今ひとたび、英雄たらんことを   作:blue man

77 / 138
ダーク王子視点、超神級みたいな感じです。


最強の影

遠方の王国軍から突出して先陣を切る部隊。

はためくのは盾と剣をあしらった軍旗。王国軍の誇る精鋭、キャリー率いる騎兵隊である。

 

「王国軍より騎兵隊が出陣。このままでは此方の歩兵部隊とぶつかります」

 

「フライデーモンを出せ。上空より砲撃。奴らを散らせ」

 

ダークアンナの報告にダーク王子が冷静に指示を出す。

騎兵の突破力は脅威。このまま集団で歩兵部隊とぶつかればそのまま食い破られるのが必定。

故に、ダーク王子はフライデーモンによる砲撃を選択した。

面制圧により騎兵部隊を散らし、その突破力を削ぐ事を狙う。幾ら騎兵といえど、孤立してしまえばそのまま歩兵の数で押してしまえる。それが狙いであった。

 

だが、その程度は相手も想定済なのだろう。

王国軍の騎兵隊とは別方向、フライデーモンの進行方向を横合いから突くような形で森の奥から弓兵が現れる。

 

「……伏兵です」

 

「地の利は向こうにある。これもまた、当然か」

 

当然、アイギス神殿に防衛設備などありはせず、城や砦と違って攻め込まれる事を想定していない。

周囲を森に囲まれたこの地は、王国軍にとって不意を打つのに何一つ困る事の無い場所だった。

弓兵の矢がフライデーモンを襲う。無数の矢の雨が、フライデーモンの身を穿ち、傷を与えていく。

 

「だが、問題無い。そうだろう、ダークアンナ」

 

「はい、我らが主、ダーク王子様。この程度の損傷、私の力で癒すのに何の問題もありません」

 

ダークアンナの魔力が戦場を包み込む。

闇の者達を癒す波動が、傷ついたフライデーモン達を癒していく。

 

「弓兵に怯むな! 矢傷ならダークアンナ様が癒してくれる! 撃て、撃て!」

 

フライデーモンの砲撃が騎兵隊の集団へと放たれる。

地面を爆散し、土煙を上げる砲弾の雨に、騎兵隊は堪らず周囲へと散っていく。

 

「騎兵隊が後退していきます」

 

「……そのままフライデーモン達を前へ、王国の歩兵部隊へと攻め込め」

 

現在の王国軍は先の遠征によって主力部隊を欠いている。ダーク王子としては複雑だが、それでも好都合ではあった。

 

フライデーモンの進軍によってそのまま砲撃、その後にオーク達を突撃させる。

そう指揮すべくダークアンナへと口を開こうとして、異変に気付く。

 

 

 

 

「——いけるな、ディアボロス」

 

「無論だ、英雄」

 

黒き巨人が、動き出す。

 

 

 

「——ッ! 別働隊に動きが……これは!」

 

ダークアンナの視線の先、王国軍本隊より離れた位置に居た別働隊が動き出す。

黒き巨人、ディアボロスがその巨体を浮かび上がらせると、凄まじい勢いでフライデーモンへと向けて飛翔する。

 

「……!? ゴーレムか! 撃て、撃てぇ!」

 

フライデーモンが迫り来るディアボロスに気付くと、砲撃を開始する。

だが、放たれる砲弾に対し、ディアボロスは推進機による強引な挙動で砲弾の雨を抜けていく。

 

「速すぎる……!」

 

その巨体が問題にならない程に、ディアボロスは速かった。

ディアボロスは瞬く間にフライデーモンの一体へと肉薄すると、その手に持つ赤熱した砲を向ける。

そして、火砲が放たれた。爆炎と共にフライデーモンの一体が地に落ちていく。

 

「おぉ……! 申し訳ありません、ダーク王子様……!」

 

墜落するフライデーモンから視線を外し、次なる標的へとディアボロスは目を向ける。

 

「くっ、コイツを抜けさせる訳にはいかん! 我らデーモン、死にもの狂いで足止めしろ!」

 

目の前の巨人をダーク王子の下へ向かわせるわけにはいかない。

そう決心したフライデーモン達による、決死の防衛戦が繰り広げられる。

砲を避けられ、火砲がフライデーモンを撃ち落とす。

力の差は歴然。されどフライデーモンは食らいついていく。

 

「……ダーク王子様」

 

「分かっている……オーク、ゴブリンを前へ」

 

フライデーモンの覚悟を受け、ダーク王子はオーク達へと進軍を命じる。

圧倒的な数を誇るゴブリンと、屈強な戦闘民族であるオークが雄叫びを上げながら王国軍へと肉薄する。

 

数の上では此方が上。その上オーク達の士気も高い。

激突すればまず打ち負ける事はない。そのはずだった。

 

「そこまでですよ! ここより先を通る事は叶いません!」

 

——白亜の壁がせり上がる。

 

巨大な壁に遮られたオークとゴブリン。先頭を行く者達が立ち止まり、進軍が止まる。

その壁の上には妖怪の少女。

妖怪ぬりかべ。その力は魔物の群れを相手に遺憾無く発揮されていた。

オーク達は乗り越える事すらままならない壁を見上げ、しかしすぐさま雄叫びを上げ壁へと突貫した。

 

「我らオークを壁如きで止められると思うな! 叩き潰してくれる!」

 

「良いですね! やっぱりオークは頑張り屋が多くて素晴らしい!」

 

オーク達が壁に向かって武器を振り上げるのを見て、少女は飛び跳ねるようにして喜んだ。

敵として相対している事を考えれば舐められていると思われても無理もない態度であるが、少女にとって敵も味方も関係ないのだ。

善悪すら関係なく、彼女は努力という概念を尊ぶ。故に、オーク達の足掻きはどこまでも彼女好みであった。

 

「——ただし、此処は戦場である事をお忘れなく!」

 

「何を……!?」

 

妖怪の少女の言葉にオークが訝しむ。しかし、すぐさま異変に気付いた。

自身の足元が凍りついている。

周囲を見れば、他の同胞達も、ゴブリン達すら同様であった。

空気が凍り、痛みすら伴う冷気が戦場を支配する。

 

全身が凍りつき、身じろぎすらままならないオークが何とか首だけを動かし、見上げるとそれは居た。

壁の上、妖怪少女の横に立つのは冥界の神。

黒い魔女を思わせる装いの彼女が杖を振るう。

 

冥界の冷気が戦場を包み込む。

そして、壁の前に居たオークとゴブリンは一瞬にして氷像と化した。

 

壁で受け、魔法で薙ぎ払う。極めて単純な戦法であるが、役者が違う。

最早、オークですら壁を前に立ち往生する有様であった。

 

その有様に、ダーク王子は僅かに顔を歪める。

現状はどこまでも不利。とはいえ、それそのものは織り込み済み。

問題は、別働隊の存在である。

極めて少人数、されど一騎当千。

ダーク王子が率いるオークも、デーモン達も決して弱くはない。にも関わらずこの有様。

そしてこの期に及んで、最も脅威となり得る者が姿を現していない。

 

「……アレを使うぞ」

 

故にダーク王子は、己が出し得る最大の切り札をここで切る事を決意する。

己の身の内、闇の魔力を表出させる。

周囲の空気すら歪ませ、暗く輝く暗黒の力が戦場を覆い尽くす。

それはかつて暗黒騎士団長が使った力と似て非なるものであった。

 

 

 

 

「これは……」

 

上空でフライデーモンを撃ち落としていたディアボロスが異変に気づく。

 

出力が上がらないのだ。

先程までと比べ、明らかに威力の落ちた砲撃。そして推進機による機動すらも、その力を減じている。

原因は周囲に広がる闇の魔力。それがディアボロスの出力上昇を阻害し、著しく弱体化させている。

 

「おお、これはダーク王子様の……! やれる、やれるぞ!」

 

弱体化するディアボロスに対して暗黒の波動を浴びたデーモン達は大きくその力を増していた。

依然としてディアボロスとフライデーモンにおける力関係は変わらず、されど先程の絶望的な差とは比べるべくもない。

今一度、フライデーモン達は黒き巨人へとその砲を構えるのであった。

 

 

 

そして、暗黒の波動は地上をも覆い尽くす。

 

ヘビーアーマー達が自身の鎧の自重に耐え切れず膝を突き、歩兵達が剣を取り落とす。

魔術師は魔術の行使を阻害され、大きくその威力を減じさせる。

 

対してゴブリンとオークは暗黒の波動により強化され、その勢いを増していた。

闇の魔力が力を与え、ゴブリンとオークに変化が訪れる。

体表は黒く、そしてより屈強な肉体へと変わっていく。

それは、それぞれの種族における上位種への進化、クラスチェンジである。

 

「そんな、戦場でクラスチェンジなんて……!?」

 

戦場の誰かが悲鳴を上げる。

それ程までにあり得ない出来事だからだ。

戦場の中で急速に進化し、より上位の力を手に入れる。それも戦場の全ての魔物がである。

それはまさに、奇跡に等しい。

 

これこそが暗黒の波動。

敵を弱体化し、味方を強化する。

ダーク王子の持ちうる、最大の切り札であった。

 

「くっ、負傷者は下がりなさい! 攻城戦です、此方が無理に攻める必要などありはしません!」

 

王国軍を指揮するアルティアが叫ぶ。

戦況が悪化しようとも、戦場の主導権は此方が握っている。

無理な攻めを強いて兵を消費するのは将のやる事ではない。王国軍ならば、尚更であった。

 

問題は、癒し手達も暗黒の波動の影響下にあるという事。

王国の戦いはここだけではない。

次なる戦を見据え、消耗を嫌う王国軍と背水の陣を敷き、捨て身の覚悟で臨むダーク王子軍。

それもまた、戦況が押し込まれる一因となっていた。

 

一方に傾いていた天秤が、もう片方へと傾いていく。

だが、その強大な力に代償が無いわけではない。

 

「カハッ……」

 

ダーク王子が膝を突き、喀血する。

身体がひび割れ、激痛が走る。

強大なまでの力の行使は、ただでさえ残り少ない命を使い潰すに余りあるもの。

それでも彼が倒れていないのは、ダークアンナの闇の癒しがその生命を繋いでいる事と、他ならぬ矜持故だった。

 

「ダーク王子様!?」

 

「騒ぐな、覚悟の上だ」

 

駆け寄るダークアンナを制し、ゆっくりと立ち上がる。

こうなることは承知の上。もとより尽きる命である。

ダーク王子が静かに前を見据える。

 

そこには明らかに動きを鈍化させた王国軍と、それを追い詰めていくオークとゴブリン、そしてリッチ達が居た。

 

暗黒の波動を受けてなお魔物の軍勢を相手にしてのける英雄達も見られるが、それも時間の問題だろう。

英雄達とて、弱体化の影響からは逃れられない。

 

状況は極めて有利。

このまま押し通る。ダーク王子が自身の臣下へと指揮を取ろうとした、その時であった。

 

戦場に、雷鳴が鳴り響く。

幾本もの雷撃が、戦場の魔物達へと降り注ぐ。

暗黒の波動の影響化にある魔物達をも焼き焦がし、その威力を遺憾無く見せつけた。

 

それは神雷。

女神アイギス、アダマスと並び真なる神と称された女神の象徴たる力。

 

——ケラウノスの雷

 

それを成した男は神器を手に、ただ真っ直ぐにダーク王子を見つめていた。

 

「……この状況でオークとゴブリンを一掃するなんて」

 

「俺の原型だ、それくらいやってもらわなければな」

 

圧倒的な力にダークアンナが戦慄するも、ダーク王子は怯まない。

この程度の逆境、跳ね除けて貰わなければ困るのだ。

己の原型、英雄の王なのだから。

 

待ちに待った決戦の時、それが近付いている事を両者は予感する。

されど未だ両者の距離は開いていた。

 

王子の下へと、魔物達が押し寄せる。

先の雷、それを成したのがあの男なのは一目瞭然。放置しておくはずがない。

ダーク王子へと迫る脅威に、魔物達がそれを振り払わんと猛進する。

 

だが、そんな覚悟を決めた魔物達が王子へと辿り着く事は無かった。

魔物達の前に、鎧の男が立ちはだかる。

 

重装に大盾、握るのは黄金の逆棘が巻き付いた異形の大剣。

魔物の大軍に、一人の男。

いとも容易く踏み潰せるだろうと思うも、その男から発せられる威圧感は、先の妖怪の壁と比べてもなお強い圧迫感を感じさせるもの。

 

男が地面に大剣を突き立て、深く差し込んだ。

劫罰の逆棘が蠢き、地中で開かれる。

そして、広い範囲に伸ばされたそれが地上へと飛び出した。

 

足元より飛び出した逆棘に、対応出来た者は居ない。

次々と刺し貫かれ、臓腑を聖性によって焼き溶かされる。

 

串刺しの魔物達から流れ出る血が大地を覆い尽くす。

一瞬にして辺りを地獄絵図に変えた男は、無言で大剣を引き抜くと、ゆっくりとアイギス神殿へと歩みを進める。

 

ただの一撃、この男が動き出しただけで戦場の空気が塗り変わったのを感じた。

 

「……もう少しまともな武器は無かったか?」

 

「お前のやっていることと変わらん、範囲攻撃だ」

 

「ケラウノス様に怒られろ」

 

暗黒の波動の中、軽口を叩きながらも二人が神殿へと向かっていく。

迫る魔物を斬り伏せ、雷で薙ぎ払う。

立ち止まる事も、振り返ることもなく英雄二人は突き進む。

 

そんな英雄達の姿は兵士達に力を与える。

押し込んでいた戦況が、再び押し戻されるのを感じる。

 

これこそが英雄、人々の希望の象徴。

 

 

 

「そこまでだ、英雄」

 

アイギス神殿の前、番人の如く一人のオークが立ちはだかる。

大剣を片手に、威風堂々と仁王立ちするそのオークは巨大だった。

ハイオークと比してなお屈強な肉体、そして全身に刻まれたその傷は歴戦の証左。

 

 

彼は、元はただの歴戦のオークであった。

だが、ダーク王子への忠義、そして暗黒の波動により彼の才覚は覚醒したのだ。

その姿を見たオーク達は呼ぶだろう。

偉大なる戦士、オーク達の王——オークロードと。

 

「先へ行け」

 

「……分かった」

 

褪せ人の言葉に、王子は何も言わなかった。

暗黒の波動の中、ただ一人で相手にするのは危険なのは明白。

だが、この男がそう言うのだ。ならば、勝つのだろう。

 

王子がアイギス神殿へと向かう。

脇を通り過ぎる王子に、しかしオークロードは何も言わなかった。

ただ、その瞳に映るのは、ただ褪せ人一人。

 

「——かつて、俺は一度だけ戦場でお前を見た事がある」

 

徐に、オークロードが口を開く。それは、かつての戦場の記憶であった。

オークを前にしてまるで揺るがぬ重装の騎士、それは今も彼の脳裏に焼き付いて離れない。

 

「覚えていないだろう。俺は有象無象のオークの一人で、お前達に負け、無様に生き延びただけの事」

 

苦い敗北の記憶、だがそれを語るオークロードの声音は穏やかだった。

静かにオークロードが大剣を構える。

 

「——憧れたんだ、非力な筈の人間に、力強きオークの戦士が」

 

大剣を構えたオークロードの身体より闘志が膨れ上がる。

何処までも真摯に戦いに臨むオークの、その一つの到達点。それが彼だった。

 

そんなオークロードに対して、褪せ人は無言で大盾と大槌を構えた。

かつて戦場で見た揺るぎない城砦を思わせる姿。

そんな男の静かな敵意が、ただ一人己に向けられている。

オークロードは、それが堪らなく嬉しかった。

 

「死合おうか、英雄。ここが、この戦場こそが俺の魂の場所だ!」

 

オークロードは笑う。

恐らくは、これ以上の戦場は無いだろう。

今この時だけは、主君への忠義もなく、ただ己だけの為に戦いに臨んでいた。

 

 

 

 

 

アイギス神殿の奥、王子がただ一人歩みを進める。

神殿内部が荒らされた様子はない。

魔物達が襲ってくる様子もありはしなかった。

 

静謐な空間、ただ王子の足音だけが響く。

 

そして、女神アイギスの像のある礼拝堂に辿り着く。

そこに居たのは、己と同じ顔をした男と、己の信頼する政務官と同じ顔をした女。

光と闇、鏡写しの二人が睨み合う。

 

「来たか、オリジナル」

 

「……」

 

ダーク王子の言葉に、王子は何も返さない。

互いに初対面、されど互いに感じ入るものがあるのは確かだった。

 

「俺は、お前を殺す為に生み出された。そして実際に、そのつもりでこうしてアイギス神殿を占領し、お前を誘き出した」

 

それは、ダーク王子自身の物語。

生まれて幾許も経っていない、極短いそれは、しかしこの男にとっての一生である。

 

「だが、俺はこの世界を愛すると決めた。魔物も人も、その全てを俺のものにすると決めたのだ」

 

寿命など、立ち止まる理由にはなりはしない。

それが己の望みだと自覚した時から、ただそれだけの為に戦いを始めた。

だが、それは同時に、先のない者が叶えて良い願いでもない。

 

「故に、俺は証明しよう。この先の未来、お前達が勝ち続けるというのならば、そんなお前達を倒した俺こそが最強なのだと」

 

これより先、この蒼空の下を守り抜く男達より己は強いのだと、ただそれだけを証明する為に男は戦う。

 

ダーク王子が剣を構え、溢れんばかりの魔力を立ち昇らせる。

それを受け、王子もまた、静かに剣を構えた。

 

「行くぞ、俺のオリジナル」

 

「来い、俺の影よ」

 

二人は同時に駆け出した。

光と影、黒と白。両者の剣が、まるで鏡写しの如くぶつかり合い、鍔迫り合いになる。

 

「……偉大なる闇の王、我が愛しの貴方、ダーク王子様。どうか、悔いなき戦いを」

 

二人の死闘を、ただ一人、ダークアンナだけが見つめていた。




オークロードは帝国大戦のオークロードとは関係ないです。
ただの隠れファンボーイがハッスルし過ぎてワープ進化しました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。