死にに終わるだろう。
そんな褪せ人の考えを察してか、エターナーは苦笑いを浮かべる。
「無論、仲間は募ったとも。だが、周辺国とて魔物によって少なくない打撃を受けていた。自国を守るのも覚束ない中、死者の国に攻め入ろうなどと考えるものはいないさ」
誰しもが王国や帝国のようにはいかないという事だろう。
自国を守る事で精一杯、或いはそれすら叶わず、座して死を待つだけの国とて少なくはない。
そんな国を王国は救ってきたが、それでも手が足りていないのが現状であった。
「ドラコリッチが今日まで動かなかったのはこの地で不死の軍勢を作り上げる為だ。私一人では勝つ事は出来なくとも、不死の軍勢を少しでも減らし、時間を稼ぐ事が出来るはずだ」
ドラコリッチが大きな動きを見せていれば、王国も気付き、何らかの行動を起こしただろう。
だが、狡猾な不死の竜はそうしなかった。
来るべき時が来るまで、この地で潜み、不死の軍勢を作り上げようとしていた。
エターナーの悲壮な決意を聞いたへリューズは、褪せ人へと目を向ける。
その意図は明白だった。
「ドラコリッチはこの先に居るのだな」
「まさか挑むつもりか? やめておけ、黒竜の時でも国を滅ぼす一歩手前だったのだ。それが不死の力を手に入れたとあってはいくら君が強いといえども……」
エターナーが忠告混じりの言葉を言い終わるのを待つ事なく、褪せ人が口を開く。
「私は私の目的でこの地に居る。ドラコリッチは殺す。これは決定事項だ」
エターナーの忠告など関係無い。
もとより己はへリューズの依頼によってこの地に来ているのだ。
目的の相手が分かったのであれば、それで十分だった。
有無を言わさぬ褪せ人の言葉に、エターナーが鼻白む。
そんなエターナーへとへリューズが優しく語り掛けた。
「大丈夫ですよ、彼は強いので。何より、私も居ますからね」
「……? それはどういう……」
へリューズの言葉に首を傾げるエターナー。
しかし、褪せ人がこれ以上の問答は不要とばかりに歩みを進める。
「あ、待て! 話を聞かない人だな君は……!」
そんな褪せ人達を放っておく訳にはいかず、エターナーはその背を追うのであった。
「…………」
そんな三人の様子を、崩れた建物の陰から覗く者が居た事に、褪せ人達が気付く事は無かった。
「この先です。この先に歪められた死の音色が集中しています」
しばらく先を進んでいると、へリューズが声を上げる。
褪せ人は何も感じないが、死の亜神の言うことである。間違いはないだろう。
「この先には確か、広場があったはず……」
エターナーが自身の記憶から、その先に何があったかを思い出す。
変わり果てた街ではあるが、それでも面影はある。だからこそ、その荒れ様は彼女の心に重い影を落とした。
そして、彼女の言うように進んだ先には広場らしきものが見えた。
褪せ人が物陰に隠れ、遠眼鏡で様子を探る。
視界に広がるのは、無数の不死者。
「何だこれは、多過ぎる……」
エターナーが思わず声を上げた。
それはまさに死者の軍勢であった。
剣や槍を持ち、魔物に跨った武装したスケルトン。
それだけではない。オークやゴブリン、果てはデーモンといった多種多様な種族の死体が、その腐敗した肉を滴らせながら広場を這いずっている。
「困りましたね。これを成した者はこの先に居る筈なのですが」
へリューズが眉根を下げて言う。
ここを越えなければ、ドラコリッチには辿り着けない。
しかし、あまりにも数が多過ぎるのだ。
褪せ人が黄金の墓標を握ると、広場の方へと歩き出す。
「君、まさか行くつもりなのか……!?」
エターナーが慌てたように言う。
先程まで玉砕覚悟で来た女の台詞ではなかった。
へリューズもまた、そんな褪せ人の様子に口を開く。
「……行くのですね」
「ここで手をこまねいていても埒が開かない」
全てを殺す必要はない。
ただドラコリッチまでの道を切り開ければそれで良いのだ。
そうして、広場へと足を進めようとしていた褪せ人へと声が掛かる。
へリューズでも、エターナーでもない幼い少女の声。
「へぇ、この数のアンデッドでも怯まないんだ」
その声の先に居たのは一人の少女。
紫髪をツインテールにまとめ、片手にぬいぐるみを引き摺っている。
もう片方の手には人の頭蓋が乗せられた不気味な杖が握られていた。
「何者だ」
「ボクの事はどうでも良いでしょ? この先に行きたいなら、安全な道を案内してあげるよ」
不気味な笑みを浮かべ、此方を案内すると言ってのける少女に褪せ人は逡巡する。へリューズは何も言わない。エターナーもあまりに怪しい少女を警戒するも、判断自体は褪せ人に任せるつもりのようだった。
答えは決まっていた。
狭間の地でも、この地でも突然現れて何事かを言ってくる相手には慣れている。
此方を謀れば相応の報いを与えれば良い。それだけであった。
「案内しろ」
「ふふ、見込んだ通りだ、話が早いね。だけど、条件がある」
少女は不気味な笑みのまま、此方にその条件を告げた。
「——死者の王を、ボクのお父様を殺して欲しい」
今年もエイプリルフールで本編進んでる…