時は遡りエイペックスが到着する1週間前と少し——
パンドラに向かう途中の船の中で目覚めたクオリッチはモニターに表示される
「【俺は2時間後ナヴィの拠点を叩く。お偉い方は万が一の備えで俺のコピーを作らせた。今これを見ているなら俺は
モニターの向こう側にいたRDA社パンドラ開拓責任者のパーカーがクオリッチに呼ばれやって来る。
「【コレの仕組みを説明するんだ。いいですか、あなたの人格と記憶のデータです。まぁ簡単に言えば魂の複製です。コレを地球に送りあなたの分身に移植すれば——】」
「【おいお前が話すのか?】」
「【あーはいはい分かりましたよ】」
パーカーがクオリッチの肩を叩き後ろへ下がっていく。そしてクオリッチは再度カメラに向かって話し始めた。
「【つまり、最もタフな隊員たちの心、魂を保存する。そこにいるウェイフリート伍長とか…俺の心を移植するのだ——
ナヴィになったクオリッチは固唾を飲み込みモニターを注視する。モニターに映る生前の自分が、年老いてなお兵士であり続ける自分が、自身の目を見ながら言った。
「【忘れるなよ、海兵隊に敗北はない。殺されても、地獄で復活する—
全てを聞いたクオリッチはモニターの電源を落とし、無重力の船内を動き窓から外を見た。
窓から青く美しい星が見えた。
パンドラへと突入し、ブリッジヘッドシティでアードモア将軍から命令を受けハレルヤマウンテンの偵察へとやってきたクオリッチ率いるリコンビナント部隊は浮遊岩石の下に広がる森の中に着陸し、探索を始めた。
ハレルヤマウンテンはエイワの力によって守護され、人間だけが入れば直ぐに感知されイクランの群れに襲われる。ミサイルや爆弾をいくら積んでいても無数に飛び回るイクランが集れば瞬く間に墜とされてしまう。それにアンオブタニウムの放つ磁力によってレーダーやミサイルロックは使えない。しかし、ナヴィ、リコンビナントになったクオリッチらはナヴィとして認識されエイワの感知を
「大佐、これを見て下さい」
ナヴィへと産まれ変わったクオリッチの忠実な部下で変態兵士、ウェイフリート伍長が指差した。
「ふむ」
クオリッチが指された場所を見ると、そこには綺麗な花畑があった。そしてその中心には人型の植物の蔓に包まれたものがあった。約14年前にエイワによって囚われたクオリッチだ。
「僅かながら生体反応があるわ。ま、まだ生きてる…?」
隊員の1人Zドッグが端末をそれに翳しながら言った。
「生きているだと?」
クオリッチはそれに近づき手で触れた。
ほのかに温かく、鼓動を感じた。
「馬鹿な……」
生前の自身の末路を目の当たりにし、狼狽えるクオリッチ。死すらも許されず、今もなお生かされ続ける
クオリッチは腰からコンバットナイフを抜き蔓を切り裂き毟り取っていく。
ボトボトと切られ取られた蔓が地面へと落ちていくが、切った側から蔓が再生を始め、皮膚すらも見えず埋まっていく。
エイワは捕らえたものを決して離さない。
「なんだというのだ…」
目の前で今も自分が生き続けている。
「大佐!AMPの残骸からデータを回収しました!」
「ファイク」
ファイクと呼ばれた隊員がデータ端末を持ちこちらに駆け寄ってくる。
クオリッチは一度自分から離れ、回収されたデータを見た。
端末にAMPが停止するまで記録していた録画データが映し出される。
「これは……」
墜ちる戦闘機から飛び降り、怪物狩りダッチ・シェイファーと戦い、サナターと呼ばれる巨獣を殺し、怒り狂った巨大なプレデターに腕を引き剥がされ、駆けつけたジェイクにAMPから放り出された。
生身の自分が銃をナヴィのジェイク・サリーに向け、撃ったのを両者の間に入った怪物狩りが剣を振るい弾丸を切った。
「化け物かよ…」
それを見ていたウェインフリートが静かに呟く。
そして映像から音声が聞こえる。
「【もういいだろう、海兵】」
怪物狩りの言葉だ。
「【海兵、貴様はいつから金で動く亡者になった?センパーファイは?無辜の民を守る為に海兵になったのではないのか?】」
海兵の信条…センパーファイ…海兵になった理由…
クオリッチの頭の中でぐるぐるとダッチの言葉が再生される。
「俺は……」
「あ!大佐!!!」
何かに気づいたウェインフリートが声を張り上げるが時すでに遅し。
クオリッチの頭上に白い綿毛のようなもの、ナヴィの間で聖なる木の精と呼ばれるものがフワリと音も無く近づき止まった。
「がががっがががっがごごごごがが」
頭にそれが触れた瞬間、クオリッチの身体が突如痙攣を始める。泡を吹き白目を剥いた。
「た、大佐ァ!?!?」
ウェインフリートがクオリッチの頭に止まった木の精を払おうと手を伸ばす。しかし、クオリッチ同様にウェインフリートの頭上にも別の木の精が舞っていた。
「おぼぼぼぼぼっばばば」
頭上に木の精が舞い降りウェインフリートが痙攣を始める。
「えぇ!?大佐!?伍長!?」
「な、何が起きて……」
Zドッグとファイクが慌てふためき痙攣を続ける2人に近寄る。しかし、その2人にもエイワの手が迫っていた。
「あああああああああああああ」
「きききききききみみきききき」
エイワの手に触れた4人はエイワによって強制的に情報をインストールされた。
それはエイペックスやヴィーンにされたものとは違うものだ。ただの情報ではない。
これまで人間がパンドラで行なった非道、そして自身がパンドラで犯した悪事を全て
森を焼かれ、大地を削られ、空を汚され、育んだ命を殺された痛み。
無慈悲に容赦なく、そして際限なくそれが脳に送り込まれた。
「何が…」
それを離れた林の中で見ている者達がいた。
同じタイミングで森を探索していたジェイクの子供達だ。ロイク、トゥク、そしてパンドラで産まれた人間の子供スパイダー。
彼らは食糧の調達と森の警戒をする為に此処を訪れていた。
クオリッチ達の乗るヘリが接近する気配を感じ取り急いでここまでやってきたのだ。
「あれはアバターか?」
スパイダーが目を凝らしながら言った。
花畑で痙攣する4人のナヴィは聖なる木の精に触れ身体をビクビクさせながら倒れることなく立っていた。白目を剥き泡を吹き、身体中から滝のように汗が出ていた。そしてじっと見ていると地面から根が飛び出て脚にに巻き付いていった。
「な、なぁ…ヤバくないか?」
「気持ち悪いね…」
「放っておけばいい……だが父さんには一応報告しておこう」
スパイダーの隣で同じく見ていたロアクが首についた通信機のボタンを押し父であるジェイクに通信を入れる。
「デビルドッグ、こちらイーグルアイ」
「《報告しろ》」
「変な奴らが…恐らくアバターだと思います」
「《アバター?今どこだ》」
「下の花畑です」
「《すぐに向かう。退がれ》」
「了解」
父に通信を入れ指示を受けると静かに立ち上がろうとした時。
「一度退くぞ……ん?」
「いるね」
「あぁ…」
「他にもいたのか?」
「そうみたいだな」
ロアクは後方で剣呑な気配を感じた。
「退けないなぁ…」
スパイダーが背中の鞘から身の丈に迫る程の使い古された剣を引き抜きながら言った。
「そうだねぇ…」
トゥクが全身の筋肉を隆起させ中腰で気配のする方向を見据える。
「いくぞ!」
ロアクがそう言うと、3人は視線の先に見えた銃を構えたアバター達に向かって飛び出した。
「ナヴィだ!!撃て!!」
1人が気づき周囲に声を張る。
「グポッ…」
その瞬間、跳ぶように近づいていたロアクによって放たれた拳がアバターの胴体の中に入り一気に引き抜かれる。ロアクは拳を引き抜く際に内臓を掴み一気に引き抜いた。
ズボボボという音と共に夥しい量の血と内臓が地面へと落ち、アバターが仰向けに倒れた。
「この野郎っ!!!」
そばにいた別のアバターが銃をロアクに向ける。
「はっ!!!」
「ヒデブゥッ!」
銃を撃つ前に中腰のままトゥクが近づき、顎下に向かって飛び上がりながらアッパーを決めた。顎から頭蓋までが変形し吹き飛び鮮血が噴き出す。
「う、うわあああああああ!!!た、助けてくれええええええ!!!」
それを見ていたもう1人のアバターが大きな声で叫び逃げ出す。
「へへっ逃がさんぜ!ふっ!」
「ヒィッ!アバァッ!」
逃げ出した先に
「へっ楽勝だな!」
スパイダーが剣についた血糊を死体の服で拭いながら言うと背中の鞘に仕舞う。
動き出そうとした時、パラパラと音が聞こえた。大量のヘリの音だ。それに森の先からも多数の気配を3人は感じた。
「増援か?」
「兄ちゃん!」
「この数は流石に分が悪いな…退くぞ!」
「おう!」
数十人にも及ぶリコンビナント部隊がエイワの守りを潜り抜け森に到着していた。
それからロアクとトゥク、スパイダーは駆けつけたジェイク達と共に戦う。しかし多勢に無勢、更に火器を惜しみなく駆使してくるリコンビナント部隊に態勢を立て直すために撤退を選択したジェイク達は、撤退する途中でスパイダーが麻酔銃によって眠り倒れてしまう。助けに行くには無茶な状況だったため、断腸の思いで撤退した。
そして花畑で捕まっていたクオリッチ達は救出され、ブリッジヘッドシティへと帰還する事になる。
「あ、あれは…」
花畑から救出されブリッジヘッドシティにある自室で目覚めたクオリッチは鏡を見ながら狼狽えた。
様々な感情が溢れは消えていく。いつもの思考ができない。心の中で
「お、俺は……」
クオリッチ達はエイワによる情報攻撃を受けた。それはエイペックスやヴィーンが受けた祝福とは似て非なるもの——エイワはパンドラの生物全てを愛する。それはナヴィと人間の混血であるアバターも例外ではない。
ただパンドラを侵略する敵であればそれは変わる。
そしてそれがもしナヴィであったのなら……エイワは手を伸ばす。救うために。人間からの解放する為に…
エイワによって
人間がアバターにリンクするように、クオリッチ達はエイワと繋がった。そして魂が変質したのだ。真の意味でナヴィの魂へと。
「〈偉大なる母エイワ〉」
クオリッチの口から一度も口にしたことのない言語が飛び出す。鏡の前で下を向き目を閉じた。人間がパンドラでやった数々の破壊が浮かんでいく。己がやった虐殺、そしてエイワの悲しみが心を染めていく。
「ふぅーーー」
大きく息を吐き、目を閉じたまま前を向いた。
「〈俺はナヴィだ〉」
目を開き、鏡に写ったナヴィに向かってクオリッチは言い放った。
「〈大佐〉」
その言葉と共に自室の扉が開かれゾロゾロと3人のナヴィが入ってきた。
「ウェインフリート、Zドッグ、ファイク」
振り向き入ってきた者達の名前を呼ぶ。そして鏡から離れると正面に立ち言った。
「お前達、準備はできているか」
「もちろんです大佐、いきやしょう」
ウェインフリートがニヤつきながらサングラスをかけ、Zドッグがガム風船を膨らまし、ファイクが腕を組んで頷いた。それを見たクオリッチは立て掛けてあった小銃とテーブルの上に置いてあったコンバットナイフを装備し改めて3人に告げる。
「〈これより我らはエイワの為に戦う〉」
「「「ウーラー」」」
そうしてクオリッチ達は
アードモア将軍の命令に従うフリをしつつパンドラの為、エイワの為に密かに動き始めた。
来る戦いの為に。
エイワ【お前達も『家族』や!】