【合作企画】あの人がこのお話を書いたら   作:青色3号

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真夜中の鎮守府で -作:黒猫クル-

 出張先の会議を終え、私は静まりかえった深夜の鎮守府に帰った。

 何一つ見えない黒塗りの執務室の電気をつけると、パッと白い照明が執務室全体を照らした。

 

 視界には片付いた提督机や本がピッチリと詰まった本棚があり、見慣れた光景がそこにあった。秘書艦の子は先に寝るように指示しておいたからここにはいない。執務室は私1人だ。

 

「ふう……」

 

 固いソファーに深く座ってため息をつく。時計を見ると日付が変わろうとしていた。

 

 長い会議だった。

 

 会議の内容は次の大規模作戦で囮となる被害担当の鎮守府を決めるというもの。

 どこの鎮守府もそんな役目を負うのが嫌で会議が長引いたが最終的に責任感の強い提督の鎮守府がそれをする事になった。他の鎮守府に汚れ仕事を押し付けておいてだが、仲間を囮にすることや艦娘を兵器として合理的に取り扱う事に嫌気がさす。

 

 艦娘は人とは異なる存在だ。深海棲艦が現れて人類が危機に瀕した時、彼女達はこの世に現れた。彼女達は人類に協力し、深海棲艦達を次々と駆逐して行った。

 彼女達の正体は未だに分からない。実際に聞いたこともあるが、彼女達も分かっていない。だけど、深海棲艦と戦うことが本能である彼女達は人類にとって都合の良い存在だった。

 ただ、彼女達の中には指揮官となる存在がいなく、それを自分達のような海軍の人間がやっている。自分はその中の1人にすぎない。

 

 人と艦娘の違いは何だろうか?

 

 ふと、そんな疑問が頭をよぎった。

 

 生物的な違いは間違いなくある。艦娘は性行為をする事ができても人間との子供を作ることができない。ケッコンカッコカリという形で結婚したような関係を築く提督もいるけどあくまでも擬似的な関係に過ぎない。生物学的な違いが人間と彼女達の違いだろうか?

 

「いや、違うか……」

 

 自分の口で否定した。

 人間と艦娘の違いはもっと根本的な所にあると思う。人間と彼女達の違いは使命を持って産まれてくることなのではないだろうか?

 

 人間が産まれながらにして自由なのに対して艦娘達は戦うために産まれてくる。彼女達は深海棲艦を殺し続ける。それが彼女達の使命であり、本能なのだから。

 

「虚しい……な……」

 

 艦娘のレールの敷かれた人生に悲しさを感じた。彼女達の人生は不幸だと思う。戦うだけの人生が幸福なわけがない。どうすれば艦娘達を幸福にする事ができるのだろうか?

 

 私は思考の海に沈んでいった。

 

 

 

 

 どれぐらい時間が経ったのだろうか? ドアをノックする音がした。

 

「司令、起きてる?」

 

 陽炎の声がした。

 

「ああ……」

 

 私の声にドアが開いた。

 

「夜間哨戒任務終わったわよ。いつもは明日の報告になるけど、今日は起きてるみたいだからこの場でやらせてもらうわね」

 

 陽炎の報告が始まった。少数のはぐれ艦隊と交戦したことを除けば特に目立った事もなく、普通の報告だったと思う。艦娘を幸せにする方法を考える事に集中し過ぎていてあまり聞けていなかった。

 

 自分の過ちに気づいたのは陽炎が報告を途中で切り上げて執務室から出ていった後だった。陽炎を怒らせてしまったかもしれない。それに、自分の事に集中し過ぎて部下の報告をしっかりと聞かないのは提督失格だ。

 

 謝りに行こうか迷っているとまた、執務室のドアが開いた。

 

「何か考え込んでるみたいだから、飲み物持ってきたわよ。一緒に飲みましょ」

 

 陽炎はお盆を持っていて、その上には白いマグカップが2つ置かれていた。彼女の顔は笑顔で怒っている感じでは無い。彼女が怒っていないことにホッとした。

 

「ありがとう」

 

 私の横に腰をかけた彼女からマグカップを受け取った。

 

 マグカップの中には白い液体が入っていて、口をつけると暖かくて甘みのあるどこかホッとさせられる味がした。マグカップの中身はホットミルクだった。

 

「何を考えていたの?」

 

 陽炎が呟いた。

 

「いや、別に……」

「悩んでいるなら話しなさいよ。それとも、話しにくい事なの?」

 

 負い目を感じて話しにくい私に畳み掛けるように陽炎が話す。私の事を心配しているのだろう。彼女の話し方からそう感じた。

 

 こうして見ると艦娘は人間と何も変わらないように見える。だからこそ、感情移入しない為に仲良くなりすぎないようにしてきた。だが、今ではすっかり距離が近づいてしまっている。その弊害で今は女子供を戦争に送り出すのを辛いと思ってしまう。

 

 思えば自分は軍人として甘すぎるのだと思う。作戦よりも彼女達の生存を優先してしまうし、作戦に支障が出てしまう時もある。自分は提督失格なのかもしれない……

 

 ダメだ。このままでは、自己嫌悪で潰れてしまう。

 彼女達は人と艦娘の違いをどう考えているのだろうか? 思い切って聞いてみる事にした。

 

「艦娘と人との違いは何か? と思ってな……陽炎、君はどう思う?」

 

 私の質問に陽炎は無言でマグカップに口をつけた。

 

「艦娘は量産できる人殺しの機械よ」

 

 そう呟いた彼女の声と視線は凍りつきそうなぐらいに冷たかった。

 

「そ、そうか……」

 

 怯えながら返事を返す私に対して脅しすぎたと思ったのか陽炎は明るい笑顔を作った。

 

「でも、私は作られた存在だったとしてもやりたい事をやっているわよ。私達艦娘は人類を守って……特に司令の為に役に立つのが嬉しいの。殺し合いをしている時も楽しいけどね」

 

 彼女の話に改めて艦娘は人と異なる生き物であることを自覚した。彼女達は作られた存在だ。作られた存在だからこそ、人の役に立つのが嬉しいと感じ、殺し合いを楽しいと感じる。

 

「人の役に立つ事でしか成り立てないか存在か……悲しいな……」

 

 沈黙が流れた。陽炎は難しそうな顔をして悩んでいる。彼女は何を考えているのだろうか?

 

 沈黙から5秒程して急に陽炎が楽しそうにスっと立ち上がった。部屋の中をそのままグルりと歩いていく。

 

「陽炎……?」

「私は燃料や弾薬、装備が充実していて私たちの隣に提督が笑顔でいてくれる事が幸せなの。生まれた理由、生きる目的は決まってるかもしれないけどそれでいいと思う。それに、提督が構ってくれた時も嬉しいの」

 

 混乱する私をよそに陽炎が嬉しそうに話した。

 

「そうか……」

 

 幸せの基準が独特だと思った。陽炎の話す幸せは人間の幸せではなく、艦娘の本能としての幸せだ。だけど、彼女達の幸せがそうであればそれを作るべきなのかもしれない。

 

 悩む私に言いたいことがあったのか、室内を歩き回っていた陽炎がサッと私の横に戻ってきた。

 

「無理に作った幸せよりも、幸せが少なくても作られていない自然な日々が1番よ。司令は人と艦娘の違いと不幸と幸福を重く考えすぎなの。そもそも、司令が私達艦娘の幸福と不幸を決めつけないでくれない? 人間もそうだと思うけど、幸せは個々で大きく異なるのよ」

 

 陽炎の言葉にハッとさせられた。

 

 私は無自覚のうちに彼女達を自分よりも下に、守るべき対象として見ていた。見た目は幼くても彼女達の精神は大人だ。

 多くの艦娘を指揮する立場にも関わらず、私は何をしているのだろうか? 彼女達を外見だけで決めつけていた自分を恥ずかしく感じた。

 

 陽炎が私の頭をそっと撫でた。

 

「気にしないで。私は提督が私達艦娘の事を考えてくれているだけで嬉しいから」

 

 返す言葉が無い。

 どうして自分は彼女達を無意識のうちに差別していたのだろうか? 提督失格なのではないだろうか?

 自分を責める言葉ばかり浮かぶ。

 

 私を撫で続けていた陽炎の手が頭から離れる。少しして勢い良くドアが開く音がした。

 

「貴方達、何をやっているのかしら?」

「見つかった!」

「あっ、ヤバっ!」

 

 声に目を向けると陽炎と共に夜間哨戒に行っていたメンバー全員が廊下から私を見ていた。

 

「提督、いつもありがとうございます!」

 

 出撃していたメンバーの誰かが叫んだ。直後に怒られると感じたのか、蜘蛛の子を散らしたかのように全員が逃げていった。

 

「あの子達は最初から聞いていたけど、それでも好かれていて良かったわね」

 

 陽炎が笑顔を私に向けた。

 

 艦娘に提督として認められている。その事実に私は安堵した。

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