漸く母の間の入り口に着いた。
遺跡はめちゃくちゃに動いており、もはや同期してある情報なんてもんは全く当てになっていない。壁に挟まれそうになったり、部屋に閉じ込められたり、もうめちゃくちゃだっだ。それでも、なんとか母の間に着くことができたのはかなり運が良かった。
此処まで来るのにかなり苦労したが、母の間に近づくにつれてゼノモーフの気配が濃密になった。更に通常であれば石造りである遺跡内部はゼノモーフの肉体構造と同じ謎の物質で覆われていて、まるで巨大な生き物の体内を徘徊しているようだった。
儀式の達成条件であるゼノモーフ狩猟も既に完了している(だけど心配だから大物を狩りたい)。
母の間に近づくにつれ群れの母を守る為か俺に襲いかかってくるゼノモーフが増えてきた。遺跡内部に侵入した人間は多くなかったからか、ゼノモーフ自体の数は多くない。しかし、それでも数十匹が一気に襲いかかってきたので少し倒すのが大変だった。
「やっとクイーンと戦える」
穴を潜り抜け母の間に侵入した。
「お前がクイーンを守るナイトってとこか?」
母の間に入った俺の目の前に現れたのは、特徴的な頭に格子状の傷を負い、尻尾が半ばから綺麗に切断されている個体だ。そして、その後ろにはクイーンが鋼鉄の鎖で縛られていて強制的に卵を産む装置となっている。その巨体は見上げてしまうほど大きい。
「少しはやり甲斐がありそうだな」
俺は奴を見据えリストブレイドを伸ばした。
奇声を上げ俺に突撃してくるゼノモーフ。
俺がつい先ほど戦ってきたゼノモーフとは明らかに違う動きと俊敏性に少し驚きつつも、奴の動きを予測して首を掴み捕まえた。
「尻尾の先が無いと攻撃の手段が減って予測しやすいな」
俺に首を掴まれ持ち上げられたゼノモーフはここぞと言わんばかりにインナーマウスで攻撃しようと俺の頭に顔を近づけて口を大きく開けた。
そして、インナーマウスが飛び出してくる。
「おっと」
俺は反対の手でインナーマウスを掴み、そのまま引っこ抜いた。血が出る前に近くの壁にぶん投げた。
「まだまだこんなもんじゃないだろう?ナイト君」
俺が声を掛けると血を吐き出しながらゼノモーフが立ち上がる。そして、また奇声を上げ俺に向かって走ってきた。
「繰り返しだな」
俺は奴の攻撃を避け次は尻尾を掴んだ、そのまま膂力にものを言わせて地面に何回も叩きつけた。
ゼノモーフが地面に叩きつけられる度に潰れた腕やら脚やら内臓やらが飛散していく。
「終わりか」
尻尾を上に持ち上げゼノモーフを見ると血をダラダラと至る所から流しながら、声を発することもなくダラリとその身体は無気力に下がっていた。
酸性血液も当たらなければどうということもないな。
そのままポイっと投げ捨てクイーンを前にする。
「はぁやっとだ馬鹿野郎、あ、野郎じゃなくて女だったか?」
「キイイイエエエエエエエエ!!」
「威勢の良いこった、でも縛られちゃ何もできないな」
クイーンの四肢は硬い鋼鉄の鎖で四方から繋がれ身動きが取れない状態となっている。
これでは一方的に俺がなんやかんやできてしまう。
この拘束から脱する為には兵隊に命令をして自分の身体を傷つけ、その傷から出た酸性血液で鎖を溶かすしかないだろう。しかし、周りにいた兵隊共は俺が殆ど倒してしまったのでそれはできない。
それではどうする?
「後でゴンジに怒られそうだな〜」
俺は腰帯に括り付けたシュリケンディスクを手に取り軽く振って6枚の刃を伸ばした。そして思いっきり投げた。
高速回転しながら飛んでいったディスクはクイーンの周りを周回し四肢を拘束する四方の鎖を次々に切り裂いていく。俺の手にディスクが戻ってくる頃と同時にクイーンは解放され大きな咆哮を上げた。
「グギギギギギイエエエエエエエエ!」
そして、自身の身体に付いていた巨大な卵嚢を強引に引き剥がし、俺に向かってきた。
その迫力は凄まじく、まるで竜が迫ってくるようだ。
奴の脚が地面に触れる度に部屋が揺れるのを感じる。
「いくぞ!!!」
とりあえず手に返ってきたディスクを再度投げる。あの巨体だといくら切れ味が良くても深くまで切り裂けないだろう。
フィンッ
と静かに飛んでいったシュリケンはクイーンの肩に直撃しそのまま通り過ぎて近くの壁に刺さった。
シュリケンが当たった肩から大量の酸性血液が噴き出す。
思いの外ダメージを与えられたな。
怯んだクイーンを見て俺は背負っているスピアを取り仕掛けを起動して伸ばした。そしてクイーンのもとに全力疾走して足元までやってきたら、脚の筋肉が膨張するほど力を籠めて跳躍した。
一瞬で景色が変わり、俺の目の前にはクイーンの巨大な頭蓋が視界に入る。そこで、俺はスピアを全力で頭蓋に突き刺す。
風を切る音と共にスピアは頭蓋を貫通した。
そして俺は地面へと着地した。
「グギギギィィ……」
ゼノモーフの脳に直に突き刺さったスピアは脳を破壊し、貫通した。並の生き物は脳を破壊されれば生きることは不可能だ。
しかし、ゼノモーフは宇宙の最強生物と名高い生物?だ。目の前のクイーンは呻き声を上げながら立ち上がり尚も俺に向かってこようと歩き出す。
足取りは重く、もはや俺に絶対に勝てないだろうに立ち向かおうとする気力。自身が産み出した子達を守る為か、いや目の前の狩人に殺された故の復讐か。俺には分からないが、敬意を表すとしよう。
俺はバイオマスクに両手をかけて顔からマスクを取り去った。
「ウオオオオオオオオオ!!!!!」
右手のリストブレイドを最大まで伸ばし全速力で駆ける。
クイーンが俺の咆哮に鼓舞されたのか尻尾を突き出してきた。
俺はクイーンの攻撃を横に身体を逸らし転がって避けた、そして先程と同じようにクイーンの足元に近づいた。クイーンの両脚の健をリストブレイドで切り裂き、クイーンを転倒させ腰の鞘からダガーを抜き首を一閃した。
ズルッとクイーンの首が胴体から離れ自身の血に沈んでゆく。
「ほぉぉぉ〜……思ったより楽勝だったな、やっぱり弱ってたか?」
だがしかし、これで絶対成人の儀式をクリアできるだろう。俺達プレデターにとってクイーンの討伐はそりゃもう大名誉らしいからな。それに弱っていたとはいえ俺1人だけで討伐したもんだからな、もう完璧にクリアできるはずだ。
俺はクイーンの頭からなるべく血を抜いて引き摺るようにして遺跡の出口を目指した。
遺跡の動きにも慣れてきて、なんとか遺跡を脱出することができた。後は俺の目の前にある穴を登って船に乗れば儀式は終了だ。
だーけど、これ一体どうやって登ればいいんだ?ちょっとクイーンの頭持ちながら登るのはキツそうだ。
映画では確か――――
「ん?」
後方から猛烈な熱気と生き物の気配がする。人間とプレデターの気配だ。
様子を窺っていると、人間の女性とスカー君が大慌てで走ってきた。
「おー!スカー君!それと人間?そんな大慌てでどうしたんだ?」
「あ!エイペックスさん!うぇ!?クイーン!?ちょちょ、急いで脱出しましょう!広域殲滅爆弾を奴らの巣で起動させてきました!」
「マジで!?やべーじゃん……でもこれどうやって登ればいいか迷っててさ」
「え〜っとコレで一気に登れるわ!」
俺とスカー君が大慌てで焦っていると、ゼノモーフの頭蓋を左手に持った人間が穴に設置された機械を指した。
「ホントウカ!?ソレデダシュツダ!」
「英語喋れるの!?」
「ハハハハハ」
俺とスカー君、そして人間のレックスが穴を昇降する為のソリのような物に乗り込む。かなりギチギチで心配だけど、レックスが機械を操作すると凄いスピードで昇り始めた。
「ウオオオオオオオオオ!!!やべえええ!!!」
一番後ろに乗り込んだ俺はクイーンの頭を引きずりながら猛スピードで昇るソリの上で落ちないようにスカー君に掴まっている。
すると俺の視線の先、先ほどまで俺たちがいた穴の底から真っ赤な火炎が噴き上がってきた。
ヤバい。
「熱いっ爆風が来てる!」
「レックス!」
「もう少しよ!」
それから数十秒後、俺達は勢いよく穴から飛び出した。
「痛え!!!」
地面に叩きつけられゴロゴロと転がっていき雪で止まった。
もう安全か…..?と思いきや地面が猛烈に揺れ始め足元がひび割れ始めた。
「エイペックスさん逃げましょう!レックス!槍は私がもつ!」
スカーがソリに取り付けてあった槍を剥がし手に持った。俺はクイーンの頭を背負った。
3人で全速力で逃げる。
チラッと後ろを見ると俺たちが走ってきたところが崩れ沈んでいくのが見えた。いくらなんでもアレはヤバすぎる。本気で命の危機を感じ、スピードを早める。
「ウオオオオオ!!!」
「オオオオオオ!!!」
「キャアアアア!!!」
3人の雄叫びが雪原に響いた。
暫く走って崩落しない地点まで来れた。はぁ〜死ぬかと思った。
後ろを見ると、巨大隕石でも落ちたんじゃないかと思われるほどの巨大な穴がポッカリと空き、更に巨大なキノコ雲が上がっている。
広域殲滅爆弾……恐ろしい威力だ。
俺達が死にそうになったりして技術の流出を防ぐ為に使用することが多い広域殲滅爆弾。
これ簡単に使っちゃいけないヤツだわ。
スカー君を見ると明らかにヤベー事しちゃったみたいな顔をしている。
「地球にゼノモーフが広がってしまうのを防ぐ為だったんです」
「わかっているよスカー君、大丈夫、バッドブラッド認定されたら俺がなんとかする」
「なに言ってるの?」
スカー君の肩をポンポンと叩き慰める。
爆弾を使用して変に生き残ったりすると俺たちの掟では即死刑だったり、星流しにあったりする。その他にも色々掟があるけど、ゼノモーフを狩る名誉でなんとか挽回できるだろう。
よし、あとは船に乗ったら俺たちは成人だ!
「行こうかスカー君」
「はい、あ!ちょっと待ってください。レックス…」
スカー君がレックスを呼んだ。
「え?」
「君には感謝している。私の命を救ってくれて、尚且つゼノモーフを1人で倒した。名誉に値する、君に印をつけよう」
「何言ってるのかしら?」
(スカー君多分何言ってるか分かってない)
「あ…」
スカー君が腰帯に括り付けたフェイスハガーの脚を取り出した。
レックスはそれを見て、そしてスカー君の腕に刻まれたゼノモーフの印を見て何をされるか理解したようだ。
レックスが上着を脱いで袖を捲った。
久々にみた人間の女性の現れた素肌に、ちょっとドキッとした俺はそそくさと目を逸らし、船があるであろう方向をみた。
「うっ」
ジュッっと肉が焼ける音がしてレックスの呻き声が聞こえた。ゼノモーフの印をつけたようだ。非力な人間なのにゼノモーフを倒すなんて本当に凄いと思う。恐らく、映画と同じような顛末を辿ったのだろう。そしてスカーは死ななかった。
「終わったか?」
「ええ、終わりました。これで彼女もプレデターです」
「そうか」
人間であっても、プレデターの狩りを成功させればプレデターとなり俺たちの仲間になる。
これは大変名誉な事だ。
プレデターの狩りの対象であった人間が、プレデターの狩猟に図らずも乱入し、単身で狩猟を成し遂げる。
すごい事だ。
「スカー、エイペックス。よくやった」
やっぱりいたか。
声の方向に振り向くと、エルダーがクロークを解除しながらこちらに向かってきていた。
そして更にその後ろに、景色に同化していた大勢の同胞達と母船が現れた。
あ、ちょっと危なかったんじゃないかー?これ結構爆発の範囲ギリギリだぞ。
現に、後ろにいる同胞の何人かは俺たちの後ろに広がる大惨事に冷や汗をかいているように思える。
「……これにて成人の儀式は終了だ。エイペックスとスカーは船に戻れ」
「おす」
「わかりました」
俺とスカー君は頷き、俺はクイーンの頭を背負い直し、スカー君はレックスを連れ船に戻った。
「おい待て」
「え?」
「その頭はなんだ」
「クイーンですけど?」
「クイーンですけどじゃない、なぜそんなものを持っている」
「え?持ってるって、獲物を狩ってトロフィー作ろうかなって」
「クイーンは狩るなよ!!!!」
あれ、僕なんかやっちゃいました?