夢主やめたい   作:燈葱

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幼女主が書きたかった


閑話 無意識幼女主であった話

 

 

 

 

 

「せんちょー、せんちょー!あさだよ、せんちょー!……へんじがない、ただのしかばねのようだ」

「ブフッ」

「!さておきておるな、せんちょーおはよー。あさだよせんちょー」

「……ぐー」

「……せんちょー。──ロジャーさん、おはよ。ごはんたべいこ?」

「ヨシっ!行くぞミルー!」

 

 オーロ・ジャクソン号の朝は忙しない。

 特に船長ロジャーを起こす役割を与えられてしまった幼児は、今日も今日とてもロジャーを起こすのに苦労していた。何せ名前を呼ばないと起きてくれないもので。

 

 彼女がオーロ・ジャクソン号の乗組員に加わったのはほんのひと月前だ。敵船との交戦を終えてさて宴だと皆が激っていた最中、小さく聞こえた鳴き声に副船長であるレイリーは困惑した。一体何が潜り込んだのかと探しみれば、そこにいたのは五歳程度の泣いている子供が一人。

 オーロ・ジャクソン号には昔から二人の見習いが乗っているが、それこそ物心着く前から海賊船に乗っていた子達だ。故にオーロ・ジャクソン号の猛者どもも子供を相手にするのは苦ではない。が、あからさまに怯えられてはどうすることもできやしない。ただでさえ小さな身を小さくさせ、泣き声が漏れぬよう口を押さえて泣く幼女にさてどうしたものかとレイリーは首を傾げた。しかしそんなレイリーの心配などいざ知らず、ロジャーは躊躇いなくその後を抱き上げたのである。

 

「お前、名前は何だ!」

「ヒグッ、ミ、ミルー」

「よしミルー!今から美味いもん食わしてやる!野郎ども!宴の準備を急げぇ!」

「ロジャー!?」

 

 いくら子供とてどうやって侵入してきたか分からない人間だぞと常識的に問いかけたとて、泣いてる子供に追い打ちをかけるのかと睨まれてしまえば致し方がなく。それにこの船の船長はロジャーなのだから、彼が決めた決断に文句を言えるはずもない。

 

 目を腫らした状態で鼻を啜るその子供はちょこんとロジャーの膝上に座り、チマチマと果物を口にする。両頬を丸くして食べるその姿はまるでリスのようで、チラチラ様子を窺っていたクルー数名がその愛らしさにすでに頬を緩めていた。

 レイリーはそいつらに呆れつつも、知らない人間に、しかも先ほどまで人を殺し返り血さえついている大男に抱えられてよく平気なものだとミルーと名乗った少女に感動すら覚える。何せ我らは海賊なのだ、一般的に子供に好かれた試しなどない故に。

 クルーに名前を聞かれれば素直に答えるし、何処からきたのかと問われれば分からないと。分かったのはフーシャ村という出身地と名前だけ。最初こそ怯えて震え泣いていた少女だが、ロジャーに抱えられ食事をし、幾分気持ちの整理ができたのかその後は口をへの字にするだけで、歳不相応の落ち着きを見せていた。

 

 結局その子に関してはどの海のどの国にその村があるかは分からずに終わり、レイリーはロジャーがその子を次の島で降ろすものだと思っていたがそうにはならず。送り届けると言って聞かない船長の判断に渋々その判断に頷いた。見習い二人の幼少期を思い出して面倒ごとが増えると頭を抱えたレイリーであったが、それは杞憂に終わったのである。

 

「れいりーさん?ふくせんちょーさん?おしごとください」

「──なに?」

「はたらかざるもの、くうべからずなので」

 

 ただでさえ垂れてる眉をさらに下げ、幼子・ミルーはレイリーを見上げてそう言った。

 シャンクスとバギーはその年頃じゃあ仕事なんてしなかったぞ内心驚きつつも、その小さな体に見合った仕事を与えてやればきちんとこなす。小さな体でトタトタと船内を駆け回っていれば、いい歳の男どもはハラハラしながらもその姿を眺めて癒された。無論それは船長であるロジャーも副船長のレイリーも同じである。

 子供とはまさかこれ程の愛らしいものであったのかとレイリーはかつての見習い二人はを思い出したが、奴らはヤンチャでミルーとは全くの別物でモンスターであった。アイツらは物事を頼んで大人しく聞いた試しがない。きっと二人の反応が普通なのだろうが、目の前のいる幼女はこれがここに居られる理由だと言わんばかりに大人の言う事をよく聞いた。

 一度試しにロジャーを起こしてこいと頼んだところ、いつもより遥かに早い時間に、機嫌良く、ロジャーは彼女を抱えて起きてきた。これを使わないではないとそう思ったレイリーが毎朝の日課とするも、それを見ていたクルーからおれもおれもと声が上がったのは予想外であったが。

 

 しかしまぁ、物事はそううまくは回らない。

 今まで最年少組であった見習い二人は大人たちのその対応が非常に気に入らなかった。俺たちの時はそんなんじゃなかったのにと、あの子を褒めすぎだと非難の声をあげたのである。

 ロジャーとレイリーのその声を無視する事はなく、ならお前らがあの子を育てろと言いつけた。

 自我が強く自由を愛する二人からすれば、すぐにミルーは邪魔だと投げ出すだろうと考えたのだ。彼女には悪いことをするが、一度教える立場になってみればレイリー達があの子のお世話のが当たり前だと認め、嫌々でもあからさまに態度は出さないと見越したのである。

 

「いいか、おれはバギー"さん"だ!」

「おれはシャンクスでいいや」

「ばぎーさんに、しゃんくす?」

 

 年上風を吹かせたいバギーは"さん"付けを強要し、ミルーは大人しくそれに従う。シャンクスは呼び捨てでいいと言いながらも、俺の言うことを聞くんだぞと言い聞かせた。ミルーはどちらの言葉にも頷き、当たり前のように彼らの言うことに従って仕事をこなしていく。全くヘマをしないミルーに若干の苛つきを見せるバギーであったが、ニコニコとバギーさんバギーさんと小鴨のように着いて回るミルーを嫌味を言う気にはなれず。二、三日もすれば逆にそれに優越感を覚えた。

 シャンクスも同様に己の後ろをついて回るミルーに船についてあれこれ教え、時には戦い方を教えてやるよと剣を持たす。無論それは大人の手によって奪われるのだが、ミルーに武器がないのは可哀想だと言い出したため小さなナイフが与えられることとなる。まあそれは後々調理場に置かれ、ミルーのお手伝い用ナイフとなるのである。

 

「あー、ギャバンさんがミルーにちょっかい出してる!」

「レイリーさんに言いつけようぜ!」

「ちげぇよ!どう見たって文字教えてるだけだろ!」

『それはオレらの役目だっ!』

 

 結果ロジャー達の思惑はハズレ、甲斐甲斐しく世話をする兄貴分が出来上がったのには誰しもが驚いた。

 今の今まで勉強なんてと避けて通っていた二人も、ミルーが文字を教わっていると知ると兄貴風を吹かせ三人並んでノートを開き。本を読み聞かせてもらっていればそれを奪い取り、真ん中にミルーを挟み込んで読む。時々ミルーの方が言葉を知っているのか、読み聞かせているのが彼女になるのはご愛嬌。お前らそれでいいのかと、歳の近いネコマムシとイヌアラシに呆れられてもいたものだ。

 勿論食事の際の同じく三人並んで座り兄貴分のらどちらかが嫌いなものを残そうとするたび見つめてくるミルーの瞳に、格好つけたい二人の好き嫌いは一時期影を潜めた。その事を喜んだコックがミルーにデザートを差し出すことになったのだが、それを三人で分けるのもご愛嬌だろう。

 

 島につけば当たり前の如くミルーの手を引き買い出しへ。気づけば三人で一つのトリオになっていたのだが、その異質さを兄貴分二人はきっと生涯気づくことがないのだろう。

 

「まったく、あの二人は」

「ありゃあ、ミルーだから成り立ってるって分かってねぇぞ?」

 

 おれ達にだって子守りはできるぜと言い切りミルーとともにいる二人であるが、その歳の差は八歳。一般的に六歳と十四歳では話も合わなければ、随時行動を共にすることは簡単なことではない。それに男女の性差もある。

 子供らしからぬ落ち着きで二人のいうことを聞き、時には誘導するかの如く二人の間を取り持ち。大人達の難しい話も困ったような顔をしながらもきちんと理解している。そんなミルーだからこそ成り立っている関係なのだ。

 ほんの少し前に、船医クロッカスはミルーに問うたことがある。あの二人といるのは苦ではないのかと。

 実のところオーロ・ジャクソン号には見習いではないにしろ後二人子供が二人乗っている。一人は二歳で、もう一人は生まれたばかりの赤子。しかしどちらかといえば、この二人の方が歳は近い。活発で大雑把なバギーとシャンクスといるよりも、怖がりで泣き虫なミルーからしたら過ごしやすいのではとクロッカスは考えたのだ。

 けれどもミルーは悩むそぶりもなく二人を選んだ。理由などそこにはなく、ただ、一緒にいていいのだと、手を引いてくれるから側にいるのだと言ってバギーとシャンクスを選んだのである。

 

「モモちゃんとひよりちゃんもすきだけど、いろいろおしえてくれるバギーさんとシャンクスもすきなの。たのしいし。あ、でも。おひるねするならモモちゃんたちがいい。ふたりはねぞうがひどい」

 

 この前も蹴られたの。身体が痛い。ミルーがそういえばレイリーからの怒号が飛ぶ。三人でお昼寝をしたという事は、兄貴分二人は何かをサボったという事なのである。

 そんないつも共にいる三人であるが、どちらかといえばバギーの方がミルーには好かれているのではとロジャーは考えている。ミルーが無意識にちょこちょこ着いていくはいつもバギーで、シャンクスに着いて回っている時はバギーが違う仕事なのだと誰しもがわかるくらいには分かりやすい行動をミルーはとる。街に行けば顔の良いシャンクスが町娘にチヤホヤされている様を見ている知っている身としては、些か不思議であった。

 女って顔が良いやつが好きなんじゃねェのかと三人の前で聞いてしまったのは間違いだと思うが、聞いてしまったからには致し方がない。

 

「だって」

「だって?」

「バギーさんのほうがゆかい」

「なんだと!?」

「おれだって面白いだろ!?」

「んー、なんていうか、たのしい?おちつく?」

 

 別に顔が、とくに鼻が愉快だと言ったわけではないのだが大抵のものは勘違いをした。バギーの鼻が愉快だからと。

 けれどもミルーからしてみればそれは少し違う。バギーの方が話していて単純に面白いのである。どちらかといえばニュアンスで話すシャンクスの話を理解するのは頭を使うが、ミルーが理解できそうな言葉に崩して話してくれるバギーの話は興味深い。今までに辿ってきた島や、そこに住んでいる人々。見つけたお宝など、分からないなら分かりやすいようにと無意識に考えてくれるバギーの側はとても心地よかった。

 とある島の話を一例に出すのならでっかい島でドーンしたやつがあって、みんなぎゃーってなって、そんでお宝見つけた。とまぁ擬音が多いのがシャンクス。そこから何を読み取ればいいかミルーには分からない。でも島の名前は◯◯で、冬島だから暖かい服装で雪を降ってて、ロジャー船長に驚いてみんな逃げ回り、でもそこにいた悪いやつをたおしてお宝をもらった。それでこれがその時のお宝だ。と言ってくれるのがバギーなのだ。どちらを聞いてワクワクするかと言われれば、圧倒的に後者だろう。それにミルーはお宝を所有することには興味ないが、それを真面目に鑑定するバギーの姿には興味があったのだ。純粋に十代で宝石を鑑定できるなんて凄いとミルーに思われていた事をバギーは知る事はないだろうけれど。

 

「バギーばっかり、ずりぃ」

「おれは褒められている気がしねェけどな!?」

「んー、あとなんというか、シャンクスは、ヨウキャぽいから……」

「ヨウキャ」

「ようきで、みんなのにんきもの、てきな?あいいれない」

「なんだよそれ!」

「やっぱりおれを貶してるだろミルー!!」

「けなしてない。ただげんきはつらつは一緒にいると、ツカレル」

 

 もう少し落ち着いてほしい。

 そういわれれば、ロジャーには納得しかない。確かにバギーもシャンクスも陽気だが、はちゃめちゃな行動をするのはどちらかといえばシャンクスで、それを追いかけるのがバギーでもある。

 ミルーはシャンクスについていくのが大変なのだろうと納得した。

 

「そりゃ、シャンクスは予想できねぇ行動するもんなァ」

「──お前がいうな、ロジャー」

 

 シャンクスもそうだが、一番予想できないのはロジャーである事は間違いないのだがとレイリーは深々とため息をついた。本当によくお前は見ているなとミルーの頭を撫でれば、嬉しそうにミルーはニコリと頬を緩めた。

 

 そんな三人であるが、別行動を取ることだってある。

 船内で戦闘が行われる際はトキとモモの助、日和と共に隠れてやり過ごす。非戦闘員であればそれが最善策といえた。

 トキはミルーを我が子のように可愛がり、その夫であるおでんもまたよく肩車をするくらいには懐かれている。二人の子供であるモモの助もまた姉のように慕っていたが、遊んでいるといつも兄貴分二人の茶々が入るのが日常でもあった。

 

「バギーさん、シャンクス。モモちゃんは小さいんだよ?」

「それは、見りゃわかる!」

「でもミルーはおれらといた楽しいだろ?」

「わたしをよくみて。ふたりよりちいさい。たいりょくない。おやすみもひつようなの」

『ング』

 

 可愛い妹分にお前らとずっと一緒にいれる体力はないと言われてしまえば諦めるしかなく、遠くでモモの助と遊ぶミルーを眺めることも珍しい光景ではない。むしろ、妹分を取られるハンカチを噛み出しそうな二人を眺めるのを酒の詰まりにするクルーもいたものだ。

 たまにトキを含めた四人で過ごすこともあり、その度に羨ましそうな顔をしていた二人であるが一体それは誰を羨ましく思っていたのだろう。

 

 いまはもう、その答えを問うものもいない。

 

 

 

 

 

 

 ミルーはオーロ・ジャクソン号に、ロジャー海賊団に馴染んでいた。空島へ出向いた時も、深海の奥底、魚人島に向かった先でさえ。

 ミルーはすでにロジャー海賊団の一員であったのだ。彼女を故郷に送り届ける事は必然であるが、そうなる前に共に最後の島に行くのだろうとさえ皆が無意識に思ってしまうほどに。

 

 それが、叶わなかったとしても。

 ミルーはそこにいて、ロジャーにレイリーにバギーにしゃんくすに、クルー達に愛されていた。

 

 ほんの僅か非日常。スパイスのように取り入れられ、呆気なくいっぽうてきに奪われた幸せの形。

 けれどもこれは、確かにそこにあった、彼女の愛されていた過去の話である。

 

 

 

 

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