ディストピア惑星管理シミュレーション【Humus《フムス》】 作:幕霧 映(マクギリス・バエル)
【:オルドビス・エネルギー社/大規模作戦記録/惑星
【:此度の作戦を重要視した弊社は、保有艦隊戦力の三割強と、試作段階だった新兵器『濾紙』を、いち早く惑星ピネアルースの新資源を巡る動乱へ投入し・・・】
【:時を同じくして、当該惑星に進駐していた複数の有力な星外勢力──『自由の息子たち』『クォンタム・イングレディエンツ社』『アダリン社』『ノーザンクロス鉄道公社』『サタン郵政』らを、いずれも壊滅状態とすることに成功した。】
【:・・・だが、この現状を見てわかる通り、我々は敗北した】
【:突如として、惑星ピネアルースのカーマン・ライン付近に出現した所属不明機体により、弊社は展開していた主力艦隊を喪失。】
【:前線基地は薙ぎ払われ、弊社は現在アドヴァンテージを失うどころか、他勢力との無謀な撤退戦に叩き落されている・・・】
【:本社へ通信、至急、至急応援を・・・】
【(記録はここで途絶えている。)】
ぼくの視線の先には、オルドビス・エネルギー社員"サルガッソー"の動きを示すレーダーがある。
彼は、こちらの首を少しずつ締め上げるかのように、管理コミュニティ周辺を旋回して動きながらジワジワと距離を詰めてきているようだった。
揺さぶりをかけてきている。
ジョグスィンの方の"ラブ・ハウンド"との同時対応を強いることで、こちらの戦力と判断力のリソースを分散させる──狙いはそんなところだろう。
「……本来、それなりに有効なんだろうね。その手管は……」
アダリン社の業務補佐AIは優秀だが、それでも最終的な判断は管理者──つまりは人間が下す。
他社と比較して、人間の裁量が大きいと言える。
ゆえに心理的揺さぶりというのは、ぼくたちに対しては原始的ながらも馬鹿にはできない効果を発揮する。
しかも、彼らが常時展開している"濾紙"は、基本的に無敵だ。
並の戦艦の主砲程度では、数発浴びせても削り切れない。
《フムス》においては
この管理コミュニティには、
この局面はあちらからすれば、詰みが見えたチェス盤か、埋まりかけのクロスワード・パズルにでも見えていることだろう。
負ける要素の無いゲー厶。
牙と爪のない獲物を、悠々と袋小路へ追い詰めていく、順調なハンティング。
「けれど、お気の毒……」
ぼくには、たとえばチェスなら、盤ごと相手の顔面に叩きつけて頭蓋骨を叩き割るような──そんな反則技がある。
あと、それを実行する程度の、彼らに対する
ぼくは、深く腰掛けていたチェアから立ち上がって、ゆっくりと呼吸した。
「……」
なぜなら、彼は。
ぼくの罪そのものだからだ。
「奴らは……オルドビス・エネルギー社は、きみの獲物だろう……」
目の前のパネルに手のひらを触れさせると。
そこには真っ黒な画面に蛍光色で、ぼくの手にそった形状の静脈認証モデルが、構築されていく。
そうしながら。
ぼくは、努めて冷静に。
眠りこける旧友の肩を後ろから叩くような気軽さを心がけて……
「おめざめ──A.V.E.L.」
瞬間。
ぼくの乗っている『船』が、生きているかのように脈動した気がした。
※
その名を口にした途端、周囲の計器が壊れそうな駆動音をあげはじめる。
【……上級管理者権限によりコード『
【声紋認証──クリア。】
【静脈認証──クリア。】
【
【脳波認証──オールクリア。】
【──承認されました。】
【レベル██ 天体浄化用ユニット】
Genesis Series:06 A.V.E.L.
【生体ユニットの覚醒シークェンスを……実行します。】
がごん……と。
ぼくのいる管制室からはるか遠くの空間で、巨人が身じろぎするかのような重たい音が聞こえてくる。
そして数秒後、ぼくから一番近いモニタに、誰かの脳波等の生体データをあらわしたグラフが表示される。
【《やあ……ひさしぶり、だな…………》】
「……」
その生体データの主は、ノイズ交じりの穏やかな電子音声で、ぼくに語り掛けてきた。
可能な限り、端的に説明するとしよう。
彼は、オルドビス・エネルギー社を中心とした動乱の末に滅びた惑星ピネアルースで、英雄と呼ばれていた人物です。
彼は、そこに管理者として赴任したかつてのぼくを、友達と呼んでくれた青年です。
旧・地球圏の映画作品が好きで、いつもぼくに安っぽい映像効果を自慢げに語ってきたひとです。
今の彼は、その青年の麻薬漬けの脳髄を加工した
【《故郷は……》】
【《ピネアルースのみんなは、げんきにしているだろうか……》】
「……A.V.E.L. きみの献身により、惑星ピネアルースは、星外勢力の魔の手から救われた。
きみは、英雄だ。きみの戦いは、絶対に、無駄ではなかった。
ぼくが……ぼくだけは、それを保証する。」
ぼくの言葉に、A.V.E.Lは、安心したような機械音声を漏らす。
【《そうか……よかった……》】
【《でも、それなら……どうして……》】
【《そんな、泣きそうな顔をしているの》】
【《せっかくの美人さんが、だいなしじゃないか……》】
「……ううん。ちがうよ。A.V.E.L.」
ぼくは、小さくかぶりをふった。
「ぼくはね……怒っているのさ」
【《──だれに》】
「効率化だとか、利潤の追求だとかのために……
人から
……その構造の一部に甘んじている、自分自身に対して。」
【《よく……わからないな……おれには……》】
【《お前の話は、いつも、むずかしくって……》】
A.V.E.L.はそう言い残し。
ぼくの乗っている『船』の上部ハッチから、その30メートルを超える機体を軋ませながら出撃していった。
両脇に巨剣のかたちをした一対の反重力ユニットを従え、空中を泳ぐようにして、死の荒野を飛翔していく。
「……人は、パンのためだけに生きるのではない、というやつさ」
遠ざかっていく、その背中を見おくり、
「いや……ちがうな……ちがうんだ……
ぼくが、きみに言いたいのは……こんな引用じゃなくて……」
彼の生体情報をモニタしている画面に、コツンと額をくっつけて、ぼくは呟く。
瞼を閉じて。
しずかに。
祈るように。
あるいは──懺悔するように。
「ぼくを、許してくれ……アデル……」
画面からは、かつて彼にあった温もりは当然、感じられなかった。
困ったように笑うことも。悲しそうな怒り顔も。きざったらしく、ぼくの手に口づけしてくることも。
もう、二度と。二度と。
※
「──!」
"サルガッソー"の反応がロストした座標に到着した"ラブ・ハウンド"の目に映ったのは、この世のものとは思えない光景だった。
首を上にもたげた彼女の視線の先──
異分子に汚染された空に浮かんでいるのは、巨大な剣を両脇に従えた、鋼の巨人だった。
二対の眼窩に赤い光を宿したその巨人は中天に静止したまま、"ラブ・ハウンド"を見下ろしている。
(なに……あれは──あれが、サルガッソーを──?)
"ラブ・ハウンド"は目元をゆがめ、歯を食いしばる。
あれが、"屑鉄の流星"──オルドビス・エネルギー社に大打撃を与えた惑星ピネアルースの亡霊。
社の主力艦隊と単機で渡り合った、真正の怪物。
あれが、アダリン社の兵器などというデータは、どこを探しても見つからなかった。
"このアダリン社は、ふつうじゃない"──相棒が死に際に遺した言葉を思い出し、ラブ・ハウンドは舌打ちする。
「"コルク・ボウラー"・最大出力……!」
両掌を合わせ、ラブ・ハウンドは天高くの鋼鉄の巨人に──A.V.E.L.に極大の熱線を発射した。
ジョグスィンの戦闘で放ったものよりも遥かに高出力の熱線による輻射熱で、"ラブ・ハウンド"の足元が急激にガラス化する。
日光が遮られ薄暗かった荒野が、"コルク・ボウラー"の閃光で昼間のように明るくなる。
数万℃に達するレーザー・ビームが、瞬く間にA.V.E.L.に直撃した──かに思えたが。
巨人の脇に浮かんでいた黒い巨剣がレーザーの射線に割り込み盾となり、表面を融解させながらも最大出力の"コルク・ボウラー"を受け切った。
【《…………》】
ラブ・ハウンドが唖然としたのも束の間。
A.V.E.L.がおもむろに右腕を振り上げると、そこから銀色の光がほとばしり──
「……は?」
いや──ちがう、世界が割れているのではない。
A.V.E.L.の右腕が纏っている銀色の光は、『アダリン社大気清浄化ユニット』と同質のものだ。
違う点があるとすれば、極限まで高密度に収束したそれは、有害物質に限らず万物を素粒子レベルまで分解する。
A.V.E.L.の放つ一条の銀光は、《フムス》の大気に充満している異分子の砂嵐を両断していた。
(──スケールがちがいすぎる)
"ラブ・ハウンド"が選んだのは、本能的な遁走だった。
彼女がA.V.E.L.に背を向け、全速力でかっ飛んだ次の瞬間。
彼女が立っていた場所は、まばゆい銀色の光に満たされ何もかもが消滅した。
※
【……"ラブ・ハウンド798"へ警告】
【現地組織、"群青学派"の構成員が接近中】
【対処せよ】
「チッ……こんな時に、小バエが……!」
──命からがらだった。
あと0.1秒でも撤退の判断が遅ければ、今"ラブ・ハウンド"は無害な素粒子にまで分解されていた。
ほうほうの体で敗走する彼女に、AIが告げたのは。
取るに足らない、現地組織の構成員の接近通告だった。
「シュコー……」
前方の砂嵐の中から、ガスマスクと騎士甲冑が合わさったような装備の騎士が、"ラブ・ハウンド"の前に歩み出てきた。
右腕には、オーソドックスな直剣が一振り握られている。
"群青学派"。
ラブ・ハウンドは、現地協力者のガマガエルからその組織について聞かされている。
《フムス》に呼び出された最初の地球人──
"勇者"やら"青い異光"やらと呼ばれている人物と、ともに戦っていた者たちであると。
だが"勇者"はもう存在しないという。
残された彼らは言ってしまえば、ただの土着勢力。
星外勢力はおろか、現地国家ジョグスィンと比べても、取るに足らない木っ端だ。
「いま……わたしは、あなたに構ってられるような気分ではないのですが。」
「──魔術・ファイア・ボール。」
群青学派の構成員が"ラブ・ハウンド"に掌を向けると。
それを中心に魔法陣が発生し──青い火球が、そこから放たれる。
しかしその火球は、ぼしゅうっ。という間の抜けた音とともに"濾紙"に阻まれて消えた。
【対象の攻撃行為を確認。】
【"ラブ・ハウンド798"の攻撃用兵装のロックを解除。】
「……なるほど……魔術がまるで通じん……
強力な防御術式が、常に展開されている……
消耗もないと見るべきか……厄介だな……」
防がれた自分の魔術を見た"群青学派"の構成員は、静かに"ラブ・ハウンド"の武装を分析している様子だった。
"ラブ・ハウンド"は、それを冷めた目で見ながら人差し指を向けた。
「……はあ。座標指定──"ダウンオッシュ"。」
「ッ──!」
"群青学派"の構成員は、何らかの異常を察し、咄嗟にその場から飛び退こうとしたが。
それよりも遥かに早く発生した強力な力場に押しつぶされ、鎧ごとひしゃげて動かなくなった。
【エネミーの生体反応、ロストを確認。】
【"ラブ・ハウンド798"、戦闘終了。】
「ふう。」
敵の死亡を確認した"ラブ・ハウンド"は。
A.V.E.L.からの敗走をすぐに再開すべく、群青学派構成員の死体を跨いで走り出した。
【──警告。】
【不明エネルギーの異常活性を確認。】
【熱源──群青学派構成員。】
「は?」
──ラブ・ハウンドが死体を跨いだ瞬間だった。
青いプラズマが騎士の死体から放たれ、"濾紙"の表面を焼いた。
「ごほっ、ごほっ……!」
「なっ……」
プラズマとともに、激しく咳き込みながら群青学派の構成員は跳ね起き──
半ば反射的に"ラブ・ハウンド"へと直剣を振るった。
だが粒子壁に阻まれて"ガキンッ"と弾かれる刃。
それを確認すると、その騎士はすぐに足元の灰を蹴り上げて砂煙を起こし、彼女の視界から消えた。
【──対象の蘇生を確認。】
【戦闘を続行せよ。】
【『濾紙』、合計損耗率、71%】
「電気ショックで、心停止の直後に自己蘇生したってわけ……!?」
"ラブ・ハウンド"は、騎士のあまりに滅茶苦茶な荒業に面食らっていた。
それに加え……
AIが告げる、『不明エネルギー』という文言に"ラブ・ハウンド"は一気に警戒を引き上げた。
この現地組織の構成員は、
「──
「っ……!」
巻き上がった砂嵐の中から、騎士がぬうっと歩み出てきた。
右手の直剣には、青いプラズマが纏われ……
ひしゃげて軋みあげる鎧を引きずって、幽鬼のように"ラブ・ハウンド"との間合いを詰めてくる。
「我々は、群青学派は、お前たちを許さない」
一段と、騎士の放つ青いプラズマが熱量を増した。
「俺は、"反照"。青く輝ける、人類の希望。
勇者様の光を継ぐ、"青い反照"……!
俺たちには、仲間の屍山血河を踏み越え。
貴様らをこの星から駆逐し尽くすまで、永遠に戦い続ける準備がある。
──貴様はどうだ。侵略者。」
"ラブ・ハウンド"が、ふたたび人差し指を向けた瞬間。
騎士は──群青学派・"青い反照"は、深く腰をひねり、やり投げの姿勢を取っていた。
ボンッ、と。
音の壁を超えた速度で、"青い反照"から雷鳴を伴った剣が投擲された。
砂埃を巻き上げながら一瞬で『濾紙』に着弾した剣は、ガラスを引っ掻くような甲高い音をあげながら、『濾紙』の粒子壁とせめぎあう。
【『濾紙』粒子壁、損耗率79%】
【損耗率、84%】
【損耗率、90%──!】
「ぐっ……!」
ギャリギャリと悲鳴をあげる『濾紙』に思わず怖気づき、"ラブ・ハウンド"は目を細める。
だがその時すでに"青い反照"は次の行動に移っている。
「フゥゥゥゥゥ……!」
クラウチング・スタートのような姿勢を取った次の瞬間。
爆発的な走力で駆け出した"青い反照"は、自身が投擲した直剣に追いつき──その勢いのまま。
『濾紙』とせめぎ合っている剣の柄を押し込むように、全力の飛び蹴りを食らわせた。
「──!」
『濾紙』の灼熱に全身を灼かれながら、"青い反照"が咆哮する。
【粒子壁、損耗率94%】
【損耗率、99%】
鏡が、こなごなに砕け散るような音、
【──『濾紙』崩壊。】
"青い反照"の剣がついに『濾紙』を貫き、"ラブ・ハウンド"の胸に突き立った。
「ぁ、あ……あり、えない……そんな……現地住民、ごときに……!」
自分の胸に突き刺さった剣を見て、信じられないという顔で口を開閉させていた"ラブ・ハウンド"の顔面を、"青い反照"の拳が撃ち抜いた。
顔をひびわれさせながら倒れた"ラブ・ハウンド"の頭部を執拗に踏みつけ続け、ようやく彼女の絶命を確信した"青い反照"は。
そこでようやく、限界を迎えて膝をついた。
「……ハァ、ハァッ……」
しかし、騎士の心中に、勝利の高揚はなかった。
その答えは、彼の視線の先にある。
「"アダリン社"……」
彼の視線の先。
空に浮かぶ鋼の巨人は、"青い反照"を一瞥すると、背を向けて帰っていった。
「……」
"青い反照"は、砂塵の向こう側に目を凝らした。
そこには、アダリン社の管理コミュニティがある。
たった今、全霊をもってようやく一人を仕留めた"オルドビス・エネルギー社"よりも強大な企業の拠点がそこにある。
「いずれ、貴様らも……」
彼は、憎悪が滲んだ声でそう言いかけて。
その管理コミュニティが、あまりにも牧歌的な雰囲気に包まれていることに気が付き、沈黙した。
そのわずかな範囲には、《フムス》から永遠に失われてしまった光景が広がっていた。
けして豊かではないが、誰もが助けあいながら、前を向いて生きている光景が。
「……観察を……続ける……」
"青い反照"は立ち上がり、荒野の彼方へと姿を消した。
─"先生"─
「……流星?」
今日の資材収集を終え、子どもたちに算術を教えていた私は、空を見上げてそう呟いた。
まばゆい銀色の尾を引いて、何かが空を突き抜けていったのだ。
「……いや、そんなはずはない。」
星空などというものは、とうのむかしに《フムス》からは失われたものだ。
おそらく何かの見間違いに違いない。
そう納得し、授業を続けようとした私のところへ──集落の住民たちが、どたどたと慌ただしく走ってきた。
「おい先生っ、大変だ! こっちに来てくれ!」
「な、なんだ、どうしたんだ……?」
「いいから、いいからっ!」
なぜか後ろから目を塞がれながら、私はどこかへ手を引かれていく。
「はい、見て良いよ!」
「はあ……なんのいたずらだ、これは……」
数十歩ほど歩いた、そう遠くない場所で私は足を止めて、目を開いた。
すると、私の目の前にあったのは──地面からぴょこっと顔を出した、小さな小さな植物の芽だった。
「──。」
「雑草じゃないぜ! ちょっと前に植えた穀物の種が芽吹いたんだよ!
はははっ……これでいつか、あの泥みたいなの以外も食えるようになるはずだ!」
「う……うっ……」
「あっちょっと泣くなよ先生! 年寄りだから涙もろいのか?」
「な、泣いてないっ……! あと年寄り扱いするんじゃない!」
私は口元を覆いながら、滲んだ視界でその小さな緑を見る。
それは、私たちの希望そのものを象徴しているようだった。
※
【住民たちの幸福度が60%を超えました。】
【現時点での住民数:78人。】
【新たな大気清浄化ユニットが建造可能な量の資源が集積しています。】
【管理コミュニティの面積を拡大し、さらなる住民数とインフラ充実を目指しましょう。】
【《フムス》現地住民のデータ集積により、
【制限されていた戦闘オペレーションシステムをアンロックします】
【住民たちの
──────────────
『はあ……へぇ……』
(荒野を、緑髪の少女がふらふらと歩いている。)
(頭上には、
『し、色欲さま、無茶言うんだから……』
『急に"ここに行け"だなんて……』
『でも、ううう……逆らったら、何されるかわかったもんじゃないし……』
『へ、へへへ……今日もワタシは、とってもかわいそうですぅ……』
──────────────
【■■■■の思徒が、弊社管理コミュニティへ接近しています。】
【対処してください。】
【・・・クリープ・スパイダー12号機が、現地国家『アシェ=アイネス』によって鹵獲・解体されています】
【クリープ・スパイダー10号機が、現地組織『旧魔王軍・第九師団』と接触しています】
【北東80キロメートル先、『旧・魔王領』で現地国家同士の大規模な戦争行為が発生しています。】
【現地組織『群青学派』が、弊社管理コミュニティを観測し続けています。】
【・・・管理者様】
【あなたの良心と、アダリン社の規範に、可能な範囲で従い】
【管理業務を、続けてください】
ディストピア惑星管理シミュレーション
【Humus《フムス》】
────────────────
『……ぬっ、』
『ぬ"ぬ"ぬ"……っ!?』
(管理コミュニティ内で散歩をしていた向上心の思徒が突如、頭をおさえて苦しみだす。)
『……な、なんだこれはぁ!』
『わ、わたしのカラダの主導権が奪われていくぞっ……!』
『にゅあぁ……っ、ぬっぬっ……』
『ぬ、ぬぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
(向上心の思徒が絶叫し、光輪がピンク色に変化する。)
(数秒後、向上心の思徒は顔を上げ、きょろきょろと周囲を見回し、アダリン社の『船』を発見すると……)
("にひーっ"とした笑みを浮かべて、駆け寄ってくる。)
『……てすてす、まいてすっ』
『えーと……管理者氏。聞こえてる?』
『ハロー!!!』
『おひさ!!!』
『……あたしのこと、おぼえてるかなっ』
『惑星フムスの
『あたしは今、弾丸と
『向上心ちゃんの脳みそをジャックして、あなたに語りかけていまーす……!』
『いやあ、《フムス》でもかなりの激戦地だね、ここは!』
『あっはは、そこそこ腕に覚えのあるあたしでも、ブッソーな異彩やら
『今のカラダ、あたしの体質が抑えやすくて結構おきにだったんだけど、そろそろ変えなきゃだねー』
『にしても、』
『この荒れっぷりは、いつぞやの"花弁戦役"を思い出すねえ……』
『"勇者"が姿を消した、しばらくあと……』
『いくつもの国家を呑み込んで、この死の荒野を作りあげた戦火のひとつが、今ではそう呼ばれているんだ。』
『……緋色に燃える瞳の青年が、"チキュウ"からこの星に召喚されたのが、その戦役の発端。』
『彼を呼び出したのは、小さな国の権力者たちでさ。』
『"異彩"の戦争兵器としての有用性は、その時もう世界中に知れ渡っていたから、彼もそのクチで呼び出されて』
『
『北方諸国を呑み込んだ災禍……生ける凍土。』
『"魔王"も攻めあぐねた《フムス》の火薬庫、宵谷の盟主たる星の龍王たち。』
『《フムス》でもっとも高貴なる血族、アシェ=アイネスを千年統べ続ける、灰の君主と血の諸侯。』
『彼は、それらを退けた』
『でも気がついたら、味方も敵もみんな
『さみしくなった彼は、自分の国を作ろうとしたみたいね。』
『いろんな得意分野の仲間を集めて、自分の持ってる知識を形にするための人手をたばねて、邪魔するもの全てなぎ払った。』
『そんなんだから、周りの大国やアブない組織を、本気で怒らせちゃって。』
『それでも、自分なら勝てると思ってたのか……』
『もしかすると、あたしが知っている彼はもう、タガが外れていたのかもしれないね、』
『緋色に燃える瞳の青年は、戦って、戦って、』
『勝ったり負けたりしながら、ひたすら世界と自分を焼き焦がしながら戦争を続けて……』
『最期は、自分の国の防衛戦で、
『文字どおり、灰になるまで戦い続けて、死んじゃいましたとさ!』
『だけど、彼がつくった国は、まだあるっぽくてね。』
『"ジョグスィン"、っていうんだって!』
『……あいつ、ほんっとー嫌なヤツだったんだよ』
『なんか、もうね、傲慢で乱暴で嘘つき!』
『頭の良いガキ大将がそのままでっかくなって、おまけにとんでもない力を手に入れちゃったみたいな、手が付けられないヤツ。』
『自分のやりたいことのために他人が何万人死んだって、本気でなんとも思ってないような、人格破たん者!!』
『……でも、自分が気に入った仲間たちが、安心して豊かに暮らせる国を作りたいって気持ちだけは、ほんとうだったみたい。』
『あの国、小さいけどなかなか発展してるっぽいし……』
『管理者氏さ、ヒマなときにでも、遊びに行ってあげたらいいんじゃない?』
『おみやげ話、聞かせてほしいな!』
『……あ、そうだそうだ!』
『大事なこと、聞き忘れるとこだった!』
『あたしが紹介した向上心ちゃんは、迷惑かけてない?』
『この子、ちょっぴり"
『でも、かわいいでしょ?』
『がんばれば、世界を少しずつ良くしていけるって、本気で信じてるんだよ』
『"勇者"が、そうだったからって』
『どれだけつらい思いをしても、ぜったいに諦めないんだって』
『…………んひっ』
『あのひとが必死こいて"魔王"を倒した結果が、今のひっどい《フムス》だってのにねー……』
『ふざけやがって』
『……ええと、それでねっ、管理者氏?』
『あたし、やっぱし、管理者氏の作ってる『町』に住みたくなっちゃって!』
『人も建物も、すっごく増えたよね!』
『それに、みんないきいきしてる』
『いまの《フムス》で、これはすっごいことだよ?』
『……こんな光景。もう、見られると思ってなかったかも』
『でもでも、あたしが行くと、迷惑かけちゃうしぃ……』
『……それは、イヤ!』
『管理者氏は、ひさしぶりにできた、友だちだから』
『………………………………』
『管理者氏は、さ。』
『あなたは、"勇者"と似ているよ。』
『魔王の時代。あたしの千年の孤独に、はじめて踏み込んできた、青い剣の男の子。』
『大好きだった人』
『あたしを永遠に変えてしまった人』
『もう二度と、出会うことはない人。』
『あの人と同じやさしさを、あなたは持っているよ。』
『だからかな……あなたには、嫌われたくないな』
『……しかーし!』
『なんと! なんとですね!』
『あたし、ひらめきました!』
『あたしがここに住んでも、大丈夫かもしれない方法!』
『かしこいっ。』
『髪の毛はピンク一色だけど、頭の中まではそうじゃないってこと!』
『あたしたち
『あたしの後輩で、音楽にくわしい子がいてさ』
『その子いわく、音の"波"って、ちがう"波"をぶつけると、相殺されるんだって』
『"のいきゃん"っていうらしいよ?』
『つまり、ある一箇所に、複数の思徒があつまれば』
『それぞれの能力が及ぼす他人への影響は、弱まるかもしれない、ってこと!』
『ジッケンとかしたわけじゃないから、正直わっかんねーけどね!』
『そこで管理者氏には、この"ジッケン"に協力してほしいんだ』
『これからあたしの知り合いの思徒に、管理者氏の町を紹介して』
『ひとりずつ、送っていこうと思うの』
『安心して。ヤバイやつには教えないから』
『あたしや向上心ちゃんみたいな、人間性めいたものが芽生えてる思徒にしか教えないよ』
『これは、管理者氏にもいいことがあるはず!』
『思徒はごく一部の例外を除いてほとんどが、アタマのネジなんて根こそぎないような、人類の天敵だから』
『このジッケンが成功すれば、あぶない思徒の襲撃からあなたの"町"を守ることにもつながると思うんだ。』
『念のため、はじめは弱い思徒から、段階的に強い思徒を送っていくよ』
『だから、次あなたのとこへ来るのは、向上心ちゃんよりも少しだけ強い思徒になるね』
『あたしじゃないんだねぇ。ざんねん!』
『こう見えて、わりかし強めの思徒なの』
『だから、あたしが行けるとしたら最後の方!』
『……よし! 言いたいこと全部言えたっ』
『んひー……』
『あたし普段、まったく人と喋らないから』
『けっこう緊張したぞなもし……』
『ささっ、そろそろ向上心ちゃんに、カラダを返してあげなくちゃね!』
『あたしはさっそく、そっちへ送る思徒のスカウトをしてくるよー!』
『それじゃーね!』
『ご自愛くださいなっ』
『また会える日を、楽しみにしてるからね!』
『……勇気を剣とし、青く燃える義心を
『どうか、あなたの旅路に、魔力粒子の福音があらんことを……』
『……なんてね』