ディストピア惑星管理シミュレーション【Humus《フムス》】 作:幕霧 映(マクギリス・バエル)
─先生─
【現地住民のステータス測定を開始します】
【測定が終了するまで、その場に直立し、呼吸を安静にしてください】
ある日、管理者様から呼ばれたため、集落の中心にある『船』の前に行くと……
いくつかの質問ののち、私の【ステータス測定】とやらをするとのことで、その場にじっとしているよう仰せつかった。
「ん……了解した。」
目の前の白い球体から、機械的な声とともに、目にまぶしい赤色の光が照射されて。
舐めるかのように、何度も私の全身を通り過ぎていく。
なんとなく、鼻にむずかゆさを感じて、尻尾をそわそわさせつつ、その場でじっとしていると。
やがて光が消え、【計測が完了しました。楽にしてください】と言われたので、私は小さくくしゃみをしてから、白い球体の方を向き直る。
【……栄養状態が、最悪に近いようですが……】
【食事は摂っていますか?】
少しの沈黙をおいて、球体から、管理者様がそう問いかけてきた。
……なるほど。どうやら先ほどの光は、私の体について調べるものだったらしい。
栄養状態が最悪……飢えているということだが、これについては実際のところ問題はない。
生存に必要最低限なだけの栄養は、毎日支給していただく【アダリン社完全食】から摂れているし……私に流れる龍血は、あらゆる飢餓と疫病をはねのける。
体は弱るし、時折はげしい飢餓感に襲われもするが、私の場合は死につながるようなものではない。
その旨を伝えると管理者様は、【対処法を考えます】と言い残し、その声を途絶えさせた。
「……」
私はしばし、そこに立ったまま、自分の種族について思いを馳せる。
両者ともに、『魔王』の時代はこの《フムス》で最強種に近い存在だったが、今やその性質は私を苦しめている。
その二種族それぞれが統べていた国家も、おそらく今は衰退していることだろう。
龍王たちの楽園であった『
かつて自分たちを強者であると
そして、私もまた、憐れな存在だ。
その血統に名を連ねる者として、命ある限り、罰を受け続けるのだろう。
ああ、なんて、憐れで不憫な人間なんだろうか。私は……
子供たちにはよく「先生は話が分かりにくい」と言われるし。
最近なんて、知識ですら向上心の思徒に遅れをとってしまったし……
……すこし、二度寝でもしようかな。
今朝は寒いし、まだちょっと眠たい。
私はこんなに憐れなんだから、そのぐらいの贅沢は──
「……ん?」
そこで初めて、違和感に気が付いた。
私はこんなに、自分を憐れむような性質の人間だっただろうか……?
「ねえ、先生……」
その時、私の教え子の一人が、声をかけてきた。
知識欲が旺盛で、いつも私の授業をよく聞いてくれている子だ。
少し顔が青くて、具合が悪そうだった。
「どうしたんだ?」
「ちょっと、頭痛がして……今日の授業、いけないかも……
資材集めも、管理者様に恩返ししないといけないのに、ちゃんとできないかも……」
「そうか……資材集めは、他の者と相談して分担するから、心配はいらない。
それより、よく言ってくれたな。
きみはいつも無理しがちで、体調が悪くても、教えてくれないのに……」
「……あれ、そういえば、そうだね。
いっつもわたし、これぐらいの体調不良なら、普段通りに過ごすのに。
なんで、今日は言ったんだろう?」
「ひえ……ふぅえぇ……びううう……おええ……」
私と教え子が、顔を見合わせていると。
集落のはずれの方から、今にも死にそうな誰かの呼吸音が聞こえてきた。
その呼吸の主の頭上には──
【管理コミュニティに不明な思徒が接近しています。】
【基本方針は『対話』となりますが……】
【総員、気を確かに保ち、必要であれば武力行使に出られるよう、準備をしてください。】
「っ……
私はとっさに教え子を抱き抱え、思徒のほうをにらんだ。
以前の──色欲の思徒ほど、あらがうことのできないものではないが……
いま、私は間違いなく──思考に影響を受けている。
「……さがっていろ、ふたりともっ」
「向上心ちゃん……?」
「こ……向上心の思徒。どうしたんだ」
と、その時。
子供を抱きかかえた私の後ろから、口をきゅっと引き結んで険しい顔をした向上心の思徒が、悠然と歩み出てきて……
「すうう……」
大きく、息を吸い込むと……
「くあああぁつ!!!!!!」
「っお……!」
──その小さな体から出ているとは思えない、大気が裂けんばかりの大声で、叫んだ。
「ひえええっ!?」
その気迫に驚いてか、集落のはずれの方で、杖をつきながら歩いていた緑髪の思徒が。
情けない悲鳴をあげながら、ひっくり返ってしまった。
……私と、腕の中の教え子は。
ぽかん……として向上心の思徒を見ていたが。
彼女の叫び声を聞いた瞬間に、頭のなかにあった、『自分を憐れむ気持ち』がずっと小さくなったことに気が付いた。
なんだなんだと、建物の中にいた住民たちも、目をこすりながら外に出てきた。
向上心の思徒は、その表情をより険しくして、地面にひっくり返ったままの緑髪の思徒に、こう問いかける。
「──
「うえええん向上心ちゃんがいるなんて聞いてないよ!!!
し、色欲さま、ワタシがあの子ニガテだって知ってるのに、なんで同じところにいかせたんですかあ!!
ひ、ひどい、こんなの、こんなの、ワタシがカワイソウすぎる……!」
「めそめそするな!!! 自分を憐れんだって前に進むことはないと、キサマに何度言えばいい!!!」
「うえええ……つ、疲れるから、前に進みたくない人だっているのにい……!」
「だまれ!!! ここはキサマの来る場所ではない!!!」
「ううううう……!」
腕を組んで責め立てる向上心の思徒と、相変わらず地面にへたり込んだまま、半泣きになっている緑髪の思徒。
……私は、一触即発の空気を放っている向上心の思徒を落ち着かせるため、彼女の肩に手を置いて、言う。
「……向上心の思徒。管理者様が、彼女と対話をすると言っている。
ここはひとまず、矛をおさめてはくれないか……」
「……むうう……!!! いたしかたあるまいっ……
しかし、気をつけろ先生!!!
ヤツは、みんなの向上心を減退させうる存在だ!!!」
「あ、ああ……気を付ける……」
……私は、向上心の思徒をなだめつつ、あの緑髪の思徒……
おそらくは『
『は、はじめまして。管理者氏。』
『わ、ワタシ、へへ、自己憐憫の思徒っていいます』
『色欲さまに、ここにこないとヒドイことするよってい、いわれて……』
『そ、それにしても、へへ、すげえきれいな空気っすね、へへ……』
「…………」
現地住民──”先生”のステータスが記された資料に落としていた視線を上げて、目の前のモニタの中で媚びるように笑う緑髪の少女……『
……自己憐憫。
向上心と同じく、好悪両方の側面を持つ感情だといえるだろう。
ぼくはマイクをオンにして、彼女との対話を始めることにした。
【はじめまして。ぼくはアダリン社の"管理者"。】
【この惑星に、秩序をもたらすことを目的としています。】
【対話をはじめましょう。】
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『先生』
性別:女性
年齢:180〜?
身長:170.5cm(ツノ・尻尾を含まない)
体重:47kg
髪色:灰
種族:
白兵技能:D
肉体靭度:C
筋出力:D+
魔力出力:D
走力:D
問題解決能力:B
極限の飢餓(吸血種)
:栄養失調により、肉体が著しく衰弱している状態。
:肉体靭度、筋出力、魔力出力、走力のステータスに極めて大幅なマイナス補正。
:戦闘用のスキルの大半が使用不可となる。
龍の因子
:飢餓や疾病に対する高い耐性を持つ。
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