パンドラの海は危険に満ち溢れている。
目の前に広がる青く澄んだ海は一見綺麗に思えるが、バカでかい魚だったりバカでかいよく分からん生き物が泳いでいる。呑気にプカプカ浮いていれば下からバクっと喰われてお終い、なんてことがありそうだ。
「海は青いな大きいなー」
「そうですねぇ〜」
「ホントですねー」
パンドラの海を見た俺とヴィーン、そしてキリは太陽の光で煌めく海を巨岩から見下ろしながら言った。キリは海を見るのは今日が初めてらしい。
今はドカンと突き出た3本の岩の柱がある場所で休憩中だ。
休憩といっても出発したのは数分前なんだけど……なんというかヴィーンがエイワに情報をインストールされてから腹が減った減ったうるさかったので、さっきまで焼肉をしていた。
予め船に積んであったWAGYUを取り出し、焼肉セットで焼いて食べた。
最近部族の間で流行っている焼肉セット。大きな合金板と3000℃の超高熱を発する船にも使われるバッテリーを使用して焼肉をする為のセットだ。
なんでも、プレデターにとって大事な
俺の使ってるスピア…ゴンジに貰った頃よりも大分黒くなってカッコよくなってきた。なんというか暗黒の槍みたいでカッコいい。幼少期から今まで使ってきたスピア。サイズがちょっと小さい気がするけど、お気に入りだ。失くしたら泣くかも。
「そろそろメトカイナ族の集落だ!出発するぞ」
「はーい!」
「はい!」
船の中に戻り操縦席に着くとクロークを起動し船を発進させた。
暫く飛んでいると大きな島が見えてきた。島に生える巨大なマングローブのような植物の根に住居が沢山見える。森でいうホームツリーのような場所だろう。
近辺の海にはナヴィがイルに騎乗し泳いでいるのが見えた。
イルはダイヤホースみたいなもんだ。
そしてその中に一際大きい身体をしたナヴィを見つける。そのナヴィが海面に浮上し腕を振りかぶったのが見えた。
ん?
なんか飛んできたぞ!!!
ガァン!と音がなって船のクロークが解除された。あーーー!!!!
アイツ何投げた!?!?
俺は急いで近くにあった岩場に船を着陸させて外に出た。
イルに乗った
そしてイルを踏み台に空高く跳び俺に向かって飛び蹴りをしてきた。
「うおお!!危ねぇな!!」
ナヴィの飛び蹴りを腕で受け止め、返しに腕を振るおうとすると器用にクルクルと回りながら後ろへ跳んで岩場に着地した。そして身構えながら俺に向かって言い放つ。
「誰だ…!」
「おいおいおい落ち着けって!俺は味方だって!」
「トゥク!やめて!」
「ん?トゥク?」
後ろにいたキリが走り俺の前に出て腕を広げた。綺麗でデカい背中だなオイ。
「キリねーちゃん!!」
「ねーちゃん!?」
「エペさぁん!?!?」
今ねーちゃんって言ったか?
おいおいおい!!もう1人いんのかぁ!?
後ろからとんでもない殺気が感じる…か、勘弁して…
トゥクと呼ばれたナヴィが走りキリに抱きつく。
そして驚いていると俺たちの周囲にナヴィが沢山集まってくる。
イルに乗ってくる者やツラックに乗り槍を構え俺やヴィーンに警戒している者もいる。
「エイペックスさん!おい!トゥク!何した!」
「でっかいのが飛んできたから……」
静かに飛んでたつもりだったんだが…気配を察知したのか?
「〈エイペックス!〉」
集団の中からこちらに駆け寄ってくる2人のガタイの良いナヴィが俺の名前を呼び、トゥクに詰め寄った。
「おぉ!!ジェイク!ネイティリ!」
それは約14年ぶりのジェイクとネイティリだった。
なんだかすごい大人になっている。大きくなったな。ジェイクもネイティリも素晴らしい筋肉だ。
「君たちが見える。ジェイク、ネイティリ」
「あなたが見える、エイペックスさん」
「あなたが見える、エイペックス」
ナヴィの挨拶を交わし、2人と握手した。2人の手はゴツゴツしてて力強かった。
「あれはエイペックスさんの…」
「あぁ…ヴィーン!」
俺は船の近くで待っていたヴィーンを呼んだ。
こちらに走ってきて俺の隣にやってくる。
「彼女はヴィーン、俺と同じアヌ族のプレデターだ」
「え〜……あなた達が見えます〜、ヴィーンです!おなしゃす!」
「エ、エイペックスさんにも遂に相手が…」
ジェイクが目に涙を浮かべながら言った。なんで泣いてるん?俺に相手がいるのが珍しいのか!?
「〈偉大なる母の導きでまた会えたわね〉」
「おーおーおーそうだそうだ。船で飛んでたら急にビクッときてよ。変だなと思って此処にきたら酷いことになっててな…大変だったな」
「エイペックスさんから貰った通信機を使っていたんだが、スカイピープルの妨害で届かなかった」
「やっぱりか…星全体を何かが覆ってる。俺も外に通信ができなかった」
ジェイクが腰についた袋から俺がパンドラを去る前に渡した通信機を取り出し見せてきた。
プレデターが扱う通信機の一種で、銭湯にある卓球に使うピンポン玉サイズの金属の玉だ。あらかじめ登録された相手のみしか通信できない代物だが意外と便利でよく知り合いに配ってる。
俺はそれを手に取りガントレットに押し当てて診断を開始した。
履歴やら通信機の状態が俺のマスクに表示される。特に異常はないが、やはり外への通信が制限されている。俺のガントレットもそうだが送受信の電波が全く来ていない。
「何事!!!」
集団が割れナヴィが2人現れた。すごいデジャヴ。
「メトカイナ族の長とツァヒクだ」
ジェイクが2人を見ながら言った。
「〈あなた達が見える。俺はエイペックス、アヌ族のプレデターだ〉」
「〈あなた達が見える。私はヴィーン、同じくアヌ族のプレデター〉」
俺とヴィーンがナヴィ語で挨拶をすると驚いたように反応する2人。
「あなたが見える。私はトノワリだ。随分と流暢なナヴィ語だ」
横にいたヴィーンが驚いたように口を押さえる。やっと気づいたかよ。
「あなたが見える、私はツァヒクのロナル。エイペックス……ネイティリが言っていた祝福の戦士ね。そしてもう1人は…」
ロナルが俺とヴィーンに近づき、モアトがやったように全身をくまなく見ながら俺とヴィーンの身体をペチペチと触っていく。
そして離れ目を見開き言った。
「エイワの祝福を受けている!!!!」
すっげぇデジャヴ……まぁ受け入れてくれるなら良いけどさ。
そんなこんなで俺とヴィーンはメトカイナ族の集落に入る事を許された。
俺の船に石を投げ飛び蹴りを決めてきたのはトゥクティリちゃんといって、ジェイクとネイティリの末の娘だった。
いや…あの…ちょっとオマティカヤ族鍛えすぎじゃないか?聞けばトゥクちゃんはまだ6歳と言っていた。そう6歳だ。6歳で普通のプレデターと同じくらい身長がある。筋肉に至ってはプレデターを凌駕していると思う。将来が楽しみだ。
メトカイナ族は森のオマティカヤ族と全く違う。信じているものはまぁエイワだが、独特の風習というか習わしを多く持っている。
特にその中で彼らの生活を支えているものが『海の道』という教えだ。
俺のその教えを教えてもらい、海での生活を始めた。
そして翌日、俺は砂浜でジェイクの息子ネテヤムとロアク、娘のトゥクティリを相手に戦っていた。
何を言っているか分からないと思うが、ジェイク曰く鍛錬だそうだ。ジェイクとネイティリが座って俺達の戦いを見ている。
「ぐあっ!」
俺は飛んできたネテヤムの拳を手で受け止めつつ反対側の手でネテヤムの手首を掴み、捻り上げながら地面に倒した。その直ぐ後ろから殺気を感じた。頭を下げると頭上に何かが通過した。高速で振るわれた脚だった。
危ねぇ…
当たってたらちょっとヤバかったかもしれない。
瞬時に押し倒したネテヤムの顔に拳を叩き込み気絶させると、脚を振るい一回転したのち、再度蹴りを放ってきたロアクの脚を振り向いて腕でガードした。おぉ…ジンジンきた!!
反対の手で脚を掴み、そのままジャイアントスイングで海に向かって投げ飛ばした。
「グフッ!!」
突如俺の腹に痛みが走り、衝撃で思わず口から唾が出てしまう。すごい威力だ!
腹を見ると、拳が捩じ込まれていた。
俺の表皮にここまで拳を捩じ込むとは大したもんだ。ガッとその腕を掴み持ち上げる。
トゥクの顔を俺の正面に持ってくると、ここぞと言わんばかりに俺に蹴りを放ってくる。
甘んじてそれを受けると反対の手で顔を掴み地面に叩きつけた。
「キャアッ!!」
砂浜が揺れ砂が舞い上がる。
「よし、ここまでだな」
俺は地面に埋まったトゥクを引っ張り出し立たせ、直ぐ横に倒れるネテヤムを担いだ。
おぉ…結構重いなぁ…
ロアクは巨大な鯨のような生き物、トゥルクンに乗りこちらへ戻ってきていた。
トゥルクンは地球でいう鯨のような生き物で、とても頭が良く成熟した個体はナヴィよりも高度な知性を持つという。大きな身体と知性を併せ持つ海洋生命体、気性はとても穏やかで怒る事は滅多にない。小さな魚の群れを捕食して生きていて口の中には牙という牙がない。
太古は縄張り争いで海が血に染まるほど仲間同士で殺し合いをしていたらしいが、学び、考え、暴力など無駄だと判断し断固たる決意で不殺の誓いを立てた。とトノワリが鼻の穴を大きくして言っていた。
ロアクは先日パヤカンというトゥルクンと出会い友情を結んだそうだ。
俺は未だ気絶するネテヤムをジェイクらの側に下ろして、こちらにやってくるロアクを見据えた。
「エイペックスさん、また強くなったな」
トゥクをおんぶするジェイクが言った。重くないか?
「そうか?やってる事はあまり変わらんがな」
「ヴィーンさんもエイペックスさんに負けないくらい強い」
「だろ?だから俺は彼女をパートナーに選んだんだ」
ヴィーンは元気に
あ、あのぉ……どうやって走ってるの?俺に後でやり方教えて?長時間の潜水はできるようになったけど、それは無理だよ?ほら、メトカイナ族のアヌオングとかロッソが大口開けて見てるよ。
ん??
雨か。
ポツポツと俺の肌に雨が落ちてきた。
「帰るか!!」
そう言って巨大マングローブに造られた集落にみんなで戻った。
船の食糧庫から肉を取り出し鉄板を囲って焼肉を食べた。匂いに誘われてメトカイナ族のナヴィがゾロゾロとやってきたので更に食糧庫から肉を出して焼きまくった。ロアクが獲ってきた魚を切り分け鉄板の上に置きムニエルにしたり、ヴィーンが特製フルーツミックスを出したり平和な時間が過ぎていった。
なんか忘れてる気がするけど、とにかく今は飯を食おう。
「あ!おい!ネイティリ!プロテインバーばっかり食うなよ!」
「〈ガー!!うるさい!!もっと寄越せ!!〉」
モアトもそうだけどプロテインバー好きだなお前…まぁいっぱいあるからいいけどさ…
「いいか?」
ワイワイと食卓を囲んでいるとメトカイナ族の長であるトノワリがやってきた。
「おぉ、いいぞ」
「トノワリ殿、俺の隣にどうぞ」
「いや、飯を食いにきたのではない」
トノワリが険しい表情をしながら、海の先、地平線の方を指差し言った。
「スカイピープルだ。君達を捜してる」
ジェイクと俺は立ち上がり外に出る。
「人間か…」
「南でタヌワイ族の集落が襲われた。片言のナヴィ語を喋る
「……誰か殺したのか?」
「まだだ、今は脅してる。だが誰も居場所を言わない。私が…そう命じた」
「噂のアバター部隊だな」
「あぁ…巨大な船で移動しているようだ」
海に逃げたと見当をつけて追ってきたのか。何故バレた?
トノワリは俺達にスカイピープルの到来を告げると自身の家に去っていった。
「マ・ジェイク、あの悪魔共は早く殺すべき!あの時森で殺すべきだった!」
話を聞いていたネイティリが外に出てきて言った。
「ナヴィであれば移動は難しくない、エイワも見過ごすだろう。放っておけばパンドラはもっと荒廃するぞ」
俺は肉を齧りながら言った。そして眉間に皺を寄せ指でぐりぐりと弄りながらジェイクは言う。
「アバター部隊はあの戦いで死んだ傭兵達だった」
「傭兵?死んだのにアバターとリンクできるのか?」
「分からない……かなりの人数がいた。何人かは殺したがそれでも数が多かった」
死んだ傭兵がアバターとなって現れてるってどういうことだ?死んだのにどうやってアバターを操作してる?もしかして…いや、それはありえない。エイワが魂の移動をそんな奴らにするわけが無い。
「……」
「奴らを殺せば居所がバレて、ブリッジヘッドシティにいる軍団から総攻撃を受ける。慎重に用心深くいかないといけない」
俺は今も楽しく肉を食べ談笑している皆を見た。
ジェイクの子供ネテヤム、ロアク、トゥク。グレースの子供キリ。
そしてヴィーン。
俺の腹にチクリと痛みが走った。
もし誰かを喪うような事があれば…
エイワ【パヤカンくん良かったね】