パンドラの森は危険で一杯だ。
よちよちと呑気に歩いていれば危険な生物に襲われバクバク喰われちまうだろう。
まぁ…ゼノモーフみたいに身体に寄生してチェストがバスター!みたいな生き物はパンドラにはいないが(いない筈だ)、ゼノモーフなんて比じゃない危険な生物がパンドラには生息している。
例えば俺と絆(無理矢理)を結んだパルルカンはパンドラの森において最強の生物として恐れられている。巨大な体躯でありながら素早く動き相手を翻弄し鋭い牙や爪で殺す。
行ったことはないが海には更に巨大な生物がウジャウジャしている。いつか行ってみたいもんだ。
「ネイティリ、アイツは?」
木の上で先程川を流れていた1人のナヴィを指差し言った。
ボロボロのYシャツとTシャツを着てズボンを履いたナヴィは大きな葉に隠れ程よい太さと長さを併せ持つ木の枝を研いで槍にしていた。
「アレはドリームウォーカー」
「ドリームウォーカー?」
「スカイピープルが操る者」
「……あの時見たやつか」
宇宙船をスキャンした時にカプセルでぷかぷか浮いてたやつだ。そうか人間によって産み出されたんだな?
だが……アイツの雰囲気は何処かで感じた事がある。……あの車椅子の男のような…うーん…でも薄いな。
それに操る?操作してるってことか?よく分からんな。
「アイツだけじゃない。何人もいる」
「そうなのか」
ナヴィに化けてナヴィと交流したいってとこか?でもネイティリのアイツを見る表情から鑑みるにあまり上手くは行ってないようだな。
「どうする?」
「様子を見て殺す」
「え?殺すのか?ナヴィだろ」
「ナヴィじゃない。悪魔だ」
ネイティリがギッと口を噛み締め眉間に皺を寄せて言った。
うーむ……
考えていると男が動いた。
お、どうやら槍を作り終えたみたいだ。移動を始めてる。
俺とネイティリは静かに男を追い始めた。俺は木の上を音もなく跳び、ネイティリは気配を消し素早く動いた。
男は慎重に身構えながら森の中を進んでいる。動物の声を聞くだけで一々ビクッと反応して槍を構えた、可愛いなおい。
暫く監視しているとネイティリが枝から立ち上がり静かに弓を構え矢をつがえた。
「やる気か」
男は気づいていない。このままではサクッと一射で殺されるだろうな。
「ん?」
ネイティリの頭上に白ふわエイワが漂っている。そしてネイティリのつがえた鏃の上に舞い降りた。
「お〜〜……こいつは……」
俺にインストールされた知識によればアレはエイワのお告げだ。
生物の暮らしにエイワが介入する事は少ない。エイワは偉大な母ではあるが、別にあらゆる生物を守ろうだなんて考えていないし、誰の味方でもない。
身勝手で気まぐれで、ただ自然の調和を守っているだけの存在。
だが、そんなエイワがネイティリの放とうとしている矢を止めた。エイワが明確な意思を示したんだ。奴を殺すなと。
俺は掴んでいた木から跳んで、ネイティリのいる木に向かった。
そしてネイティリに近づくと側にしゃがんだ。
「ははは、無理だったな」
俺がそう言うと、鏃についた白ふわエイワがふわりと離れ俺の肩に止まった。
「なぜなの……」
「さあな、何か考えがあるのかもな」
「…考え」
偉大な母エイワの考えている事は分からない。誰にも。
それから男を付け回していると日が暮れ夜になった。
パンドラの夜は太陽が沈むのではなく日食によって到来する。
夜の森は思いの外明るい。植物や大地に根付いたエイワのエネルギーが明滅しているからだ。特に声の木と呼ばれる木はとても明るい、垂れている枝だか茎だか分からない物が妖しく光っているのだ。知識によれば、ここにシャヘイルすれば祖先の声を聞くことができるらしいが、俺には全くもって意味がない。
男は暗くなってしまった視界を照らす為か、はたまた周囲に群れるナンタングを追い払う為か、羽織っていたボロボロのシャツを槍の太い部分に巻きつけた後、樹液をつけて必死に火を起こそうとしている。
しかし焦っているのかマッチ棒を擦っても中々火がつかない。何本も擦っては折ってを繰り返している。
そして遂に火をつける事に成功した男は火を掲げブゥンと一回振るった。
思った以上に眩しい。
正直、夜は明かりなんて必要ない。植物はビカビカ光ってるし、巨大なガス惑星の光が夜を照らしているからだ。
それにあんな火を起こせば動物を刺激してしまう。
案の定、火によって更に凶暴化したナンタングが男を取り囲み今にも襲い掛かりそうだ。
ナンタングとは地球でいうオオカミのような生き物だ。群れで生活し獲物を取り囲み狩猟する。まあ容姿はオオカミよりも恐ろしいけど。
そして遂にナンタングにより攻撃が始まった。
男は必死に火のついた槍を振り回し追い払おうと躍起になっているが、徐々に押されている。
俺とネイティリはそれを木の上にしゃがんで見ていた。
「アイツ死ぬぞ、助けなくていいのか?」
「……なぜ私が」
「なら俺が行こう」
「あ、待て…!」
俺は背中のスピアを取り出し伸ばした。
そして今にも男に飛びかかりそうなナンタングに向かってスピアを投擲した。
ビュンッという音と共に風を切り裂きながら飛んでいくスピアが飛び掛かり宙に浮かぶナンタングに突き刺さり、その勢いのまま地面に縫い付けられ絶命した。殺したナンタングに心の中で冥福を捧げた。
俺は木から降りて走り、群れるナンタングを蹴飛ばしたり叩いたりして追い払う。反対側ではネイティリが弓をしならせ叩いていた。
「な、なんなんだ!?」
男の驚く声が聞こえる。
ある程度戦うと残りのナンタングは悲鳴を上げながら森へ消えていった。
尻餅をついている男に手を伸ばし立たせた。
「大丈夫か?」
「え?あぁ…大丈夫だ(英語?それになんて大きさなんだ…!)
「そうか、災難だったな」
「お、おう…助かった」
男を立たせ、ネイティリの方を見ると思いっきり胸糞悪い顔をしていた。
「おいおいネイティリ、そんな顔すんなよ」
「〈まるで赤ん坊だ〉コイツらのせいで生き物が沢山死んだ」
「……」
「あ、ありがとう。助かった!奴らを殺してくれたおかげで……」
男がネイティリに近づきお礼を言おうとした瞬間、ネイティリは手に持っている弓で彼を叩いた。
「痛え!」
「あ!」
「死はカナシイ!お前達は何も分かっていない!赤ん坊みたいに分からず騒いで!〈行くぞエイペックス!〉」
「〈あ、ちょ!待てよ!〉」
「待ってくれ!なぜ俺を助けた!」
俺がネイティリを止めようとして、男が待てと言ってネイティリを追いかける。その瞬間ネイティリが振り返り男を見た。またか?また叩くのか?
しかしネイティリは叩かず、男に言った。
「んん……お前の心はツヨイ、恐れ知らず。でもバカ!何も分かってない」
「ブフッ」
思わず笑ってしまった。ネイティリは言いたい事を言った後、走り去ってしまった。
まぁ確かに森の過ごし方をコイツはまるで分かってない。不用意に動き動物達を刺激して命を危険に晒した。
「お前名は?」
俺は男の名を聞いた。
「あ?あぁ……俺はジェイク、ジェイク・サリーだ」
「ジェイクか、ネイティリを追うぞ。ほら」
「え?」
ジェイクと共に走りネイティリを追った。
物凄い勢いで走っていったネイティリだったが、案外直ぐに追いついた。さてはゆっくり走ってたな?可愛い奴め。
「ついてこないで!消えなさい!」
「俺が子供なら教えてくれ」
「無理、スカイピープルは盲目」
「なら目を開けてくれ」
「私の前から消えて……」
ネイティリがジェイクを追い払おうとした時、俺は目撃した。
ジェイクの周りに白ふわエイワの群れが降りるのをだ。
ジェイクは驚き集まる白ふわエイワを払おうとするが、ネイティリがそれを止めた。
「なんなんだこれは」
「聖なる木の精、汚れなき霊〈エイワの意思〉」
あの白ふわエイワはそこらを漂っているが、ああやって一個体の生物に一気に集まる事は少ない。
ネイティリはジェイクに集まり止まるエイワを見つめ、一瞬考える表情をすると俺を見た。
あ〜今俺を見られると困る。何故なら俺も……
「うお!眩しいっ!」
ジェイクが振り向き俺を見て目を覆う。
俺の身体にはジェイクを超える大群の白ふわエイワが集まり止まっていた。
その姿はさながら豆電球のように光っている。
「〈偉大な戦士……〉」
ネイティリが何か言っている気がする。
そんな事もあり、ジェイクを連れオマティカヤ族の住処へと戻った。戻る道中で次期族長のツーテイ率いる部隊と合流し、一時喧騒な雰囲気になったが、俺が制止して共に戻った。
それから族長のエイトゥカンにジェイクを紹介し、エイワによるお告げがあった事。そしてジェイクは自らを海兵部族の戦士だと己を紹介した。
海兵部族とは言い得て妙だ。ジェイクが海兵隊なのはその時初めて知った。
森では赤ん坊みたいに騒ぎ立てていたが、佇まいは兵士のように鋭い気配を放っている。
「ネイティリ、ジェイク・スーリを世話してやれ。歩き方から何までな」
「な、なぜ私が!」
「いいな?」
「ぐっ……」
エイトゥカンに言われジェイクの育成を命じられるネイティリ。その顔はまるで世界が終わるのではないかという顔をしていた。
それにしても昨日から気になってたんだけど、エイトゥカンの後ろにあるあのデカい骨イイなぁ……ト、トルークかぁ〜すげーデカいし強そうな生き物だったんだろうな〜頭だけしかないから全体像が分からないけど、頭だけ見るにかなりの大きさだぞ。
「皆の者!食事の時間だ!」
俺が骨をジッと眺めているとエイトゥカンが大きな声を張り上げ部族の者達にいった。
飯は部族皆で食べる決まりになっている。俺も昨日の夜に大部屋的な場所で座り込んで飯を食べた。
俺は一足先に大部屋へと向かい場所を確保した。
ジェイクはネイティリに連れられ行ってしまった。身体を清めてから来るようだ。
大部屋に続々とナヴィ達が入ってくる。俺は大きな幹にもたれかかるように座り込んで用意されていた飯をかっくらっている。正直飯の量はかなり少ない。後で隠れてプロテインバーを食おう。
ナヴィの飯は図体に比べてかなり少ない。タンパク質は死んだダイヤホースの肉や狩猟したナンタング、フウァムポップという豚に似た生き物を家畜として育て食している。しかし出てきているものはカリッカリに乾燥した小さいジャーキーみたいなやつだ。噛めば噛むほど味が出てきて美味いがガツンと腹に来ない。あくまで飯のメインは木の実や果物など植物が多い。もっと肉食って筋トレすれば大きくなれると思うんだがな。
現れるナヴィ達は皆細い。ガリガリだ。
暫く待つとネイティリと綺麗になったジェイクが現れた。ネイティリはスタスタとナヴィをすり抜け中心に向かう。
部族の者達は飯を食う手を止めてジェイクを凝視していた。まだまだ警戒しているみたいだ。
というか俺は普通に馴染んじゃってるけどいいんか?姿形なんて人型以外共通点無いし、今はマスク外してめちゃグロい顔見せてるのに皆気にしていない。エイワの祝福とやらは相当な威力があるのか?なんか怖いな。
「やあ!……あ〜立たないで大丈夫」
ジェイクが自身を凝視し固まるナヴィ達に言った。
そして間を抜けてネイティリに指示された場所に座ると飯を食い始めた。
ジェイクもナヴィの飯の少なさに驚いているようだ。
あ、俺の事を見つけた。
「あ…!」
「(後でな)」
口パクで伝えると頭を下げパクパクと木の実を食べた。
飯を食った後解散し、就寝の時間になった。ナヴィ達の寝床は木に吊り下げたハンモックだ。パンドラ特有の植物で作られたハンモックは手で触れると自動で閉じて身体を包み込んでくれる。スカスカで保温性なんてないが、ほぼ全裸みたいな格好で生活してるナヴィにそんなの関係ない。
寝床に行く前に俺はジェイクに声をかけた。側にはネイティリがいる。
「ジェイク」
「〈寝ないのか?〉」
ネイティリが振り向き言った。俺はナヴィ語で返す。
「〈少し話してからな〉」
「〈そうか〉」
ネイティリにそう言って、俺は腰帯についた袋に手を突っ込み、俺特製プロテインバーをジェイクに渡した。
「ほれ、足りなかっただろ」
「これは?」
「俺特製のプロテインバーだ。美味いぞ〜?俺の部族が最近育ててるWAGYUの肩肉とか色々ぶち込んで作ったんだ。なんとタンパク質含有量一本で30gだぜ?」
「このサイズで30g!?地球でもそんな多いやつは無かった」
「そうだろそうだろぉ〜」
「というかあなたは……」
「俺はエイペックス、プレデターという種族のエイペックスだ。昨日この星に来た」
「プレデター!?昨日!?」
そうしてジェイクがオマティカヤ族に来訪して3ヶ月の月日が経つ事になる。
エイワ【アカンで〜】