多分絶対違うだろうけど!
掟無き狩人の星
やあ、久しぶりだね。宇宙には様々な星があるのは知ってるね?
遥か彼方、銀河の端っこ。そこには、見てはいけない星がある。
名を《バッドランズ》。
いや、名なんてないのかもしれない。ただ、ヤウジャ(そう、君たちの言う“プレデター”)の間では、こう呼ばれている。
――“掟を破った者が墜ちる星”。
まず話そう。プレデターの掟ってやつを。
この種族、見た目こそ恐ろしく、獰猛極まりないが、意外にも中身は礼儀正しく、誇り高き狩人たちだ。武器は洗練され、技術は千の文明を超えている。けれど、その進歩の先にあるのは常に「狩り」、ただそれだけ。
だがな、狩りにはルールがある。狩るべきは“強き者”、そして“戦う意志のある者”のみ。戦士の証を刻み、名誉を重ね、敬意をもって獲物と相対する。
非武装の者? 妊婦? 子供? そんなものは狩らない。
獲物を弄ぶ? 仲間を裏切る? 快楽のために殺す? そんな行為はすべて――
“掟破り(バッドブラッド)“と呼ばれる。
そうした者たちは、仲間とはみなされない。誇りある狩人の列からはじき出され、死よりも恐ろしい報いが待つ。
――それが《バッドランズ》という星だ。
遠い昔、ある高位部族の
以来、無数の裏切者、狂人、戦闘中毒、敗北者、そして……“暴れすぎた英雄”までもが、この地に送り込まれてきた。ふふ…暴れすぎた英雄ね…
そして今、この死の星には数百年分の罪が蓄積している。巨大な猛獣のような地形、死をも喰らう獣、焼け爛れた空、血を吸う大地――そして、掟なきプレデターたち。
ここでは、名誉なんて鼻で笑われる。
力がすべて。暴力が支配。
元は囚人だったはずの幾人かは、看守すらねじ伏せ、いまや星の王面して牙を剥く。新入りの皮を剥ぎ、死体を吊るし、笑いながらトロフィーを奪い合う。血と鉄と憎悪が支配するこの星に、理など存在しない。
だが――そんな地獄の底にも、ひとつの火種がある。
掟の外で生まれ、掟に触れずに育ち、ただ”生き残ること”だけを信じてきた若き狩人。
父を殺され、母を知らず、飢えと怒りの中で20年を生き延びた”異端の子”。
バッドランズで、ひときわ異質な“純粋な怪物”。
名はまだない。だが、やがてこの星の誰もがその名を知ることになる。
なぜなら、彼は「復讐」しか知らないからだ。
さて――君は知ってるかい?
ヤウジャの掟ってやつは、なによりも“血”にうるさい。
生まれは誰か、どの部族か、何の目的でその子が存在するか……全部が秩序の一部でね。
でも、ときどき“妙な芽”が生えるんだ。そう、誰にも知られず、誰にも望まれず、それでも勝手に芽吹いてしまう命が。
今回の話は、まさにそんな芽から始まる。
場所は――言うまでもない、《バッドランズ》。
罪人と裏切り者が投げ捨てられる星。空は黒く、風は骨を削る。ここで命を得るなんて、冗談みたいだろ?
でも、いたんだよ。掟破りの“二人”が。
女は元・戦士階級、気性は荒いが、妙に面倒見がいい。
男は追放された技師。戦いは弱いが頭は切れる、そして妙にロマンチスト。
そんな二人が、バッドランズの裏谷で密かに交わった。
――結果? まあ、当然と言えば当然だ。命が宿った。
そして、産まれた。
その子は、泣かなかった。いや、正確には――周囲の音がうるさすぎて、泣く隙もなかった。
雷鳴が岩を割り、獣の遠吠えが山脈に反響する中、母は静かに産み落とし、すぐに息を引き取った。
理由は簡単、出産に耐えるには星の環境が過酷すぎたのさ。
父は――ああ、奴はよくやったよ。傷だらけになりながら、まだへその緒も切れていない我が子を抱いて、崖を越え、洞へ走った。
バッドランズで“親になる”なんて、なかなかの勇気だと思わないか?
だが、そんなロマンも長くは続かない。
ちょうど三年、いや、地球暦で言うところの三年だな――看守が来た。白い髪、鋭い爪、冷たい目をしたプレデター。
“あれ”はただの看守じゃない。
裁く者でもなく、罰する者でもない。ただ、壊す者だ。
「掟違反の繁殖を確認、即刻、抹消対象」
それだけ言って、父の首を刎ねた。
子は、見ていた。
血の匂い。焼け焦げた肉。空気を裂く金属音。そして、白い髪が月光に煌めいたあの瞬間――
それが、この物語の始まりさ。
その子が名前を持つのは、もう少し先の話。
だがこの時点で、彼にはすでにひとつの“意味”があった。
それは、「生まれてはいけなかった命」――
だが、そんなこと、星も獣も関係ありゃしない。
生まれたら、喰う。喰わなきゃ、喰われる。
それがバッドランズのルールであり、この子の、最初の掟だった。
さてさて、君は「プレデター」と聞いて、どんな姿を思い浮かべるかな?
ドレッドヘアの巨体? 重厚なバイオマスク? 肩から火を噴くプラズマキャスター? もちろん、それも正解だ。だけどね、ヤウジャってのは“ひとつの顔”じゃないんだ。
彼らには部族がある。文化がある。
獣の皮を纏う者もいれば、神を信じる者もいる。気性の荒い戦闘種族もいれば、寡黙で老練な知識階級もいる。
そして、滅びかけた“異端の血族”も、ね。
ブラド族。
聞いたことない? そりゃそうだ。ほとんど絶滅したから。
特徴は、赤い肌。そして……“適応しすぎる”体質。
酸素が薄い星でも呼吸できる。毒を喰っても死なない。再生が異常に早く、怪我の箇所が日に日に強化されていく。まるで、星そのものに進化で応えるかのような奇妙な種族さ。
だが、あまりに異質だった。
部族社会に馴染めず、「混じりすぎた血」として追われた。
――そんな血を、例の子は持ってたんだ。
皮膚は赤く、目は金。腹をすかせ、洞に隠れ、獣の骨を舐め、泥水をすする。そんな幼年期を誰が想像できる?
けれどね、強かった。笑っちゃうくらいに。
最初に喰らったのは小型のアッシュレオパード。背丈の二倍ある黒いトカゲだ。普通なら子供の骨ごと飲み込まれるところを、石の破片で目を潰し、喉を裂いて、血の温度を感じながら食った。
それが“彼の初めての狩り”だった。
言葉も、技術も、仲間もない。
学んだのは獣の動きと風の匂い、岩の熱と空の色。
生きるとは、喰うこと。喰うためには、追うこと。追うには、考えること。
この星は、学校なんてないけど、ちゃんと“教師”がいるんだ。
雷だ。火山だ。獣たちの悲鳴と、敵の牙。すべてが教えてくれる。
十歳にもなる頃には、背は大人に届き、筋肉は鋼のように締まっていた。
武器? 拾い物さ。折れたブレイド、壊れたマスク、焦げたネットランチャー。
それでも奴は、使いこなした。自分の爪で研ぎ、骨で補い、血で磨いた。
やがて、ほかのバッドブラッドたちも囁き始める。
「あの赤いヤツは、死なねぇ」
「昨日もまた一人消えた。あいつの縄張りでだ」
「名は? いや、誰も聞いてねぇ。ただ……喰うんだ。生き延びてる」
星は見ていた。
その獣が、まだ子供なのに、何十の罠を見破り、牙を噛ませず、罠師すら“獲物”に変えたことを。
“喰う子”。“死なない赤”。“獣の顔をした人間”。
呼び名は増えたが、本人には関係ない。彼にとって、それは“音”にすぎなかった。
彼が唯一覚えているのは――
あの日、父が殺される直前に見た“白い髪”。
あの瞬間だけは、忘れなかった。夜空が赤く染まり、血が熱を持ち、心臓が爆ぜた音だけは、身体に焼き付いている。
それが、彼の“核”だ。名前も、言葉もないが、あの光景だけは、魂にある。
――そんな彼が今、20年目を迎えた。
バッドランドの空は、今日も黒い。だが、その黒の下にいる赤い影は、すでに“獣”ではない。
牙を知り、知恵を持ち、武器を生み出し、喰うべき“何か”を探している。
そして、あの白い髪の看守が、まだこの星にいることを、彼は知っている。
なぜ知っているかって? そんなの、空気の匂いだ。風に混じる“あの頃の血”の臭いが、消えていない。夜になると、山の向こうから風が吹く。金属の焼けた匂いと、冷たい獣の視線が混ざる。――彼は知っている。あの白髪のヤウジャは、まだどこかで笑っている。
それだけが、彼の時計だった。
そして、二十年。
赤子だった彼は、いまや立派な“獣の青年”だ。
とはいえ、この星じゃ“成人式”なんて洒落たイベントはない。
誰も花束をくれないし、祝辞もない。トロフィーを掲げてくれるエルダーもいないし、部族の仲間が背中を叩いてくれるわけでもない。
でも――それでいい。彼には必要なかった。
彼は、ただ一つだけの儀式を自分で決めた。
“名”を持つこと。
そう、自分自身に、名を与える。それはこの星で育った彼にとって、唯一の“誕生日ケーキ”だった。
彼は岩に腰を下ろし、骨ナイフを手に取った。
古いマスクの破片に、自分の呼び名を刻む。誰に呼ばれるでもなく、誰に伝えるでもなく、ただ――
【デク】
そう刻んだ。
理由? ああ、それは……さあね。もしかしたら風の音か、昔見た亡き父の目の光か、それとも最初に喰った獣の叫びかもしれない。けれど、彼にとってはそれが“しっくりきた”んだ。
「オレはデクだ」
初めて発した言葉。声帯が震え、喉が痛み、耳に返ってくる音がくすぐったい。
その瞬間、彼の中で何かがカチリと鳴った。
誰かの息子でもない。罪人の子でもない。赤い肌でも、異端の血でもない。
オレはオレだ――そう言える力を、彼は手に入れた。
そうしてデクは立ち上がる。
マスクの破片を腰に差し、リストブレイドの残骸を腕に括り付け、地を蹴った。獲物の臭いが漂ってきている。多分、旧式の看守ドローンが誰かを追っているか、あるいは誰かが何かを殺した匂いだ。
だが今日は違う。今日のデクは、獲物じゃない。
今日の彼は、獣の顔をした――狩人だ。
名を得た者が、次にすべきことは決まっている。
狩ること。そして、生き延びること。
そしていつか――
あの白い髪の看守を、この手で裂くこと。
空が曇る。雷が走る。風が唸る。
バッドランドは、今日も容赦がない。でも、デクの眼にはもう怯えも迷いもない。
あるのはただ、前へ進む牙だけだ。
そう決めたら、デクは動くのが早い。
岩陰に隠れて唸るなんて、もう卒業さ。星の中で獣を喰らい、獣に喰われず、名を得た彼にとって、迷いなんて邪魔でしかない。
さあ、出発だ。目指すは、あの場所――
看守たちの砦。
バッドランドの中心部、腐ったクレーターの上に築かれた鉄と骨の城塞。もともとは“監視拠点”だったとか、“死刑場”だったとか……まぁ諸説あるけど、今や立派な“悪の巣窟”だ。
到着してみりゃ、予想以上だったよ。
そこには彼の知っている“看守”だけじゃなかった。
鋭利な鎧を纏った巨体のプレデター、片腕にガトリングブレードを巻いた歪な兵、マスクすらつけない禍々しい顔の双子たち……そう、まるで“王を守る兵隊”のように、異形の連中がずらりと並んでいたんだ。
そして、その中心にいたんだよ。
白髪のヤツが。
あの夜、父の命を奪い、幼い彼の記憶に“裂け目”を作った存在。
あの目、あの爪、あの静かな殺意――変わっちゃいない。20年経っても、星の空気に染まらず、まるで異邦の刃みたいに、そこだけが冷たく澄んでいた。
デクは、迷わなかった。
叫びもせず、名乗りもせず、ただ足を踏み出した。
骨の床を蹴り、鉄の柱を駆け上がり、風を裂いて飛びかかる。
最初に迎え撃ったのは、王の兵たち。
だが彼はそれを“敵”とは思わなかった。目に入っていなかったのさ。
彼の目は、白い髪しか見ていなかった。
兵の一人の頭をすれ違いざまに裂き、次のやつの肩に膝を叩き込み、吹き飛ばした。リストブレイドがない? 問題なし。骨ナイフで頸椎を裂けばいい。マスクも視界もない? 気配で読める。
そしてついに、白髪の前に立った。
互いに一言も発さず。
ただ、睨み合う。
そして――衝突。
ああ、言うまでもない。
白髪のヤツは、やっぱり“ただの看守”じゃなかった。
動きが異常だ。
バイオマスクを着けていないのに、すべてを見ているような動き。斬ったと思えば消えて、踏み込んだ瞬間に横にいた。デクの爪が空を裂くたび、ヤツの剣がデクの脇腹を裂いていた。
一瞬。本当に一瞬だった。
気づけば、デクは地面に膝をついていた。
肩から血が吹き出し、足がもつれ、骨がきしんでいた。
デクは歯を食いしばる。身体が命令を聞かない。でも、まだ……まだ目だけは閉じなかった。
ヤツは言葉を発さなかった。ただ一歩、静かに近づいて、足元のナイフを一瞥した。
まるで、こう言っているようだった。
「その牙では、まだ足りん」
そして、背を向けた。
トドメは刺さなかった。
あぁ……悔しかったろうな。
あれは、負けじゃない。圧倒的な“否定”だ。
存在そのものが、「お前など眼中にない」と言っていた。
でも――デクは、笑った。
血まみれの顔で、ぐしゃっと、口角を吊り上げて。
なぜかって?
負けを知った瞬間こそ、獣が“戦士”に変わるときだからさ。
そして物語は、まだ終わっちゃいない。
デクは……逃げたんだよ。うん、間違いなく“命からがら”ってやつだ。
肩は裂け、内臓はズレ、呼吸は石を飲み込んだみたいに苦しい。
でも、足だけは動いた。星が彼に“まだ終わるな”とささやいてた。岩肌を這い、火山灰の窪地を転げ、獣道を逆走する。
逃げることは……恥? ああ、普通ならね。部族の誇りを重んじる者なら、「逃げる=敗北=死に値する」って思うだろうさ。
でも、ここはバッドランズ。
誇りじゃ死ねない。怒りじゃ喰えない。名誉? それで腹は膨れない。
この星にあるのは――ただひとつ。
「最後まで生き残ったやつが勝者」っていう、シンプルで残酷なルールだ。
だからデクは逃げた。逃げるのが、正解だった。
そしてその途中、ヤツが“落としていった”ものを見つけた。
白い髪のプレデターが、地面に突き刺していった剣。
――エナジーソード。
あれは“挑発”だったのかもしれない。「欲しけりゃ奪ってみろ」ってな。
でも、デクは遠慮なんてしない。迷わず手を伸ばした。
握った瞬間、刃に走るエネルギーが腕にまで焼きついた。
でも、手は離さなかった。
それは“痛み”じゃなかった。
それは、彼の中に眠っていた“刃の記憶”を呼び起こすような感触だったんだ。
そして彼はまた走った。
いや、逃げたって言っても、もうあれは“退却”じゃない。
“次に勝つための戦略的撤退”ってやつさ。そう呼んでやってくれよ。
そこから、彼はまた“牙を研ぎ始めた”。
以前のようにじゃない。もう“ただ生きる”だけじゃ足りない。
“狩るために生きる”でも足りない。
――“倒すために喰う”。
それが、今のデクの目的だ。
石を裂く爪を磨き、刃を握る筋肉を鍛え、あのソードを振るう感覚を何度も繰り返した。岩を斬り、木を斬り、夜を斬り、風を斬った。
あの敗北は、屈辱じゃない。
それは、“入口”だった。
復讐はまだ果たせていない。
でも、牙は確かに――鋭くなった。
白い髪のプレデターよ、聞こえるか?
お前が見下したあの“赤いガキ”は、もうただの獣じゃない。
今に見てろ。
次に会う時は――その首、もらい受ける。
そうして、赤き狩人《デク》の物語は、ここから始まったんだ。
バッドランズに、風が吹いた。
重たい硫黄の匂いが渦を巻き、黒雲が蠢く空の下――ひとつの影が、静かに星の地表へ降り立った。
地面が呻いた。岩がひび割れ、獣たちの鳴き声が一瞬だけ止んだ。
空気が、重力ごと変わるような気配。
そこにいたのは、ひときわデカい――いや、“異様にデカすぎる”プレデターだった。
「ここがバッドランズかー!!ウホ!」
そう叫んだプレデターの声が、星に反響した。
え? プレデターが“叫ぶ”って聞いたことないって? まあな。でも、こいつは違うんだよ。ルールも、常識も、空気も、全部ぶち抜いてやって来た。言うなれば――“超級規格外”。
名は、エイペックス。
頂点を意味するその名は、決して伊達じゃない。
ぶっとい腕に、ぶっとい脚。胸筋がこれでもかってほどせり出し、背中は鬼でも泣いて逃げるレベル。ドレッドは風に揺れ、赤黒く変色した牙が、星の野生を圧している。
本人にその自覚が一切ないのが、また恐ろしい。
「ふむふむ、あの谷が拠点って感じかな? よし、とりあえず走るか」
そう言って、ドシンと地面を蹴った。
次の瞬間、巨体が空を裂く。ありえない速度。――え? バグ? いや、違う。これが奴の“通常”だ。
地面に足をつけた時、その爆風で近くの岩が吹き飛んだ。
鳥獣たちが一斉に逃げ、木々が震え、近隣に潜んでいたバッドブラッド数名が「な、なんだ今の!?」と泡を吹いて転倒する始末。
バッドランズは、基本的に“猛者しかいない”星だが……
この時、彼らの脳裏に「格が違う」って言葉が初めて浮かんだのは、ある意味、正しい反応だった。
エイペックスは気づかない。
誰もが自分を見て怯えていることに。
彼の目的は、ただ一つ。
「なんか面白そうな奴、いるって聞いたから来たけど……さて、どこにいるのかなー?」
と、ウキウキした口調で谷に向かう。
その背には友から譲り受けたスピアが光り、腕にはリストブレイド、腰帯にシュリケンディスク、セレモニアルダガー、が装備されていた。
フル装備、笑顔、脳筋、記憶喪失気味――
だが、その一歩一歩が“災害級”。
そしてバッドランズは、気づき始める。
この星に――とんでもねえヤツが、また一人来た。
続くか不明!!!!