「あっカズマ!」
その声がウィズのマジックアイテム屋に向かっている俺と冬夜を呼び止めた。緑のパーカーにトレードマークの尻尾を生やすポニテの少女、リーンだった。俺はすんでのところで「リーンじゃないか」と言いそうになったが、必死に口を噤んだ。
「ん?その人は誰?」
興味津々に俺を見つめるリーン。こういう反応にはどれほど経っても慣れないものだ。しかしこのまま黙っているわけにもいかない。どうしたものか。
「俺はトーヤ、カズマの兄だよ」
「え?カズマに兄が?」
リーンってそんな顔で驚くこともあるんだな。彼女と会うときは高確率で呆れ顔をしているからこういう顔を見るのはすごく新鮮だった。
「そ、そうなんだよ。折角だからこの街を兄さんに紹介しようと思ってね」
「へえ、カズマに兄がいたことも驚きだけどそうやって律儀にもてなすのも驚きだわ」
「え?あはははは」
苦笑いに苦笑いで返す2人に少しイラっと来た。俺っていつもどんな風に思われてるんだよ。
「あっそうそう、あの愚か者を探しているんだけど何か知らない?」
やっぱりダストか。そもそもアイツの動向なんて知らないが、ここをどう切り抜けよう。チラリと目を移すと、冬夜は何とかしてくれとこちらをせがむように見つめていた。とりあえず適当に誤魔化すか。
「愚か者ってさっき言ってた人のことか?なら今日もサキュバスの店にいるんじゃないか?」
「やっぱりね、そうだと思ったわ。アイツ真面目にクエストもせずいつもいつもそんな店行って…そろそろ懲らしめてやらないと。ありがとね、じゃあ」
呆れつつも怒りを滲ませるリーンは手を少し振ってから夜の街に消えていった。
「ねえ、愚か者というのは?」
「ああ語る必要もないようなどうしようも男さ」
「そうなんだ……でも、愚か者さんには悪いことをしちゃったね」
「そんなに思い詰める必要ないさ。きっと本当にサキュバスの店にいるだろうし」
これは本音だ。それに俺も心の底からダストに悪いとは思ってない。これでダストが懲らしめられるとしてもそれは自業自得というやつだ。2つの意味で。
「ほらそうこうしてる内にウィズの店に着いたぞ」
「ここが…」
やっとのことでウィズの店に着いた。ただいつもの自分と違う見た目というだけでこんなにも苦労するものなのか。これでやっと元に…
「…ってなんだこの張り紙は」
店の扉には1枚の張り紙が張っていた。筆跡からしてバニルが書いたようだ。
「なになに?どうしようもない店主は在庫処分のために行商に向かいました。つきまして1週間臨時休業とします…!?」
「え、本当に?」
おいおい嘘だろ。とりあえずウィズのところに来れば何とかなると思ってたのに…完全に油断した。ウィズに会えなかったとしても博識なバニルさえいればと内心思ってたが、この感じじゃ2人で行商に行ったのだろう。本当にどうしたものか。
「まあ…カズマ、僕は別に当分はこのままでいいからそこまで落ち込まなくても…」
「冬夜だって分かってるだろ?ここに来るまでにどれだけ苦労したかを」
「…」
「正直、いつもみたいに冒険者ギルドで聞き込みをかければフレイズってモンスターのことも検討がつくと思ってた。でも、この見た目じゃ…」
「この世界のことは良く分からないけど、君がこの街の人達と強い信頼関係を築いてきたことは充分思い知らされたよ。君があの時元に戻りたいと言った気持ちも分かる気がする」
そう言って落ち込む冬夜。そもそもこの入れ替わりはどういう原理なんだ?おそらくだが冬夜に非は無いだろう。もちろん俺の方にあるとも思わない。だが俺の言葉でここまで人を落ち込ませてしまっては少し申し訳なく思うものだ。
「まあ、もう少しこの体で好き勝手できるって思えば良いもんだ」
俺は笑顔でそう応える。冬夜は苦笑いで程々にしてくれよと返した。