夢主やめたい   作:燈葱

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船長二人の話。夢主能力モリモリ!


閑話 あの子の戻る場所

 

 

 

「あの子は無事に故郷に帰れただろうか」

 

 濡烏色の髪とはちみつのような瞳を持つ、思い出にしかいない小さなクルー。過ごしていた時間も半年ほどで、結局故郷まで送り届けることはできなかった。

 

 あの日突然現れた少女は船の隅っこでうずくまり、声を殺して泣いていた。たまたま敵に見つからなかったから良かったものを、あのとき他の誰かに見つかっていたのならばあの子はまともに生きていけなかっただろう。

 この船も海賊船ではあるが、カタギには手を出すことはない。

 故にあの子はこんな船の中でもまだまともな扱いをしてやれたのではとロジャーは思っている。途中の島で降ろしてもよかったが、彼女の故郷の島がどこかわからない状況で降ろすのは躊躇われた。仕方なしに小さなその子を見習いとし、同じく見習いの子供二人に世話を任せたのだ。

 あの子は二人に手を引かれ船内の雑用をこなし、その小さな愛らしい姿でクルーの癒しにもなっていた。島に家族を置いてきた奴等は親戚のオヤジのように可愛がり、兄弟がいる奴らもそれに負けじと構い倒す。とある夫婦はもう一人の子供のようにも扱った。

 

 しかし一番懐かれていたのは見習いの一人、バギーである。

 何故バギーなのかと問えばきょとんと首を傾げ、顔が愉快と悪気もなくいい放ち大きなタンコブをこしえていたのものだ。プギャっとたぬきが潰れたような声を出して泣く姿に周りも大声で笑い、バギーの相方も腹を抱えて笑っていたのは懐かしい。

 

 あの子は小さいなりに毎日を必死に生きていたが、時折酷く遠い目をしてたことをロジャーはよく覚えている。ここではないどこかを眺め、諦めたように笑う。そんな子供らしかなぬ姿を見てしまったら、一人になんてして置けない。あるやつは肩に乗せ船内を走り回り、またあるやつは膝の上で昼寝をさせ、レイリーなんかはよく抱き上げて食事をさせていたものだ。そんな奴らの集まりだったから、あの子が笑う回数は日に日に増えていった。

 

 島に降りればキョロキョロとしながらも見習い二人の指示によく従い、どちらかの手を握って後をついていく。まるでカルガモの親子のようで立ち寄る島の人間にまで微笑ましく思われていたものだ。その役割分担で兄貴分二人はよく喧嘩をしていたが、あの子には最後までバレることはなかったらしい。おまけでもらう果実は仲良く三等分し、夕飯が食べきれなくなったあの子の食事をバレなように各自の腹の中に隠して。何故バレないと思っていたのか理解し難いが、食後仲良く三人でレイリーにタンコブを作られていた。

 

 シャンクスは意地でもバギーより懐いてもらおうと構い倒し『お兄ちゃん』と呼ばせようとしていたが、逆にそれが仇となり最後の最後まであの子の口からその言葉が出ることはなかった。可愛がり方が餓鬼すぎたのが原因だろうと、クロッカスが渋い顔をしてシャンクスを咎めていたのをロジャーは覚えている。

 

 そうして数ヶ月がすぎたあの日、あの子が不意に消えてしまったのだ。そして目の前でそれを体験してしまったシャンクスは誰よりもその姿を探し続けた。最初こそ海に落ちた可能性を考える泳げる人間が捜索したがみつからず、島に流れ着いていることを考え本来寄らなくても良い島にも寄った。けれどもあのら幼子の姿はどこにもない。探してもみつからないあの子に対して航海とはそんなものだと一部のクルー達は早々に諦めたが、ロジャーを含めた数名はたどり着いた島々であの子の存在が探し続けたのである。

 しかしながら結局のところ、あの子の生存を望むクルーは一人また一人と減っていき、可愛がっていたバギーでさえもあの子は死んだものと諦め名前を口にすることは無くなったってしまった。

 最後の最後まで諦めの悪かったロジャーとシャンクスは、いきなり現れたのだがいきなり帰ったのかも知れないと僅かな期待を抱いて彼女の故郷を探し続けたが、結局、ロジャーは探しきれなかったのだ。

 探し切る前に、その命を終えたのだから。

 

 

 

 それから幾許か月日が経ち、独り立ちしたシャンクスは己の船であの時いなくなった少女よりもずっと小さな子供を娘とすることとなった。あの時の船長とクルーたちはこんな気持ちだったのだろうとようやく理解し、その子をウタと名づけ船内で育てた。ウタが9歳になる頃、運良く行き着いたのがあの時いなくなってしまった少女の故郷フーシャ村。

 今更ながらこんな縁があるのか感慨深く思っていれば、ウタが連れてきた友達の一人にシャンクスは懐かしい面影を見た。

 

 濡烏色の髪にハチミツ色の瞳。垂れた眉と瞳は、少女をより一層弱々しい子供だと認識させる。

 

 一瞬息を呑んでしまったのは無理もない。あまりにもあの時の少女に似ていたのだから。

 シャンクスは故郷が此処だといっていたことを思い出し、もしかしたら親戚の類なのかも知れないと思考を巡らす。下手に探ったとして彼女が此処に帰ってきていないとわかってしまえば、それはあの子の死を意味すると名前さえ聞けやしなかった。

 しかしそんな思いと裏腹にウタはその少女の名前を呼ぶ。当たり前のように、優しい声音で『ミルー』と。

 あれから何年も経っているのだ、いなくなったしまった子供の名前をつけることだってあるかも知れない。そう思いながらも目で追って、古びた記憶を呼び覚ます。笑った顔も困った顔も、ぐずって泣く姿も。全てがあの子の生き写しでしかなかった。

 

 

「ミルーも何か歌って!」

 

 一度酒場で、みんながいる前でウタがそんなオネダリを彼女にしたことがある。彼女は困った顔をしながらも、その年に似つかわしくない歌を口にした。別に大人が歌ったのならば教会か何処から聞いた歌だと思っただろう。けれどもまだ七歳のその子が歌うには少しばかり重すぎた。

 

「ミルーはね、私の知らない歌をしってるの!」

 

 島々を行き来すれば、知らない歌なんて五万とでてくる。だがこんな辺境にある村で彼女はどうやってそんな歌を知ったのだろうか。神に祈る、その歌を。

 無意識に伸ばして掴み取ってしまった手はあまりにも小さく、手放し違いものであった。

 

 フーシャ村を拠点とし何度か航海をして、時折ウタが黙って少女を連れ込んで。

 己の船に乗った彼女の後ろ姿を眺めては、シャンクスはいなくなってあの子のことを思い出す。

 

 海を眺めて深く息を吐くところ、どこか遠くを見て視線をずらす仕草。困った時は右に首を傾げ、目をまん丸にして上目遣いで袖をひく。しゃがみ込んでどうしたと問い掛けれると胸の前で手を組み、下唇を噛み視線を逸らす。

 

 あの頃のあの子の癖を、目の前の少女が当たり前のように行う。

 あの子がいた航海なんて半年足らずだったはずなのに、こうも覚えているものなのか。

 あの頃はあの子の兄になりたかったからよく観察していたのだと自身に言い聞かせるも、それが違うとも既に理解してしまっていた。当時でさえ十も違うあの子に対する思いに蓋をしたというのに、今更出てきても困る感情でしかないというのに。

 

 シャンクスはあの子の兄になりたかったとわけではない。唯一に、特別になりたかった。

 クルー内にいた夫婦に家族に憧れて、小さなあの子に家族になって欲しかった。別にあの時のクルーが家族じゃなかったわけじゃないが、ただ、自分だけの唯一無二の存在が欲しかった。

 

 本当に今更だ。こんなことを思っても手に入らないし、目の前はの少女はあの子ではないというのに。

 

 必死に彼女はウタの友達だと、違う存在なのだとシャンクスは己に言い聞かせるも、その努力は呆気なくも無駄に終わる。

 何せ彼女はそれを否定しまえる能力者だったのだから。

 

「またミルーの奴いねぇぞ?」

「今度はいつ帰ってくるのかしら?怪我してないといいんだけど」

 

 夜も更けた酒場で、そんな会話が耳に入る。

 まだ幼い子供が家に帰ってきていないのにどうしてそんな顔をしていられるのだと怒りを秘めながら問い掛ければ、彼らは口々にいつものことだからとシャンクスに告げた。

 

「いつだっからしら?多分ミルーちゃんが五歳くらいの時だと思うのだけれど、あの子悪魔の実を食べちゃって。今日みたいにいなくなって町中探してもみつからなくて」

「一ヶ月くらい経った頃、いきなり帰ってきてな。服も知らないものだったし、少しやつれていたから今までどこにいたんだって聞いたんだ。そしたら知らないところに飛ばされてようやく帰って来れたって。最初こそ冗談かと思ったがそれがなん度も続けば悪魔の実の能力だと信じるしかない」

「だからたまにいなくなるの。此処に帰ってくることは確かなんだけど、どこで何をしてたのかは教えてくれなくて。あ、もしかしたら何かがあって覚えないのかも知れないのだけれども。その頃から子供らしくなくなったから心配はしてるのだけどね……」

「──なるほど」

 

 そうしてようやく、全てのピースが嵌ったように思えた。

 あの日いきなり現れ、消えてしまったあの子。その子の故郷は此処フーシャ村で、同じ髪色と瞳を持つ瓜二つの少女ミルー。答え合わせはあまりにも簡単で、だけれど普通の人間でいたら思いつかないものでしかない。

 

 あの子は『ミルー』だった。

 シャンクスが、ロジャーが探していたあの子だった。

 死なずにちゃんと故郷に帰れていたし、ちゃんと成長もしている。

 シャンクスをみて反応を示さないのは、過去に行っていたなんて考えてやしないからだ。シャンクスをあの時の見習いと紐づけられないのは、名前が同じなだけの別人と思っているからに違いない。

 もしかしたらそれすらも忘れて不安の中生きているのかも知れない。

 

「──なんだ。なら何も、問題ないじゃないか」

 

 元から『ミルー』はオーロ・ジャクソン号の乗組員であり見習いで。彼が亡き今、あの子の面倒を見るのはシャンクスであってもおかしくないだろう。

『ミルー』は自分の意思で船を降りたわけではないのだから、レッド・フォース号に乗せたところで問題は何一つない。

 

 悪魔の実で消えてしまうなのならば、海楼石のアクセサリーでもつけて仕舞えばいい。

 (ウタ)も家族が増えるならば喜ぶに違いないし、ミルーを頻繁に船に乗せようとするあたり気に入ってることは間違いない。

 だからあの日の続きを、また始めればいいだけだ。

 たとえミルーがあの時を覚えていなくとも、忘れていようとも。

 もう一度手を引いて、今度は離さぬようそばに置いておけばいい。

 

「──となると、まずは話し合いだな」

 

 流石に誘拐するわけにはいかないが、欲しいものは意地でも手に入れるのが海賊というものなのだ。

 何がなんでもミルーは船に乗せて行く。その為ならばいくらでも話し合いをしよう、金を出したっていい。

 人身取引だと言われようが、シャンクスからしてみればミルーがそばにいるならそれでもいい。どのみちフーシャ村の住人は彼をら嫌ってはいないのだ。ミルーの能力を抑えるものを探しに行くとでも言えば、あっさりとその要求の意図など考えず頷いてくれるだろう。

 だから、もう二度と──。

 

「──手放しやしない」

 

 仮にも消えたとしても、帰ってく場所はおれの元(ココ)になるのだから。

 

 

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