「ジェイク」
人類が破壊したオマティカヤ族の集落を捜索していると、灰に埋もれているジェイクを見つけた。
「また寝てるのか」
死んではいない。
胸が規則正しく上下し呼吸しているのが分かる。しかし、頬をペチペチ叩いたり身体を揺さぶったりしても起きる気配がない。
「リンクが切れてるな」
隣にいたダッチが言った。
「どうする?」
「うーん…ここに放っておいてもなぁ…」
なんて言っていると寝ていたジェイクがガバッと起き上がった。
「うお!起きた!」
「あ!エイペックスさん!え!?誰だ!?」
「俺はダッチ・シェイファー。気にするな」
「ダッチ・シェイファー!?(か、怪物狩りか!?)」
「落ち着け落ち着け、何があったんだ?」
てっきりグレースと逃げたのかと思ったのに、此処で1人寝ていたジェイク。
「実は……」
ジェイクは俺に磔から解放されてから起こった事を話してくれた。
俺によって解放された後、ジェイクはグレースと共に逃げ遅れたナヴィを誘導し救助していた。途中ネイティリを見つけたジェイクは駆け寄った。
「来ないで!!!触らないで!!!」
「えぇ……」
腹に枝が刺さり死したエイトゥカンの側に座り込んでいたネイティリはジェイクを冷たく突き放した。ショックを受けるジェイク。
そしてホームツリー襲撃が終わった後、RDA社に囚われていたジェイク、グレース、ノームはリンクを強制的に切られ檻の中にぶち込まれた。
そこでパイロットのトルーディが研究者のマックスと共にジェイク達を助け出し、ヘリに乗りなんとかRDAから脱出した。しかし、脱出する際にグレースがクオリッチ大佐の銃撃に合い負傷、ハレルヤマウンテンに設置されていた施設を森に隠し、先ほど接続し起きたということだった。
「そうか、エイトゥカンが…それにグレースもヤバいのか」
オマティカヤ族の長が死んだ。彼とは共に合トレをした仲だった。オマティカヤ族を纏め上げる強い男だった。そうか死んだか……
グレースは瀕死のようだ。
「これからどうする?」
俺はジェイクに言った。
「……人間は徹底的に奪うつもりだ。俺はナヴィとして戦う。この地が、この森が、この星が好きだ。それを奪うのは許さない」
「……そうか」
「トルーク・マクトの話を?」
「あぁエイトゥカンから聞いたことがある」
ジェイクの言ったトルーク・マクト。
遥か太古から数えて5人存在した伝説のナヴィの事だ。空の王者トルークに跨り苦難を越え部族を纏めたという。
もしジェイクがトルーク・マクトになれば、失った信頼を取り戻すのは容易いだろう。
ナヴィは言っちゃ悪いが狂信的な一面がある。強い心を持っているが、人智を超えた物を簡単に信じ信頼する。異星人である俺がエイワに祝福されただけで恐ろしいくらい馴染めるからな。ジェイクも当初はネイティリに殺されそうになったが、聖なる木の精によるお告げで止めた。もしジェイクがトルーク・マクトとして現れれば、ドリームウォーカーなぞ関係なしにオマティカヤ族だけではなくパンドラ全域で讃えられる勇者となる。
「信頼を失った。グレースは瀕死。ナヴィの力を借りるにはトルークしかない」
「そうだな…だがどうやってトルークを従える?正面きっていくには無理があるだろう」
「トルークは空の王者、何処からも彼を襲う者はいない。だから上を見上げない」
「理屈では…だろ?」
「やるしかない」
ジェイクの側にイクランが降り立った。ジェイクの決心を感じ取り来たのか。
俺はそれを見て言った。
「よし、俺は先にグレースを回収して魂の木に向かおう。待ってるぞ。ダッチはどうする?」
「俺も行こう」
「オッケー」
そんなこんなでジェイクはイクランに乗って飛んでいった。そして俺は船を呼び出し乗り込むと、教えてもらった座標に飛びグレースと側にいたトルーディ、ノームを船に収容、オマティカヤ族で最も神聖な地である魂の木へ向かった。
向かう船の中でグレースの応急処置をした。ジェイクが来るまでに保つといいが……
これから向かう魂の木はナヴィがエイワと交信したり祖先と繋がる場所である。森に群生する声の木と似ているが、少し違う。あれはもっと崇高で神聖なものだ。もし失う事があれば森に住むナヴィは破滅するだろう。
エイペックス、ダッチと別れたジェイクはイクランに乗り空を飛んでいた。
以前ネイティリと共に飛んでいる時にトルークに襲われた場所に来ていた。
「ふぅ…やるぞやるぞ」
ナヴィになってから約3ヶ月。これまで様々な困難に打ち勝ってきた。
エイペックスとの修練、筋トレ、そしてサバイバル。
これまで人間として海兵隊として地球で経験したことのない想像を絶するトレーニングを耐え抜き強くなった。
身体は何倍にも大きくなり逞しく、もはやオマティカヤ族でジェイクに勝てる者は存在しなくなった。ハンマーヘッドチタノテアの突進を受け止め、イクランを片手で制圧し、サナターを蹴飛ばした。森において彼を打ち倒せるものはいない。ただ1人を除いて。
「落ち着け…」
真下に飛ぶトルークに畏怖するイクランを撫で鎮める。
「(飛び乗ってシャヘイル、飛び乗ってシャヘイル、飛び乗ってシャヘイル、飛び乗ってシャヘイル)」
一番緊張していたのはイクランではなくジェイクだった。いくら鍛えても自身より遥かに大きい物を目にすれば恐怖するのは当然である。
「いくぞ!」
ジェイクは意を決しイクランからダイブした。
「みんな、大丈夫か?」
「エイペックス!」
「祝福の戦士!」
魂の木に向かうとナヴィ達が集まりエイワへ祈りを捧げていた。俺に気づいたツァヒクのモアトとネイティリが声を上げる。そしてダッチに矢を向けた。ツーテイは腕を組み静かに俺達を見据えている。
「そのスカイピープルは!?」
「落ち着け、ダッチだ。俺の仲間だ」
「戦っていただろう!?」
「うーん…成り行きでな〜でも昔からの知り合いなんだ。あ!ほら!」
俺が指差すとダッチに白ふわエイワが舞い降り止まった。俺やジェイク程ではないがかなりの数が止まった。
「〈エイワが…〉」
「〈偉大な母エイワ…〉」
エイワが認めてくれれば話は早いもんだ。
「モアト、エイトゥカンは残念だった」
「死する運命ならば…致し方ない」
「そうだな」
ネイティリを見ると、エイトゥカンの愛用していた弓を持っていた。ホームツリーとイクランの翼から作り出した剛弓だ。
「ん?」
「グオオオオオオオオオォォォ!」
影がさした。そして雄大な咆哮が聞こえた。
「あ、あ……」
モアトが空を見上げ口を大きく開けた。ネイティリや周囲にいたナヴィ達が続々とその影と咆哮の原因に気づき騒ぎ始める。
俺も空を見上げた。
夕陽を背に巨大な生物が舞い降りてきた。
「グオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
「成功したか…!」
「すごいな」
巨大な生物、トルークが降り立ち1人のナヴィがその背から降りた。
「トルーク・マクト」
モアトが静かに呟いた。
ナヴィ達が現れたトルーク・マクトに歓喜し畏怖する。こちらへ近づいてくるトルーク・マクトに恐れつつも近づいてツンツン触れたりしている者、恐れ慄き跪く者。どんだけ畏怖の対象なんだトルーク・マクト。
そしてモアトの隣にいたネイティリが祭壇のある場所から下りてトルーク・マクト、いやジェイクを出迎える。
「あなたが見える」
「君が見える」
ジェイクが手を伸ばしネイティリに触れる。ネイティリもジェイクに触れた。
「私は怖かったの、ジェイク。皆が殺されると」
「わかってる」
そしてジェイクが祭壇にいる俺達を見た。
登りながらツーテイを見据え言葉を紡いでいく。ツーテイが今ではオマティカヤ族の族長である。
「〈アテヨの息子ツーテイよ、君の前で誓う。俺はオマティカヤ族のために戦う〉君は族長、そして勇敢な戦士だ。共に戦おう」
「……トルーク・マクト、一緒に空を飛ぼう」
「俺もいくぜ」
「俺もだ」
そして俺はガントレットを操作し船を呼んだ。
空が割れる音と共に俺の船が広場に降り立つ。俺とジェイクは船の中に入りグレース本人とアバターのグレースを抱き上げ祭壇に下ろした。
俺はモアトに言う。
「モアト、エイワの力でグレースを治せるか?」
「……偉大なる女神が彼女を救うかどうかお決めになる」
「その望みが?」
「エイワが彼女をご覧になり戻して下さる。でも彼女は…弱っている」
「グレース、彼らが助けてくれる」
ジェイクがグレースに寄り添い囁いた。
そうして儀式が始まった。
祭壇にグレースを寝かせる。地面から白く輝く細い根が
ナヴィ達が広場に座り込んで触手を地につける。部族の者達全員が魂の木にシャヘイルした。
シャヘイルしたことによって広場が光り輝き、心臓の鼓動のように明滅し始めた。
「〈我らが母よ、聞きたまえ。エネルギーの源エイワよ、この者の魂を導き……ナヴィとして戻したまえ。そしてこの地を再び歩かせたまえ〉」
モアトがエイワと交信し祈祷する。
魂の木の根が輝き2人のグレースに枝分かれし繋がった。
俺はマスクで人間の方のグレースを見た。俺が応急処置したとはいえ心臓の動きが弱い。呼吸は僅かしかしておらず虫の息と言っても過言ではない。間に合うのか??
お、俺もやっとくか???
俺は全身に力を込め拳を突き上げながら叫んだ。
「〈うおおおおおお!!!!エイワァァァァァァァァァ!!!!〉」
「〈急になんなの!?〉」
「エイペックスさん!?」
俺の突然の全力の祈祷に驚くモアトとジェイク。
魂の木を見ると俺の祈祷によって一層輝きが増した気がする。
よっしゃぁぁぁぁ!!!
「〈エイワァァァァ!!みんなに力を貸してくれぇぇーーい!!!〉」
そうすると魂の木の隙間から無数の白ふわエイワが出てきた。そしてふわふわと舞いながら2人のグレースを包み込むように止まった。
そして俺の突き上げていた拳が淡く光り輝く。
おしおしおしキタキタキタァァァァァァ!!!
「うお!眩しいっ!」
ジェイクが眩しさにより目を覆う。モアトは唖然とその光景を見た後、気を取り直し祈祷を続けた。
「〈うおおおおおおお!!!シャッヘーーーーーーイル!!!〉」
俺は手を広げ魂の木に優しく触れ全力で叫んだ。それと同時にモアトが祈祷を完結させる。
「〈我らが母エイワよ、エネルギーの源エイワよ、グレースを救いたまえ!!!〉」
モアトがそう言った瞬間、魂の木から膨大な光が溢れて広場を包み、空高く光の柱が昇った。
そして光が収まる。
「ゴホッ!ゴホッ!あれ…私は…」
「おお!グレース!無事か!」
「グレース!」
寝ていた人間の方のグレースが咳き込みながら起き上がり、ジェイクとネイティリが声をかけた。
「偉大なる母エイワが力を貸して下さった!!!」
「「「「おおおおおおおおおおお!!!」」」」
モアトが喜びを口にし、広場に集まるナヴィ達が狂喜乱舞する。
うんうん、良かった良かった。
マスクで人間の方のグレースを確認すると撃たれた傷は綺麗さっぱり消え、心臓や他の内臓の動きが正常になっている。エ、エイワってすげぇ…!俺も怪我した時エイワにお願いして治してもらおうかな?プレデターの回復キットってめちゃくちゃ痛いからよぉ…いやでも治って本当に良かったなぁ!グレース…あれ?
隣に未だ眠るアバターのグレースの
気持ち悪っ!!なんだこれ…!
まるで以前見たエリザベス・ショウとケイの身体みたいに胎内が変化している。なんというか…受精でもしたんか?ぐらいの勢いで蠢いている。
「な…なぁモアト」
「何かしらエイペックス」
「これ見てくれ」
「んー…?……な!?!?」
モアトにアバターのグレースの事を伝えると近くにしゃがんで、ギリギリ触れない距離で手を翳しグレースを感じ取り始め、何かに気づいたのか驚き仰け反った。
「どうしたの!?お母様!?」
「グレースのアバターが妊娠している…」
「はい?」
「え?」
「うぇ?」
どういうこと?
「エイワが命をご創造なされたっ!!!!!」
「「「おおおおおおおおおお!!!」」」
広場は歓声に包まれた。
「ツーテイ、通訳を頼めるか?」
「あぁ」
ジェイクが立ち上がりツーテイに言った。何を話すつもりだ?
「〈スカイピープルは言ってる“欲しいものはもらう”“邪魔するな"と、今ここで新しく産まれた命を寄越せと!奴らに返事をしよう〉」
広場に座っていたナヴィ達が立ち上がる。
「〈俺と、そしてここにいる偉大な戦士と一緒に飛び立つぞ!!!〉」
「〈兄弟よ!!姉妹よ!!スカイピープルに言おう。”勝手な真似は許さない!“この星は……俺たちのものだ!!!!〉」
「「うおおおおおおおお!!!!!」」
広場にいた全員がジェイクの熱い言葉を聞き手を上げ雄叫びをあげた。
「始まったな」
魂の木のそばに座っていたダッチが俺を見て言った。
「あぁ」
エイワ【き、気持ちいーーーーーーーーっ!!!!!】