正義の国の怪盗   作:ルヴレ

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続きました。


怪盗の事情編
リネリネさんは恐らく死亡キャラらしい。


 

 

 私が前世を思い出したのは、サーカス団に引き取られたときだった。

 

「え、フォンテーヌ……も、もしやこの世界、原神では?」

 

 そして、転生して早々に、この世界がゲームの「原神」の世界であることに気づいたのである。

 

 原神……このゲームについて、私が知っていることは少ない。残念ながら、私はこのゲームをプレイしていなかったからだ。

 ただし、私の友人はこのゲームをよく勧めてきたり、ネタバレをしてきたりしたので、フォンテーヌという地名は知っていた。

 断片的な情報なら、フォンテーヌについてはわかっている。

 

 リネリネ? というキャラクターは、裁判にかけられて、あと、なんちゃらの水? それが大事なのだとか。ナヴィ……なんとかさんも、それが重要らしい。

 そのなんちゃらの水の話をするとき、友人はめちゃくちゃ泣いていたから、多分そのリネリネ? さんはなんちゃらの水に溶けて死んじゃうのだろう。それか、人魚姫みたいに泡になるとか……。

 

 まぁ、つまり、私は友人の推しであるリネリネさんとナヴィなんとかさんの事しか、知らないのだ。

 

「リネリネさん? が、死ぬっぽいし、原神って結構ハードな世界なのかな……?」

 

 お生憎、私は死にたくなんかないし、リネリネさんも知らないので、いかにもゲームに関わらなそうな、このサーカス団で大人しくしていようと思う。

 初日を過ごした感想だが、サーカス団の人たちは、優しい。パフォーマーにならなくてもいいと言ってくれてはいるが、流石に何もしないわけにはいかない。孤児の私を引き取ってくれた、恩がある。

 

 私は、サーカスのパフォーマーになることにした。

 

 

 

 

 

 修行を始めてから、十年。私は綱渡りと空中ブランコのパフォーマーになった。

 意外にも才能があったらしく、最初は死ぬかと思ったが、割とうまく行っている。

 サーカス団の人たちも、みんな妹や娘のように可愛がってくれてるし、転生ライフを満喫している。

 

 

 ……え? 時間の流れが早い? だって、特筆することはなかったのである。

 ────そう、今までは。

 

「ローゼリアっ!」

「きゃあっ!! パフォーマーの女の子がっ!!」

 

 はい。今、パフォーマンスを失敗して、ステージを血に染めている最中です。

 なんで大怪我しているかというと、綱渡りで足を滑らせて転落したからだ。

 いつもなら、うまく着地するのに、今回は体が寒さで硬直して、動かなかった。

 

「いってぇ……」

 

 全身が痛む。多分人生でいちばん、痛い。私は、意識が朦朧とするなか、お客さんが流れるように帰っていくのを見た。

 

「なんだよ……まだやれる。私はまだ、でき……る!」

 

 ただ、悔しくて、手を伸ばす。手を伸ばした先に、何かが転がっていた。

 それは、赤くて丸い、何かだった。

 

「よく……みえな……」

 

 視力の悪さと、意識が朦朧しているのが相まって、私はそれが何か分からなかった。

 なんの気の迷いかわからない。でも、悔しさと痛みで、正気ではなかったのは間違いがない。

 

「あっつ……」

 

 私は、それを飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

「いや、ぜってーあれ神の目じゃん最悪喉痛い。ゴホッ……」

「ローゼリア……神の目を飲み込むとか……まぁ、お前ならやりかねないが……」

「あ?」

 

 私は、神の目を飲んだ。

 多分、炎元素の神の目だ。お腹の中が熱くて、苦しくて、喉も痛い。咳をするたびに血を吐いてしまう。神の目を飲むとか、アホである。赤ちゃんがなんでも飲み込むのと同レベルだ。恥ずかしすぎて、他人には言えない。

 

 神の目を飲んだ──それは衝撃なことだが、それよりも落ち込んでいることがある。

 

 

 サーカスの客が、来なくなった。……そりゃ、また失敗するかもしれないサーカスに、人が来るなんてないだろう。サーカス団は、貧しい生活を送っていた。

 ────全部、私のせいだ。

 

「モラは確かにないが、お前は、気にしなくていいんだよ。お前はまだ、十二歳だろう? これは大人の責任なんだよ」

「……でも、私が失敗しなかったら、人が来たのは確かだろ」

「ローゼリア……」

 

 サーカス団のみんなは、投げやりな私を一人にしてくれた。部屋でぼんやりとしていたが、逆に落ち着かなくて、外に出ることにした。

 怪我だらけの体だが、動かせないこともない。ただし、包帯を巻きすぎて動きにくい。幾らかを解いておく。

 

 私はサーカスから少し離れたところにこっそりと出て、夜空を眺めるために、横になった。

 

「ふぁぁ…………眠い。ちょっと寝るか……」

 

 ここら辺は、誰かが来ることも少ない。崖の下だから、少し危険だけれど、私のお気に入りの昼寝スポットだ。眠くなった私は、一眠りすることにした。

 ────召使が、近くに来ていて、私が飛び降り自殺して失敗したと勘違いされるとは、少しも思わず。

 

 

 

 

 

 

「ここ……どこだよ! おい、お前誰だ」

「私のことは、「お父様」と言うといい。壁炉の家は、君を歓迎しよう」

 

 …………ええ……。

 目が覚めたら、知らない天井だった。しかも、白黒プラス赤という、すごいカラーリングの人に意味がわからないことを言われた。

 脳内全てがはてなマークで埋め尽くされている。

 

「えっと、お父様さん? なんで私はここに?」

「飛び降りて自殺を図り、そのまま倒れていた君を放っておくわけにはいかないからな」

「じさ……つ? えーっとつまり…………え?」

 

 大混乱である。

 じさつ? 誰が? 君って? もしかして私のこと? 

 黙り込んだ私は、結論を出した。

 

 つまり、誘拐されたんだ! と。

 なんか有耶無耶にされてるけど、多分私は誘拐されたのだ。確かに原っぱで寝転がっている、ロリなんて、誘拐されるのも仕方がない。

 

「家に返せ……! 私はやりてぇことがあるんだよ!」

 

 口を悪くして、なんとか怖く見せようとジロリと目の前の白黒プラス赤のひとを、睨みつける。

 

「それは、(また君が虐待されるだけだから)許容できない」

「…………そんな」

 

 がーん。私は諦めるのが早いので、早々に説得は諦めた。

 ガッツリ警戒している私を見て、目の前のおとこ……? おんな……? いや、とにかく中性的な人は、諦めたのか立ち上がって、部屋から出て行った。

 その時、腕を組んでいた胸元がようやくみえて、何がとは言わないがあったので、女性と言うことがわかった。

 

 カッコいい女の人は、誰かを呼びに行ったのだろう。部屋から出て行って少ししたら、二人の子供を連れて、戻ってきた。

 それは、私と同い年くらいの子供だった。

 こんな小さい子たちも誘拐されたのか……。私は、泣きそうになってしまった。

 

「君が、新しく入ってきた子?」

「…………あぁ。多分そうだ。状況が理解できていないけどな」

「うん、それもそうだね。あとで説明するよ。とりあえず、よろしく。僕はリネ。こっちは妹のリネットさ。君の名前は?」

「私は、ローゼ……いや」

 

 ローゼリア、と言おうとしてやめる。本名を名乗るのはリスクが大きい気がするからだ。

 

「ロゼという。……早く状況を説明してくれると助かる」

「あぁ、ごめんね。ここは、壁炉の家。ファトゥスのお父様……召使様が経営してる、孤児院みたいなものだよ」

「…………え? そ、そうなのー?」

 

 驚いて、声がひっくり返る。リネさんとリネットさんが、びっくりした目で私を見た。

 

 孤児院だったかー。なるほど、じゃああのお父様さんは、悪い人ではないようだ。

 

「よかったわー、誘拐されたのだとばかり…………あ、こ、コホン! でも、私の家族が待っているから、早く帰りたいんだ」

「家族……?」

 

 リネさんが、お父様さんに、何かを聞いた。今まで黙っていたお父様さんは、リネさんに何かを耳打ちした。

 

「なるほど、ロゼは虐待されてると、認めたくないんですね……。

 ──大丈夫だよ、僕たちはみんな君の家族になるからね!」

「え? そっちじゃなくて、(優しいサーカス団の)家族のところに戻りたいんだけど」

「え、(虐待してくる)家族のところに戻りたいの?」

 

 んん? なんか噛み合ってない気が……気のせいか。私は、リネの問いに対して頷くが、リネットさんが私の袖を握って呟いた。

 そこは丁度、この前落下して怪我したところだったから、私は「う……」と小さく呻き声を上げた。

 

「せめて、今日だけでも、泊まったら。酷い怪我だからこれで帰れるとは思えない」

「そうだな……一理ある。一泊だけでも泊めてもらっていいですか?」

「あぁ、何泊泊まっても構わない。私は君を歓迎しているからね」

 

 お父様さんは、低くてかっこいい声で、上品に頷いた。

 なんかよくわかんないけど、今日だけ泊まって明日帰ることになった。

 

「ところで、君の家はどこに?」

「え? どこって、もちろ…………ん…………」

 

 ──────あれぇ? お父様さんに聞かれたけど、家の場所を答えられない。いや……思い出せない!! 

 残念ながら、私の頭脳はよろしくない。そして、過保護にされてるのと、ぐうたらしてたので、サーカスから出たことはほとんどない! 

 よって、サーカスの場所すらもわからないのである。

 サーカスは、各地を転々としているので、フォンテーヌの土地勘もゼロ。移動の時も、毎回おんぶされて寝てたから、わからない! 

 

 絶望である。

 

「ごめんなさい、私ほとんど家からは(過保護すぎて)出してもらえなかったから、場所がわからないんです」

「…………それなら、私の方で探しておこう。見つかるまで、君はここで暮らすといい」

 

 お父様さん、優しい……! 私はお言葉に甘えて、サーカス団が見つかるまで、ここで過ごすことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 とか言ってたら、いつのまにか半年経過してました。

 そして、今更だが、気付いたのだ。

 

 友人の言ってたリネリネさんって、リネとリネットのことじゃね? と。

 …………分かってる。めちゃくちゃ気づくのが遅いってことくらい。

 でも、あの二人がゲームの多分死ぬキャラだとは思わないじゃない。だって、マジシャンだし。リネリネっていう一人のキャラだと思ってたし。

 なんだかんだでダラダラと、「壁炉の家」で半年も過ごしているが、こんなに世話になっていたら、流石に死ぬのを放ってはおけない。

 正直に言うと、私はリネとリネットの死を放っておくつもりだったのに、二人を大好きになってしまったのである。

 

「はぁ、まずは水について、調べるしかないな……」

「ロゼ、どうしたの?」

「り、リネットー!? い、いたの〜!?」

 

 驚いて、甲高い間抜けな声をあげてしまった。このびっくりした時に出る変な声は、私の悪ぐせである。

 リネットは、珍しくびっくりした顔をして、フリーズした。

 それから、目を少し伏せて、私しか聞き取れないくらいの、小さな声でつぶやいた。

 

「ロゼは……私たちのこと、信用できない?」

「え? なんでそんなことを言うんだ? 普通に信用してるけど」

「それなら……どうして、喋り方を変えてるの。私たちは、どんなロゼでも受け入れる。だから、無理なんてしなくていい」

 

 んんん……? 

 一瞬脳内が、フリーズする。そして、少し遅れてから理解した。

 もしかして、驚いた時に出る変な声が、本当の話し方だと思われてたりする……? 

 いや、違う。勘違いである。私はめちゃくちゃ口が悪いし、声はお父様のことを言えないレベルに低めだ。

 

「いや、私の本来の話し方は、こっちだよ。……さっきのは、びっくりして出ちゃっただけだ。別にみんなを信用してないわけじゃ……ないから」

「ロゼ……。ごめん。話したくないなら、無理しなくていい」

 

 だ、だめだー! 信じてもらえねぇ……。

 

 いや、でも考えろ、私。私はリネとリネット救済のために、自由な行動がしたい。でも、ここにいたらファデュイのエージェントになるから、自由じゃなくなる……。でも、ここを気に入っているので、サーカス団が見つかるまでは、出たくはない。

 けど、私がおっとりおっちょこちょい運動神経悪い系人間不信キャラだったら、どうだろうか。流石にファデュイのエージェントになることはないんじゃ……? 今のところ、運動神経は見せずに、料理とか裁縫ばっかりしてたし……。

 

 決めた! おら、おっとり系キャラになる!! 

 

「リネット……。ごめんね〜。そんなに心配させてたのね〜……」

「ロゼ……!」

 

 リネットが、パッと顔を明るくさせた。ものすごい罪悪感を感じるが、やむを得ない。リネとリネットの救済のためである。

 

「私、みんなのこと、本当に信用しているのよ〜……」

 

 そう言って笑おうとしたら、唐突に胃が痛くなる。

 精神的ではなく、物理的に。

 

 わー、これ神の目がめちゃくちゃ燃えてるぜ! 

 

 私は咄嗟に胃を押さえたが、我慢できずに咳き込んだ。リネットが驚いて、私の背をさする。あまりにも私が苦しそうにしているせいか、リネとフレミネもやってきた。

 

「ロゼ、どうしたの? 大丈夫?」

「へ、平気…………ゴホッ」

 

 咳をしたせいで、血を吐いてしまった。リネが顔を青くさせて、部屋を出て行った。多分、お父様を呼びに行ったのだろう。

 ────今更だけど、この体質、結構よくない? 

 

 私は、咳をしながら考えた。病弱キャラも加わったら、流石にエージェントになることはないだろう。

 よし、遠慮せず血を吐こう! 

 

「ロゼっ! 死なないで……」

「ごめん……私が、無理をさせたから……」

 

 あの……これ、ただ神の目を飲んだせいで血を吐いてるだけだから、そんな死人を見るような目で見なくても……。

 私は、必死に背中をさすってくるリネットとフレミネを横目で見ながら、困惑した。

 

 

 

 

 

 

「ロゼがファデュイになるのは、無理だろう。体が弱すぎる」

「そう……ですか。薄々察してましたが……」

 

 咳が落ち着いて、お父様から下された判断は、期待通りのものだった。

 内心は大喜びだが、悲しそうな顔を作る。お父様は、私を見て、ふっと小さく笑った。

 

「君は、わかりやすいな」

「え? 何かおっしゃいました?」

「いや、なんでもない」

 

 お父様の声が小さすぎて、よく聞こえなかった。でも、計画通りに進んでいる。

 リネたちは、水で死んじゃうっぽいから、水に関する情報を集めたいけど……。

 友人は、事件って言ってたし、多分一般的に出回っている情報ではないはずだ。それなら、裏社会から情報を得るのが一番手っ取り早い気がする。

 そして、裏社会から情報を得るためには、たくさんお金が必要……。

 

「あの、お父様。私、他の仕事をしたいと思っていて……」

「いいだろう。どこに就職するつもりだ?」

「千織屋です! 私、お裁縫は得意なので!」

 

 私の得意は、お裁縫と、料理と、綱渡りと高所から着地することと、あと一応剣術も、そこそこできる。

 その中で一番お金が取れそうなのは、裁縫だろう。最後の三つは、運動神経が良いのと神の目持ちなのがバレるから、論外である。

 食べ物屋は、割と赤字って聞いたことがある。だから、裁縫を生かせるところにしたいのだ。しかも、千織屋は超有名なファッションデザイナーの千織さんがいることで有名だ。お金は結構貰えるだろう。

 そして、千織屋の店員は千織さんの気の強さから、あまり居ない……イメージがある。

 よし、千織屋の店員が一番いい気がする! 

 

「……ロゼ」

 

 お父様の部屋からお辞儀をして出て行こうとしたら、呼び止められた。私は首を傾げながら、振り向いた。

 

「君はこの家に来て、少しは楽になったか」

「……え? そうですね……」

 

 楽になったって、そりゃサーカス団に居た時は大変だったから、楽になったけど。

 

「確かに楽になりました。でもそれより、ここは(サーカス団と同じくらい)みんな暖かいから、たとえ大変でも、ずっと居たいくらいです!」

 

 ニコリと笑いながら言うと、お父様は赤い口紅を塗ってある唇を、緩めた。

 ──それにしても、お父様顔良すぎるなぁ……。私はあまりにも美しいお父様の顔面を見て、ニマニマとした笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「いいわよ。君、採用ね」

「そうですか、ざんね……え? さ、採用!?」

 

 千織屋の店員になるために、簡単な裁縫のテストを受けて、即採用された。

 やっぱ、千織さんが怖くて店員さんは集まらないらしい。よかった〜! 予想通りだ。

 

「──君、今失礼なこと考えているでしょう」

「き、気のせいですよ〜!?」

「……はぁ。君を採用したのは、君に許容範囲のセンスと技術があるからよ」

 

 え? 私……センスあるらしい。本業はサーカスのパフォーマーなんだけど……。え? 私、天才では? まぁ、確かに、下積み時代はサーカスの衣装作ったりもしてたし? 天才でも仕方がないけど? 

 こ、コホン! それよりも、やっぱりリネとリネット救済のことを考えなければ! 

 これでお金はゲットできるし、あとは裏の情報を知っている人を探したい。

 

「とりあえず、この布を切っておいてくれる?」

「はい! 分かりましたー!」

 

 私は作業を進めながら、黙々と考えた。

 裏の情報を持ってる人……お父様? いや、お父様にこの計画が露見するわけにはいかない。じゃあ、誰だろうか……? 

 うーん、思いつかないなぁ。

 

「ちょっと君、切りすぎよ」

「んぇ?」

 

 あちゃー。目の前には明らかに切りすぎた布。千織さんは呆れた顔で、私を見ている。

 どうやら、私は考え事をしすぎて、布を無駄に切ってしまったらしい。

 

「ご、ごめんなさーいっ!」

「給料から、布代は引いておくわね。この布、高級なものなの。ほとんど給料がなくなっちゃうかも」

「えぇっ! そ、それはご勘弁を……!」

 

 私は地面に顔がつきそうな勢いで、頭を下げた。千織さんは微かに笑って、「冗談よ」と言った。

 あれ、千織さんって思ったより優しい人なのかもしれない。……自分の美学に反したり、作った服とかを台無しにしたりする人に容赦がないだけで……。

 

「ただ、作業をするときに考え事はしないで。いい?」

「は、はい! 分かりました! 次からは気をつけますっ!」

 

 ピシャリと千織さんにそう言い切られて、私はこくこくと何度も首を縦に振ったのだった。

 ──それにしても、この布黒いなぁ。なんか、マジシャンとか、怪盗のマントみたいな形してる。何に使うんだ……ろ……。

 

 そうだ! 怪盗だ! 

 

 私は突然思いついて、さらに具体的に考えようとした。けれど千織さんに言われたことを思い出して、最後まで切ってから、ようやく考えた。

 

 私が思いついたのは、怪盗のフリ作戦だ。「フリ」と言うことで、盗んだりはしない。ただ、盗んでいる人……すなわち犯罪者を助けて、恩を売ろうと考えている。

 まず、犯罪者らしき人物を見つけ次第つけ回す。それから、怪盗のカードを、他人が盗んだところに撒き散らし、怪盗に罪をなすりつけ、犯罪者を逃げやすくする。

 そうすれば、恩も売れるし怪盗が有名になって、情報屋の方から声がかけられるかも……? 

 

「完璧だ……!」

「……私は切る以外頼んでいないけれど、そのアイデアも悪くないわね」

「……え?」

 

 千織さんに声をかけられて、手元を見ると、いつのまにか怪盗っぽい割とオシャレなマントができていた。

 ……無意識に針で縫い付けていたらしい。私は無意識に奇行をする癖がある。

 

「それ、他の布も使う? そこにある余っている布なら、あげるわよ?」

「え、いいんですか?」

「いいから言っているの。今日はそこまで、君に頼みたいことはないもの」

 

 私はどうせなら怪盗用のマントを作ってしまおうと、余っている布を漁った。すると、ワイン色のバラの模様が入った布を見つけた。

 これを裏地にして「薔薇の怪盗」とか名乗るのもいいかもしれない。

 

「あ、あと薔薇も作って下の方に縫い付けて、あと、あと……」

 

 へへへへ……。妄想が捗るぜ! 

 

 

 

 

「……まさか一式作るなんてね」

「あのー……これ、欲しいんですけど、おいくら払えば……?」

「自分で作ったのに、払うの? そうね……それなら、君のアイデアを少し使わせてくれない? ここのところ」

 

 結局、マントどころか全身を作り上げてしまった。布代を払おうと思い、恐る恐る聞くと、千織さんは、私の作ったマントの下の部分を指差した。

 どうやら、私のアイデアを使った、新しいデザインを思いついたらしい。

 千織さんは、勝手ながら自分のアイデアしか取り入れないと思っていた。でも、思ったより柔軟な考えも持っているらしい。

 

「勿論、使ってください! あと、今日は夜ご飯作らなきゃなので、帰ってもいいですか?」

「いいわよ。また明日ね」

「はーい!」

 

 私は自分で作った服を畳んで、カバンの中に入れた。

 

 よし、あとカードを書いたら、今日からでも怪盗のフリができる……! 

 私は帰りにカード用の紙を買っていこうと意気込んだ。

 この調子で、リネたちを救済するぞー! 

 

 

 

 

 

 

「テレポート!」

 

 炎元素を使って、瞬間移動する。大体、怪盗の服を作ってから、一ヶ月経つ。まずは、リハビリをしようと思って、夜にこっそり特訓する日々を送っている。

 ……どんな原理かはよくわからないが、胃の中にある神の目を使って、夜な夜な色々技を試していたら、ワープできるようになった。

 ただ、夜中に特訓を始めてから気づいたのだが、私は神の目を使いすぎるのは良くないらしい。

 

「……が……は。げほっ、ごほっ……」

 

 めちゃくちゃ、胃が痛いです! 当たり前だけど! 

 血をゲホゲホと吐く。喉に血が張り付いて、気持ちが悪い。どうせなら全部吐いてしまおうと、私は軽く首を絞めた。

 

「ろ……ぜ?」

「あっ…………」

 

 そして、運悪くそのタイミングでリネと遭遇した。

 

「ロゼ……どうして……そんなこと……」

「あ、えっ、そ、その〜、の、喉に血が詰まって、苦しかったのよ〜」

 

 もちろん、この一ヶ月間、おっとりキャラを貫いてきたので、おっとりした話し方でリネを説得した。おっとりも大分板についてきた。

 

「ごめん。僕がロゼの病気を治せたら……」

「リネは何も悪くないわよ〜! 悪いのは、全部(神の目を飲み込んだ)私のせいなの。だから、リネは何もしなくても、平気よ〜?」

 

 私がそう言うと、リネはあからさまに傷ついた顔をした。

 ……えぇ? な、なんでそんなに悲しそうな顔してるの? 私もしかして、悪いこと言っちゃった!? 

 困惑していると、リネは私の手をぎゅっと握ってきた。

 

「ロゼ、自分を責めないで。ロゼは、何も悪くないよ。────お願いだ、もう……自分から死を選ぶのは、やめてほしい。僕たちが、ロゼの力になるから」

 

 …………???? 

 脳内がはてなマークで埋め尽くされる。死を選ぶ? 悪くない? なんのこと? あ、もしかして首を絞めて血を出すのは危険だからやめろってこと? よくわからないよ! 

 でも、私が無言でいたら、どんどんリネが不安そうな顔になっていくので、私はよくわからないのに慌てて頷いた。

 

「……分かったわ〜。もう、これからは辞めることにするわね〜」

 

 そう私が言うと、リネは紫色の瞳で、私の顔をじっと見てきた。そして、ハンカチで血を拭ってくれた。

 うわー、相変わらずリネは綺麗な顔だなぁ。え? 私の顔? 

 や、やめて。ブサイク寄りのモブ顔の私のライフはゼロだぞ! 

 

 ──ん、モブ顔……? 

 そうだ! 怪盗の仮面を被る時、下に一応カッコいい顔に化粧しておこう! 怪盗キャラの素顔がモブ顔とか、嫌だしね! はー、リネみたいに素顔が綺麗だったら化粧しなくても、カッコいいんだけどなぁ……。仕方がないか。

 

「……リネは、綺麗な顔でいいなぁ……」

「え、ロゼ、急にどうしたの……?」

 

 でも、私、目のカラーリングだけは個性的なんだよね。真っ白な目に、真っ白なふさふさまつ毛という、目だけならリネにも負けず劣らず、メインキャラ感はある。

 ただ、この目親から嫌われてたんだよなぁ……。

 

「この目のせいで、私は……」

「ロゼ……!?」

 

 まぁ、この目のせいで親に捨てられたっぽいんだけど、サーカスにいた方が百パー幸せだし、よかったかもな。

 

「ロゼ!」

「えっ! も、もしかして、口に出てたかしらー!?」

 

 やっべー、怪盗とか言ってなかったかな……。考えてたことが口に出ていたとは、失態である。けど、リネの様子を見るに、怪盗とは言ってないはず。……言ってないよね? 

 

「わ、私、そろそろ寝るわねー! お、おやすみなさい!」

 

 怖いから、一旦逃げよう! それがいい! 

 私は、猛スピード……だったら運動神経悪い設定が壊れるので、わざと下手に走ってリネから離れた。

 ふー、よし。寝るか! 

 

 私は現実逃避して、自室の布団の中に潜り込んだ。

 そして、目をつぶってからようやく気づく。

 

 なんでリネ、私が外にいること知ってたの……? 

 

 ────怖いので、これも考えるのをやめようと思う。よし、流石に明日からは怪盗をしよう。犯罪者も大体メモできたところだし……。

 私は布団の中で、とにかくさっきのことを思い出さないように、関係ないことを考えたのだった。




勘違いメインにしたいんですけど、ちょっと曇らせっぽくなっちゃったかもしれない…。
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