ディストピア惑星管理シミュレーション【Humus《フムス》】 作:幕霧 映(マクギリス・バエル)
『……なんという。』
部長が絶句するのは、クリープ・スパイダー10号機のカメラアイが最期に映した光景──
旧魔王軍・第9師団の野営地が、群青色の騎士が発生させた火柱に焼き尽くされ、
そこにいた兵士、子ども、老人たちが、炎に呑み込まれる映像である。
『現地組織『群青学派』、青い反照……
あの群青色の騎士を、弊社のガイドラインに当てはめるとするなら。
脅威クラス
「ええ、《魔王》の推定脅威クラスと同等です。
加えて、"青い反照"は──……
相手が消耗していたとはいえ、オルドビス・エネルギー社員を単独で撃破していることを確認済みです。
それを加味すれば、クラス
間違いなく、単体戦力としては惑星《フムス》最強クラスと言えるでしょう」
部長は深い溜息とともに『……アレに対抗するとなると、早急に《ワンダラー・ナイト》の増産が必要だな。』と呟いた。
それには同感だけども、すぐにとはいかない。
なにせワンダラー・ナイト……
現在、現地国家ジョグスィンに潜伏している機体も、あの時点で集積していた資材の大半を投じて、建造されたものだ。
当面は相変わらず、下位モデルの《クリープ・スパイダー》が、弊社の主戦力となる。
《ナイト》は単体戦力として極めて優秀だが、《スパイダー》には手数で大きく劣ってしまう。
具体的には、《ナイト》一機を作る資材で、《スパイダー》百機近くを生産できるほどだ。
惑星の管理業務においては、より強力な探査ユニットを建造するのが正解とは限らない。
クリープ・スパイダーは、"青い反照"などの外れ値的な存在に対しては無力だけれど、大抵の相手ならばじゅうぶん事足りるのだ。
【クリープスパイダー50機の建造を開始します】。
ぼくは操作盤に指先をすべらせ、資材状況と相談してから、《クリープ・スパイダー》の建造を開始した。
スパイダーは、ぼくたちアダリン社のもっとも身軽な脚であり、手であり、目でもある。
集落の哨戒に、惑星探査、まだ見ぬ難民たちの保護……そして、戦争の鎮圧。なすべきことはあまりに山積みで、手足はいくらあっても多すぎることはない。
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土:60000→45000
木材:6000→3500
石材:6000→3500
鉄鉱石:900→400
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『管理者。お前は今回の一件について、どう考える。』
ぼくが端末の操作を終えたのを確認してから、部長がそう問いかけてきた。
「今回の一件、と言いますと……
『そうだ。あの凄惨な虐殺は、利害の衝突などではなく、禍根が招いたものだ。
……かつて地球でも、憎しみや禍根による、殺戮の螺旋が絶えなかった。
歴史は繰り返し、ほとんどの人間は、過ちから学ぶことなどなかった。』
「…………」
『しかし──現在の《新・地球圏》では、憎しみも苦痛も、その概念ごと忘れ去られ。
正統なる人類たちが、
それを実現したのはテクノロジーだ。人間は歴史を繰り返す生き物だが、テクノロジーだけがその例外だ。』
「……ええ。あそこは、誰かを傷つける可能性を徹底的に
くるしみのないせかい。
幸福たれと、無痛たれと押し付けられる、漂白されきった無菌室のような社会。
自分が生まれ育った場所に思いをはせ、懐かしさと吐き気を同時に覚えながら、ぼくは部長を見た。
そんなぼくに、彼は言葉をつづける。
『……管理者。お前はアダリン社の社員として、この《フムス》の苦痛の螺旋を断ち切れるだけのテクノロジーを手にしている。』
『管理業務を続けるのだ。』
『俺は今後も、お前をサポートする。』
そう言い残し、ホログラムの部長は、姿を消した。
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【──管理者さま】
【管理コミュニティ周辺で、現地住民の一団が襲撃を受けています。】
【対処してください。】
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「…………」
生産を開始したスパイダーの一機目が
管制AIが、管理コミュニティ周辺で起こった異状について報告するのを聞いて。
ぼくは、モニタに映し出された光景を見やる。
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『このっ──醜い
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「……隊商だろうか。」
荷馬車とともに死の荒野を歩く、数百ほどの人々が……
小型の翼獣の群れに囲まれて、どうにか荷物を防衛しようと必死で抵抗している姿が、ぼくの目に映った。
おそらく、現地国家ジョグスィンとの貿易をするために死の荒野を横断する、他国からの隊商たちだろう。
ジョグスィンは
ちょうどいい。
新建造したクリープ・スパイダーの試運転がてら、彼らを助けるとしよう。
【──"クリープ・スパイダー"15号機。レベル
【管理者様。コマンドノ入力ヲ願イマス】
「基本コマンドは、"現地住民の保護・管理コミュニティへの誘致"だ。
加えて、指定した座標の現地住民を敵対存在から防衛し、弊社の管理コミュニティへと誘導して欲しいな……」
【了解。】
【管理者様のコマンドを実行シマス。】
「頼んだよ。いってらっしゃい、スパイダー。」
その八本の脚を問題なく駆動させ、ぼくの乗る船から"クリープ・スパイダー"15号機が、死の荒野へと走り去っていった。
※
「ぐっ……」
──300人程からなる隊商だ。
現地国家アシェ=アイネスの辺境都市から、数百kmの往路を経てようやくここまでやってきた彼らは現在。
進退
「グギッ、ギッ、」「ギアアッ!!」
変異によって戦闘力を増した竜たちは、隊商の積み荷の中にある食材や水に鼻を利かせて、飢えのままに襲いかかってくる。
彼らは皆過酷な往路で消耗しきっており、護衛もほとんど全滅という有り様だった。
「くそっ! こいつら、ちょこまかと……!」
彼ら隊商の目的は、
現在の惑星《フムス》では、あのエネルギー資源なしでは冬を越えることなど到底できない。
そして、"異彩"を保有しない国や都市が
国家としてのアシェ=アイネスは異彩を保有しているため、
彼らの住む辺境都市には、冬を越えるのに十分な量は供給されない。
それどころか、年々重くなる税で生活は苦しくなるばかりだ。
華の都市ジョグスィンは、
ゆえに彼らは毎冬、多大な犠牲を払って死の荒野を横断しなければならなかった。
【──……優先保護対象をハッケン。】
「っ──お、おい、なにか、妙なのがいるぞ……!?」
防戦一方の彼らの背後から。
機械じみた駆動音と、無機質な声が聞こえてきた。
【障害をホソク】
【推定脅威レベル──
「なんだ、あの鉄の蜘蛛は……!?」「畜生、またろくでもない変異獣に決まってる……!」
ソイツは、ピッピッピッピッ──と電子音を鳴らしながら、その赤い複眼を動かし、サンド・ワイバーンの群れを補足すると。
次の瞬間。
その八本の脚から、無数のブレードを展開し、ワイバーンの群れに飛びかかった。
「■■■■■■■!」
あまりに異質な姿の蜘蛛を見て警戒したのか、ワイバーンの一体が鋭い牙が生え揃った口腔に炎を揺らめかせた。
──ブレス。
ワイバーンの最大の武器であり、粘着質な炎は人間を容易く骨ごと炭に変える。
それが、鉄の蜘蛛にクリーン・ヒットした。
【──損壊率、0.3%・・・】
「■■■■!?」
──だが、無傷。
ねばつく火炎の渦を正面から突っ切り、まったく減速せず空中のワイバーンへと突進した蜘蛛は……
翼を広げれば十メートルを越える飛竜を、脚部ブレードの乱撃でもって、二秒足らずで細切れにしてしまった。
空中でバラバラ死体に変えられた飛竜の肉片が、すべて地面に落ちきる前に。
その鉄蜘蛛は、次のワイバーンの首筋へと、ブレードを走らせていた
「……"野盗に背を向けて、龍の谷に落ちる"……というやつか。」
……
まさにそのことわざ通り、それまで直面していた
ワイバーンならば、死力をつくせば撃退できたかもしれないが──"アレ"をどうにかできるビジョンは、どうあがいても浮かばなかった。
【障害の排除、完了・・・】
やがて、すべてのワイバーンを八つ裂きにした鉄の蜘蛛は。
次は自分たちの番かと震え上がる隊商の方へ振り向いて、こう言った。
【──ツイテコイ。】
【弊社管理コミュニティヘノ誘導マデガ、管理者様カラの命令ダ。】
「……わ、わかったっ、わかったっ。
ついていくっ。だから、殺さないでくれっ!」
【当タリ前ダ。】
こうして、ほとんど有無を言わさず。
これから、さらなる衝撃を受けることとなるのだった。