「あの…カズマ……」
「なんだ冬夜、トイレなら廊下出て突き当たりを…」
「そうじゃなくて」
馬鹿げたことを言うつもりはないようだ。それにしてもこんなに真剣な顔をした自分が目の前にいるというのはやはりとてつもなく違和感がある。
「僕達は最初に行った通りフレイズを探しているんだ。一刻も早く奴等を見つけて倒さなきゃいけない」
「事情は分かるが…そもそもフレイズってなんなんだよ」
「フレイズとは水晶体の生き物です。フレイズの王と呼ばれる固有種を探すために人間を殺して回っているんです」
ユミナさんが深刻な顔をして説明してくれた。人間を殺して回るというのはヤバそうだが正直ピンとこない。
「そんなこと言われても良く分かりません。どういう特徴なのですか?」
「フレイズはいろいろな種類がいますね。コオロギ型やヘビ型…」
「大体は薄い青色でござるな」
立て続けにエルゼさんと八重さんが説明ししてくれる。青くてコオロギやヘビみたいな形の魔物……そんなもの見たことはないな。
「悪いがそんな魔物は見たことないし、少なくともこの街には関係ありそうな情報はないな。何かフレイズ…って奴等を見つける方法はあるのか?」
「いつもなら【サーチ】を使ってすぐに見つけられるんだけど、今回ばかりはまだこの世界に完全に来ているわけじゃなさそうだし……」
「…」
いろいろ言いたいことはあるが、とりあえずその手に持っているスマートフォンがあり得ないチートアイテムだということは分かった。それだけすごいものにそちらの方々が何一つ驚愕しないのは慣れているからなのだろうか。本当に妬まやしいやつだ。
「完全に来ていないというのはどういうことでしょう」
「元々僕達の世界でフレイズを追っていたんだけど時空の間に逃げられてしまってね。その痕跡を辿ったらこの世界に来て君達にあったんだ」
「世界……?」
冬夜の一言にめぐみんは深く考え込んだ。
待てよ……確かに冬夜は『この世界に来た』と言っていた。以前も女神様ではなく『神様』と言っていたし、よくよく考えれば無属性魔法なんて代物も初めて聞いた。まさか冬夜は日本からこことはまた別の世界に転生したのか?俺は、興味も見せずにお菓子を頬張るアクアに這い寄り耳打ちする。
「おい、日本からこの世界に呼ぶ時ってのはお前が担当するんだよな?」
「ええそうよ」
「お前は『女神』だよな?」
「なんでそんなこと聞くのよ、私は正真正銘の『女神』よ」
「…転生者に特典としてスマートフォンを与えたことはあるか?」
「そんなの覚えてないわよ」
「…」
確信は持てないがきっとそうだ。冬夜は別世界の住人……だとすると、めぐみんが良く分からない知能をフル活用して異世界の存在に気付いたらもしや、俺が異世界人だというのもバレてしまうのではないか?俺はチラッとめぐみんに目を移す。
「なるほど…つまり!」
めぐみんはトレードマークのフードを手で深く被りニヤリと自慢気な笑みを浮かべる。こいつマジか!
「冬夜達は別の世界から悪を追ってこの世界から闇を払いに来た〘救世主〙という奴ですね!」
めぐみんの予期せぬ一言に冬夜達は目を丸くさせている。
こいつマジで馬鹿だ。(そこが愛らしくもあるのだが…)
「救世主からどうかは知らんが貴様らは別の世界から来たと言ったな?」
ファァァー!?なんとか誤魔化せたと思ったが、ダクネスめそこを指摘するなんて…まあ変態だが貴族の令嬢だし結構学はある方なんだよな。
それにこのままじゃ話は進みそうにない。仕方ない。
「助けてもらったのは感謝してるが、見たこともない化物について聞かれても分からないものは分からない。それよりもまずはこの入れ替わりを直すのを優先すべきなんじゃないか?」
「いや、それは…」
「冬夜さんの言うことが信じられないということですか?」
「いや、そういうことじゃないが…」
「そういう態度を取るということはそういうことでござる。いくら冬夜殿が大丈夫と言おうと、私はちっともあなたのことを信用していないでござる」
おいおい、そちらの世界の女というのはヤケに好戦的じゃないか。こんなに剣も杖もこっちに向けて……え…剣?杖?おいおいなんで一触即発の空気になってるんだよ!てかおいダクネスにめぐみんまで対抗しようとするなよ。
俺と冬夜の脇で女性陣が睨み合っている。この空気どうすれば良いんだよ。
「エルゼさんに八重さん、そこまでにしておきましょう。ここで争っていても意味はありません」
手をパンっと叩きながら俺と冬夜の間に割って女性陣を宥めるユミナさん。良かった、そっちには良心がいたのか。
「確かに私の目に彼は悪人のように映りましたが、人は皆他人に隠したい野心というものもあると思ってます。ですから何もそこまで敵対することもないと思いますが…」
おいおいおいおい、なんだこの女。悪人のようって俺のこと言ってるのか?平気な顔してなんでそんなこと言ってくるんだ。あーどいつもこいつも変なやつばかりで疲れる。
知らぬ間に俺と冬夜はアイコンタクトを取り、脇の女性陣に対して呆れる感情を共有したのだった。