ディストピア惑星管理シミュレーション【Humus《フムス》】   作:幕霧 映(マクギリス・バエル)

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【──前回までの管理業務ログ──】

【"六王"と呼ばれる六人の有力者たちによる内乱のさなかにある現地国家"ジョグスィン"。】

【"六王"のひとり、雄獅子に酷似した身体的特徴を持つ人物である"布武王"と対面したあなたは。】
【彼が見せてきたとある武装を見て、水面下でうごめいている勢力の正体にあたりをつけました。】

【──オルドビス・エネルギー社。】
【その企業が、"布武王"とは別の"六王"の一角、"帝選王"なる人物に装備を流し、この都市国家"ジョグスィン"における権力闘争を勝利させるため暗躍しているようです。】

【管理者様。】
【あなたの良心と、アダリン社の行動規範に、可能な範囲で従い。】

【管理業務を、続けてください。】




『競合他社』─彩暦28年─

 

 『"未来(あした)を照らす、夢のエネルギー!"』

 

 一時期、様々なコンテンツの広告で流れたそのフレーズを覚えている人は、多いのではないだろうか。

 ポップな音楽をバックに、好感評価値の高いAIタレントが白い歯を見せている、ありきたりなコマーシャルを。

 

 『"有機的・経済的なエネルギー資源で、環境にも(ふところ)にも優しい暮らしを!"』

 

 実際、その料金表に記されている金額は、かなり良心的だったと記憶している。

 

 『"惑星一括受電契約を結ぶと、今なら最初の一月は無料!"

 (※無料期間終了後に、契約の解除や支払い拒否を行った場合、倫理規定の範疇で制裁措置を講じさせていただく場合があります。)』

 

 

 

 ──エネルギー業界、全宇宙4位。

 ──オルドビス・エネルギー社。

 

 かつての地球の惨状から、倫理規定(コレクトネス)による環境汚染への取り締まりが厳しくなった現代において。

 エネルギー系企業たちは、それまで主流とされてきた原子力発電や火力発電とは異なる方法で、エネルギーを創出するノウハウの確立を迫られた。

 

 だが、その向かい風と言える時代の趨勢(すうせい)を活かし。

 彼らの言葉を借りるのなら──()()()()()()()()()()()()()()()で。

 古豪ひしめくエネルギー業界の中、オルドビス・エネルギー社は新興企業ながら、業界4位という地位にまで上り詰めた。

 

 アダリン社のデータベースに記録されているものから、いくつか彼らの所業を挙げてみるとしよう。

 

─────────────────────

 【アダリン社事案ファイル1096『An.die.Freude.(歓喜のうた)

 Case:惑星pineal-s(ピネアルース)

─────────────────────

 

 たとえば、ある惑星では。

 現地住民たちが心からの幸福を感じた際に分泌される特殊な神経伝達物質に、資源としての高い有用性があることを発見すると……。

 それを安定供給するために、住民たちを仮想現実空間に隔離してえんえんと幸せな夢を見せ続け──しかし現実には、彼らの脳髄だけを摘出し、無数に培養していたり。

 

 

─────────────────────

 【アダリン社事案ファイル403 『Atlas.Shrugged(肩をすくめた巨神).』

 Case:惑星Titania(タイタニア)

─────────────────────

 

 また、ある惑星では。

 非常に巨大な体躯と、レベルV(ファイブ)相当のエントロピー論的神格を持った現地住民たちに契約を持ちかけた、オルドビス・エネルギー社は。

 自社からの技術提供と、侵略者たちからの防衛の対価として、月間300個ほど巨神たちに同胞の心臓を献上させ……。

 その自動能*1を利用して、エネルギーを取り出したり。

 

 

 ……このふたつは、氷山の一角に過ぎない。

 そしていずれの事案でも、倫理規定(コレストネス)はオルドビス・エネルギー社を裁くことができなかった。

 

 実態はどうあれ、現地住民たちは()()()()()()オルドビス・エネルギー社と契約を結び。

 オルドビス・エネルギー社はそれに対し、相応の対価を支払っていたからだ。

 

 しかも、彼らの産出するエネルギー資源の多くは環境にやさしい()()()()ときている。

 

 なので世間さまからも、オルドビス・エネルギー社は、格安でクリーンなエネルギー企業として通っている有り様だ。

 

 倫理規定(コレクトネス)の穴を突き、ろくでもない手段でエネルギー資源を捻出(ねんしゅつ)する天才……。

 それが、オルドビス・エネルギー社に対するぼくの評価である。

 

 

 

 

 ──コッ、コッ、コッ、と。

 "布武王(ふぶおう)"の鋭い(つめ)が金属を叩く音がオフィスに(ひび)いている。

 

 苛立(いらだ)たしげな様子で、机上(きじょう)に置かれた『オルドビス・エネルギー社』の武装をつついていた"布武王(ふぶおう)"は。

 

 肘口からちぎられた状態のその腕部武装(ガントレット)を見つめたまま黙っている"クリープ・スパイダー"の様子から、何かを察したのか、陶器にそそがれた酒を揺らしながら口を開いた。

 

『その沈黙……この武装の出どころに、心当たりがあると見えるね。』

 

【──オルドビス・エネルギー社。

 その武装は、当該企業が7世代ほど前に制式採用していたモデルと酷似しています。】

 

『…………7世代、前?』

 

 その時、ずっと押し黙っていたリェン・ルゥオが思わずといった様子でそう聞いてきた。

 

『待ってくれ……つまり──。

 保安監督局の最精鋭は、お前たちにとってはそんな型落ちも良いところな装備の数人に壊滅させられたのか?』

 

【言葉を選ばずに言えば、そうなります。】

 

 布武王のデスクに置かれたそれを見やる。

 摂氏2000℃〜2800℃の収束エネルギー力場を、ブラスター状かブレード状にして使い分けられる──()()()()()()()

  

 もし、彼らが会敵したのが最新鋭(ハイエンド)武装に身を包んだオルドビス・エネルギー社員であったのなら……

 この都市国家の名前は今頃、『ジョグスィン』ではなく『オルドビス・エネルギー社資源開発基地惑星フムス支部』にでもなっていることだろう。

 

 オルドビス・エネルギーが直接的な実力行使に出ないのは、アダリン社をはじめ他の星外勢力の存在を警戒しているからだ。

 今この『ジョグスィン』は、複数の企業の睨み合いによって、危険な均衡が保たれていると言える。

 

『取り乱すことはないよ、リェン・ルゥオ。

 あのお方──建国帝なき()()()()ジョグスィンに勝ち目がある相手じゃないことは、察していたからね。

 ……だから、アダリン社の"管理者"。僕が、気になっているのはね──』

 

 "建国帝"。今や異分子(ペレグリウム)を撒き散らす巨大な花弁に成り果てたその人物を引き合いに出しながら、リェン・ルゥオの腰にある刀を意味ありげに見たあと。

 ようやく本題を切り出せる、と言わんばかりに、布武王は言葉を続ける。

 

『──君たちが、その『オルドビス・エネルギー社』をどうにかできるのか、ということだ。』

 

 視界の端に映る、ホログラムの部長に目配せしてから。

 ぼくは、その問いに答える。

 

()()()()()()()()()。】

 

『……なるほど。彼女の言った通り、君は中々に誠意ある人のようだ。』

 

 "布武王"は、その豊満(ほうまん)(たてがみ)を撫でつけ。

 クックッ、と噛み殺すように笑った。

 

『……いいだろう。

 では、君たちに渦中のオルドビス・エネルギー社を対応してもらう対価として、僕はどんなものを差し出せば良いのかな?』

 

 "布武王"のその問いに、ぼくは数秒ばかり思案したあと。

 ──【三つ、お願いがあります。】と告げた。

 

『……そんなんで良いのかい?

 正直、悪魔に魂を売るぐらいの覚悟ではいたんだけどね。』

 

 ぼくの提案した条件を聞いた布武王は、拍子抜けしたような表情になってそう言った。

 

『三つのうち最初の二つは、すぐにでも対応しよう。

 だけど、もう一つは……少し、時間をくれると助かるかな。』

 

【ええ。急を要することでもありませんので。】

 

 

 こうして、ぼくと"布武王"はファースト・コンタクトを穏便に終え、友好的な関係を構築することができた。

 

 成果はそれだけではない。

 オルドビス・エネルギー社の暗躍をあちらに先んじて知れたこと。

 そして、それに加え──今後フムスにアダリン社の勢力圏を広げていく上で極めてプラスとなる契約を取り付けることにも成功したのだから。

 

 

 

 

『……それで?』

 

【どうしましたか、リェン。】

 

『なぜ……私の部屋に、お前を置くことになっている……?』

 

 数十分後。

 ぼくこと"クリープ・スパイダー"は、ジョグスィン保安監督局の地下にある官舎の一室──リェン・ルゥオの自室の前に、彼女と一緒に立っていた。

 

 目の前にいる巨大な鉄の蜘蛛を、ひくひくと表情筋を引きつらせて見ているリェン・ルゥオに返答する。

 

【抗議するなら"布武王"へどうぞ。

 ぼくは彼に対する契約の条件の一つとして、『ジョグスィン内部の情勢が分かりやすいよう、すぐに連絡を取れる場所にクリープ・スパイダーを置いて欲しい』とおねがいしただけですので。】

 

『だからって、なんで私の部屋に……!?』

 

【ほかの職員の目に付く倉庫には置けない。

 局長室はもってのほか……。

 もし"クリープ・スパイダー"が暴れても抑え込めそうなあなたの自室に(かくま)うという判断は、そこそこ理にかなっているように思えますが。

 それでも不満があるなら、あなたの上司のあのライオンに──】

 

『あーーーっ、もう、わかった! わかったから、ねちねちと理詰めしてくるのはやめろ!

 ……ちょっと、掃除してくるからっ。待っていろ!』

 

 そう言い残して自室に入っていったリェン・ルゥオを待つこと十分程度。

 扉一枚を隔ててガチャガチャと音を立てていた彼女が、額に汗を浮かべながら扉から出てきた。 

 

『……くそっ。なんで男もろくに入れたことの無い部屋に、こんなのを入れなきゃならないんだ……』

 

 ぐちぐちと文句をこぼしながらも、リェン・ルゥオはクリープ・スパイダーを自室の中へと運び込んだ。

 

 彼女の自室は、本人の気風を反映してか殺風景なものだった。

 皮の剥げたソファーに、灰皿とビールの空き缶がいくつも端に寄せられた背の低い机、そして箱のような形のテレビ。

 

 それ以外は、天井から吊るされたサンドバッグがあるぐらいだろうか。

 そこそこ広い間取りがかえって、さみしげな印象を際立たせている。

 

『絵に書いたような、がさつ女の一人暮らしだな。』

 

 ぼくは、部長のデリカシーが無い発言をスルーしつつ。

 ネクタイを外し、疲れ切ったようにソファに身を投げ出したリェン・ルゥオに、声をかける。

 

【リェン、これからよろしくお願いします。】

 

『……はぁ。もう、好きにしろ。』

 

 

 

 

──【『布武王』の介入により、現地国家『ジョグスィン』から。】

 

──【30名ほどの難民が、アダリン社管理コミュニティへと向かっています。】──

 

【対処してください。】

*1
生き物の心臓が体から切り離されたあとも、然るべき処置をするとそれ単体でポンプとしての機能を果たし続ける作用

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