俺の名はエイペックス、宇宙を旅する狩猟民族プレデターだ。
惑星パンドラで過ごして3ヶ月の時が経った。
3ヶ月なんてのはあっという間に過ぎてしまう日数だが、此処パンドラで過ごした3ヶ月はとても有意義で濃密で楽しかった。
ジェイクはこの3ヶ月間で立派なオマティカヤ族の戦士になった。
最初こそ森の歩き方すら分からないちんちくりんだったが、今では俺を除きオマティカヤ族で並ぶ者はいないほどの猛者になった。
ナヴィは2度生まれるという諺がある。
1度目はこの世に生を受けた時。2度目は一人前になった時。
ジェイクは戦士として大きく成長した。
いや……ジェイクだけじゃなくオマティカヤ族の戦士達全員が成長した。
なんというか、彼らのポテンシャルに気づいた俺はオマティカヤ族のパーソナルトレーナーに就任した。筋トレを教えたら面白いくらいハマってくれて今ではオマティカヤ族の一大ブームとなっている。
まず彼らの質素な食事を見直した。自給自足の生活を営み質素な生活を好むナヴィ族だが、戦士だけはやはり強くあらねばならない。パンドラには危険な生物がわんさか溢れているし、人間達の侵略もある。強くあらねば淘汰されるのみだ。
だから彼らを鍛えまくった。もちろん俺も鍛えた。彼らと一緒に狩りに赴きエイワに感謝しながら獲物を狩猟し、筋トレをして飯を食って俺が持ってきたプロテインを与えた。
トレーニング方法は俺が行なっているものとほぼ変わらない。自重トレと環境を利用したものだ。
森には筋トレにピッタリな大木なんかが山程転がっていてベンチプレスやバーベルスクワットなんかもできた。正確な重さは分からないが、ホームツリーから落ちてきたぶっとい枝は物凄い重さでイイ刺激になった。
アングツィクという頭蓋がハンマーのような形のバカでかいサイみたいな生き物の突進を受けたり、パルルカンのゴンジと森の中を走り込んだ。
そうしてジェイクは一人前のナヴィになった。
ガリガリだった身体も大きく逞しく成長し、まさに筋骨隆々という表現が似合う男になった。腕や脚は何倍も大きく隆起し、身長も少し伸びた。胸板や背中はゴリゴリに大きくなりまるで岩のようだ。ナヴィの特性上ウエストはそれ程太くならなかったが、腹筋はバキバキに12個に割れていて美しい。
イクランを片手で押さえ込みシャヘイルした時は思わず声が出るほど驚いた。
そして俺やネイティリの指導によって、もはや人ではなくナヴィそのものと名乗ってもいいくらいに身体も心も成長したジェイクは、今日遂にオマティカヤ族の一員として認められる事になる。
正直……ちょっと色々やりすぎちゃったかも……ジェイクもだけど、オマティカヤ族のナヴィ達皆凄いデカくなっちゃった。
「遂にだな。ジェイク」
俺はネイティリによって化粧を施されたジェイクを見て言った。
「あぁ、やっとだ。エイペックスさんのお陰だよ」
「いやいや、俺は筋トレを教えただけさ。な?ネイティリ」
「マ•ジェイクは偉大な戦士になる」
「ネイティリには負けるよ」
「うるさい!」
なぁ……俺もメスとイチャイチャしたいんだが……いいよなぁ…カップルって!羨ましいよ。
2人は一緒に行動している内に仲良くなり今では恋人なんじゃないかってくらいだ。ツーテイが葉っぱを噛みながら泣いてたぜ。
この前なんか2人でイクランに乗って何十時間と帰ってこなかった。何してたんだろうな?
「そろそろだジェイク」
ネイティリがそう言って促すと、上へ登っていく。俺もそれについていった。
トルークという空の王者の頭骨が飾られた広場に向かうと、部族のナヴィが沢山集まっていた。
「此処に来い、マ•ジェイク」
ゴリゴリマッチョになったエイトゥカンが厳かな声を上げ言った。
ジェイクがそこへ向かったのを確認すると、俺は1人のナヴィの隣に向かった。
「やったな、グレース」
「えぇ…まさかこんな瞬間を見れるなんて思わなかったわ」
俺の隣にいるナヴィの名はグレース。ジェイクと同じ地球からやってきた人間で、アバターを操作して此処までやってきた。
オマティカヤ族が英語を喋る事ができるのは、グレースの教育の賜物だ。ジェイクが訪れる以前に集落を出入りし良好な関係を築いていたが、RDA社の強行採掘によって森が破壊されると関係が悪化。一時は追放されていた。
しかし、ジェイクがオマティカヤ族に来訪し部族の信用を得た事でグレースも集落を訪れる事を許可された。
グレースは少し前に助けたエレンに似ている。同じ顔をした人間が何人かいるって話は嘘だと思っていたが、グレースを見てちょっと信じるようになった。グレースはそれ程エレンと似ていた。
「人間の様子はどうだ?」
「変わらずよ」
「そうか」
人間はパンドラで金儲けをしている。
地中に眠る鉱物、アンオブタニウムという希少な金属を採掘し売り捌いているのだ。どれ程の価値があるのかは分からんが、今も尚躍起になって採掘をしているということは、相当な価値があるのだろう。
「〈これでお前はオマティカヤ族の息子。我々の1人になった〉」
エイトゥカンの声が聞こえた。儀式が終わったようだ。
ナヴィがジェイクの下に集まり触れていく。
ジェイクが真にオマティカヤ族のナヴィとして認められた瞬間だった。
俺もグレースと共に前にいるナヴィに触れジェイクを讃えた。
だが……俺は1人、妙な胸騒ぎがしていた。何も心配事なぞないというのに、これから何か大変な事が起きるんじゃないかというそんな予感がする。
「今日は宴ね」
「ん?あぁそうだな」
グレースがジェイクの方を見て目に涙を浮かべながら言った。
おっしゃ!ジェイクの為に船に貯蔵してあるWAGYUを出してやるか!
翌日、俺はパルルカンのゴンジに乗り森を駆けていた。
どうにも昨日から胸騒ぎが止まらず、森を巡回していた。森は驚く程静かだ。まるで嵐の前の静けさのような……
ん?
少し遠くから地響きのようなものが聞こえた。
なんだ?
「ゴンジ、行くぞ」
「ガァッ」
ゴンジが動き始め、森の中を猛スピードで移動していく。
木々の間を巧みにすり抜け、あっという間に目的地に着くと今まさに人間によって群生している声の木が伐採されているところだった。
「なんてことだ」
人間の巨大な黄色いブルドーザーのような車が次々に声の木を薙ぎ倒し森を進んでいく。そに後ろには兵士が列を作り歩いていた。AMPという巨大外骨格に搭乗している奴らもいる。
「始まったか…!」
昨日からあった胸騒ぎはこれか!?エイワの警告だったのか?
この機械が進めばいずれホームツリーに辿り着く。直ぐに警告にいかなけれ……んー!?あれは!
俺はゴンジの腹を足で小突き走らせた。
俺の見た方向、巨大なブルドーザーの正面にジェイクを引っ張るネイティリを見つけたからだ。
森の中を回り込み、そこまで向かった俺はゴンジから降りて2人に近寄った。
「大丈夫か!ネイティリ!」
「エイペックス!ジェイクが起きない!」
「なにぃ!?」
ジェイクを見るとグッスリと寝ていた。ネイティリが叩いても全く起きる気配がない。リンクが切れてるのか!?
「下がってろ!」
俺はネイティリを下がらせジェイクを引っ掴んで抱き上げた。
「おぉ…重いなぁ!!」
身長は俺とほぼ変わらず、体重は出会った頃よりも倍増している。かなりの重さだった。
「ゴンジ!こい!」
ゴンジを呼んでその背にジェイクを乗せた。
「グギィ」
「ネイティリも乗れ!村に帰って警告するんだ!人間が攻めてくるぞと!」
「わ、わかったわ!あなたは!?」
「俺は走っていくさ!」
ゴンジのケツを叩いて向かわせた。
俺は未だこちらに向かってくるブルドーザーを見据えた。
「まさかこんな大胆な手段に出るとはなぁ…」
ジェイクやグレースに人間の様子を聞いていたが、こんな手段に出てくるのは予想できなかった。
「人間は殺したくないんだけどなぁ」
まぁ殺さないでも半殺しくらいにしとくか。
俺はリストブレイドを伸ばした。
そして巨大なブルドーザーに近づきキャタピラーをリストブレイドで切り付け切断した。そして上へよじ登りカメラのレンズを凝視し、カメラから見ている者を見つめた後、カメラを殴って破壊した。
それに気づいた周囲にいた兵士隊が銃を撃ってくる。最近の人間の銃は当たると結構痛い。宇宙に進出するようになってからというもの、こういった火器は対異星生物に特化しはじめている。惑星を渡り歩く植民地海兵隊が持つ小銃はゼノモーフなんて木っ端微塵にしてしまうレベルで強力になっていた。当たらなければどうということはないが、気を付けておくことにこしたことはない。
俺はブルドーザーからクロークを起動しながら飛び降り姿を消した。
一旦林に逃げ込み、再度飛び出して兵士達に近づいた。
そしてクロークをつけたまま銃を掴み握り潰し、兵士を掴むと別の兵士に向かって軽く投げた。
更にその近くにいた巨大外骨格AMPスーツにタックルをかまして押し倒し、バッテリーにリストブレイドを突き刺し放出した電力エネルギーをガントレットで吸収し離れた。
それらを何回か繰り返し人間達を足止めした俺は、そそくさと離れホームツリーに戻った。
「ボ、ボスゥ!!!!!」
「な、なんだぁ!?」
パンドラに設営されたRDA社の基地にて。
森を伐採する巨大なブルドーザーを操縦するRDA社の社員がモニターに映るものを見て、上司のパーカー・セルフリッジを呼んだ。
パーカーがモニターを見るとそこにはブルドーザーのカメラの映像が映し出されていた。
「な、なんだこいつはぁ!?」
「分かりません……急に目の前に現れてカメラを破壊しました!それに重傷者多数で伐採が続けられません!」
「なにぃ!?直ぐに交代要員を向かわせろ!」
「それはプレデターだ」
「プレデター!?」
パーカーの後ろでモニターを見ていたRDA社の傭兵達を取り纏めるマイルズ・クオリッチが言い放った。
「プレデターってのは隣にある風呂の壁に描かれてる異星人のことか?」
「そうだ。あの特徴的な頭、肌、そして身につけている装備から見て間違いない(だが、随分と大きい個体だな……)」
「知ってるのか?」
「昔戦場で会ったことがある。奴らは狩りを生業とする種族、大方この星に狩りをしにやってきたのだろう」
「なぜ我々の邪魔を?」
「それは分からん」
クオリッチは腕を組み、モニターに映るプレデターを見ながら言う。
「最近ナヴィ共の攻勢が激しくなった。奴が関係あるのか分からんが彼を此処に呼んで正解だったな」
「彼?」
「怪物狩りだ」
森を切り開く人間たちをほんの少し懲らしめた後、俺は急いでオマティカヤ族の集落に戻った。
「なんで?」
集落に戻ると何故かジェイクとグレースが磔にされていた。
何が起きてる?
「エイトゥカンー!!!頼む!!!逃げて!!!」
「うおおお!!!早く!皆逃げろぉ!」
2人とも出せる限りの大声を出し部族の皆に訴えかけているが、誰1人として見向きもせず聞いていなかった。
「お、おい!何がどうなってんだ!?」
俺は磔になっている2人に近づき、その側にいたエイトゥカンに聞いた。
「マ・ジェイクとグレースはオマティカヤ族を裏切ったのだ。スカイピープルの襲撃を知りながら我らと過ごしていた!」
「はぁ?」
エイトゥカンが腰からナイフを引き抜きジェイクの胸元に当てる。
「違う!俺は止めようとしたんだ!信じてくれ!」
「まあまあ落ち着け!エイトゥカン、スカイピープルの襲撃はもう直ぐ此処に来る。それは本当だ。こんなところで2人を縛り上げてる場合じゃない……!?」
この音……
「おい!来たぞ!」
俺が指差すと、そこから巨大な戦闘機とヘリの大群がゾロゾロと飛んでやってきていた。