ディストピア惑星管理シミュレーション【Humus《フムス》】 作:幕霧 映(マクギリス・バエル)
『それでは皆さん、また!
私はすぱいだーさまと、幸せになりますので!
ふ、ふふふふっ……さんざん仕事一筋と言われたわたしがこんな素敵な殿方を連れて帰ったら、姉妹たちはどんな顔をするでしょうかっ……ふふふふふ……』
「……いろいろな好みの人がいるものですね、部長。」
『うむ……異なる文化圏の美的感覚に口を出すのは、ナンセンスだが……
まさか、弊社の探査ユニットに対して、恋愛感情を抱く価値観の民族がいるとはな。
ッ……! ま、待て。ひらめいたぞ……!』
部長は機械の目のファインダーを大きく見開き、鉄の拳を力強く握りしめた。
『管理者、《フムス》が平和になった暁には、
いま計算してみたが、12分の1スケールにして武装をオミットすれば、通常モデルの5%以下のコストで『うごく! しゃべる! クリープ・スパイダー!』フィギュアが製作できる……
ククク、新たな市場というのはいつも、こうした小さな発見の掛け合わせから生まれるのだ……!
管理者、この惑星《フムス》に、第二のバービー人形旋風が──!』
「狂ったようですね」
『………………冗談だ』
冷え切った部下の視線から逃れるためか、部長は通信を切るまでの一分半のあいだに、28回の咳払いをした。
全身義体に痰がからむ場所などないのを、無論ぼくは知っている。
……さて。
管理コミュニティに滞在していた
……キャラバン・マスターなる、丸眼鏡をかけた吸血種の女商人が、スパイダーの機体に抱きついたり、粘膜をくっつけたりと、想定と違う運用をしているのには思うところがあるけど。
あちらへ売却した以上、あの15号機に関しては、ご自由にお使いくださいと言う他ない。
なにせ彼の犠牲のお陰で、弊社は《フムス》管理業務においてとても有益な二つのものを得ることができたのだから。
──現地の貨幣。そして、現地国家『アシェ=アイネス』への
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外貨:アシェ=アイネス金貨260枚
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今回接触した隊商は、現地国家アシェ=アイネスの辺境都市から、現地国家ジョグスィンへ
……アシェ=アイネス。
あの隊商にスパイダーを同行させれば、未だ接触できていないかの国家への足がかりになる可能性が高いと判断した。
加えて、住民たちの文化的生活に欠かせない「貨幣」も得ることができたのだから、まさに一石二鳥というやつである。
貨幣経済は毒にも薬にもなるが、一定以上の規模の社会を円滑に運営するためには、必要不可欠なものだ。
テクノロジーによって
未だに企業だのバービー人形だの言って、資本主義から卒業できていないことからもわかるように。
【クリープスパイダー50機の建造が完了しました】
【順次、惑星探査を開始します】
業務補佐AIが告げたその声を聴き、ぼくは手元のパネルに指を滑らせ、探査ユニットへの指示を飛ばしていく。
今回一気に増産したクリープ・スパイダー16号機~66号機たちには、五機ずつ振り分けた計十チームで惑星探査にあたってもらおうと思っている。
先の『青い反照』、あるいは現地国家の軍隊に対抗するためには、スパイダー一機では不安があるためだ。
実際、単独で行動していた機体が、アシェ=アイネスによって何をされたかもよく分からず鹵獲されてしまったようであるし……
まあ、下位モデルのスパイダーは、破壊されたり鹵獲されたりするのも織り込み済みではある。
抜かれて困るようなデータは、あれには入っていない。
とにかく低コストを突き詰め、設計はごくごく単純。
その単純さがそのまま、あらゆる面での堅牢さにつながっている……そういう機体だ。
旧世紀にもA・Kという、突き詰められた構造のシンプルさゆえに、いかなる極地作戦や新兵の手の中にあろうと変わらず弾丸を吐き出し続けることができた銃器が存在したらしい。
クリープ・スパイダーはある意味、その思想を踏襲していると言える。
量産性と信頼性。
それらは
ひるがえって、その二点さえ満たしているのであれば。
計五十機。
五機ずつの十小隊を組んだスパイダーたちが、荒野の四方八方へと散っていく。
それを見送った僕は、キッチンユニットにホットコーヒーを淹れさせながら、どぽどぽと豆の抽出されていく香りの中で、自分がこれからなすべきことを整理する。
……まずは、住民たちの植えた農作物への生育補助プラントの製造が急務だ。
弊社のプラントならば、植物の実りを大幅に速め、寒さから守ることができる。
それから平行して、住民たちの
そうすれば、外敵による襲撃からコミュニティを防衛する際、より効率的に住民たちを
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『先生』
戦闘適正:中距離・魔術・火力支援
総合戦力評価:クラス
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すでに住民のひとり『先生』の能力値測定は済ませてある。
であれば、次に能力値を測定すべき住民は――
『わたしのばんっ……』
『のようだな!!!』
【向上心の
【あなたの能力値測定を開始します】
モニタの先には、黒い槍を持った金髪の天使──向上心の
彼女は外見上こそ幼い少女ではあるが、これまでたびたび、作業・戦闘において優れたパフォーマンスを発揮してくれた。
その細かい適正を把握すれば、より効率的に向上心の思徒に業務を割り振ることが可能となるだろう。
しばらくの間、弊社の各種センサが彼女の身体情報を読み取り──
やがて、そのステータスが表示された。
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『向上心の思徒』
戦闘適正:近距離・武器術・全体強化高機動アタッカー
総合戦力評価:クラス
白兵技能:B
肉体靭度:F
筋出力:E
魔力出力:--
走力:C+
問題解決能力:C
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「……驚いた。」
色々と特徴的なステータスではあるが──最も目を引いたのは総合戦力評価:
つまり彼女は、現時点で弊社が保護した住民たちの中では、群を抜いて強力であるということだ。
戦力評価
肉体的には脆弱そのものだが、向上心の思徒は、こと戦闘技術の面において卓越した能力を持っていることがわかった。
これは嬉しい誤算だ。
一人、強力な切り込み役がいれば、彼女を補助する形での戦術を組み立てる事ができる。
【──警告。】
【武装した《フムス》現地住民の一団が、管理コミュニティに接近しています。】
【対処してください。】
その時。
管制AIが、短いビープ音を鳴らした。
「モニタに映してくれ」
ぼくの声に反応して、目の前に投影された映像を見やる。
管理コミュニティに向かってきている一団。
五十人ほどいるように見える。
彼らは、管制AIの告げたとおり、武装していた。
とはいえ……先に接触した旧魔王軍・第九師団にあった、見るものに歴戦を一目で理解させる、精錬された鋼ののような圧迫感は、モニタに映し出された集団からは感じられない。
むしろその逆。
彼らはみなバラバラの装備と、よろよろとした力のない歩みで、灰の荒野からこちらへ向かってきていた。
【──総員、戦闘態勢。】
管理コミュニティにそうアナウンスをかけると、住民たちは各々の武器を手に取り、拠点防衛の準備をはじめるのだった。
*
探索者、狩人、冒険者。
《フムス》には、いつの時代もそうした便利屋たちが、呼び名を変えながら生き残ってきた。
迷宮の時代には《探索者》が。
巨獣の時代には《狩人》が。
魔王の時代には《冒険者》が。
それぞれ重宝されてきた。
依頼を受け、身一つと剣をたよりに冒険を繰り広げる者たち。
そして、現代におけるそれが『
死の荒野を足でつなぎ、国家から国家へとあらゆる人品を輸送することは、現代の《フムス》でもっとも求められる仕事だった。
かつての時代の便利屋たちと同じく、運び屋たちの実力は一般人に毛が生えた程度のものから、単身で軍隊と切り結べる怪物までピンキリである。
「…………あれが、依頼にあった
死の荒野を進んでいた、
……灰に埋もれた地獄の彼方にある、自らの正気を疑うような楽園に目を釘付けにして。
「あそこから……大気を浄化する
右手の剣を、力強く握り締めるのだった。
*
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『向上心の思徒』
性別:女性
年齢:《フムス》人類史
身長:133cm(光輪を含まない)
体重:33kg
髪色:金
種族:
戦闘適正:近距離・武器術・全体強化高機動アタッカー
白兵技能:B
肉体靭度:F
筋出力:E
魔力出力:--
走力:C+
問題解決能力:C
総合戦力評価:
感応波(向上心):F
:向上心の波形を持つ魔力粒子の共振により、周囲の《フムス》現地住民の士気を常に向上させる。
:周囲の思徒の感応波を減衰させる(小)
:触れた魔術の波形を減衰させる(小)
千鍛万錬:B
:悠久の生の中で常に向上を続けた戦闘術は、非才ながら老練の域に到達している。
:白兵技能に大幅なプラス補正。
:走力に大幅なプラス補正。
:この住民はあらゆる武器を十全に使いこなす。
"しかし彼女はその過分な向上心ゆえに脚を止めることができず、ひとつを極めることはできなかった"
断頭台への煽動者:A
:いつの時代も彼女は弱き者たちに彼らが虐げられていることを認識させ、不条理に抗い生きるための意志と手段、そして結果としての凄惨な死をもたらしてきた。
:管理コミュニティ住民全員の白兵技能にプラス補正
:非戦闘要員が戦闘に参加できるようになる。
アダリン社汎用構造体-
:《企業》によりもたらされた、《フムス》におけるオーパーツ。
:鋭利に削り出された、黒い建築用資材の端材。
:しなやかで折れず、
勇者■■■■の斬影:B
:この住民は、ある英雄の剣術を記憶しているようだ。
"暗黒の世紀を斬り裂いた、青い異光。"
龍象術-風-・後目録:C
:ある武術の技術体系を、皆伝に程近い水準で会得している。
多腕巨人流野戦剣術・術ゆるし:C
:ある剣術の技術体系を、皆伝に程近い水準で会得している。
エインヘリオス正騎士剣術・マイスター:C
:ある剣術の技術体系を、皆伝に程近い水準で会得している。
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