ファントム・アーカイブ   作:名もなきWater

9 / 17
伏線用の話としてどこかに挟もうと思ってたけど、思いのほか筆が進んだので日常会として挿入投稿します。
※作者は同人誌製作経験皆無です。漫画どころかペンすら握ったことないのでご容赦を。


認知訶学

 

 

「いよーし、よく聞けオマエラ!

 今から無知なオマエラの為に、このモルガナ先生が授業を始める!

 テーマはズバリ、認知訶学について、だ!」

「ええ、お願いするわ!」

「よよよよろしくお願いします!」

「はーい♪」

「ふふっ……よろしく」

 

 台詞だけ聞けば人を馬鹿にしてるとも取れるモルガナの発言に、四人はそれぞれの反応を示した。

 陸八魔アルは馬鹿正直に背筋を伸ばし。

 井草ハルカはアルに倣って気合を入れ。

 浅黄ムツキは無邪気に返事し。

 鬼方カヨコはくすりと笑う。

 認知訶学。既存の学問――「認知科学」とは別の新しい学問のことだ。

 かくいう自分も詳しいわけではないが、「心」と「認知」について研究する学問らしい。

 とある友人曰く、ペルソナ能力について無理矢理説明しようとするとこの学問が必須になるとか。

 

「つっても、いきなり集合的無意識とか、心の海とか、小難しいことを教えるつもりはねえ。まずは興味を持つことから始めねえとな!

 蓮! あの本を出してくれ!」

「ああ、あれだな」

 

 モルガナに言われて、本棚から一冊の本を持ってくる。

 タイトルは――「ワタシのネクロノミコン」

 ネクロノミコンとは、かのクトゥルフ神話でも有名な魔導書の名前だ。その書物にはあらゆる知識・技術が記されており、読んだ人間は例外なく狂気に陥るとされる。

 しかし、表紙から受ける印象は真逆だ。人知を超えた怪異も、外なる世界の神も存在しない。

 描かれていたのは日常。デフォルメされた数多くのキャラクターが、所狭しと言わんばかりに暴れ回っている。

 いや――筆者からすれば、この本は真の意味での「ネクロノミコン」なのかもしれない。

 

「これは……漫画? デフォルメされたキャラクター達が可愛いわね。

 でも、絵柄も作者も見たことないわね。出版されたのは最近なのかしら」

「まあな。ワガハイはよく知らんが、とある「祭り」用に作った本らしい。

 認知訶学をテーマにしたエッセイ本。息抜きに書いていたつもりが本人曰く「熱が入った」らしくて、ワガハイ達も巻き込まれた……」

 

 しみじみとした表情でモルガナは呟いた。

 ……確かにあの時は大変だった。

 大学生になって時間ができたのをいいことに、誰よりもこき使われた気がする。

 

「え? 巻き込まれた……?

 ということは、もしかしてこの「ナビ・オラクル」って先生達なのかしら!?」

「いや、違う」

「あれ? あ、じゃあもしかしてこっち……「アート・フォックス」の方かしら!?」

「それも違う」

「えぇー……」

 

 テンション高めに身を乗り出してきたアルを、首を振って否定した。

 目に見えてしゅんとするアル。しかし、横からのぞき込んでいたムツキが目を爛爛とさせてこちらを見た。

 

「でも先生? これってエッセイ本なんだよね?」

「…………」

 

 無言で答える。流石はムツキ、鋭い。

 

「あのう、すみません。今更かもしれませんが……エッセイ本って、具体的にはどういう意味なんでしょう?」

「自分が感じたこと、体験したことを、自由な形で書いたもの。一般的にはそれがエッセイって言うらしいよ」

 

 ハルカの疑問に、カヨコが答える。

 点と点が繋がっていく。それを、敢えて見守る。

 

「だからこの本の場合、ナビ・オラクルさんの体験談がベースになって作られている。で、先生達はナビさんと知り合いで、本を作る時に「巻き込まれた」。

 つまり――」

「昔の先生の活躍がこの本に綴られてるってことね!」

「そういうこと」

 

 テンションが復活したアルと、満足げに頷くカヨコ。

 ……彼女達の推測通り、「ワタシのネクロノミコン」は、友人の実体験を基に描かれた漫画だ。

 最初は文章だけだったはずが、

 

『なんか、キタ』

 

 らしく、雨宮蓮を筆頭に一人、また一人と巻き込まれ、最終的にはかつての怪盗団が再集結してしまったのだ。

 ここで注意してほしいのが、これはエッセイ本という点。事実をそのまま描いているのではなく、作者というフィルターを通して描かれている。

 本人曰く、

 

『このフィルターってのが認知訶学のキモなんだよなー』

 

 とのこと。

 当然、劇中には雨宮蓮をベースとしたキャラクターも登場するのだが……コイツの描写が盛りに盛られているのだ。モデルとなった自分が見ても違和感があるくらいに。

 

『そんなことないぞ? 私にとっては文字通り、世界を変えてくれたヒーローだからな。

 いや、むしろ盛る。盛って盛って盛りまくる。その方がキャラが立っていいかもしれん……!』

 

 とまあそんな感じで、皆でわいわいしながら作られたお祭り本なのだが、想定外に大ヒット。刷っては売れ刷っては売れの入れ食い状態らしく、本気(ガチ)の書籍化も視野に入れ始めたとかなんとか。

 

「……ふう」

 

 アルはコーヒーを一口含んだ後、居住まいを正して漫画を手にする。更に彼女を中心に、便利屋の三人がそれぞれ漫画を覗き込んでいた。

 ……かなり読みづらそうだ。一冊しかないのが悔やまれる。

 

「んー……ワガハイのと蓮のとで二冊しかねーからな。大丈夫だとは思うが、破いたりすんなよ?」

「その点については心配無用よ。これは先生の大切な思い出。私にとっての便利屋みたいなものでしょう? 破いたりするもんですか。

 ああ、でも――ごめんなさい、手汗で濡れちゃうかもしれないわ……」

「それくらいなら構わないが……」

 

 所詮は本、多少の傷は仕方ない……が、何故手汗? 

 どれだけ緊張してるんだ、この子は。

 

「そう肩肘張んなって。もっと気楽に楽しめよ。

 じゃ、一緒に読んでくぜー。まずは表紙を捲ってだな――」

 

 エッセイ本を熱心に読み進める便利屋と、時折解説を挟むモルガナ。

 五人の様子を眺めつつ、物思いに耽る……。

 

 

 ◆

 

 

『へー、主人公は「スミレちゃん」なんだな。怪盗団主役だから、てっきり蓮かと思ってたわ』

『「運動部所属の女の子」ってステータスは導入に使いやすいからな。あと後輩ポジションってのもいい。一応、認知訶学の解説本だし』

『あー、それは確かに。後輩だったら気兼ねなく聞けるもんな。先輩、教えてくださーいって。

 ――ってちょっと待て! なんだコイツ!』

『コイツ?

 ……あー、このキャラかぁ。今回のネームは粗方書けたけど、コイツだけは未だに悩んでんだよなぁ』

『……ぶっちゃけ漫画は好きだし、大体は褒めるつもりでいたけど、これはナシだろ。

 新体操部顧問の体育教師。完全に鴨志田じゃねーか。これじゃスミレちゃんが可哀そうだぜ』

『……うがーもう! 分かってるよそんなこと! でもわかんないんだもん!

 今時熱血教師なんてどの漫画にも出てこねー! 資料がねーんだ資料が! 元引きこもりなめんなー!』

『じゃあもう熱血教師自体止めちまえよ。エッセイ本なんだから、知らねーこと無理に書かなくてもよくね?』

『いいや駄目だね! 話の展開として熱血教師枠は必要不可欠!

 期待を込めて託されたリボン! スミレちゃん、スランプに陥る! そして――「怪盗ファントム」がリボンを頂戴する!

 そして殺し文句! 去り際になんかカッコイイ台詞! 台詞は蓮が考える。

 大切な物を盗まれ、絶望に陥るスミレちゃん。それでも新体操は止められない、半ばヤケクソ気味で力いっぱい演技する!

 そしたら何故だか高評価! 自由に演技しただけなのにスランプを脱するスミレちゃん!

 そこで少女は気づくのだ。先生から託されたリボンは、本当に大切な物だったのか……ってな!

 呪いの装備を伝説の剣だと認知してた、的な! 本当に大切な物は本人が認知できないところにあった、的な!

 怪盗要素を含ませつつ、認知訶学にも触れる王道ストーリー! あれ、もしかして私天才じゃね?』

『おう、その辺はスゲーいいと思うぜ! 少年漫画っぽくてアツいしな!

 けどやっぱモデルがなあ……っていうかよく考えたら、鴨志田が女子生徒にリボン送るのってヤバくね? なんつーかこう、絵面的に』

『…………あ!』

『あ、じゃねーよ! やっぱ駄目だよなコレ!』

『うわぁぁぁぁセクハラだぁぁぁぁ……。

 いやでも、原作がセクハラ教師なんだし、ただの原作再現じゃね?』

『だからそれだとスミレちゃんが可哀そうだろ?』

『だぁから熱血教師なんて分かんないんだよぉ! オタク舐めんなぁ!

 ……やべえ、ループし始めた。負のスパイラルにハマって一生抜けないヤツ』

『スランプなのはこっちも一緒かー。とはいえ、秀尽高校に熱血教師なんていなかったしなぁ。

 なあ蓮。お前、心当たりとかない?』

「そうだな……川上とかは?」

『川上ぃ? それこそねーだろ。熱血とは真逆じゃねーか。

 まあ、悪い先生じゃなかったけど。自習時間めっちゃくれたし』

「そうか。やっぱりあの件は話してないんだな」

『え? 何、その含みのある言い方』

「フッ……知りたいか? スーパーメイド川上の裏の顔を」

『スーパーメイド……? え、メイド? メイドって言ったか今!?』

『なんじゃそりゃ、熱血ダウナーメイド教師とか属性盛り過ぎだろ。

 おい蓮、詳しく教えろ。余すことなく書き記してやる。

 一方から見ればダウナー教師。もう一方から見れば熱血メイド。同一人物、認知の違い……やべえ、これだけでもう一本書けそう!

 ハイ、というわけでネーム書き直しー! あとペン入れも! 皆さんよろしくオナシャス!』

『は? 書き直し?

 ……ってオォイ! これ、俺が手伝ったヤツも入ってんぞ!』

『キャラが変われば描写も変わる。これ創作活動の常識な。相手が男か女かで、「スミレちゃん」の動作も変わってくんの!』

『だったら最初にキャラクター固めてから書けよ! 二度手間じゃねーか!』

『うるせー! 空から教師が降ってきたんだからしょーがないだろ!

 いやほんとに、よろしくお願いしますよ「ガイコツパイセン」! せっかく皆で書いてるんだから妥協したくないんだよう、頼むって!』

『だー、分かった! 分かったから引っ付くな、服が伸びる……!』

『サンキュー! 蓮もスマン、頼む!』

「……やれやれ。仕方ないな」

 

 

 ◆

 

『……という過程で生まれたのがこの「アップ・リバー」なんだが、正直自信がない。担任だった生徒の一人として意見が欲しい』

『へー! 川上先生ってこういう一面あったんだね! まあでも、面倒見のいい性格だったし納得かも』

『え、そういう反応? いいのか、これで』

『全然いいじゃん! むしろ何が駄目なのか知りたいくらい。

 モデルの世界にも結構いるよ? 人見知りな子が派手な衣装来たり、逆に陽気な子がシックな衣装来たり』

『目に見えるものだけがそいつの全てじゃないってことか』

『そうそう。で、逆もまた然りなんだよね。

 見た目が全てじゃないってことは皆知ってる。それでもやっぱり、外見が与える第一印象は重要なんだよね。内面を知りたいと思ってもらうには、やっぱり外見で注意を引いて興味を持ってもらわないと』

『ほほう。見た目、即ちキャラデザ。ってことはやっぱり、ヤツも巻き込んだ方がいいか……』

『いいんじゃない? きっと喜んで力を貸してくれるよ』

『……「モデルギャル」のヌードとか描き始めたりして』

『それはマジ止めて』

 

 

 ◆

 

 

『キャラクターデザインなら任せろ! ちょうどその方向性も試したかったところだ!』

『相変わらずテンションたっけえな! けど正直助かる!

 デザインはあくまでデフォルメされた私達な! で、架空の街が舞台だから、現実とは若干違う感じを出したい』

『成程、確かにそうだな!

 そしてこれがプロトタイプだ!』

『はやっ!? っていうか頼む前から描いてたのかよ!』

『白状すると、話自体は三人から聞いていた。気分転換として描いたものだが、一応見せた方がいいと思ってな』

『おおう、なるほど。

 ……うん、いい感じだな! 怪盗服のデザインも取り入れててしかも見やすい!

 ってあれ? なんか一人だけ変態が混ざってるんだが……なんで一人だけ劇画調?』

『この「アート・フォックス」は俺がモデルのキャラクターだと聞いた。芸術に命を懸ける学生ならば、このデザインしかないと思ってな』

『ちょっと何言ってるかよく分からんのだが』

『分からんか? 絵だけではなく、己の肉体全てを用いて芸術を表現するキャラクター性が。これこそ、肉体という檻から解放された漫画ならではの表現方法……!』

『世界観が崩れる、却下』

『なっ!? いやしかし、このキャラクターを表現するには、デフォルメだけでは限界がある! 劇画調は無しだとしても、何か他の案が欲しい!』

「ならいっそのこと、表現方法を多彩にしてみるのは?」

『何? より一層多彩に? 蓮、詳しく頼む』

「状況に応じて表現を変えるんだ。デフォルメを基準にして、このページでは劇画調、次のページでは日本画風、といった具合に」

『あるあ、ねーよ。余計カオスにしてどーすんだ、収集がつかなくなるぞ』

『蓮、いくらなんでも流石にそれは――

 ――素晴らしすぎるアイデアだ』

『だよなぁ……ん? いまなんと?』

『ちょうどよかった。実を言うと、漫画の表現方法についても勉強したかったんだ。

 悪いが二人とも、今日は失礼させてもらう。今すぐ帰ってこの熱をスケッチブックに叩きこまなければ!

 では……サラダバー!』

『あ、それ私の決め台詞……って、え? マジで?』

 

 

 ◆

 

 

『……という感じでカオスなキャラクターが爆誕してしまったんだが。

 どうしやしょう、「ライダー組長」。一発シメときますか?』

『誰が組長よ、誰が。

 まあでも、いいんじゃないかしら。確かに画風は違うけれど、同一人物だと分かるいい塩梅のデザインじゃない』

『それがまた腹立つんだよなー。才能は紛れもなく本物っていうか。こんないい絵出されたら、私としても使わざるを得ないというか』

『負けられないわね』

『それなー。絵のお陰で売れた、なんて思われたくないし。でもそういう作家、プロの世界でも多いからなー』

『頑張りましょう。脚本作りなら私も手伝うわよ?』

『ん、頼む。あと校正とかも』

 

 

 ◆

 

『うーーーーーーん……やっぱり変かな。気持ち悪いって、思われないかな』

『いえ、全然そんなことないと思いますよ。ね、先輩』

「ああ」

『でもこれ、エッセイ本だしなぁ……。

 「スミレちゃん」の同級生の「ナビ・オラクル」。作者の願望マシマシじゃん。典型的な俺TUEEE!じゃん。駄作臭ハンパねえ……』

『いいじゃないですか、同級生!

 アウトドア派の私と、インドア派のナビちゃん。二人は幼馴染の大親友!

 あ、厳密には私じゃないんでしたっけ』

『うああぁぁぁ恥ずかしい! 恥ずかしくて死ぬぅ! ムリムリムリ絶対無理……!!

 ……いや、でも。でもぉ……せっかくの漫画なんだし、少しくらい夢見ても……』

『大丈夫です!』

『ぎゃあぁぁぁまぶしっ! 流石は今を煌めく新体操選手! 自己肯定感高すぎんだろ!』

「……やれやれ、仕方ない。

 ここは任せろ。押して駄目なら引いてみろ、だ」

『はい、お願いします!』

『え、なんだこれ。もしかして私が説得される流れ?』

 

 

 ◆

 

 

『うん、すごくいいと思う! そういうお話なら大歓迎!』

『い、いや、あの……そんな能天気に肯定されると逆に困るんだが。

 「ロイヤルブラック」。父親と溝があるお嬢様。「怪盗ファントム」の策により父と正面対決。対決の中で認知が変化し、和解……。

 いや、違うぞ。煽るつもりとかホントなくて、単に思いつきを言ってみただけで、他意はなくて……』

『ふふ……ちゃんとわかってるよ。貴方がそういう子じゃないってことくらい』

『……ごめんなさい』

『謝らないで? むしろ、こっちがお願いしたいくらい』

『お願い……?』

『うん、お願い。

 ――私の父は、もういない。でも、何かが違っていれば、幸せな結末もあったんだって。貴方にはそういう、夢のようなお話を書いてほしいかな』

『……! お、おう、任せろ! 私は漫画作りシロートだけど、精一杯書くから!』

『うん、楽しみにしてるね!』

 

 

 ◆

 

『――それで、できたのがこの本ってわけ?』

「まあな」

『ふぅん……じゃあ、さっそく読ませてもらうよ。僕の元に来たのって、つまりそういうことだろ?』

「話が早くて助かる」

『――――ふむ。成程、ね。

 流石は一式若葉の娘。認知訶学については一日の長がある。間違った情報は見当たらないな。敬遠されがちな学問を、キャラクター性と絵の親しみやすさで、大衆娯楽に落とし込んでいる。素人にしちゃ悪くない出来かもね。

 ただ、敢えて言うなら詰め込み過ぎかな。認知訶学の解説本なのか、とある少女のエッセイ本なのか、それとも少年漫画なのか。要素を詰め込み過ぎてテーマがブレてる。

 いっそタイトルも、「バカ軍団の日常」とかにした方がいいんじゃない?』

「お前もその一人だぞ、「フェザー探偵」?」

『抜かせ、「怪盗ファントム」』

 

 

 ◆

 

「――というわけだ。認知ってのはあくまで自分の目で確認する必要があって、知識だけじゃなにも変わらねえ。「猫は喋る」という知識だけ持ってても、ワガハイの声は聞こえねーってことだ。ワガハイの声を認知するには、実際に聞くか、本人の認知そのものをどうにかして変える必要がある。

 って、おーい、アル。話聞いてるかー?」

「……え? あ、いえ、勿論聞いてたわよ?」

「この漫画、普通に面白いねー。解説本っていうから教科書みたいな感じかと思ったけど」

「お前ら……ワガハイの話、全く聞いてなかったろ?」

「うっ……ごめんなさい」

「ごめんなさーい♪」

「ごごご、ごめんなさい……」

「っておいおい、アルだけじゃねーのかよ……」

 

 アル、ムツキ、ハルカの謝罪を聞いてモルガナは呆れ顔だ。

 しかし表情は柔らかい。どんな形であれ、自分達が作った本を一生懸命読んでくれるのは、やっぱりいいものだ。

 

「じゃあ、ハイ。モルガナ先生、質問」

「お、流石はカヨコ。いいぞ、なんでも聞いてくれ」

「モルガナ先生は認知訶学の例として自分を挙げたけど、他にはどういうものがあるの?」

「いい質問だ。キヴォトスの生徒の身近な例だと……やっぱ銃かな。

 ジョーカー、頼むぜ」

「ああ」

 

 顔に手を添えた途端、自分の身体が青い炎に包まれる。

 しかし一瞬だけだ。瞬きの後、炎の中から馴染みの怪盗服が出現する。

 そして懐から、愛用の拳銃を取り出した。

 

「銃?」

「持ってみろ」

 

 銃のグリップ部分をカヨコに差し出す。

 カヨコがそれを握った後、俺が手を離すと――彼女はすぐにその違和感に気づいた。

 

「? なんだろ、思ったよりも軽い……?

 ……ううん、違う。先生、これ本物じゃないでしょ」

「その通り。限りなく精巧に作られたモデルガンだ。弾は出ない」

「……もしかしてからかってる?」

「いいや、全く。正真正銘、それが俺の銃だ」

「?

 ……あ、もしかしてそういうこと?」

 

 ようやく得心がいった、と言わんばかりにカヨコは顔を上げた。

 

「えーっと、カヨコ課長? つまりどういうことかしら。先生の銃はモデルガンってことでいいの……?」

「うーん、でもそれっておかしくない? 先生って確か銃撃戦もしてたよね?」

「は、はい……ま、前にサンクトゥムタワーでも、銃を使ってるのを見ました」

「そうだね。つまり、それらは全部認知訶学によるものだってこと。

 「これほどの力を持っている男の銃が偽物なわけがない」――そういう認知を応用したもの、なんだと思う。

 加えてここはキヴォトス、銃火器の所持が当たり前の社会。そんな場所で銃を構えられたら、偽物だと疑うことはまずできない。事前に知ってたとしても、「偽物のはずがない」という認知がついて回るから、やっぱり偽物だと断定できない。

 結果、存在しないはずの弾丸が装填される。

 それだけじゃない。たぶん先生のペルソナ能力を使えば、対物ライフル並みの威力を出すことだってできるんじゃないかな」

「拳銃の手軽さで対物ライフルの威力って、いくら何でもやり過ぎじゃないかしら!?」

 

 流石はカヨコ、便利屋68の参謀なだけあって理解が早い。

 とはいえ、対物ライフルは流石に言い過ぎだが。

 

「難しく考えなくていい。君達の銃と同じように、このモデルガンにも弾が出る仕組みがある。そして、その仕組みに認知訶学が組み込まれている。要はそれだけのことだ」

 

 彼女達の銃と比較した場合、最大の長所は対人性能。射手である自分が倒すべき敵だと認知すれば、自ずと弾は装填される。攻撃力に関しても、ペルソナ能力を上乗せすることで拳銃の枠を越えた貫通力を発揮できる。

 対して欠点は対物性能。見た目が拳銃である以上、拳銃以上の仕事はできない。こんな小さな銃口から、ミサイル大の弾を撃つことはできない。たとえペルソナ能力で上乗せしても、これは覆せない。

 

「それでも、私達の銃に比べれば随分便利だよね。流石は先生というか、なんというか」

 

 そう言ってカヨコは自分の銃を取り出し、モデルガンと見比べる。彼女の銃も拳銃タイプだ。便利屋内での彼女の役割故か、銃身には消音用のサイレンサーが装着されている。

 ……確かに、俺が使用する銃はモデルガン。彼女達のそれのように、本格的な手入れは必要ない。カヨコが羨ましがるのも当然か。

 

「あ……ごめん、なんか嫌味っぽくなっちゃったかも」

「そう悲観することはないと思うぜ? ある日突然、ひょんなことから覚醒するかもしんねーし」

「え?」

 

 四人はモルガナの言葉に耳を疑う。

 

「ん? どした、お前ら?」

 

 モルガナはというと、特段気にした様子はない。あくまで日常会話の延長として言っただけらしい。

 

「どういうこと? ペルソナ能力って、先生達だけの能力じゃないの?」

「まさか、そんなことはないぜ。そもそもペルソナってのは、そいつの内面が形になったものだ。きっかけさえあれば誰でも発現できる。

 いや、厳密に言うとワガハイ達はその中でも特例なんだが……まあ、今はいいか。

 とにかく、能力自体は誰でも持ちうる。犬でも猫でもシャドウでも……教師でも、国会議員でもな。

 何より大切なのは美学だ。何かを成し遂げたい、あるいは譲れない何かがあって、そのために力を振るおうとする意志。その意志の強さが覚醒を促すんだ」

「意志の強さ……」

「そうだぜ? ま、お前ら便利屋なら大丈夫だろ。自分なりの美学を持って、毎日必死に生きてんだから。実はもう半分くらい覚醒してて、自分じゃ気づいてねえだけかもしれねーしな。

 じゃ、気を取り直して再開するぜ? 認知訶学ってのは底が知れねえ学問なんだ。今日一日じゃ語り切れねえくらいに。

 何よりこいつはワガハイ達怪盗団の傑作。隅から隅まで、じっくり読んでくれ」

「……うん、そうだね。そうさせてもらおうかな」

 

 ◆

 




※今回の話は以下のメモを書いてる途中で生まれました。


※以下、自分用メモ
認知訶学についての解説+伏線回
ジョーカーの拳銃は普通のそれとは違う。(モデルガンなので本来弾は出ない)
にもかかわらず武器として機能してるのは認知科学とペルソナ能力によるもの。
「こんなヤバいヤツが使う銃が普通の銃なわけがない」という思い込みを利用したもの。
という伏線。

佐倉双葉ネタを絡めることができる。
認知訶学を分かりやすく解説したエッセイ本。
エッセイ(自分の考えや体験を自由な形式で綴った文章のこと)
最初は双葉が暇つぶしに書いていただけだったが熱が入り、友人を誘って本格的に書籍化された。

著者:ナビ・オラクル(ペンネーム)
   アート・フォックス(ペンネーム)

認知訶学とはどういう学問か、というテーマで個性的なキャラクター達が日常を過ごしながら解説してくれる。
エッセイ本だからか、キャラクターはかつての怪盗団をイメージしたものになっている。
ナビ、フォックス以外はコードネームを使ってない。ナビ曰く実在の人物・団体とは一切関係がないらしい(矛盾)(エッセイとは)
舞台は架空の街。基本的に日常ギャグテイスト。

・スミレちゃん
 主人公。新体操部所属、元気ハツラツの一年生。好物はカレー。
(本人から許可を取った特別枠。とある新体操の選手がモデル)
・リベリオンカフェ(怪盗ファントム)
(マンハッタ〇カフェ意識のネーミング)
 スミレちゃん行きつけの喫茶店のマスター。二代目らしい。スミレちゃんの相談役。
 裏の顔は怪盗ファントム。悪党から金品を盗む義賊。
・「喋る」黒猫モカ
 (喋る黒猫→認知訶学解説のネタ)
 カフェ(ファントム)の相棒。小生意気だが憎めない性格。
・ヤンキーガイコツ
 スミレちゃんの学校の先輩。不良だが情に厚い熱血漢。
・モデルギャル
 ガイコツと同級生。モデルと学業を両立するギャル。面倒見がいい。
・アートフォックス
 作者本人。巻頭巻末でもちょろっとだけ描かれる。
 アートに命を懸ける変人。ガイコツとセットで描かれることが多い。
 ギャグ専門。他のキャラは大衆受けしやすいデフォルメキャラで統一されているが、こいつだけやたら画風が変わる。
・ライダー会長
 生徒会長兼暴走族組長。表と裏から学校の生徒を守る真のアウトロー。
・ナビオラクル
 スミレちゃんがアウトドア担当、こっちはインドア担当。
 重度のオタク。スミレちゃんの友人として登場。
 本人の願望を投影している。(学生としての生活)
 作者のアバターとしても登場。ページの隅っこで用語について解説してたり、巻頭巻末で挨拶してたりする。
・ロイヤルブラック
 同じ学園に通うおっとり系お嬢様。世間知らずな一面が強調されて描かれている。
・フェザー探偵
 名探偵。よく喫茶店でエンカウントする。フェザーマン(戦隊モノ)を意識したヒロイックな探偵。銭〇平次ポジション。

→認知訶学について調べながら書く。
元ネタは多分認知科学。(訶ではなく科)
リアルで存在するガチの学問なので知ったか解説は×
あくまで話のネタ、会話の導入として使う。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。