メトカイナ族の集落を訪れ2日ほど経ったある日。
「パパ……」
「ん?どうした?」
「キリちゃん?」
突然泣きそうな顔でキリが俺に声をかけてきた。
ちょっとまだパパと呼ばれる事に慣れてないけど、結構良いなぁ…この感じ。
「エイワが泣いてる…」
「え?エイワが?」
「感じる……」
だ、大丈夫か?エイワが泣いてる?
キリが俺とヴィーンがいる船から静かに出ていく、ヴィーンを残し、それについていくとキリが海を指差した。
「あっちに何かあるのか?」
「分からない…でもとても悲しいの…何かが起きてる」
「お、おおおう…ちょっとちょっとそんな泣かないでくれ、ほら飴あげるから」
キリが瞳から涙をボロボロと溢し、海辺に蹲った。俺は直ぐに近づき背中を摩ってやると、腰帯についた小袋に手を突っ込んで金色の袋に包まれた飴を取り出した。
ヴェルターズオリジナル。
俺が1番大好きな飴だ。成人した日に人間の街で見つけたこの飴。マジで美味くて最高だ。モリーも好きだったなぁ。
「飴?」
「そうそう、悲しい時は甘いもの舐めてりゃ元気になる」
「ありがとう…パパ」
パパかぁ〜〜〜。
キリが包みを破り、飴を口に放り込んだ。
俺はそれを見た後船に戻り、キリが指した方へ船を飛ばした。
どんよりとした天気が気分を暗くさせる。空は厚い雲に覆われ、ポツポツと雨が降っている。
エイワが泣いていた。キリはそう言っていた。エイワが泣く程の悲しい事とは一体なんだろうか?
なんだか妙な胸騒ぎが海を進むうちに大きくなってくる。
海の上を進んでいくと巨大な魚の群れが海上に集まっているのが見えた。その中心には橙色の浮袋が見える。
巨大な魚はトゥルクンだった。
船を海の上に下ろし浮かばせると、船の上によじ登り先端でしゃがんだ。そして中心に浮いていたものを見た。
「おいおい…」
「酷い…」
俺はトゥルクンが囲う中心にあったものを見て絶句した。
生体反応はない。心臓も動いていない。完全に死んでいるもの。
それは死骸だった。トゥルクンの
「トゥルクンを狩ったのか」
橙色の浮袋が身体の四方に刺さり沈まず、そしてその横には
トゥルクンは決して戦わない。遥か太古の時代に縄張り争い、そして復讐によって海が血で染まる程の争いを行なっていたトゥルクンは、殺しが殺しを生み出すと気づいた。そして負の連鎖を終わらせる為に一切の不殺を誓い長い時を生きてきた。
母親は子供がいても、もし…襲われても逃げるだけで反撃をしてこない。掟が誓いがあるからだ。
殺しはまた新たな殺しを生む。
そのたった一つの考えが、今俺の目の前に広がる光景を生み出してしまった。もしすぐに逃げていれば……すこしでも反撃していれば……
トゥルクンはただ殺されただけなのか?下腹部が内部で爆発して見るも無惨な状態になっている以外は一点を除き綺麗だった。頭蓋に真っ直ぐと伸びる筒状の穴が見える。その先には脳が見え、脳の髄液が抜き取られていた。それと下方の鰭に赤い銛のようなものが刺さり電波を発している。発信機か…?
「一体何の為に…?」
「うぅ…かわいそうに…酷すぎるよ」
俺達プレデターも狩猟を行う。
訪れた星の最も強い生物、頂点捕食者を見つけ戦いを挑む。誇りや名誉を重んじ、戦う意志のある者だけを狙う。武器を持たない者、病気の者や余命いくばくもない者、そして新たな命を宿す者は決してこちらから狙わず、もし……殺す気で攻撃してくれば全力で殺す。戦うと決めた意志を尊重するからだ。
だが……これはないだろう……母親と産まれたばかりの子を殺すなど……
「きたか……」
気配を感じる。
振り向くと、後方からツラックに乗ったナヴィが見えた。ジェイクとネイティリ、そしてトノワリとロナルだ。
ジェイクとネイティリが近づき俺に声をかける。
「エイペックスさん…!こ、これは!!!!」
「ジェイク…俺達が来た時にはもうこうなっていた。キリがエイワの声を聞いたんだ」
「キリが?」
「あぁ、エイワが泣いていると」
「なんということだ」
トノワリの怒りが混じった悲壮な声が聞こえる。
そしてロナルがツラックから降りて海面を泳ぎ死したトゥルクンに近づき触れた。
「あ、あ、ああああああああああああ!!!!!!」
ロナルがトゥルクンに触れ泣き叫ぶ。触れたトゥルクンの目はグルンと上を向き虚だった。
「名前はロアだ」
トノワリがギリギリと歯を食い縛りながら死んだトゥルクンの名を言った。
「私の“魂の姉妹”……!!歌を紡いでくれた。敬愛されてた。一緒に歌った。何周期も待ってこの子を産んだ。みんなで喜びを分かち合ったのに…」
「ぐっ……」
「なぜなのトノワリ!!!!!なぜこのようなことが!!!!!」
ロナルの悲しみが海に広がる。
「沈ませてやろう」
俺は一言そう言った。それしか言えなかった。
ジェイクが俺に近づき言った。
「これは罠だ。俺達を誘い出すための…その為だけにトゥルクンを」
ロナルの魂の姉妹ロアと子を弔ったあとメトカイナ族の集落に戻った。
集落の中心地にナヴィ達が集まった。トノワリが集めた。戦士は武器を持ち怒りを滾らせている。俺とヴィーンは後方で座りそれを見ていた。
「魂の姉妹とその赤ちゃんがスカイピープルに殺された!!」
「ウラァ!!!もはや戦うしかない!!!奴らは狩っていた!トゥルクンを!だが水平線の彼方の話——今や目の前に!!!ラァ!!!」
ロナルが叫び、トノワリが槍を地に叩きつけ吠え、メトカイナ族のナヴィの目に復讐の炎が灯る。戦士でない者達、ツィレアはトゥルクンを殺された悲しみ、そして同胞たるメトカイナ族がここまで怒り狂うのを目にし涙を浮かべている。
ネイティリ、ネテヤム、ロアクはそれを固唾をのみ見ていた。そしてトノワリの下にジェイクが向かい声を上げる。
「いいか!みんな!奴らは気にしてなんかいない!自然の調和など全て無視して破壊し奪いにくる!守るには――戦うしかない!!!!」
「うおおおお!!!奴らと戦うぞ!!!ラァ!!!」
「トールク・マクト!!!!」
広場が熱狂に包まれる。
「エペさん……」
「………もう誰にも止められない。始まるぞ、戦いが…ん?」
ロアクが集団から外れ出ていった。どこへいくつもりだ?
それに気づいたのは俺だけでなく、ネテヤムも気づき後をついていく。
「ヴィーン」
「うん?」
ヴィーンの肩をつつき、ロアクを指差す。
「ロアク君どこいくんだろ?」
「いくか」
「うん」
俺とヴィーンは立ち上がり、未だ熱狂する広場を出た。メトカイナ族の怒りはピークに達していた。
広場から出てこっそりロアクについていくと、ネテヤムと何か言い争い海へと飛び込んでいった。そしてイルに跨り颯爽と海を泳ぎ離れていく。俺はネテヤムに駆け寄り何があったのか聞いた。
「ネテヤム!どうした」
「エイペックスさん、ロアクがパヤカンのことが心配だからと…」
「パヤカン…ロアクと絆を結んだトゥルクンか」
「はい……」
パヤカン、ロアクが友となったトゥルクン。
パヤカンは海の民や周辺のトゥルクンから『除け者』『殺し屋』と蔑まれているトゥルクンだった。トノワリによればパヤカンは
だが真実は違った。パヤカンと絆を結んだロアクは見た。パヤカンの記憶をだ。
パヤカンの属する群れが人間に襲われた。そしてナヴィと共に復讐をした。それが湾曲して、生き残ったパヤカンの過ちとして伝わってしまったというのが全てだった。しかし、トゥルクンの間では復讐ですらも禁忌だ。除け者になってしまうのは仕方のないことでもあった。
「ロナルの魂の姉妹がスカイピープルにやられた。パヤカンも狙われると思ったのか」
「恐らく…」
「いくぞ、場所の見当はつくか?」
「三兄弟の岩でいつも会ってます」
「よし」
ネテヤムの肩を叩き、船を指した。共に走って船に向かうと、そこにはキリとトゥク、そしてトノワリの息子アヌオングがいた。
「ロアクがリーフの外へ向かった。パヤカンだ」
「いきましょう!」
皆を船に乗せ、離陸して三兄弟の岩に向かった。
一方その頃――
エイワによって愛という名の洗脳を受け、人類を裏切ったクオリッチと3人のリコンビナントはブリッジヘッドシティで密かに様々な工作を行なった後、RDA社がアンオブタニウムに替わる新たな稼ぎ口をアードモア将軍が紹介してくれるというので、渋々ついていった。
ヘリに搭乗し、時間にして30分程海の上を飛び見えてきたのは巨大な船だった。
甲板の着陸エリアに降り立ちヘリから船に移った。
そのクオリッチ達の傍には人間の子供がいた。この子供はヘルズゲートで産まれ今日まで育った
人間の子供、スパイダーと呼ばれた少年は最初クオリッチ達に反抗的だったが、クオリッチ達の真摯にパンドラやナヴィ、そしてエイワに向き合っているのを感じ心を許すまでに至っている。……まぁクオリッチ達のこの真摯な向き合い方というのはエイワによる
「将軍、ここまでパンドラを開拓できたのはこれのお陰ですか」
船の貨物庫に移動し、そこに厳重に保存されている物を見てクオリッチが言った。
「そうだ、アンオブタニウムという金属は採掘までに森を切り拓いたり大地を採掘やらと様々な工程が発生し、更に原住民の反抗や鉱石から発せられる磁力の影響で多大な費用がかかってしまう。それに対して
アードモア将軍がそう言って手に取り見せてきたのはカプセルに入った黄金色の液体だった。
「これが……」
クオリッチはそれを見て何故だか分からないが猛烈に悲しくなり、沸々と怒りが湧いてくるのを感じた。
隣にいたウェインフリートにいたっては一筋の涙を流し、鼻を啜っている。
「これ一本で8000万ドルの価値がある。――アムリタ、たった一滴で老化を止めると云われている。地球のお偉い方が血眼になってこれを求める」
「……なるほど」
アードモア将軍がカプセルに光を当て眺めていると、部屋に小汚い太った男と眼鏡をかけた男が入ってきた。
「将軍!来るなら事前の連絡が欲しかったな!さっき漁をして終わったところだった!」
「そうか、それは残念だったな。だが海にはまだ幾らでもいるだろう。滞在中にでも見させてもらおう」
「追加費用が掛かりますよ?」
小汚い男がニヤニヤしながら言った。
「ふむ、大佐—この男はこの船の船長だ。トゥルクン漁の全権を担っている。パンドラの経費は全てこの男と此処にいる者達が産み出しているのだ。お前やお前の装備の費用もな」
アードモアはクオリッチの装備する小銃や装備を指し言った。クオリッチは未だそのトゥルクン漁というものの全容を理解できていないが、あの黄金色の液体を見てから、ストレスがマッハで溜まり小突かれただけで大噴火を起こす活火山並みに怒り狂っていた。なんとか堪えているが、もしこれが何から取れたのか本当に知った時、もう誰にも止められないであろうと感じていた。
「将軍、相談なんですがね…もう一隻同じ船を……おっと!」
小汚い男、スコーズビーが何かを言おうとしたところで船内にアラームが鳴った。
「金を見つけたみたいでっせ!将軍…運がいいなぁ?」
「そうか」
そう言って船内を移動し、船舶上部にある司令室に向かった一同は移動し続ける船の先に何がいるのか知ることになる。
「あれがトゥルクンだ」
スコーズビーが指差す。
巨大な海洋生命体。人よりも高度な知性を持ち、そして莫大な金を生み出す金のなる木。
片方のヒレが損失しているトゥルクンが逃げるように泳いでいた。
エイワ【それはアカンて】