「あのー」
「なんだよ」
「もしかしなくても歩いて行くつもり?」
「そうに決まってんだろ、この世界には車も電車もないからな」
「もしかしたら今の君なら無属性魔法を使えるかもしれない」
「え、本当か?」
「できるか分からないけど試してみてほしい」
「そんな事言われたってやり方なんて知らないぞ」
「さっきと同じようにアクセルの街を思いながら今度はゲートと唱えてみてほしい」
「はえー?そんな簡単に魔法が使えるのか?」
「そんな簡単に使えては困りますよ。大体属性魔法だって一つや二つできるだけで常人離れしているんですから」
ユミナさんはそう言うが、俺は好奇心から冬夜の言う通りにしてみた。頭にいつものアクセルの街を思い浮かべる。
「ゲート!」
皆が見つめる中、俺はそう叫んだ。空間に割れ目が生じ、徐々に広がって丸い輪のような形となった。中を覗き込むとアクセルの風景が見える。これってもしかして…
「ウソ、本当にできるなんて!」
「カズマ君が使えて良かった」
「おお、カズマ。ついにお前も碌な魔法を使えるようになったのだな。どういう感じなのだ?」
「カズマも紅魔族とパーティを組むレベルまでに到達しましたか…将来が楽しみですね!」
正直なところ、自分が一番驚いた。まさか入れ替わっただけで本当に他人の魔法が使えるなんて。それに、初めて異世界冒険譚に出てきたそうな魔法を使えた気がしてとても気分が高まった。
「これをくぐれば良いんだよな…?」
「うん。ちゃんとアクセルの街に行けるはずだよ」
「でもこれは向こう側はどうなってるんだ?俺達がいきなり現れても大丈夫なのか?」
「あぁ、確かに見られると面倒なことになるかもしれない。できれば人目につかない所にゲートを出したほうが良いと思う」
「人目につかない所……俺達の屋敷かな」
俺は次に頭の中に自分達の住む屋敷を思い浮かべる。さっきと同じような感覚でゲートと唱えた。
「おおカズマ、今度は屋敷の中が見えるぞ!」
「すごいです!すごいですよカズマ!」
うおおおお。仲間達に持ち上げてもらえる異世界冒険譚。こんなに気持ちが良いことを言ってくれる状況が訪れるなんて今までの苦労が報われた気がした。
「これを普通にくぐれば向こうに行けるのか?」
「そうだよ多分…」
「おいおい、多分ってなんだよ。この通り俺にもちゃんと魔法が使えてるじゃないか」
「僕が発案していてこんな事を言うのはどうかと思うかもしれないけど、この力は神様にもらった力だから自分以外の誰かが使っているのは違和感があってね」
「神様…だと?」
「うん、そうだけど」
なんだ。なんなんだ。神とやらにチートスキルを貰ってハーレム作って。やりたい放題じゃないか。うらやま…ずるすぎる!はあ、それに比べて俺の方はと言えば…
「…おいお前ら屋敷に戻るぞ。冬夜達もあがってくれ」
「はあ…なんだか久しぶりに帰ってこれたような気がしますね……」
「そうだな、ひとまずシャワーを浴びたいものだ」
「僕達もちょっとだけお邪魔させてもらってもいいかな」
「好きにしろー。ここまで来たら知らんぷりするわけにもいかないからな」
「ありがとうカズマ君」
「カズマで良いよ。年も近いだろ、俺だって冬夜って呼ぶからさ」
「うん、よろしくねカズマ」
とは言ったものの自分の姿に向かって冬夜さんって呼ぶのがむず痒い、というのが本音だ。以前アイリスと入れ替わった時は下心しかなかったから、こうしてまた入れ替わりを体験するのはまた違ったものを感じた。それに、あの神器自体時間経過でもとに戻ることができたが、今回のこれとはわけが違う。直る保証はどこにもないんだ。
「あー今日も疲れたな。もう冬将軍は懲り懲りだぜ」
「でもカズマ、なんだかんだ私達こうして生きて戻ってこれたんだ。筆舌尽くしがたい屈辱を堪えたというのに、今度はあの卑屈顔に凌辱されると思うと…くっ!」
「おい、それ俺への悪口だろ。それに失礼だろ。いつもはお前のそういうこと無視してたけど、冬夜達は仮にも命の恩人だ」
「仮にもって…」
卑屈顔をしている冬夜が苦笑いで呟く。
「でも、ダクネスの言う通りですよ。今回はカズマも首チョンパにならなかったわけですから…でも、正直変な感じがします。本当にカズマなんですか?」
あれれー?流石に言いすぎたか?ダクネスはらしくない顔をして黙り込んでいる。それにめぐみんは今の俺に対してすごく心配しているようだ……みんな不安に思ってるのだろう。ここは男として気の利くことを言わなければ…
「まあ顔が変わっても俺はカズマだ」
自慢げにグッドを突き出す俺を見てめぐみんは肩の荷が下りたようだ。
「カズマの癖にカッコいいこと言うんだな。いつもはただの変態だと思ってたが少しは見直したぞ」
「おいそれどう言う意味だ」
いつものやり取りに自ずと場を立て直すことができた…が、
「てか何で私屋敷に戻ってるのよ!苦労して集めた雪精は?私の100万エリスは?」
お前ちょっと黙ってろ。そんなこと言うせいでしみじみとした場の空気が一気に滅茶苦茶になったじゃないか。俺はアクアを殴りかかるその腕を必死に堪えた。