今ひとたび、英雄たらんことを   作:blue man

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エピローグです…エピローグってこんな感じなんですかね。


新たな時代へ

 

魔王の滅亡の報は、王国に届くや否や、瞬く間に世界を駆け巡った。

闇に染まっていた空は晴れ、漂っていた瘴気も、巻き起こる天変地異も静まっていた。

その事実は長きに渡る魔王との千年戦争の終焉であり、晴れ渡る蒼空はこれより始まる新たな時代を予感させた。

 

王子達が王国へ凱旋し、すぐさま祝勝の宴が王都で広く執り行われる事となった。

街を巻き込んだお祭り騒ぎは数日に渡って行われ、それだけ人々にとって歓迎すべき出来事であったことは、想像に難くない。

 

王城では、そんな街の騒ぎとは別に仲間達だけでのささやかな宴会が開かれていた。

とはいえ、この戦いで関わった者達は多い。ささやかとは言うものの、多くの人々が行き交っていた。

そんな宴会の最中、煌びやかなドレスやスーツを身に纏い談笑する者達の中に一人壁際に立つ男が居た。褪せ人である。

 

「……」

 

普段の鎧姿とは異なり、王子の見繕った儀礼的な服装に身を包み、何をするでもなく会場を眺める。

その視線の先では、王子が仲間達と親しげに談笑している。しばらくすればまた別の仲間達の下へと忙しなく挨拶回りをしているのが見て取れた。

 

褪せ人へと声を掛ける者は居ない。親しい者達ならば兎も角として、大抵の者は鎧姿の大男という姿しか知らないのだ。壁際で暇そうにしている大男の事など誰も気にも留めていない。

普段ならば鎧姿でないことに不満を覚えるところだが、今回ばかりはこの服で正解だった。

 

壁に背を預けながら、小さく息を吐く。王子から勧められて出席したものの、やはり場違いである感は拭えない。

このまま何もなければ早々に出ていこうかと考えているところに、一人の女が近付いてくる。アスバールだった。

 

「退屈そうにしていますね?」

 

胸元を大きく開き、黒と紅を基調とした艶やかなドレスを身に纏った彼女が褪せ人の姿を見つけて笑みを浮かべると、隣へと立つ。

 

「珍しく貴方が来ていると聞いて、随分と探しましたよ」

 

「……実際、あまり興味はない」

 

貴族への顔つなぎも、接待も必要無い。精々が酒と料理くらいか。

褪せ人の様子にくすくすと笑いながら、アスバールは褪せ人にグラスを手渡し、口を開く。

 

「では、少しお話に付き合ってくださいますか、英雄様?」

 

「……魔界総帥にそう言われれば、否やはない」

 

差し出されたグラスを受け取り、乾杯する。作法も何も知らない身としては、気兼ねなく話せる相手と居た方が気楽なのは事実だった。

アスバールと話す内容はもっぱら魔界の展望。そして解決すべき課題の数々。こんな場でも仕事の話になるのは、彼女の生来の真面目さからか。

 

眉根を寄せ、嘆息するアスバール。

 

「問題は山積み。まずは魔界の民達の意思、その方向性を定めないとですね」

 

オークにダークエルフ、そしてデーモン、竜人。多種族からなる魔界という地は、領民の中でもとにかく価値観の違いから軋轢が生じやすい。

着実に支配領域を広げるアスバールではあるが、それでもこの問題は如何ともし難かった。

 

「前途多難だな」

 

「ええ、本当に……実は、一つだけ効果的な策は思いついているんですけどね」

 

「ほう?」

 

褪せ人の言葉に溜め息をつき、そして覚悟を決めたようにアスバールが切り出した。

多種族の意思の統一、彼女の考える策に褪せ人は純粋に興味があった。

 

「魔界に強い影響力を持つ殿方と私が婚姻関係になるのです。つまりは、政略結婚ですね」

 

「成程……」

 

政治については然程詳しい訳ではないが、婚姻関係が一つの手段になり得るというのは理解出来なくはなかった。

狭間の地においても赤髪の英雄と満月の女王の婚姻が、王家の対立関係を解消するきっかけになったという事を褪せ人も知っていた。

しかし、そこで疑問が生じる。

 

「相手はどうする」

 

多種族に強い影響力を持つ、力ある人物。果たしてそのような人物は居ただろうか。

魔界の影響力という意味では各種族の長の誰かと結ばれる事になるのが自然だろうが、生憎とこの世界の指導者というのはどうにも女性であることが多い。

或いは、性別の壁など些細なものなのかも知れないが。

そんな褪せ人の考えに、しかしアスバールは首を振る。

 

「いいえ、居るんです。オークやダークエルフに力を認められ、デーモンから恐れられ、さらには物質界の中心である王国とも繋がりが深い……そんな殿方が」

 

加えて魔界総帥はその男に命を救われているのだ。筋書きは完璧、異を挟む余地もないし、仮にあっても権力で握り潰す。

思わせぶりに視線を送るアスバールに、褪せ人は僅かに考え込み、やがて口を開く。

 

「それは——」

 

「——褪せ人様!」

 

しかし、褪せ人の言葉が続く事は無かった。褪せ人が言葉を終えるよりも早く、褪せ人へと呼び掛ける声。声の主へと意識を向けると、そこに居たのはイリスだった。

 

「もう、来てるのでしたら言ってくれれば良いのに!」

 

そう言ってイリスが褪せ人の手を抱えるようにして取ると、朱に染まった頬で離れたテーブルを指差す。酒のせいか、いつになく積極的だった。

 

「他の方もあちらにいますから、向こうで話しましょう? アスバール様も!」

 

「……そうですね。では、あちらで話しましょうか」

 

アスバールの言葉を聞くと、イリスは褪せ人の手を引いて歩き出す。

その際に彼女は一瞬アスバールの方へと振り返ると、微笑みと共に片目を閉じて見せた。

その意図は明白、それを受けてアスバールも笑みを深める。

 

「やってくれますね……」

 

王国の聖女は、思いの外強かなようだ。大人しい娘だと思っていたが、これは侮れないかもしれない。

とはいえ、些か性急過ぎた自覚はあった。

今の彼には、魔界元帥の伴侶という立場は重いだろう。彼女としても、英雄の羽ばたきの邪魔になるのは本意ではない。

まだまだ英雄譚は続くのだ。その最後を自身の側で飾れればそれで良い。

 

「その為にも、今の内に出来る事はやっておきたいですね」

 

やる事は多い、色んな意味で。しかし、そんな毎日も悪くないと、そう思いながら彼女も褪せ人達の後ろをついていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな宴会が行われた日の夜。

 

その酒場は、異様な緊張感に包まれていた。

常ならば仕事終わりの荒くれ者達が陽気に騒ぎ立て、思い思いに過ごしているその場所は、しかし今夜ばかりは話が違った。

 

原因は、カウンターの席で一人グラスを傾ける男。餓狼の如き眼と銀の髪が印象的だった。

 

白の皇帝。帝国における最強の肩書きを持つ男が、王国の場末の酒場で酒を飲んでいたのだ。

偽物を疑う者は居ない。ただそこに居るだけで張り詰めたような圧を感じさせる男を、一体誰が偽物だと思うのだろう。

 

誰かを待っているように無言で酒を飲み続ける。荒くれ者達が固唾を飲んで見守る中、やがて、一人の男が酒場の扉を開いた。

その音に酒場の男達は一斉に振り向き、その姿を見ていよいよ荒くれ者達の緊張は頂点に達した。

 

その男を王国で知らぬ者は居ない。人も魔物も区別無く、その圧倒的な力で踏み締め歩き続ける者。

王国の窮地に颯爽と現れ、たちまちにその名を轟かせ、王国の王子の信頼厚き英雄——褪せ人。

 

無機質さを感じさせる目で周囲を見遣り、やがて目的の男をカウンターに見つけたのか、歩みを進めると隣に座る。

 

一言酒の名を呟き、無言。やがて店主が酒を運んでくると、またしても無言で口へ運ぶ。

両者の間に会話は無い。話の一つでもしてくれれば気が楽なのにと、荒くれ者達はそう思わずにはいられなかった。

 

そうして場末の酒場が、葬式会場の如く静まり返る中、徐に皇帝が口を開く。

 

「……一度、お前とは話をしてみたかった」

 

グラスに目を向けたまま、皇帝は言葉を続ける。

 

「異界の英雄。女神に呼び出され、この世界の命運を託された男。お前が一体何を思ってこの世界を救ったのか、気になったのだ」

 

白の皇帝。望まずして手に入れた帝国の頂点。しかし、先帝より託されたその地位を、その責任を果たさんと今日まで戦い続けてきた。

だからこそ、興味を引かれた。ただ女神に呼び出され、救えと願われただけの男は、何故これ程までに世界のために戦い続けたのか。

 

皇帝の言葉に褪せ人はしばらく押し黙り、やがて口を開く。

 

「ただ、燃え尽きた灰に火を灯されただけのこと。使命無く、腐り落ちるのを待つだけの男に、生きる理由が出来ただけだ」

 

大層な理由などない。やるべき事を見失った男に、目的が与えられただけ。ならば、ただそれを全うするべく前に進むのみ。

その答えを受けて、皇帝が口を開く。

 

「ただ、それだけか……いや、或いはだからこそ進めるのか」

 

褪せ人の答えにどう思ったのか、皇帝の表情からは伺い知れない。だが、少なくとも興味を引いたようだった。

皇帝はグラスの酒を飲み干すと、再び酒を注文する。

 

「俺もお前も、互いの事は何も知らないが……かつて、あの男は初めて俺と酒を飲んだ時に言ったのだ」

 

あの男、この二人の間でそれが誰を指しているのかは明らかであった。

再び運ばれた酒を手に、皇帝が口を開く。

 

「『これから知れば良い』と……褪せ人よ、今晩は付き合ってもらうぞ」

 

「良いだろう」

 

そう言うと、褪せ人もグラスの酒を飲み干した。

そこからは酒のおかげか、口数も少しずつ増えてくる。互いの得物の話や戦い方。皇帝には妹が居ること。亡き先帝との思い出話。

 

すっかり夜も更け、そろそろ終いかと思い始めた時、扉が乱雑に開かれる音がした。

 

「よぉお前ら! 飲んでるかぁ!?」

 

声を上げたのは山賊頭のモーティマ。別の店で飲んでいたのだろう。すっかり出来上がっている。

そして、モーティマと肩を組んで入ってきたのはこの国の最高責任者、英雄王を継ぐ者。王子であった。この男もまた、かなり酔いが回っているようだった。

 

「ん? 皇帝と褪せ人じゃないか。奇遇だな、こんなところで」

 

「ケッ、どうせ格好つけて飲んでたんだろう? 洒落臭ぇ、酒ってのはなぁ、馬鹿騒ぎしてなんぼなんだよ!」

 

山賊らしい理屈で豪快に酒を飲むモーティマ。それを見て、皇帝が立ち上がる。

 

「ここからは、俺は場違いらしい」

 

皇帝がカウンターに金を置き、その場を立ち去ろうとする。

 

「——待て」

 

褪せ人の声に、皇帝が足を止める。カウンターに置かれるのは、木樽のジョッキに並々と注がれた酒。

常の無表情に、しかしどこか挑発するような視線を送り、褪せ人が口を開く。

 

「今晩は逃さん。心配するな、潰れても送ってやる」

 

「……ほう、俺が逃げるだと?」

 

皇帝の餓狼の如き眼が細まる。そして、再びカウンターへと座るとジョッキを乱暴に持ち上げる。

褪せ人の挑発に答えるように皇帝は口の端を上げた。

 

「俺を煽ったのだ。簡単に潰れてくれるなよ、英雄」

 

「無論、最後まで付き合ってやる」

 

先とは打って変わって乱暴な所作で酒を飲む皇帝。或いは、これもこの男の一つの側面なのかも知れない。

そう思いながら、褪せ人も酒を呷る。

 

こうなれば、周囲の荒くれ者達も騒ぎ立てた。

男達の馬鹿騒ぎは夜が明けるまで続いたという。

 

翌朝、いつも通りにミレイユ達に小言を貰う王子と、皇帝の珍しい姿に戸惑うレオナ、イリス達に諸々問い詰められ顔を歪める褪せ人の姿があったという。

 

 

 

 

 

 

 

魔王の死は、間違いなく世界に平穏を齎した。

しかし、同時にそれは、新たなる戦乱の種を育てる事となる。

 

深き海の底、玉座に座る亜神は上機嫌に笑う。

 

「グワッハッハッハ! 溺れる地の民め、やりおったわ!」

 

豪快に笑うその亜神。果たして、彼がこれ程に機嫌が良いのはいつぶりだろうか。そう思いながら、一人の女が声を掛ける。

 

「随分とご機嫌ですのね、お父さま?」

 

「おお、メシナか! くく……これが笑わずにいられるものか」

 

自身の娘の言葉に、亜神はそれでも笑いを抑えられない様子だった。そして、メシナへと口を開く。

 

「ガリウスが死んだぞ。溺れる地の英雄達の手で。これ程愉快な事はない!」

 

「まぁ」

 

メシナが口に手を当てて驚きを示す。魔王ガリウスの死、それを人間の英雄が成したという事実は到底信じられない出来事であった。

だが、目の前の亜神が嘘を言うはずもない。

玉座より亜神が立ち上がる。手に持つ三又の矛が亜神の昂りに呼応して輝いていた。

 

「こうしてはおれん、我らも動かねばなぁ!」

 

「……ついに、始まるのですね」

 

メシナが口を開く。深海の底、荒ぶる海神は今再び戦乱に身を投じようとしている。

覇気を撒き散らしながら、亜神は世界へ向けて、人知れず告げる。

 

「——世界は争いに満ちるべきだ。奪い合い、殺し合う。それこそが世界を輝かせる」

 

それはこの亜神の持つ絶対の価値観。停滞も安寧も不要、世界を回すのは争う意志と、他者を踏み躙ってなお前に進もうという欲望。

 

「さぁ、戦争だ。蹂躙し、勝ち取り、全てを大海としよう!」

 

——亜神ポセイオス

 

深き海の底、かつて海を支配していた絶対の覇者が、今再び動き始めた。

 

 

 

 

 

 

死者の国、冥界。

あらゆる者が行き着く終着点であるそこに、その庭園はあった。

そこに死者達は居ない。かつて女神アダマスが作りしそこは、とある亜神が眠りについていた。

 

そんな庭園に、亜神ハイドースは居た。

 

「——憂いも後悔も、後少しで終わる」

 

誰に向けるでもない静かな呟きであった。儀式の準備は滞りなく進んでいる。己の宿願が果たされる日は、そう遠くはない。

 

「——愛を。哀れなる人の子らに、離別の苦しみなき世界を」

 

目指す世界は苦しみなき世界。生まれなければ、死も訪れない。ただ静かで、安寧に満ちた世界。

ハイドースの理想であり、そしてこの地に眠る己が伴侶の願いでもあった。

 

ハイドースが歩き始める。最早止まることは出来ない。理想の世界の為、愛する伴侶の為に。

 

「もう一度お前をこの手に抱けるのならば、世界全てを敵にしても構わない」

 

決意を新たに突き進むハイドース。そんな主の様子を、庭園の庭師がただ憂いを帯びた目で見つめるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

天界、オリュンポス最上層。

 

天空の亜神は、ただ玉座に座して世界を見下ろす。

 

「——頃合いか」

 

魔王の死を契機に、各地の亜神達が胎動を始めた。ならば、此方も動かなければならない。

 

「世界を……亡き創造神の意思を継ぐのはこの余である」

 

世界に相応しいのは、我欲のままに闘争を求める海神でも、その優しさ故に大局を見据えられない冥界の神でもない。

己こそが、この蒼空の下、神なき世に君臨するに相応しい。

 

「目指すは争いなき世界。諦観と停滞の満ちた世界で、ただ民達は安寧に抱かれていれば良い」

 

神の被造物に——人に意思など不要。神の導くまま、ただ生まれ、ただ死ねば良い。

神の意思の下、人は平穏に歯車としての生を終える。

 

「貴様も、そう思うだろう?」

 

そこで亜神が目を向ける。そこに居たのは、一人の男。輝かしい鎧に身を包んだ、薔薇色の髪の美男子。

 

「さて、どうでしょう。私はただ、世界の味方であるだけです」

 

亜神の言葉に、男が答える。

はぐらかすように、しかし言外にお前の味方ではないと公言するその男に亜神は愉快げに笑った。

この男くらいだろう、己の居城に自由に出入りしておきながら、そのような事を宣うのは。故に、この男は己の友たりうる。

 

「良いだろう、よく考えておくがいい。もし余につくというのであれば穢れなき蒼空を——理想の世界を貴様に見せてやろう」

 

ゆるやかに玉座を立ち上がる。

世界に調和を、人に秩序を、神の掲げる理想の名の下に。

 

——亜神ディアス

 

遥かな蒼天より地上を見下ろし、静かなる神はその手を伸ばした。

世界を、再び神の手のもとへ導くために。

 

魔王と女神の織り成した千年の戦いは終わりを迎え、世界は新たな時代に歩みを進める。

だが、時代の終わりとは新たな争いの幕開けであった。

 

——新たなる千年戦争の、始まりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都ローデイル。

女王マリカが健在だった頃のかつての栄華は既になく、ただその地は焼けた黄金樹と灰都と化した街が広がっていた。

 

その地の最奥。黄金樹の足元、荒れ果てた玉座。

そこに座していた者は、もう居ない。

 

そんな空っぽの玉座の側、夜を纏うようにして佇む女。

青白い、陶器のような肌を雪のように白い魔女装束で覆っている。

 

それは、この地に残された神の血族、最後の神人。そして、己が運命に抗いし者。

その名を知る者は、呼ぶだろう。

 

——魔女、ラニ

 

「——勝手なものだな。結局はお前も、この地を捨てているではないか」

 

凍てついた無表情で、ラニが呟く。どこか拗ねたような声音で吐かれたその言葉を、聞き届ける者は居ない。

 

身勝手な男だと、そう思った。結局この地を捨てるのであれば、己と共に在れば良かったものを。

 

そう考え、それは違うと自嘲する。あの男は、己の為すべきことを為したのだ。しかしその結果、この地での居場所を他ならぬ自身の手で失くしてしまっていた。

 

不器用なものだ。或いは、だからこそ惹かれたのかも知れないが。

つくづくカーリアの女というのは、面倒な男に振り回される運命らしい。

 

「まぁ、私が一番マシだがな」

 

恐らくは母も、叔母も同じ事を言うのだろう。そんな言葉と共に、ラニは玉座に背を向け、踵を返す。

そして、誰も居ない玉座へと、静かに告げた。

 

「——お前は、お前の夜を行け。私は、ただお前の居ないこの地に寄り添おう」

 

精々見届けてやろう。あの男の掲げた律の世界を。もし、その輝きに翳りが生まれたのならば、この手でその世を終わらせるのも、最後に残された神の務めか。

 

決意を新たにラニが玉座の間を歩き去る。最早、振り返る事もない。

褪せ人が王になり、掲げた律。その始まりと終わりを見届けたのは、ただ一人。

 

霧の彼方、狭間の地で、後に彼女はその時代をこう呼ぶだろう。

 

——律の時代、と。

 

 

 




当初の目標だった魔王討伐まで辿り着く事が出来ました。
これも皆さんからの感想、評価、ここすき等々のおかげです。

引き続きこんな調子で続いていきますので、よろしければお付き合いください。
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