ディストピア惑星管理シミュレーション【Humus《フムス》】   作:幕霧 映(マクギリス・バエル)

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『混戦』-彩暦28年-

『わはーは!』

『は!!!』

『管理者氏っ!!!』

『見ろ! 見てくれっ!!!』

『家が!!! できたぞ!!!』

『ぜんぶ!!!』

『"ぷっぷー!" "ぷっぷぷー!!!"』

 

 現場作業を終えた直後で、顔を(すす)けさせた向上心の思徒が。

 ぼくの乗る『船』に向かって、そう叫んでいる。

 

 集落を見渡すと、彼女の言葉通り。

 『アダリン社大気清浄化ユニット』の範囲内である半径25メートル×4の範囲内に、紺色の建物が立ち並んでいる。

 

 これだけの施工作業が滞りなく終わったのは。

 向上心の思徒が見せた、現場監督としての獅子奮迅の働きがあってこそだろう。

 

【お疲れさまでした。あなたはすばらしい現場監督です。】

 

『……わたしは"現場カントク"じゃないぞ!!!』

『わたしは! この集落の"応援団長"だ!』

『ゆくゆくはこの星、そして全宇宙の応援団長になる者だ!』

 

【失礼】

 

『わかればっ』

『いい!!!』

 

 

『おーい、向上心の姉御(あねご)! スープ飲むかー?』

 

『のむ!!!』

『わっははー!』

 

 

 向上心の思徒は、そう言い残して。

 自分たちの家が完成してお祝いムード冷めやらぬ住民たちの輪の中へと、スキップして入っていった。

 

『……管理者様』

 

 向上心の思徒と入れちがいで。

 住民たちの輪から、今度は"先生"が『船』の前へとやってきた。

 

『私は……未だに、信じられない』

『この荒野で、こんなに沢山の人が、笑い合って暮らしていることが』

 

 "先生"は目を閉じて、『船』の外壁にそっと手のひらを触れさせた。

 

『私は、百年以上の時を生きてきて……』

『この世界は、地獄だと感じていたんだ』

『ずっと。ずっと。ずっと。』

『奪う側の立場も、奪われる側の立場も、嫌になるほど味わったけれど』

『……どちらも同じぐらい、くるしくて。』

『生きている限り、この痛みから(のが)れることなんて、ないと思っていた。』

 

 "先生"は『……でも、今はちがう』と言って。

 小さくはにかんだ。

 

『あなたのおかげだ。』

『みんな、あなたに心から感謝している。』

『寒くても、食事がまずくても、私はこの数週間が……ふふっ』

『……幸せだった』

『長い長い人生で、いちばん幸せな時間だった』

 

 "先生"は、ふかぶかと頭を下げて、言う。

 

『……これからもどうか。』

『どうか、よろしくお願いします。』

『私は、なんでもします。』

『この場所を守れるなら。』

『あなたの恩に、報いられるなら。』

『私はきっと……鮮血にまみれた、忌々しいかつての自分に戻ることすら、できるから。』

 

 頭を下げたままの"先生"の顔から、数滴のしずくが落ちて。

 ぽたぽたと、足元の砂に斑点を作った。

 

『──管理者様。』

『我々の前途は、あなたに委ねられています。』

 

 "先生"は、腫らした目で、まっすぐにこちらを見て。

 そう言ったのだった。

 

 

 

 

 

      ※

 

 

 

 

 住民たちの住居が出来上がったことで、ひとつの懸案が消えた。

 冬が来ても、断熱性の高い建材が、住民たちを寒さから守ってくれるだろう。

 

 ゆえに、今ぼくが対処しなければならないのは──。

 

「……オルドビス・エネルギー社。」

 

 ぼくは、努めて冷静な声で、その企業の名を呟いた。

 

 彼らを、始末しなければならない。

 

 すでに、"布武王"を通して、オルドビス社への()()()は済ませてある。

 

 ──『アダリン社現地住民武装化用ライフル』だ。

 

 あのライオンと結んだ、"みっつの約束"の、最後のひとつ。

 

 ひとつめは『都市国家ジョグスィンから追放される人々をアダリン社管理コミュニティへと案内すること。』

 

 ふたつめは『リェン・ルゥオの自宅に"クリープ・スパイダー"を設置すること。』

 

 そしてみっつめは──『自然な形で、"帝選王"の勢力に、アダリン社のライフルを流すこと。』

 

 "布武王"は、つい数日前にこの約束を果たしてくれた。

 

 あの粗末な実弾ライフルを、あちらへ流したことの狙いは。

 オルドビス社に対し、こちらの戦力が整っていないことをアピールして、()()()()()()ことだ。

 

 アダリン社とオルドビス社は、ビジネスモデルの都合上……

 現地惑星でバッティングすることが、非常に多い。

 

 そのため、互いのやり口は、だいたい知り尽くしている。

 

 その上で、彼らを誘った。

 

 つまり、ぼくには。

 現行型の武装に身を包んだオルドビス・エネルギー社の社員を、確実に抹殺できる──"切り札"の準備がある。

 

 この、だだっ広い死の荒野であれば。

 "切り札"を──……『彼』を起動しても、被害は皆無だろう。

 

 ……だから、あとの問題は。

 オルドビス・エネルギー社が、ぼくの撒いた餌に食いついてくれるかどうかだ。

 

 

【──警告】

 

 その時、心臓に悪いアラートが響き渡った。

 

【レベルVIII(エイト)相当の装備のオルドビス・エネルギー社員が、あなたと協力関係にある"ジョグスィン保安監督局"本部ビルを襲撃しています。】

【同じく、レベルVIII(エイト)相当の装備のオルドビス・エネルギー社員が、アダリン社管理コミュニティへ接近しています。】

 

【──現地組織"群青学派"の構成員が、単独でアダリン社管理コミュニティ付近のオルドビス・エネルギー社員を追跡しています】

 

【対処してください。】

 

「食いついてきた……しかし、二手に分かれてくるか。」

 

 状況を整理しよう。

 

 オルドビス社は、ぼくの撒き餌に食いついてくれたようだが……

 保安監督局と、こちらの本丸であるこの集落へ、二手にわかれて同時対応を強いてきている。

 

 ……そして、"群青学派"なる組織が、オルドビス・エネルギー社員を追跡しているようだ。

 

 状況は混沌としている。

 

「……ひとつずつ、対処していくしかないな」

 

 ジョグスィンではなく、まとめて集落の方に仕掛けてくれれば、やりやすかったけれど……

 問題ない。

 ジョグスィンの方は、あちらで迎え撃つとしよう。

 そのために、リェンや"布武王"と信頼関係を築き、ジョグスィン内部で動けるようになったのだ。

 

 それにあちらへは、すでに打ち込んだ"(ナイト)"がある。

 他の材料もうまく使えば、十分に連中を詰ませることができるはずだ。

 

 ぼくは、ジョグスィンに置いている"クリープ・スパイダー"に、回線を繋いだ。

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