今ひとたび、英雄たらんことを   作:blue man

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英雄王王子の戦闘どうしましょうね。
やっぱり戦場に椅子持ってくるのかな…。


新たなる千年戦争
目指すは竜の息吹


 

「はぁっ……! はぁっ……!」

 

魔界の大地を、デーモンが駆ける。

しきりに後ろを気にしながら、まるで何かに追い立てられるように走るそのデーモンの顔は、怯えの表情を隠せていない。

 

「クソッ、何でこんなことに……!」

 

勝ち馬に乗った筈だった。偉大なる魔王の復活。物質界が魔界の瘴気に飲まれる様を見て、世界はデーモン達の天下となる、そんな確信があった。

だが、信じられない事に魔王は物質界の英雄に討たれ、魔王軍は解体を余儀なくされた。

異界召喚士は死に、クラールフは裏切った。ゴブリンクイーンとガオレオンもまた、魔王の死を境に行方をくらませた。

 

残されたのは、最早残党とも言えない烏合の衆。そこで彼は魔王軍に見切りをつけた。魔界の名のある上位デーモンの下に加わり、魔界というデーモンの天下の下、おこぼれを預かる立場へと返り咲いた、その筈だった。

 

——あの男が来るまでは。

 

最早自分が何処を走っているのかも分からない。

無我夢中で走り、ただ迫る恐怖から逃げ惑う。

飛ぶ事は出来ない。あの恐ろしい男に気付かれれば、どれ程に離れていても狙いを定めて撃ち抜いてくる。既に仲間達はそれでやられた。

 

どれ程走ったのだろうか。遠目に、妙なものが見えた。

白い、小柄な少女だ。馴染みのない装束。あれは確か、東の国と言われる物質界の国の服だったか。以前、弄んだ人間の女のそれに何となく似ている。

 

あまりに場違いな少女を見て、デーモンは走りながら選択を迫られる。

相手は無防備に歩いている。人質に使えるだろうか。そこまで考えて、首を振る。あの男に人質など通用する筈も無い。

拳を握る。誰であろうと、今の自分の道を塞ぐのであれば排除するのみ。

怯えと焦燥感が、彼に短絡的な選択を選ばせた。

 

「死にてぇのか、どけ!!」

 

走りながら、少女を殴りつけようと拳を振り上げる。

デーモンの叫び声に気づいたのか、少女は顔を上げて此方を見ると——笑った。

 

「……ッ!?」

 

その異常さに、自分が誤った選択をした事を悟るが、最早遅い。振り抜かれた拳が少女へと迫る。

だが、その拳が少女へと当たる事は無かった。

代わりに殴りつけたのは、真っ白な壁。

余りにも硬質なその壁に全力で振り抜いた拳が衝突し、拳にまるで砕けんばかりの激痛が走った。

 

「がああぁぁあ!?」

 

突然の痛みにデーモンは腕を押さえて悶え苦しむ。何が起きているのか理解出来なかった。一体どうして己は壁を殴りつけている。さっきの少女は、一体どこに行ったのか。

 

あまりの痛みに脂汗を流しながら壁を見る。まるで地面から生えてきたように聳え立つその壁は、荒廃した魔界の大地にそぐわない程に白く美しいもの。そんな壁を、己の砕けた拳が飛び散らせた鮮血で彩っていた。

 

「ぬりかべを殴るなんてガッツのある人ですね! その頑張りは評価します!」

 

壁の上、明るく無邪気な少女の声が響く。

見上げれば、壁の上、先程の少女が笑顔で此方を見つめていた。

その姿に、そして明らかに此方を舐めた言動に頭に血が昇るのを感じるも、背後から聞こえる金属質な足音に、すぐさま血の気が引いた。

 

振り返れば、そこに居たのは鎧の偉丈夫。魔王を殺し、魔界元帥の下で死を運び続ける執行者。

デーモン達は、彼を恐怖を込めて呼ぶのだ。デーモン狩り、竜喰らい、魔王殺し——褪せ人、と。

 

そんな褪せ人は大盾に、血のこびりついた大槌を握り、ゆっくりと近付いてくる。

 

「アタシは頑張る人が好きなんですよねー。そこに種族の違いとか、そういうのはあんまり関係なくてですね」

 

褪せ人に目を離せないでいるデーモンへと、少女が語り掛ける。何処までも能天気なそれは、やはりこの血みどろの場では場違いに過ぎるもの。

 

「でも、やっぱり人間は特別なんです。アタシに頑張ることの素晴らしさを教えてくれた恩人なのでっ」

 

デーモンにはまるで話が見えない。一体この少女は何が言いたいのか。そんな少女の語りを他所に、鎧の男が一歩、また一歩と近付いてくる。

 

「だからですね……そんな人間に酷い事をする奴は絶対許せないって思うんです」

 

褪せ人が大槌を振り上げる。まるで刑を執行する処刑人の如き所作は、デーモンの恐怖心を煽るもの。

壁の上の少女が、暗闇の中妖しく目を光らせて告げる。

 

「——お仕置きです! 頑張って耐えてください!」

 

「ま、待て! 助け——」

 

デーモンの言葉が最後まで続けられる前に、褪せ人が大槌を振り下ろした。

魔界の地に、デーモンの悲鳴が響き渡る。魔王の滅亡よりしばらく、魔界でたびたび見られるようになった光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様でした。今回もデーモン達は無事に捕縛完了。大活躍だったみたいですね」

 

「そう大した相手ではなかった」

 

アスバールの言葉に、褪せ人は肩をすくめる。

魔界の深層、アスバールの邸宅にて褪せ人達は依頼完了の報告を行っていた。

 

魔王の滅亡から暫く。物質界では少しずつ平穏が取り戻されつつある。王国も各国への復興支援を行う中、未だ散発的に発生する魔物達の討伐などに尽力し、少しずつではあるが、確実に人類は前へと進み始めていた。

 

対して、魔王という旗印を失った魔界は混乱していた。

ダークエルフや、オーク達は問題ない。元々アスバールの手による新たな秩序の構築に賛成するものが大半であり、数少ない反対派閥も魔王が滅んだ事を契機に迎合していた。

 

問題は、デーモンや一部の竜人達である。

長らく魔界の支配者層として君臨し続けてきたデーモン達にとって、アスバールの手による多種族平等を目指す秩序は受け入れ難いものであった。故に、その抵抗は激しい。

 

竜人に関しても、物質界の人間達に恨みを持ち一度魔王の側についたが故に、魔王軍として戦い続ける事を望む者が少なからず居るのが現状。

そうした魔王軍残党とも言うべき彼らを鎮圧すべく遣わされるのが褪せ人達であった。

 

「とはいえ、魔界の反抗勢力の鎮圧は順調。このまま行けば魔界統一は遠からず達成できるでしょう」

 

アスバールは頷き、報告に満足げな表情を浮かべる。褪せ人達の活躍は目覚ましい。魔界統一までの道は着実に前へ進んでいる。

 

何より、こうして優先契約で褪せ人と共に居れる時間が増えたのも彼女としては僥倖である。

最近王国の王子から抗議の手紙が届いたが知らないふりをした。今度互いの休みを調整して彼をデートに誘おうか——そんな思案をめぐらせていると、執務室の扉がノックされる。

 

入室を促され、現れたのは長い白銀の髪と黒い翼を持つ女。

 

堕天使、ルキファ——千年戦争を英雄王と共に戦い抜いた英傑の一人。

創造神が創り上げた最初の天使にして、最初の堕天使。

「黎明を齎す者」の異名を持つ彼女は、今やアスバールの協力者の一人となっていた。

 

「失礼する。アスバール、少し話が——む? 戻っていたのか、褪せ人」

 

淡々とした口調で用件を告げようとして、褪せ人が居ることに気付き向き直る。

 

褪せ人と彼女は既に顔馴染みであった。

かつて千年戦争において、魔王の攻撃から民を守る為に結界を張った結果、次元の狭間に囚われていた彼女だったが、魔王の死をきっかけに魔界へと投げ出されていた。

その後、魔界を彷徨い歩く彼女をアスバールが発見、保護するとともにアスバールの目指す秩序に共感した彼女はこうして魔界の平定に協力している。

そんなルキファへと、アスバールが口を開く。

 

「ルキファですか。どうしましたか?」

 

「あぁ、客人が来たのだが通して良いだろうか」

 

「構いませんよ。通してください」

 

アスバールの了承を受け、ルキファが部屋へと通したのは褪せ人達も見知った人物であった。

 

「ふむ……魔界の深層、嵐雨の亜神にして魔界総帥閣下の邸宅というのは実に知的好奇心をくすぐられるね」

 

「貴方は……」

 

辺りを興味深げに見回すその魔神の姿に、アスバールが声を掛けると、気を取り直したように向き直る。

 

「失礼、帝国魔神団長のメフィストだ。お見知り置きを。そして久しぶりだね、褪せ人」

 

帝国魔神団長メフィスト。その肩書きが示すように帝国における黒の軍団と呼ばれる魔物の軍団と帝国所属の魔神やデーモン達を統率する軍団長である。

以前、魔王の迷宮で褪せ人と共にパーティーを組み攻略した事があった。

そんなメフィストはソファに腰を下ろすと、ヤハールの淹れた茶を飲みながら口を開いた。

 

「余計な前置きは省かせてもらうよ。今回は褪せ人、君に帝国からの依頼を持ってきたのさ」

 

「依頼完了から直ぐに次の依頼! 良いですね、それでこそです!」

 

飛び跳ねるカゴメへと目を向け、しかし直ぐにメフィストへと視線を戻す。

態々帝国が魔界に来てまで名指しする依頼、果たしてどういった目的なのか。

そんな褪せ人の疑念を察したのだろう。メフィストは笑みを浮かべて続ける。

 

「何、実のところそう大した事ではないのさ。単に君に会いたいという帝国の者達が居たという事と、偶々厄介事が重なった結果、君に白羽の矢が立ったという訳さ」

 

そんなメフィストの話を聞き、褪せ人はアスバールへと視線を向ける。

丁度彼女からの依頼を終わらせたところであり、取り立てて急ぎの用件も無い筈。しかし、今の雇用主が彼女である以上、確認はしておくべきだろう。

アスバールが頷くのを見て、褪せ人はメフィストへと向き直る。

 

「内容を話せ」

 

「話が早くて助かるよ。依頼は簡単、ある竜人で構成された傭兵団、これを討伐して欲しい」

 

傭兵団の討伐。依頼としてはおかしなものはない。だが、だからこそ態々魔界に赴いて己に依頼するようなものではないと考えた。

 

「それは尤もな意見だ。加えて言うなら、その傭兵団は魔界から落ち延びた竜人達に触発されて起きた小規模の竜人の反乱。それに乗じて略奪を繰り返す火事場泥棒。小物も小物さ」

 

反乱に乗じた火事場泥棒。益々帝国が依頼する理由が無いように思えた。

だが、ここからが本題とばかりにメフィストが続ける。

 

「だが、一体どういうわけかそんな小物が大物を連れてきたのさ。白い竜人の女——竜人支配種という言葉に聞き覚えは?」

 

「無い」

 

「だろうね。竜人達の中でも廃れていっている言葉さ」

 

メフィストの言葉に、アブグルントが何かを思い出すように口を開いた。

 

「確か、白竜や銀竜は竜人の中でも最も優れた種であり、竜人達の上に立つべき存在である……という考えだったかしら?」

 

「流石だ、正答率1000%をあげよう」

 

「いらないわ」

 

にべもないアブグルントの言葉にメフィストが肩をすくめると、再び依頼について話し始める。

 

「古い信仰ではあるんだが、どうやら傭兵団はそれを使って上手いこと白竜を騙くらかしているみたいでね。村々を守る帝国軍をその白竜に撃退させ、その間に略奪を済ませようとしているみたいだ。『圧政と略奪を企む悪の帝国から罪なき我らをお助けください』とね」

 

「それは……」

 

アスバールが眉根を寄せる。善良な彼女には受け入れ難い内容だろう。

白竜の持つ責任感や善性を利用し、自分達の欲望に利用している。もとより竜人というのは思い込みの強い種族である。同胞にそう求められれば、疑う事もしなかったのだろう。

 

「我々帝国は反乱の鎮圧に手を割かれていて、小物の相手はしてられない。かといって、現状を無視する事も出来ない」

 

「——それで、私か」

 

納得は出来た。褪せ人は立ち上がると、メフィストへと了承の意を示す。

 

「依頼を受けよう。直ぐに帝国へと向かう」

 

「助かるよ。では、準備を済ませたら向かうとしようか」

 

「待ってもらえないか」

 

メフィストの言葉に、褪せ人が執務室から出て行こうとしたところをルキファに呼び止められる。褪せ人が立ち止まると、彼女へと向き直る。

 

「私も同行して良いだろうか。話を聞くに、放ってはおけない」

 

「私は構わないとも、その分報酬の方は考えさせて貰うがね」

 

ルキファの申し出に、メフィストが了承の意を示す。しかし、予定外であるために報酬に見合ったものが掲示できるかまでは保証できないと釘を刺しておく。

 

「報酬は不要だ。褪せ人、汝が全て貰っておけ」

 

しかし、堕天使である彼女は気にしない。寧ろ、無理を言ってついていくのだから報酬など貰うつもりも無かった。

そんなルキファの言葉に、褪せ人が嘆息すると、口を開く。

 

「……報酬は折半する。これで良いな」

 

「ふむ、君達は欲がないね。まぁ、君達がそれで良いなら構わないとも」

 

メフィストが呆れたように笑うと、今度こそ褪せ人達は準備に取り掛かるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

帝国領内に着くと、すぐさまメフィストの案内の下、傭兵団討伐の為の防衛部隊が待機する拠点へと向かう。

小規模な帝国の部隊が忙しなく動くその拠点において、メフィストが会わせたいという人物が居る天幕へと向かおうとして、褪せ人はあるものに強く目を引きつけられた。

 

「んー? あれは何でしょうか」

 

「機械仕掛けのドラゴンかしら」

 

カゴメとアブグルントもまたその物体に興味を示す。帝国の拠点の中で、明らかにそれは異質であった。

それは、機械仕掛けの竜とでも言うべきもの。夜空のように蒼く輝く躯体に白い外骨格。竜でいうところの口腔にあたる部分には砲が取り付けられており、それが兵器である事を物語っていた。

 

「——試作機なんです、それ。まだまだ火力に難がありまして」

 

機械竜の姿をまじまじと眺めているところに、背後から声を掛けられる。振り向けば、そこに居たのは機械竜と同じく白と青の装いに身を包んだ、桃色の髪の女。

 

「帝国参謀直轄『機竜』開発工廠、主任技師のダグマールです。貴方が、褪せ人殿ですね」

 

帝国軍式の礼と共に名乗りを上げる彼女に、メフィストが口を開く。

 

「彼女が君に会わせたい者の一人、ダグマール嬢だ」

 

彼女が褪せ人に会いたいと言っていた者の一人だという。その肩書きから、帝国の肝入りだと推測される。

果たして褪せ人に会う理由などあるのだろうか。

そんな疑問を浮かべながらも、褪せ人が今一番気になっているのは目の前の機竜であった。

 

「この機械竜は」

 

「現在、帝国で極秘に進められている『機竜計画』。その試作機になります」

 

「極秘なのか」

 

そんなものを部外者の目の前に持ち出して良いものなのだろうか。

そんな褪せ人の考えを察して、ダグマールが問題ないとばかりに笑みを浮かべる。

 

「レオナ様より許可は頂いております。寧ろ、安全に試作機のテストをするのであれば都合が良い、と」

 

帝国の責任者がそう言うのであれば、それ以上何も言うつもりはない。

褪せ人が端的に己に会いたかったという理由を問う。

その事を問われたダグマールは、柔らかな笑みと共に口を開いた。

 

「この機竜計画において私が目指すべき場所、理想に最も近い場所に居るのが貴方だと判断しました」

 

ダグマールが機竜の側まで歩み寄ると、その外殻を撫でる。まるで恋する乙女のような純粋さが込められた目で、機竜を見つめながら語る。

 

「私の理想は、この手で竜を再現する事。それも、ワイバーン程度のものではありません。古き竜、ひいては星々さえ砕いたとされる真なるドラゴンブレス。その再現をしたいのです」

 

電灯が闇夜を照らしたように、或いは銃の発明が獣の狩りを容易くしたように、人は太刀打ち出来ない恐怖を技術によって克服してきた。

 

彼女がしようとしているのは、その延長線。竜種が人々に刻み付ける圧倒的な恐怖。それを再現し、支配下に置くことで人はさらに前へ進める。

 

「……魔王討伐戦において、残念ながら私は帝国で待機を命じられ、その戦いを見る事は叶いませんでした。ですが、聞いたのです。貴方の持つ竜の力、竜人ですら次元が違うと言わしめた圧倒的な滅びの息吹——私はそれが見たいのです」

 

それはきっと、私の目指す到達点だから。

そう言って力強い目で此方を見つめるダグマール。

一先ずは動機は分かった。竜の祈祷、その力を見たいということだろう。

 

「……無駄に力を振るうつもりはない。余程の相手でなければ、使う事は無いだろう」

 

加えて、魔王の時は女神達の力を結集して全盛期を再現したのだ。今の己では、あの時と同じ事は出来ないだろう。

 

「勿論、存じております。ですのでその一端でも、勉強させて頂ければと思い、こうして参謀閣下に無理を言ってお願いさせていただきました」

 

そして拳をぐっと握り、溢れるやる気を示しながらダグマールは口を開く。

 

「目指すは必殺、竜の一撃! どうか、ご協力を」

 

「こんなところにも頑張り人が……! 褪せ人、じゃんじゃん使ってあげましょう!」

 

新たに現れた努力の人に、カゴメが目を輝かせる。この妖怪、頑張るのなら本当に何でも良いのだなと褪せ人は今更な事を思ってしまった。

 

「そういう訳だから、彼女の事、くれぐれも頼むよ」

 

メフィストが楽しげに笑みを浮かべて褪せ人の肩を叩く。

まるで幼い少年のように目を輝かせるダグマールに、またも帝国の濃い面子を押し付けられたことを悟り、嘆息するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

帝国領内、ある村へと続く街道にて帝国兵士達は足踏みを強いられていた。

理由は明白、目の前に悠然と佇む竜人が帝国の進軍を阻んでいた。

亜麻色の髪の美女、背には白の鱗に包まれた翼と尾。それは、彼女が竜人であることを示していた。

 

白い竜人は落ち着いた声で帝国に語り掛ける。

 

「もう、諦めてください。これ以上の衝突は私も望んでいません。どうか、お引き取りを」

 

「……我らとて帝国の騎士、退くわけには行かぬ!」

 

隊長格の男が剣を抜き、竜人へと突進する。

この先の村で民達が略奪の憂き目に遭っているのだ。帝国を守るものとして、目の前の竜人は打倒しなければならない。

そんな帝国兵士の姿に、竜人は目を伏せる。

 

「残念です。少し、痛い目に遭ってもらいますね」

 

剣を振るう兵士。しかし次の瞬間視界がぐるりと反転し、空が視界を覆った。

 

「ガァッ!?」

 

訳もわからない内に背が地面に叩き付けられる。そこで漸く、自身が投げ飛ばされたのだと悟る。

強烈な勢いで地面に叩きつけられ、身動きの取れない隊長へと兵士が駆け寄る。

 

「命までは取るつもりはありません。ですのでどうか、お引き取りを」

 

「略奪者共め……! 一時撤退だ!」

 

背を向けて走り去る帝国兵士の姿に、白き竜人——ラウラが息を吐く。

こうして何度も撃退してもすぐさま応援が飛んでくる。たかだか小さな村一つに帝国は何故固執するのだろうか。

 

「オオ! ラウラ殿、ミゴトな戦イでアリマシタナ!」

 

疲れを見せるラウラを他所に、機嫌良さげな竜人が飛び出してくる。

ラウラに助けを求めてきた傭兵団の1人であった。

 

「いえ……それより、村は無事ですか?」

 

「勿論でございマス! 貴方サマのオカゲで村に帝国の魔の手は及んでおりまセヌ!」

 

その言葉にラウラが安堵の息を吐く。村が無事なのであれば、それで良い。

あの村には友達が居るのだ。人間の幼い女の子。人形遊びが好きで、いつも一緒に遊んでいた。

その子の事を考えれば、どれほど帝国が襲ってきても負ける気はしなかった。

 

「……恐らくまた帝国は再び攻め入ってくるかと思います。私は此処を死守しますので、村の防備をお願いします」

 

「エエ、エエ! 勿論デストモ!」

 

今少し、ここを保たせなければならない。虐げられた竜人達の為に、そして幼い友人の為に。

そんな決意を新たにラウラが杖を握りしめ、前を向く。

その後ろで、竜人が邪悪な笑みを浮かべていた事に、彼女が気付くことは無かった。

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