ディストピア惑星管理シミュレーション【Humus《フムス》】   作:幕霧 映(マクギリス・バエル)

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 ※テンポの都合上、本編ではダイジェスト気味になってしまった、管理コミュニティの家を作る過程を描いた番外編です。
 ※時系列としては、現地国家ジョグスィンから30名ほどの難民たちがやってきてすぐあたりとなります。



番外編『管理コミュニティ住居施工計画:前編』-彩暦28年-

 

 

 ─"先生"─

 

 

 

 

 

 ──"ぷっぷー!"

 

「みんなっ、おはよう!!!

 今日も素敵な朝がやってきたぞっ!

 早起きは三文の得っ。

 わたしといっしょに朝の体操をして、今日をより良い一日にしよう!!!」

 

 

 景気の良い管楽器の音とともに、私は目を覚ました。

 

「う……」

 

 周囲の皆はあくびをしながらもぞろぞろと起き上がっていくが、私はブランケットにくるまったまま、起き上がれずにいた。

 

 寒すぎる。

 それに、血が足りなくて、頭がまったく働かない。

 がたがたと全身が震えて、寒気でどうにかなりそうだった。

 

 私は混血とはいえ吸血種(サンヴィー)の血が混ざっているゆえに、定期的に生き血を飲まなければ、どんどん力を失っていく。

 すこし前までは小動物の生き血を摂れていたが、冬が近づいてきたせいで、最近はほとんど補給できていない。

 

 だが、集落の住民たちから血をもらうのは、最終手段だ。

 人間の生き血をすすると、私は……抑えが、効かなくなってしまうから。

 

「うー……あぁぁぁ……」

 

「先生っ! どうしたんだ、そんな屍鬼(ゾンビ)みたいな声をあげて!!!」

 

 亡者のような声と足取りでなんとか起き上がった私に、向上心の思徒や他の住民たちが、心配したように近づいてきた。

 私は自分の顔をパンパンと叩いて気合を入れたあと、「だいじょうぶ……」と、自分でも大丈夫ではないのが明らかな声色で言った。

 

 

 

  ※

 

 

 

「……それにしても、あらためて異様だな、ここは……」

 

 くぁ、とあくびをする私の横で、隻腕の熊亜人(ヴォーロス)が、そう漏らした。 

 

 彼は昨日にこの管理コミュニティにやってきた、ジョグスィンという国家の難民たちのひとりだ。

 

 ジョグスィン。

 私が知らないということは、歴史が浅い国家なのだろう。

 

 彼らがいたその国は、高度に発展しているが……

 一方、極めて高額の租税が課されており、それを支払えなければすぐに国外退去──つまり、異分子に汚染された死の荒野へと放逐されてしまうのだという。

 

 恐ろしいことだ。

 小さな村落であれ、拠点を構えることができれば、防塵フェンスなどで多少は異分子の粉塵を軽減することはできる。

 逆にそこから放り出されるということは、呼吸すらままならない環境でさまようことを意味する。

 

「俺たちがいたジョグスィンも、大掛かりな防塵壁のおかげで、荒野よりは空気が澄んでいたが……

 この集落は別格だな。

 こんなに空気がうまいと感じたのは、生まれてこの方はじめてだ。

 防塵壁もないのに、どうなっていやがる……」

 

 きょろきょろと周囲を見回し、唖然としたようにそう呟いた彼に。

 私はなんだか誇らしくなって、得意げに集落の四隅に突き立っている四基の白い物体を指さした。

 

「ふふん、そうだろう。すごいだろう。

 あそこにある──"アダリン社大気清浄化ユニット"……

 あれが、この管理コミュニティの大気を、常に浄化しているんだ。」

 

「まったく……イカれた技術力だな。

 この技術を持った連中が、本気で牙を剥いてきたら……

 なあ、アンタ、"先生"だったか?」

 

「うん……?」

 

 熊亜人の男は、その傷だらけの顔を険しくして、私に質問をしてくる。

 

「こんな得体の知れない組織のことを、あんたは信用しているのか?

 俺たちに、こんな天国のような居住環境を提供することで、アダリン社は……"管理者"は、対価としてなにを得ようとしている?

 本来、軽労働ごときで居住できる環境じゃないだろう、ここは。

 少なくとも俺がいた国は、身をちぢこませて眠る場所を確保するだけでも、身を削るような努力が必要だった。」

 

 彼は、大した対価もなくこの環境を私たちに与えるアダリン社と管理者様に対して、後ろ暗いものを感じているようだった。

 理解できる。私含めて、人というのはそういうものだ。

 支払った対価に対し、与えられるものがあまりに大きければ、かえって恐怖を感じるものだ。

 なにを企んでいるのだろう──と。

 

 少し前までの私と同じようなことを考えている彼に、親しみを感じた私は薄っすらとほほえみ。

 彼の疑問に答えるべく、口を開いた。

 

「管理者様は──」

 

「──ぐああああっ!!! 

 なっ、なにをするんだっ、このクソ思徒(タルパズ)

 僕を誰だと思っているんだっ!」 

 

 私がそう言いかけたところで、どこからかヒステリックな青年の絶叫が聞こえてきた。

 

 私と熊亜人の男が反射的にそちらへ振り向くと……

 上等な身なりの青年が、向上心の思徒に手首を捻り上げられて悶えており、その周囲に人だかりができていた。

 

「彼は……」

 

 確か、昨日。

 ジョグスィンという国で、商人としてそれなりに成功していたのだと、私に自己紹介をしてきた青年だ。

 それなのに、なぜ税を支払えなくて追放されたのかは分からないが……

 

「どうしたんだ……?」

 

 私が向上心の思徒にそう聞くと。

 彼女は、青年の手に握られていた紙冊子を奪い取り、それを私に見せてきた。

 

「先生っ。犬亜人(カーネム)たちが教えてくれたのだが、この男が、詐欺まがいの行為をはたらこうとしているのだ!!!」

 

 向上心の思徒が見せてきたその紙の冊子の表紙にはポップな手書きのデザインで『【限定20名】"もう働く必要ナシ! 不労所得構築スキーム……"値段:労働の肩代わり5日分』と書かれていた。

 

 ……なんだろう。よくわからないが、そこはかとなく不健全な感じがする。

 

 青年は冊子を奪い返そうと、背後からがばっと向上心の思徒に襲いかかるが、逆に彼女が放った裏拳を食らって倒れた。

 

「ぐふっ……!

 ふっ、ふざけるな! おい、返せっ!

 あと詐欺じゃないぞ! ()()()()()()だ!

 僕は少し前まで、このビジネスで、華の都市ジョグスィンの1等地にオフィスを構えていたんだぞ!」

 

「しょ、しょうざいびじねす……?」

 

「詐欺みたいなものだろう!!!

 こんなものっ、こんなものー!!!

 マジメに働くのだぁぁぁ!!!」

 

「ああーっ! 僕のスキームがー!!!」

 

 向上心の思徒が、青年から奪った冊子をびりびりと破り捨てた。

 細かい紙片となって地面に落ちていくそれを、青年は必死にかき集める。

 

「う、ううう……ぼ、僕はここで成り上がって、僕を見下して来やがった親兄弟に吠え面をかかせてやるんだぁぁぁ……!」

 

 青年の執念すら感じる気迫に唖然としている私に、熊亜人の男が呆れた様子で口を開いた。

 

「あいつはな。悪名高い詐欺商法の親玉だったんだよ。

 ジョグスィンから追放されるのは税金の未払いか犯罪者だが、あいつはごりごりの後者だ。」

 

「ええ……?」

 

「……ったく、局長も少しはここに送る人間を選べよな……変なの送って刺激したらどうすんだ……

 とにかく、アンタもあいつには気をつけろよ。

 クソみたいな男だが、話術と商才だけは折り紙付きだ。」

 

「……」

 

「な、なに見てるんだ情弱ども! 散れっ、散れっ!

 僕は見せ物じゃないぞっ! 僕を見下すんじゃない!」

 

 青年に怒鳴られ、野次馬たちも目をひそめながら彼の周囲から去っていき。

 

 やがて、地面にうずくまって泣いている青年と、それを静かに見つめる私だけが残った。

 

「う……ううう……お前もどっかいけよ、龍人(ドラコニス)の女!

 犯罪者だって見下してるんだろ!

 見下すな、僕を見下すな……!」

 

「はっきり言って……私には、きみがやったことについて、ほとんどわからない……」

 

 私は彼の前にしゃがみ込んで、静かに語りかけた。

 彼がやったことや、抱えている苦しみについては全く分からないが……

 それでも私は年長者で、教育者だ。

 

 その立場から、私は言葉を続ける。

 

「う、うるさいっ。わかんないなら口をはさむな!」

 

「わからない。

 だからこそ、きみのことを見下してなんかいないよ。

 責めたりもしない。

 だけど……なにかに苦しんでいるのは、凄く伝わってくる。」

 

「…………」

 

「きみがいた環境や周りの人がどうだったかは分からないが……

 少なくとも、ここでは誰もきみを見下したり、なにかを掠め取ったりはしない。

 きみが、変わろうとするのなら。

 私は、誰にもそんなことはさせない。」

 

「そんな……そんなの……」

 

 ふるふると首を振っている青年に、私は柔らかく微笑んで、手を差し出した。

 

「だから。ここでもう一度、やり直してみないか?

 ……きみがしたのは悪いことかもしれないが、それによって培われた能力は、誰かの役に立てる事ができるはずだ。

 この……"すきーむ"? 凄いじゃないか。

 表紙が目を引くし、文章もすごく読みやすい。」

 

 私がそう褒めると、青年は肩を震わせる。

 おずおずと顔をあげた青年と、私の目があった。

 すると彼は顔を赤くして、すすり泣きながら、私の手を取ってくれた。

 

 

 

 

      ※

 

 

 

【冬季に備え、住居の施工計画を開始します。】

【本日から施工計画の完了まで、資源の採掘に代わり、こちらの業務に従事してください。】

 

【アダリン社汎用構造体(建築用途配合)を支給します。】

 

 

 その日から、管理コミュニティ内の住居を作りはじめる事になった。

 管理者様の『船』から、黒い建築資材とそれを加工するための工具の数々が生み出され、それらを元に施工計画がスタートする。

 

「み、見たことがない素材だ……なにでできているんだ、これは……?」「さすがは管理者様だ……! 我々の理解を超えた技術をこうも容易く……!」

 

 私たちとしてはもはや見慣れた光景だが、ジョグスィンからやってきた人々は驚愕していた。

 

 幸いにして、建築に関しては私に多少の心得があるし、向上心の思徒も何やら自信ありげな様子だった。

 

 それに加えて資材と十分な人手もあるため、そう時間がかからずに住居を作ることができるだろう。

 

 こうして、私たちの住居建築計画がはじまったのだった──

 

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