ファントム・アーカイブ   作:名もなきWater

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エデン条約編
暗雲


 

 ◆

 

 

 「誰か」の物語を閲覧する方法は沢山ある。

 例えば本。歴史に名を連ねた偉人達の伝記。

 例えばテレビ。人の手で作られたアニメやドラマ。

 例えばインターネット。SNS等の何気ない日常の呟き。

 そして――夢。

 

 明かりが消えた一室で、二人の少女が対峙している。

 どちらの少女にも見覚えがない。しかし、彼女達の頭上に光の輪――ヘイローがあることから、キヴォトスの生徒であることは把握できる。

 

「……百合園セイア」

「ああ、そうだよ。君を待っていたんだ。

 アリウス分校所属、白洲アズサ」

「待ってた?」

「うん。夢でもこのシーンは見ていたからね。

 時々そういう夢を見るんだ。まあ、予知夢のようなものかな」

「……つまり、これから私が何をするのかも分かってる、と?」

「ああ。私のヘイローを壊しに来たんだろう?」

 

 ヘイローが具体的にどういうものなのか、詳しくは知らない。分かっているのは、キヴォトスの生徒の命・人格に値する重要なものであること。

 即ち……ヘイローが破壊されることは、その人物の死を意味する。

 

「そこまで分かってて、どうして逃げなかった?」

「理由は色々あるけれど……一言で言うなら、そう。「無意味だから」、かな」

「無意味……」

「君もアリウスなら知っているだろう?

 この世界の真実……「Vanitas vanitatum」。つまりはそういうことさ。

 ところで君は、以前にもヘイローを壊したことが?」

「……いや、無い。でも、やり方は習った」

「習った……?」

「ヘイローがあると言っても、結局は外の人間の延長上でしかない。

 過度な肉体的損傷、栄養失調、精神的過負荷。死に至らしめる方法はいくらでもある。

 でも、今の私には十分な時間も、圧倒的優位性も保証されていない。

 だから――この爆弾を使う」

「ヘイローを破壊できる爆弾……そんな技術は聞いたことがないが。

 ……なるほど、つまりアリウスは、そういう研究も行っていると」

「ああ。「学校」とは、そういうことを「習う」場所なのだろう?」

「……そうか。アリウスはそこまでトリニティを。

 だが、白洲アズサ。君は本当にそれでいいのかい?」

「……この期に及んで命乞い?」

「言っただろう? 私は予知夢を見る、と。

 知っているんだ私は。いや、知ってしまった、と言うべきかもしれないが。

 「全ては虚しいもの」だ。君はこの言葉に同意しながらも、どこかで否定している。

 実のところ、君は……私を殺しに来たのではなく、助言をもらいに来たんじゃないのかい?

 君がこの先、どう足掻くべきなのかについて」

 

 

 ◆

 

 

「キキッ……ようやく相まみえることができたな、シャーレの先生よ」

 

 ゲヘナ学園、生徒会室。

 万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)の議長、羽沼マコトはこちらを見て満足そうに笑った。

 

「既に存じているとは思うが、改めて自己紹介といこうか。

 私は羽沼マコト。万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)の議長を務めている。まあ、他校で言うところの生徒会長だ。

 そしてこちらは棗イロハ。彼女には我が万魔殿の戦車長を任せている。今後とも、仲良くしてやってくれ」

 

 イロハと呼ばれた少女がこちらに会釈する。

 万魔殿所属を示す制帽と、これでもかというボリュームの臙脂色の長髪。袖の余ったコートやきちんと絞められていないネクタイから、ルーズな印象を受ける。  

 

「棗イロハです。コンゴトモヨロシク」

「雨宮蓮。連邦捜査部「シャーレ」の先生だ」

「そしてワガハイがモルガナだ!」

 

 モルガナは割り込むように、カバンの中から頭だけを出して自己紹介した。

 二人は突然の声に一瞬だけ驚きを見せたようだったが、すぐに元の調子に戻り……マコトは、不敵に微笑んで言った。

 

「ああ、存じているとも。先生には常に行動を共にする、喋る黒猫がいると。

 それだけではない。なんでも先生と同じように、変身して不可思議な力を使うとか」

「不可思議な力……ペルソナ能力のことか?」

「そう、ペルソナ能力!

 あれは素晴らしいものだ……万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)の兵力とお二人のペルソナ能力、更にはシャーレの権限も合わせれば、いずれはゲヘナの風紀委員会を倒すことも不可能ではないだろう!」

 

 キキッ、と含み笑いするマコト。どうやらゲヘナ風紀委員会を敵視しているらしい。

 以前彼女は、いずれキヴォトスを手中に収めるのが目的だと言っていた。であれば武力に優れ、かつ最も身近な組織であるゲヘナ風紀委員会は、目の上のたんこぶなのだろう。

 ……まあ、何もかも筒抜けなのだが。

 

「あの、そういうことは本人がいない場所で言ってくれます?」

 

 自分の隣の立っている女生徒……天雨アコが冷ややかな視線を向けて言った。

 だが、当のマコトは不敵な笑みを崩さないまま、アコに反論した。

 

「キキッ、どうやら分かっていないようだな。見えている力というものが、どれほど大きな影響力を持つか。

 分かるか? 今の発言はわざと、ということだ。

 シャーレの先生が万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)と手を組むかもしれない。万が一にもそうなった場合、現在の風紀委員会では太刀打ちできない――そう思わせるためのな。

 ああそうとも、所詮は取るに足らない雑念だ。

 だが、人間は真に追い詰められた時、悪い考えばかりがよぎってしまうもの。平時であれば忘れてしまう程度の雑音であっても、ここぞという場面では大きな足枷になりうるのだ」

「はあ。つまりは嫌がらせの一種、あるいは意趣返しですか」

「その通りだ!」

 

 マコトは突然、ダン、と机を強く叩き、握り拳を震わせて力説する。

 

「そもそもは空崎ヒナ、ヤツこそが全ての原因!

 あの圧倒的かつ反則的な武力に、我々はいつも悩まされているのだ!

 我々が計画を建てる時、真っ先に考えるのは常に空崎ヒナだ。

 ヤツが今何をしているのか、何処にいるのか。想定外の事態が起きたとして、仮にこの場に現れたとして、我々はどう動くのが最適か、とな!」

「流石はヒナ委員長、同じ風紀委員として鼻が高いです」

「ぐぬぬ……」

 

 悔し気に歯軋りするマコト、我が事のように誇らしげに胸を張るアコ。

 そして二人を尻目に、マイペースに茶を啜るイロハ。

 イロハの様子から察するに、この程度のいがみ合いは日常茶飯事のようだ。彼女に倣い、自分も茶を啜る。

 うむ、美味しい。お茶については詳しくないが、良いものを使っていることは分かる。

 

「……ふぅ、まあいい。先生、打倒・風紀委員会についてはまたいずれ」

「生憎だが、手を貸すつもりはない」

「……何ぃっ!?」

 

 いい機会なのでこちらのスタンスを開示しておく。

 マコトはというと、こちらの返答が想定外だったのか目を剝いて叫んでいた。

 

「ど、どういうことだ先生……! はっ、まさかそいつらの仕業か!

 そういえば先生は先日、風紀委員会を連れてアビドスを訪れていた。その時に懐柔されてしまったのか……!?」

「なっ、懐柔……!? そのような事実はありません!

 私達はゲヘナ学園の誇る風紀委員会。そのような下劣な策を弄するはずがないでしょう。貴方方とは違うのです」

 

 アコのヒステリックな反論を聞きながら、イロハと共にお茶を啜る。

 

「ふむ、では逆のパターンか。風紀委員会が先生に懐柔されてしまった、というのはどうだ? それで責任感の強い先生は、やむを得ず風紀委員会の味方をせざるを得ない、と」

「はいぃ? それこそ有り得ません。我々風紀委員会と先生は対等です。上も下もありません」

「そうなのか? 聞いた話によると、そちらの先生はコーヒーを淹れるのが上手いらしいが」

「は? コーヒー、ですか?」

「うむ。あと、おそらくはカレーも。シャーレの購買記録からの推測でしかないが。

 風紀委員会の連中は、それで胃袋を掴まれてしまったのではないのか?」

「はあ?」

 

 なんのことやら、とアコは眉をしかめ、首を傾げた。

 ……こちらとしては、彼女達の情報収集能力に驚きを隠せない。

 それと熱意にも。どうやらこの羽沼マコトという生徒は、本気で自分を万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)に引き入れたいようだ。でなければ、わざわざ趣味の範囲まで調べたりしないだろう。

 

「むう……では、なぜ先生は風紀委員会の肩を持つ?」

「肩を持っているつもりはない。生徒同士の争いには極力手を出したくない、というだけだ。

 これでも「先生」だからな」

「中立……ということか。生徒同士の争いである以上、先生である自分の出る幕はない、と」

 

 そう、その通りである。

 キヴォトスの先生である自分の仕事は生徒を守ること。

 これは、「特定の生徒に肩入れしてはならない」、ということでもある。

 風紀委員会と万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)の争いが生徒同士の争いである以上、先生の自分が手を出すわけにはいかない。

 勿論、度を超えそうなら諫める必要も出てくるが。

 

「キキッ、成程理解した。裏を返せば、風紀委員会が生徒としての枠を逸脱した場合、我々に味方するということだな」

「何を言い出すかと思えばそんなこと……」

 

 はぁ、とアコが呆れたように溜息をつく。

 

「我々はゲヘナの風紀委員会。貴方の言葉に習うなら、生徒としての枠を守る立場なのですが?」

「天雨アコ。今一度、我らゲヘナ学園の校風を確かめるといい。

 トリニティのように秩序を重んじる貴様らこそが異端であると知れ」

「何故トリニティを例に挙げるのですか、喧嘩を売っているのですか?

 いくら「自由と混沌」でも、最低限の秩序がなければ学校として成り立ちません。何事も節度を守ってしかるべきです。

 ……そういう意味では、今回の「エデン条約」はゲヘナにいい影響を与えてくれるかもしれませんね」

 

 ――「エデン条約」

 アコがそう口にした瞬間、場の空気が引き締まるのを感じた。

 

「そう、それだよそれ。エデン条約」

 

 モルガナはカバンから這い出て、テーブルの上にちょこんと座って言った。 

 エデン条約。近々、ゲヘナ学園とトリニティ総合学園の間で結ばれる和平条約のことだ。この条約はキヴォトス全域で注目を浴びており、先生である自分も出席しなければならない。

 今回ゲヘナ学園を訪ねたのは、エデン条約について幾つか知りたいことがあったからだ。

 

「おや? どうかしましたか、モルガナ先生」

「ああ。ワガハイ達、そのエデン条約ってのがちょっと気になっててな。

 エデン条約はゲヘナとトリニティの和平条約って話だが……そもそも、どうしてオマエらは敵対してんだ?」

「ふん、愚問だなモルガナ先生」

 

 マコトは不愉快そうに、ギシ、と音を立てて全体重を椅子に預けた。

 

「食べ物の好き嫌いと同じだよ。我々とトリニティは波長が合わない。それも致命的にな。

 まあ、当然といえば当然だろう。我々は悪魔で、奴らは天使。自由を愛するゲヘナと、規則で縛り付けるトリニティ。正々堂々戦う我らと、腹の内を探り合う連中。

 そら、何もかもが正反対だろう? ここまで対極的だと反発だってするだろうさ」

「ですが、これに終止符を打つのがエデン条約というわけです」

 

 退屈そうに帽子を目深に被ったマコトに代わり、アコが説明を続ける。

 

「エデン条約が締結されれば、少なくとも表立った対立は今よりずっと減るでしょう。

 今まで無駄に使われていた弾薬費なども削減できますし、両校にいい影響を与えてくれるはずです。

 さらに風紀委員会の仕事を正義実現委員会に押し付けられるようになれば、ヒナ委員長もゆっくり休日を過ごせるようになるはず……!」

「あー……なるほどな?」

 

 最後にバッチリ本音を漏らすアコ。

 とはいえ、ゲヘナ風紀委員会の多忙さは自分もよく知っているので、アコの気持ちも理解できる。

 ……何処かで聞いた話によると、空崎ヒナの平均睡眠時間は三時間だとか。いくらキヴォトス人が丈夫とはいえ、育ち盛りの女の子の睡眠時間がそれっぽっちでは心配にもなる。

 

「ゲヘナとトリニティ、何もかもが正反対の学園か。

 ん? ってことは、トリニティも同じくらいオマエらを嫌ってるわけだよな。

 ……本当に上手くいくのか? この条約」

「モルガナ先生の疑問はごもっとも。かくいう私も同じ意見だ。だからこそ――こちらから仕掛けるしかあるまい」

 

 マコトがぐい、と椅子から身を起こし、手を顎に添えて、意味ありげに口角を吊り上げた。

 

「仕掛ける? 何言ってんだオマエ……」

 

 モルガナは呆れたように呟くが、マコトはやはり得意気だ。

 

「これまでゲヘナはトリニティとは対立するばかりで、碌に会話もしてこなかった。

 しかし今回のエデン条約にて、我々は同じ席に着く。

 であればやることは一つ! 連中の粗を探して信用を下げ、ゲヘナがトリニティの上に立つのみ!

 条約の上では対等であっても、他校からの信用を失えばどうなるか……キキッ、想像に難くない」

「喧嘩腰の割にやることはセコイな」

「キキッ、政治とは得てしてそういうものなのだよ。水面下での地道な積み重ねが実を結んだ時、我々は更なる高みへ到達するだろう。そしていずれは、キヴォトス全土をこの手に……!

 よし、帰るぞイロハ! 今一度、トリニティの内情について確認しておかねばな!」

 

 

 ◆

 

 

 羽沼マコトは部下の棗イロハを引き連れて退室した。

 ……相変わらず嵐のような生徒だ。

 風紀委員会に喧嘩を売ったり、トリニティにも好戦的だったりと、何かと危なっかしい面が目立つ。

 だが、ここまで「権力欲」に正直な姿は、一周回って好感が持てる。

 場合によってはお灸を据えてやる必要も出てくるだろうが、本当の意味での脅威にはなりえないだろう。

 例えばそう……「黒服」と名乗ったあの男のような。

 

『ただし――我々ゲマトリアは、常に貴方を見ている。それをお忘れなく。こちらの研究が一段落ついたら、我々の方から挨拶に伺いましょう』

 

 小鳥遊ホシノから聞いた黒服の言葉を思い出す。

 あの男はキヴォトスの生徒を実験対象と思っている節がある。エデン条約のような大量の生徒が集まる行事を前に、何もしてこないとは思えない。

 

「マコトのヤツ、言いたいことだけ言って帰っちまったな……同じ名前、同じ生徒会長なのにこうまで違うとは。なんか調子狂うぜ。

 ……まあいいか。今はエデン条約に備えて警戒しとかねーと」

「いえ、その必要はないと思いますよ。万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)はエデン条約そのものには乗り気のようですし。

 ……尤も、その後に何をしでかすか分かりませんが」

「いや、ワガハイ達が警戒してんのはそっちじゃねえ。

 もう風紀委員会でも掴んでいるんだろ? 例の「黒服」だよ」

「黒服……?」

「?」

 

 モルガナにとっては半ば確信めいた質問だったのだが、アコは予想外の反応を見せた。

 どうやらアコは……というより風紀委員会は、先日のアビドスでの一件を把握していないらしい。

 

「アビドスでの一件なら、私たちは知らないわ」

 

 ガチャリ、とドアノブの音がして、一人の生徒が入室する。  

 

「ヒナ委員長。お疲れ様です」

 

 ゲヘナ学園の風紀委員長、空崎ヒナ。彼女の姿を確認するや、アコは労いの言葉をかけた。

 

「うん、アコもお疲れ様。

 ……それで、先生。アビドスでの一件、もし教えてくれるのなら聞かせてほしい。勿論、無理強いはしないけれど」

「構わないが……少し意外だ。あれだけの騒ぎなら、既に知っているものだと」

 

 そもそもの発端は空崎ヒナ、彼女の発言だったのだ。

 カイザーコーポレーションがアビドス砂漠で何かを企んでいる。

 事前にそう聞いたからこそ、自分達はあの工場に侵入し、黒服と邂逅したのだ。

 

「……本来なら先生達と一緒に調査したかったのだけれど、アビドスや便利屋との一件もあったから。過度に干渉して心証を悪くするのは避けたかったの」

「ああ……」

 

 つい視線がアコに移ってしまう。

 ……アビドス・便利屋連合対アコ、イオリ率いる風紀委員会。

 怪盗姿の雨宮蓮の目撃情報を得たアコ達。身柄を確保するべくアビドスへ訪れるも、アビドスはこれを侵略行為と判断し、偶然居合わせた便利屋と共闘。アビドスと敵対関係になることを恐れたヒナが仲裁に入り、戦闘が終了した。

 ……というのが一連の流れだ。

 実際には自分ではなく黒服の目撃情報だったり、そもそも戦った場所はアビドス自治区ではなかったので侵略ではなかったりと、間違いだらけだったらしいが。

 

「な、なんですかその目は! 最終的にはこうして先生を確保できたので結果オーライです!」

「本人を前にして言うセリフじゃないな」

「そもそもワガハイ達を確保する意味あったのか?」

 

 モルガナが冷ややかな視線を向ける。

 ……言われてみればその通りだ。何度も繰り返すようだが「先生」は中立だ。エデン条約を締結する過程において、どちらについても特に意味はないはず。

 

「いいえ、意味はあります! エデン条約はゲヘナとトリニティの対立を終わらせるきっかけになるはずです。キヴォトスの歴史に長く残る条約となるでしょう。

 その大事な調印式にて、「ゲヘナ側から先生の席を用意する」! この重要性、お二人なら分かるはずです!」

「成程分かったぜ。オマエの考えてることはマコトと同レベルっつーことだな。

 やっぱゲヘナの生徒って似てんのかな……」

「モルガナ先生。前にも言ったけど、羽沼マコトをゲヘナの象徴とは思わないでほしい」

「あの、ヒナ委員長。それ、遠回しに私のことも言ってません……?」

「…………」

 

 自分の失言に気づき、口元を抑えてそっぽを向くヒナ。

 

「ヒナ委員長!?」

 

 一瞬遅れて、アコが悲痛な叫びを上げた。

 ……とりあえず、ゲヘナ側から出席するのは止めておこう。自分はあくまで「シャーレ」の先生なのだから。

 

「話を戻そう。俺達がアビドスで戦った黒服についてだ」

 

 黒服についてヒナ、アコと情報を共有しておく。

 黒服はアビドスの生徒、小鳥遊ホシノをマークしていること。

 キヴォトスの人間を自分の研究のための観察対象として見ていること。

 そして、特筆すべきはやはりあの「影」だろう。

 対峙した人物に応じて姿を変える点からして、自分達がよく知る存在――シャドウか、それに類似したモノなのは間違いない。

 問題は戦闘能力だ。前回は一応倒すことはできたが、舞台となったカイザーPMCは廃墟となってしまった。

 それだけの力を持つ存在がエデン条約の場に解き放たれたらどうなるか、安易に想像がつく。

 

「分かった、風紀委員の警備も強化しておく。幸いエデン条約までまだ日があるし、手配できると思う。

 ……このことは、トリニティには?」

「日を改めて、俺達から伝える予定だ」

「調印式当日まで下手に刺激を与えるのはマズいからな。こういう時こそシャーレの出番だろ?」

「……ええ、確かにその通りね。

 ただし二人共、十分に気を付けてほしい。多分今のトリニティは、かつてないほど神経質になってるはずだから」

「?」

 

 真剣みを帯びたヒナの忠告に、ついモルガナと顔を見合わせる。

 

「ヒナ委員長、よろしいのですか? あの件に関しては、まだ我々も把握しきれていないはずですが……」

「……正直、よくはない。不確定な情報で先生達を混乱させたくないから。

 でも、そうも言ってられない。先生達を死地に送る以上、私達ができる限りサポートしないと」

「……死地?」

 

 物騒な単語にモルガナが反応する。

 

「おいおいヒナ、いくらトリニティ相手でも言い過ぎだろ。

 ……ていうか、ゲヘナより危険な学校なんてねーだろ、流石に」

 

 そういえば初めてゲヘナ学園に来た時は、有無を言わさず銃撃戦を仕掛けられたな……。

 怪盗姿に変身していたのも原因だろうが、それにしたってあれはない。

 

「それに関しては否定できないのだけれど……でも、トリニティが死地というのは本当よ」

「っと、念押ししてくるか。

 つまり、そう言えるだけの「何か」があったってことだな?」

「ええ、その通り。

 ……トリニティで、内乱が起こったの」

「内乱?」

「先生達は、「ティーパーティー」を知っているかしら?」

「ああ。確か、トリニティのトップだよな」

 

 ヒナの質問に、自分とモルガナは頷く。

 ――ティーパーティー。

 トリニティ総合学園の誇る生徒会の名称だ。

 トリニティにはパテル、フィリウス、サンクトゥスの三つの派閥が存在し、それぞれの代表者三名と複数の行政官で構成されている。

 

「そう。トリニティ総合学園は、各派閥の代表者三名を生徒会長として、「ホスト」の役回りを交代しながら運営している――はずだった」

「だった……?」

「ある時を境に、生徒会長の一人――「百合園セイア」の姿が確認されていないの。

 それだけじゃない。ここ数日、もう一人の生徒会長――「聖園ミカ」も姿を見せなくなった。

 トリニティはゲヘナを毛嫌いしている。中でも聖園ミカ率いるパテル分派は、特にゲヘナを敵視している派閥。ただ単に、個人情報がゲヘナに漏れないようにしてるだけ、という可能性もある。

 でも……三人もいるはずの生徒会長の内、二人が不在。

 「内乱」と断言するのは早いかもしれないけれど……トリニティで何かが起きた。これは間違いないと思う。

 今のトリニティは実質一人――「桐藤ナギサ」の手で運営されているようなもの。抑止力となっていた二人がいなくなった今、トリニティが先生に対してどんな対応をするか予想できない。

 だから……十分に気を付けて」

 

 

 

 





以下、個人的メモ




補習授業部の話は原作の時点で完成度高すぎて、もはや先生いらなくね? ヒフミ主人公で十分回るんじゃね? と思ったのでバッサリカット。
補習授業部四人が仲良くなる展開として変えようがないと思いました。


ジョーカーが就任した時には既に終わっていた。
or
大体本編と同じことが起きた。
という認識でお願いします。
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