ディストピア惑星管理シミュレーション【Humus《フムス》】   作:幕霧 映(マクギリス・バエル)

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『天使を憐れむ歌』-彩暦28年-

 

 

 

 

 

─先生─

 

 

 

【現地住民のステータス測定を開始します】

【測定が終了するまで、その場に直立し、呼吸を安静にしてください】

 

 ある日、管理者様から呼ばれたため、集落の中心にある『船』の前に行くと……

 いくつかの質問ののち、私の【ステータス測定】とやらをするとのことで、その場にじっとしているよう仰せつかった。

 

「ん……了解した。」

 

 目の前の白い球体から、機械的な声とともに、目にまぶしい赤色の光が照射されて。

 舐めるかのように、何度も私の全身を通り過ぎていく。

 

 なんとなく、鼻にむずかゆさを感じて、尻尾をそわそわさせつつ、その場でじっとしていると。

 やがて光が消え、【計測が完了しました。楽にしてください】と言われたので、私は小さくくしゃみをしてから、白い球体の方を向き直る。

 

【……栄養状態が、最悪に近いようですが……】

【食事は摂っていますか?】

 

 少しの沈黙をおいて、球体から、管理者様がそう問いかけてきた。

 ……なるほど。どうやら先ほどの光は、私の体について調べるものだったらしい。

 

 栄養状態が最悪……飢えているということだが、これについては実際のところ問題はない。

 生存に必要最低限なだけの栄養は、毎日支給していただく【アダリン社完全食】から摂れているし……私に流れる龍血は、あらゆる飢餓と疫病をはねのける。

 

 吸血種(サンヴィー)である私の『飢え』とはつまり、生き血を飲めていないことによる、魔力欠乏だ。

 体は弱るし、時折はげしい飢餓感に襲われもするが、私の場合は死につながるようなものではない。

 

 その旨を伝えると管理者様は、【対処法を考えます】と言い残し、その声を途絶えさせた。

 

「……」

 

 私はしばし、そこに立ったまま、自分の種族について思いを馳せる。

 

 吸血種(サンヴィー)龍種(ドラコニス)、私はその混血だ。

 両者ともに、『魔王』の時代はこの《フムス》で最強種に近い存在だったが、今やその性質は私を苦しめている。 

 

 その二種族それぞれが統べていた国家も、おそらく今は衰退していることだろう。

 

 吸血種(サンヴィー)の祖種。『アシェ=アイネス』の王たる灰の君主は、とある緋色の瞳をした異彩に()()()()()敗北したと、むかし行商たちが噂していたのを聞いたことがあるし。

 龍王たちの楽園であった『宵谷(しょうこく)』は、内乱により崩れ行く様を私がこの目で目撃した。

 

 (あわ)れ、という他ない。

 かつて自分たちを強者であると(のたま)い、他者を足蹴にして許される支配者なのだと(おご)っていた者たちが、今や逆の立場に落ちぶれている。

 

 そして、私もまた、憐れな存在だ。

 その血統に名を連ねる者として、命ある限り、罰を受け続けるのだろう。

 

 ああ、なんて、憐れで不憫な人間なんだろうか。私は……

 子供たちにはよく「先生は話が分かりにくい」と言われるし。

 最近なんて、知識ですら向上心の思徒に遅れをとってしまったし……

 

 ……すこし、二度寝でもしようかな。

 今朝は寒いし、まだちょっと眠たい。

 私はこんなに憐れなんだから、そのぐらいの贅沢は──

 

「……ん?」

 

 そこで初めて、違和感に気が付いた。

 私はこんなに、自分を憐れむような性質の人間だっただろうか……?

 

「ねえ、先生……」

 

 その時、私の教え子の一人が、声をかけてきた。

 知識欲が旺盛で、いつも私の授業をよく聞いてくれている子だ。

 少し顔が青くて、具合が悪そうだった。

 

「どうしたんだ?」

 

「ちょっと、頭痛がして……今日の授業、いけないかも……

 資材集めも、管理者様に恩返ししないといけないのに、ちゃんとできないかも……」

 

「そうか……資材集めは、他の者と相談して分担するから、心配はいらない。

 それより、よく言ってくれたな。

 きみはいつも無理しがちで、体調が悪くても、教えてくれないのに……」

 

「……あれ、そういえば、そうだね。 

 いっつもわたし、これぐらいの体調不良なら、普段通りに過ごすのに。

 なんで、今日は言ったんだろう?」

 

 

 

 

「ひえ……ふぅえぇ……びううう……おええ……」

 

 私と教え子が、顔を見合わせていると。

 集落のはずれの方から、今にも死にそうな誰かの呼吸音が聞こえてきた。

 

 その呼吸の主の頭上には──光輪(ヘイロウ)が、浮いている。

 

【管理コミュニティに不明な思徒が接近しています。】

【基本方針は『対話』となりますが……】

【総員、気を確かに保ち、必要であれば武力行使に出られるよう、準備をしてください。】

 

「っ……思徒(タルパズ)……!」

 

 私はとっさに教え子を抱き抱え、思徒のほうをにらんだ。

 以前の──色欲の思徒ほど、あらがうことのできないものではないが……

 いま、私は間違いなく──思考に影響を受けている。

 

「……さがっていろ、ふたりともっ」

 

「向上心ちゃん……?」

 

「こ……向上心の思徒。どうしたんだ」

 

 と、その時。

 子供を抱きかかえた私の後ろから、口をきゅっと引き結んで険しい顔をした向上心の思徒が、悠然と歩み出てきて……

 

「すうう……」

 

 大きく、息を吸い込むと……

 

「くあああぁつ!!!!!!」

 

「っお……!」

 

 ──その小さな体から出ているとは思えない、大気が裂けんばかりの大声で、叫んだ。

 

「ひえええっ!?」

 

 その気迫に驚いてか、集落のはずれの方で、杖をつきながら歩いていた緑髪の思徒が。

 情けない悲鳴をあげながら、ひっくり返ってしまった。

 

 ……私と、腕の中の教え子は。 

 ぽかん……として向上心の思徒を見ていたが。

 彼女の叫び声を聞いた瞬間に、頭のなかにあった、『自分を憐れむ気持ち』がずっと小さくなったことに気が付いた。

 

 なんだなんだと、建物の中にいた住民たちも、目をこすりながら外に出てきた。

 

 向上心の思徒は、その表情をより険しくして、地面にひっくり返ったままの緑髪の思徒に、こう問いかける。

 

「──()()()()!!! キサマ、なにをしにきた!!!」

 

「うえええん向上心ちゃんがいるなんて聞いてないよ!!!

 し、色欲さま、ワタシがあの子ニガテだって知ってるのに、なんで同じところにいかせたんですかあ!!

 ひ、ひどい、こんなの、こんなの、ワタシがカワイソウすぎる……!」

 

「めそめそするんじゃないっ!!! 自分を憐れんだって前に進むことはないと、キサマに何度言えばいい!!!」

 

「うえええ……つ、疲れるから、前に進みたくない人だっているのにい……!」

 

「だまれ!!! ここはキサマの来る場所ではない!!!」

 

「ううううう……! わ、ワタシだって、来たくて来たわけじゃないのにいいい……!」

 

 腕を組んで責め立てる向上心の思徒と、相変わらず地面にへたり込んだまま、半泣きになっている緑髪の思徒。

 

 ……私は、一触即発の空気を放っている向上心の思徒を落ち着かせるため、彼女の肩に手を置いて、言う。

 

「……向上心の思徒。管理者様が、彼女と対話をすると言っている。

 ここはひとまず、矛をおさめてはくれないか……」

 

「……むうう……!!! いたしかたあるまいっ……

 しかし、気をつけろ先生!!!

 ヤツは、みんなの向上心を減退させうる存在だ!!!」

 

「あ、ああ……気を付ける……」

 

 ……私は、向上心の思徒をなだめつつ、あの緑髪の思徒……

 おそらくは『自己憐憫(じこれんびん)思徒(タルパズ)』を、管理者様の前に連れていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『は、はじめまして。管理者氏。』

『わ、ワタシ、へへ、自己憐憫の思徒っていいます』

『色欲さまに、ここにこないとヒドイことするよってい、いわれて……』

『そ、それにしても、へへ、すげえきれいな空気っすね、へへ……』

 

「…………」

 

 現地住民──”先生”のステータスが記された資料に落としていた視線を上げて、目の前のモニタの中で媚びるように笑う緑髪の少女……『自己憐憫(じこれんびん)思徒(タルパズ)』を見た。

 

 ……自己憐憫。

 向上心と同じく、好悪両方の側面を持つ感情だといえるだろう。

 

 ぼくはマイクをオンにして、彼女との対話を始めることにした。

 

 

 

【はじめまして。ぼくはアダリン社の"管理者"。】

 

【この惑星に、秩序をもたらすことを目的としています。】

 

【対話をはじめましょう。】

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────────────────────────────────────

『先生』

性別:女性

年齢:180〜?

身長:170.5cm(ツノ・尻尾を含まない)

体重:47kg

髪色:灰

種族:龍種(ドラコニス)×吸血種(サンヴィー)

 

戦闘適正:中距離・魔術

 

白兵技能:D

肉体靭度:C

筋出力:D+

魔力出力:D

走力:D

問題解決能力:B

 

 

 総合戦力評価:クラスIII(スリー)

 

極限の飢餓(吸血種)

 :栄養失調により、肉体が著しく衰弱している状態。

 :肉体靭度、筋出力、魔力出力、走力のステータスに極めて大幅なマイナス補正。

 :戦闘用のスキルの大半が使用不可となる。

 

龍の因子

:飢餓や疾病に対する高い耐性を持つ。

 :龍種の種族スキルが使用可能

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