エイペックスとヴィーンがパンドラへ侵入する約3日前—
家族を連れオマティカヤ族から離脱したジェイク率いるサリー家は海の上をイクランに跨り飛んでいた。
オマティカヤ族元族長でエイワの力を借りナヴィへ生まれ変わった元海兵隊の人間ジェイク・サリー。
ジェイクの妻でエイトゥカンとモアトの娘、ネイティリ。
2人の間に産まれたネテヤム、ロアク、トゥク。
スカイピープルの攻勢によって仕方なく逃亡を余儀なくされたサリー家は遂に2日間にも渡る旅を終えた。
ジェイクは目の前に見えてきた海の民メトカイナ族の村を見て安堵する。
「(着いた…)」
途中休憩はあったものの、ずっとイクランに跨り飛び続けていた。
ジェイクらの到来に気づいたメトカイナ族のナヴィが法螺貝を鳴らし警告を発する。
そうしてメトカイナ族の集落に降り立った。イクランから浜辺に降りた瞬間、メトカイナ族のナヴィに囲われるジェイク達は集団から出てきた一際屈強で族長の装飾を纏ったナヴィに話しかけられた。
彼はトノワリ。メトカイナ族の長で屈強な戦士だ。
「あなたが見えます。トノワリ」
「ジェイクスーリ(デ、デカいな)」
ジェイクが挨拶を交わすとトノワリもそれに返し、サリー家の一同も挨拶をした。
そして更に集団の中から1人のナヴィが現れる。メトカイナ族のツァヒク、巫女ロナルだ。
「あなたが見える、ロナル」
ジェイクらが挨拶をするとロナルは少し頷きトノワリの隣に立った。
トノワリがジェイク達に言う。
「なぜ来た、ジェイクスーリ」
「“ウトゥール”を」
「ウトゥール!?」
ロナルがそれを聞き驚いたように復唱した。
ウトゥールとはナヴィの掟の一つで、庇護を求める難民を必ず助け迎え入れなければいけないというものである。
「家族を守るために此処へやってきた…!」
トノワリが隣に佇むロナルに目配せして語り出す。
「我らはリーフの民、君らは森の民だ。海では生きられない」
「学びます、そうだな?」
ジェイクはそう言って家族を見渡す。皆鍛え上げた筋肉をピクピクさせ準備は万端だった。
ロナルが歩み始めジェイク達の身体を撫でるように見回していく。かつてジェイクが初めてオマティカヤ族に来訪した際に、モアトがジェイクにした事と同じように身体に触れ、何かを確かめていく。
(森の民はこんなにも屈強なの?腕と脚は強靭で分厚い、胸板なんて岩のようだ。それに尻尾が思った以上に太い……海で生きる我らに匹敵する大きさだ…いや…なぜ?ト、トノワリよりも体格が大きいではないか…!)
ロナルがロアクや背が
最後に産まれたトゥクは未だ背が低いながらも幼少からの過酷なエイペックス式トレーニングとバランスの良い食事のお陰で同年代では並外れた体格を誇っている。それはネテヤムとロアクも同様である。
「あなた達は大きすぎる、す、水中ではのろまね」
ロナルが周囲を回りながら言った。
そしてロアクの手を取り言い放つ。
「この子らは真のナヴィではない、見よ!悪魔の血が混ざっている!」
「俺はナヴィだ…!」
ロアクが掴まれた手を払いながら、思わず筋肉を膨張させ威圧感を出してしまう。
周囲にいたナヴィがその威圧に立ち竦む。
「おい…ロアク」
「兄さん…」
ネテヤムがロアクの肩に触れ鎮める。
集まったメトカイナ族のナヴィがネイティリとネテヤム、トゥク以外の指の本数を見て動揺する。悪魔と蔑まれるスカイピープルとナヴィの混血は指が5本ある。誠のナヴィにとって5本指のナヴィは忌むべき存在でもあった。
「見てください、私も5本だ。私はスカイピープルからナヴィになった。順応できる、順応します。必ず…!」
「夫はトルーク・マクトだった。“祝福の戦士”と共に団結しスカイピープルに勝利した…!」
ネイティリが凄みながらロナルに言い放つ。
「今の状況が勝利した?……なら何故此処に来た?逃げて隠れにきたのだろう」
「ぐっ……(勝手な事を…)」
ネイティリが悔しそうに顔を歪め思わず力が入る。
確かにジェイク達は逃げた。しかしこのまま戦えばいくら鍛えて強くなったといえど犠牲者が出てしまうのは変わりない。筋肉では解決できないことがある。間合いに入れば負ける気はしない。どんなに強い武器を持っていようが一瞬で近づき力の限り叩き潰せばいいからだ。だが、遠距離からミサイルやら爆弾やら撃ち込まれればそうはいかない。なす術もなく殲滅されてしまうだろう。だからこれまで森に隠れゲリラ戦法で不意を突きスカイピープルを襲撃していた。
「
「なっ…勝手なことを言うな…!」
ジェイクがそう言われ、バツの悪そうな顔をするが直ぐに切り替え、反論したネイティリとロナルの間に割り込み非礼を詫びた。
「妻の非礼を詫びる。長旅で疲れているんだ」
「謝るなジェイク!」
「まあまあ」
「ふむ……ゴホンッ皆の者!トルーク・マクトは勝利を導いた。ナヴィの者は皆知っている。エイワに導かれスカイピープルに勝利したのだ……恥ずかしい事に我らメトカイナは戦っていない、他の部族もだ。ただ言いたいのは……そなたらの戦いに我らを巻き込むな」
「…………いいか?家族を守りたいだけなんだ」
あのアバター部隊、が狙うのは
「ウトゥールは応ずべきもの」
「……」
ネイティリの言葉を聞いたトノワリは思案する。そして隣に戻ったロナルを見つめた。
(彼らを迎え入れよう、掟は掟だ)
(仕方ないわね…)
無言で意思疎通をしたトノワリとロナル。そしてトノワリは集まった者達に聞こえる声で語り始めた。
「トルーク・マクトの一家を迎える。兄弟、姉妹のように扱え。彼らは海を知らない、此処では産声をあげたばかりの赤ん坊と同じだ。恥をかかぬようここの流儀を……教えてやれ(見た限り平気そうだが)」
「ありがとう…ほら、お礼は?」
「「「ありがとう」」」
ジェイクが家族にお礼を促す。
「私の息子と娘、アヌオングとツィレアが子供達を世話する」
「はぁ?俺が?(こんな大きい奴ら放っておいても平気だろ!)」
「決めたことだ」
「ふふっ…さぁ皆さん来て、村を案内するわ」
そうしてジェイク一家はメトカイナ族へと迎え入れられた。
ツィレアに村を案内されたジェイク達はこれから住んでいく海辺の家に入り家族会議を始めた。
「皆、疲れたな。ほらプロテインだ、大事に飲め」
ジェイクが持ってきた荷物からプロテインの粉末を取り出し、皆が出したシェイカーにそれを投入していく。各々水を水筒からシェイカーに入れシャカシャカ振った後一気に飲み干した。
このプロテインはヘルズゲートにあるオブライエン&ハワード産業の銭湯から仕入れた物だ。スカイピープルの侵略によって物流がストップしてしまったが、まだまだ量はあった。家族で飲めば直ぐに無くなってしまう量ではあるが…
「これから大変だぞ、皆。海での生活は森とは違う。人生が一変する。ただ…やる事は変わらない。今まで通り身体を鍛え、適応する。来る戦いの為に」
ジェイクがそう言うと、プロテインバーを齧るネイティリが言う。
「サリー家の合言葉は?」
「「「家族は団結!」」」
「もう一つは!」
「「「力こそパワー!!!」」」
家族の絆を再確認しエイワに祈りを捧げその日は終わった。
それから数日が経ち、メトカイナ族に海での生き方を教えてもらったジェイク達。
最初こそ慣れるまで大変だったが、あっという間に海に慣れた家族は今ではメトカイナ族と名乗っても恥ずかしくないレベルにまで到達している。
大きい身体で水を蹴り素早く泳ぎ、呼吸法によって長時間の潜水を可能とした。力こそパワー…エイペックスが嘗て教えた言葉がここまでの成長を可能にした。
森での生活が圧倒的に長いネイティリでさえ、海での生活にあっという間に順応し、長時間の潜水やツラックという海で生きるイクラン的な騎乗生物を手懐け飛び回っている。
ネテヤム、ロアク、トゥクは悪魔との混血と蔑まれながらも、圧倒的な才覚を現しメトカイナ族にその存在を認めさせた。
そして今、ロアクはトノワリの息子アヌオングと子分のロッソと共にリーフの外、三兄弟の岩と呼ばれる場所に赴き魚を獲っていた。
「アヌオング、本当に大丈夫なのか」
「あぁ心配すんな。この時間なら魚は獲り放題だぜ」
「そうなのか」
アヌオングがイルから離れ海中に潜った。ロアクとロッソもそれについていき、海中に潜水していく。
「オッオッ」
独特の声を出して魚を誘い出すアヌオング。そして魚が近づいてきたところに水中弓を放ち魚を狩った。
海中で血を噴き出しのたうち回った後ゆっくりと沈んでいく魚を見ていたロアクは、自身が常に広げる警戒網に危険な何かの気配を感じ取った。
「《ん?》」
「《どうしたんすか?ロアクさん》」
隣にいたロッソが手話で聞いてくる。
「《何か来る》」
「《え?》」
ロアクがそう言った瞬間、少し離れた海面に浮いて待っていたイルに巨大な魚が襲いかかった。
「《アクラだ!!!!》」
魚から矢を引き抜き、ロアク達の下へと戻ってきていたアヌオングが丁度それを目撃し、口から泡をボコボコ出しながら手話で大振りに伝えた。
「《こっちに気づいてないか!?》」
「《いや、気づかれてる》」
間一髪で逃げていたイルを追いかけていたアクラは反転し、今まさにこちらへと近づいてきていた。
アクラとは海で生活するナヴィにとって最も危険な生物の一つであり天敵とされる生物である。三つに大きく分かれる口にはあらゆる物を噛み砕く鋭い牙が生え揃っている。身体はとても大きく海中では縦横無尽に動き回り獲物を捕食している。性格はとても狂暴で捉えどころがない。何に対しても恐れず襲いかかる危険な生物だ。
ナヴィの身長は3m弱、現れたアクラの全長はおよそ10mと倍近く大きかった。まぁ…ここに現れたアクラはまだ子供、成体になると全長は30mを超えるらしい。
「《俺の後ろに下がれ》」
「《逃げた方がいいだろ!ほら!あそこのサンゴ礁の中に逃げ込もうぜ!》」
「《ダメだ、いくら息が長く続くからといって奴がいなくなるまでジッとはしていられない。今ここでやる》」
「《む、無茶っすよ〜!!!》」
アヌオングとロッソはそう言いつつもロアクの後ろに回り込んだ。
ロアクの身体は大きい。鍛え上げられた筋肉は巨大で一つ一つの部位がくっきりしていてまるで彫刻のようだった。海中でも筋肉の重さに左右されることなく素早く泳げている。
後ろから見たロアクはとても頼り甲斐があった。
「ブクブクブク……」
ロアクは口から細かい泡を出した。
肺にたくさん溜め、腹で呼吸していた空気をほんの少し逃がして、身体の力を抜いた。
そして勢いよく泳ぎこちらに向かってくるアクラを見据え、全身に力を込め構えた。
どんどん近づいてくるアクラ。
ロアクは腕を腰部に持っていき拳をグッと握った。
アクラが大きな口を開け恐ろしい牙が見えた。
「(ふっ!!!)」
ロアクはアクラの突進噛みつきを、身体を瞬時に下側に移動して避けると構えた拳をアクラの顎下に向かって打ち放った。
水中にもかかわらず目にも止まらぬスピードで放たれたロアクの拳がアクラの顎を打ち抜き、その衝撃が頭蓋を抜け海面にまで到達し揺らした。
「「(すげえええええええ!!!)」」
バァン!と轟音が鳴り海面が揺れ水飛沫が少し上がる。
アクラはロアクの一撃で外観は何もないものの頭蓋の内部を衝撃でグチャグチャにされ息絶えた。
「(父さんや兄さんに比べまだまだ威力が低い、精進あるのみ)」
口から血を溢れ出しながら沈んでいくアクラを見ながらロアクは思った。
「《ロアク…お前ら家族なんで逃げてきたんだ…》」
「《こんな力、当たらなければ意味がない》」
「《お、おう…よく分かんねーけどさ…とにかく助かったぜ》」
そうして殺したアクラの背鰭に紐を結び、イルに乗って集落へと帰った。
その後ろに、静かに巨大な魚影がついてきているのをロアクは気づいていたが害意がないのは分かっていたので無視した。
エイワ「エイワショック!!!!」
長兄ネテヤム、次兄ロアク、末妹トゥクティリ
3兄妹
幼少期よりエイペックスがオマティカヤ族に伝えた極限サバイバルトレーニングを実践し、性格、体格ともに立派なナヴィへと成長している。どんな状況にも油断せずに挑み適応する。
銭湯に置いてある日本の漫画から格闘技(拳法)を学び森での狩猟やスカイピープルとの戦いで扱っている。その漫画は偶然にも三兄弟が拳法を修行し過酷な世界を生き延びるというネテヤム達に似た状況だったという…