【合作企画】あの人がこのお話を書いたら   作:青色3号

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僕には僕の幸せが -作:青色3号-

足取りも重く提督が執務室の扉を潜る。深夜まで続いた作戦会議、その内容が頭の中でリフレインする。

 

 

『ある程度の損害は戦争につきものとして受容すべきです』

 

 

一般論としか思えない作戦参謀の言葉が脳裏によみがえる。作戦会議の主な内容のひとつは、どの艦隊を囮部隊すなわち被害担当艦隊にするかということだった。年端もいかない少女たちに血を流させる算段を合理的に進めようとする自分たち軍人に嫌気がさす。

 

 

「日頃見ていると、街中の女の子たちと見分けがつかないのにな……」

 

 

椅子に深く身を預け提督は思わず独り言を放つ。人間と艦娘、その違い。そんなことを考える。

 

 

 

 

 

秘書艦の大淀は会議から直帰させてしまったので執務室には提督ただひとりだ。その静けさの中、提督はひとり思いにふける。

 

 

 

 

生まれてくることに目的はなく、自由に自分の人生を選べる人間たち。対し、艦娘たちは深海棲艦との殺し合いのために生まれてきた。深海棲艦戦争が始まって間もなくどこからともなく現れ、人類のために戦ってくれる艦娘たち。

 

 

「本来、そんな義理はないのにな」

 

 

またも独り言つ。生まれた時から存在理由の定まった者たちに幸せを感じてもらうにはどうすればいいのだろう。そんなことに提督の思念は流れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

いつしか時計の短針はてっぺんを回っていた。ノックの音と重い扉の開く音。夜間哨戒に出ていた陽炎が姿を現す。

 

 

「陽炎?どうしたんだ?」

 

「夜間哨戒の報告よ。結論から言うと、異常なし」

 

「そんなこと、明日の朝でもよかったのに」

 

「外から窓の灯りがついているのが見えたから」

 

 

手にしたバインダーに目を落とし陽炎は夜間哨戒の報告を始める。その姿を見て提督は改めて思う。本当に、市中の少女と違いはないのだと。今口にしている作戦報告の言葉たちが、似合う存在ではないのだと。

 

 

「……司令?」

 

 

自分の言葉を聞いていないかのように自分から目を逸らし手に顎を乗せ考え事にふける提督に陽炎は声をかける。しかし、提督はこちらの言葉を聞いている様子はない。肩をひとつすくめ、陽炎は執務室を出ていく。

 

 

扉の閉じる音にはっとして提督は顔を上げる。無人となった執務室を見つめ、提督は頭を掻く。

 

 

「しまったな……怒らせちまったか」

 

 

報告もろくすっぽ聞かないで別のことを考えていては怒られてもしょうがない、そんなことを思っていると意外にも再び扉の開く音がする。

 

 

湯気の立つマグカップふたつを両手に陽炎が帰ってくる。

 

 

「ホットミルク、入れたわよ」

 

「え?あ、ああ。ありがとう」

 

「給湯室の冷蔵庫に牛乳が入ってたから使っちゃった。誰のかわからないけれど、いいわよね」

 

「あ、それ俺の」

 

「じゃあいいか」

 

 

悪戯っぽく笑い陽炎は提督の執務机に直角にあつらえられた提督のより一回り小ぶりな机に身を置く。提督にひとつマグカップを差し出し、自分の分を両手で支えてひとくちコクンと陽炎はホットミルクを口にする。

 

 

人と変わらぬその姿、その姿に提督は思い切って問う。

 

 

「陽炎、人間と艦娘の違いとはなんだと思う?」

 

「え?」

 

 

唐突な提督の問いに陽炎は面食らったような顔をするが、やがてホットミルクをもうひとくち口にするとマグカップを机に置いてひどく冷淡な声を放つ。

 

 

「そうね……私たち艦娘は、殺し合いの兵器」

 

 

その言葉に提督は思わずひるむ。そんな提督の反応にどこまで自覚的なのか陽炎は手にしたマグカップに視線を落としながら続ける。

 

 

「海の上で、あるいは工廠で生を受け人とは違う生まれ方をして、深海棲艦との殺し合いのために存在する古の艦の生まれ変わり。それが私たち艦娘」

 

「悲しいな」

 

 

思わず提督は呟く。その言葉に陽炎は驚いた顔で提督に視線を向ける。その視線を横顔に受けながら提督は目をマグカップに落とし続ける。

 

 

「殺し合いのために生まれてきた……そんな存在を、なぜ神様は生んだんだろうな」

 

 

その言葉に陽炎は眉を寄せ、考えるような表情になる。そのまま陽炎は椅子から立ち上がり提督の目の前を歩き回りながらむしろ楽しそうに言葉紡ぐ。

 

 

「憐れまれるのは、やだな」

 

 

提督の目の前を左右に歩きながら陽炎は続ける。

 

 

「私たちにも私たちの幸せがあるもの。燃料や弾薬、装備が充実していることが幸せだと思う。作戦のあと、間宮さんのところで口にするあんみつが甘いのが幸せだと思う。私たちの隣に司令が笑顔でいることが幸せだと思う。……それから、司令が構ってくれた時が幸せだと思う」

 

 

最後の言葉を照れたように放つ。その姿を見て提督は無理に作ったような微笑浮かべる。

 

 

「そんなお前らの幸せを、俺が作れればいいか」

 

 

その言葉に陽炎は素早く提督の隣に駆け寄る。

 

 

「無理に作り出した幸せより、幸せが作られていない自然な日々が一番よ。そもそも司令は、人と艦娘の違い、不幸と幸福を重く考えすぎなのよ」

 

 

提督の椅子の肘当てに両手を乗せ身体を提督の方に突き出して陽炎は力説する。

 

 

「そもそも司令が私たち艦娘の幸福と不幸を決めつけないでほしい。幸せは人によって大きく異なるんだから」

 

 

その言葉に提督は恥じ入る。無意識に、艦娘を庇うべき存在に見ていたことに。無意識に、艦娘を守るべき自分より下の存在と見ていたことに。

 

 

だって、彼女はこんなにも強い。しっかりと自分の存在と向き合い、ひたむきに日々を過ごしている。そんな彼女たちを憐れむことができようか。悲しい存在だと切って捨てることができようか。

 

 

提督の表情の変化を見た陽炎は嬉しそうな笑顔浮かべる。

 

 

「わかってもらえたようね」

 

 

陽炎の言葉にひとつ頷く。提督の隣から離れ、陽炎は執務室の扉へと向かう。

 

 

「さてと、じゃあそろそろこの辺で。明日も早いし、そろそろ寝ないと」

 

 

言いながら扉を開ける。と、艦娘たちがドサドサっと床に降ってくる。扉をいきなり開けられて、つんのめった不知火が、黒潮が、早潮が、執務室の床に降ってくる。

 

 

「あなたたち、聞いてたの?」

 

「あ、あはは……」

 

 

ごま化すような笑い声上げながら三人は気まずそうに身を起こす。

 

 

「逃げろ!」

 

 

誰の声か、その声を合図に三人は脱兎のごとく廊下を駆け出す。と、廊下の向こうから声が響く。

 

 

「司令はーん!いっつも感謝しとるでー!……ほならなー!」

 

 

バタバタと足音を立てて遠ざかる姉妹艦たちを見送る陽炎は呆れたような目線を廊下の向こうに送っていたが、やがて提督を振り向き一言告げる。

 

 

「あの子たちも司令が好きなのよ。知ってた?」

 

 

陽炎の言葉に微笑んでひとつ頷きホットミルクを口にする。すっかり冷めたホットミルクはほのかに甘い香りがした。

 

 

 

 

 

 

 

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