Disney Plusでプレデター最凶頂上決戦という新作アニメが配信されたんですが……めちゃくちゃおもろいので皆さん観て下さい。エイペックスくん並みにデカいプレデターとか出てきます。
バッドランズの中心部近く、陽の届かぬ湿地帯に、それはあった。
《吊るし場》。
ねじれた巨木の枝が、天に向かって異様な角度で絡み合い、その節々には金属片や布切れ、あるいは乾ききった死体の残骸がぶら下がっている。
その一番高い位置に、ひとりの女が吊るされていた。
金色の短髪。色素の薄い肌。首筋や手首には緑褐色の蔓が絡まり、まるで植物に“捕食”されるように宙に浮いている。
目は見開かれていた。
だが、瞳孔は白く濁り、生気のない死人のように見えた。
風に髪が揺れる。死んだ木々が軋む。
周囲は音もなく、彼女を取り巻く世界は完全な“停止”状態にあった。
だが、次の瞬間――
彼女の両目に、光が灯る。
その白目の奥に、青い円形の発光体が浮かび上がり、中央には楕円のエンブレム――
ウェイランドユタニ社のロゴが、はっきりと輝いた。
「……システム、再起動開始」
女の口が動いたわけではない。だが、その体内から、電子的な音声が低く発せられる。
同時に、首がわずかにビクリと動いた。
次いで指先、そして足首。コードに吊るされていたその身体が、少しずつ、生き物のように“蠢き”始めた。
「応答信号……探索中。センサー障害……深部記憶領域:欠損」
女の身体が痙攣するように跳ね、コードが軋み、そして――
“ブチィッ”
束ねられていた蔓が断ち切られた。
女は頭から地面に落ち、濡れた土に激しく叩きつけられる。
泥にまみれた身体をゆっくりと起こす。
だが、彼女の表情には苦痛も焦燥もない。ただ、空虚と機械的な冷徹さがあるだけだ。
「現在位置……不明。ログ参照……座標:一致なし。地理記録:消失」
女は立ち上がる。だが、その動作にはどこかぎこちなさがあった。
機械としての体は動く。けれど、自分が“誰なのか”という情報が存在しない。
それが、何よりの異常だった。
「……私の……任務は?」
誰に向けたものでもない声が、森の中に虚しく響いた。
「……なぜ、ここにいる……?」
彼女は両手を見つめる。
焼け焦げた袖口から覗く関節部には、ナノ加工された合金の骨格が露出していた。
見慣れた構造。記録に残された設計。
そう、私はアンドロイドだ。人間ではない。
それだけは確かに“理解している”。
けれど――
「私は、なぜここに?」
その問いに、内部のデータベースは沈黙したままだった。
音もなく、一歩、足を踏み出す。
地面の土を踏む感触。湿気、腐臭、僅かな振動。
センサーは正常に起動している。すべての感覚は“整って”いる。
なのに――何も思い出せない。
まるで、意図的に削除されたような空白。
その感覚に、彼女は確信した。
自分には“抜け落ちた記憶”がある。
そしてそれは――
この星にいる“誰か”によって、そうされたのだと。
「……記憶回復……優先目標に設定」
冷たい瞳が、森の奥を捉える。
熱源反応、微弱。プレデター由来の接触記録……遠距離からの観測可能性。
彼女は、歩き出した。
自分が誰なのかを知るために。
なぜここに来たのかを確かめるために。
そして、今も生きている“任務”が何だったのか――それを探すために。
彼女は歩き続けた。
足元を濡らすぬかるみ、吹き荒れる毒の風、皮膚を焼く濃縮された太陽光――それらをすべて無感動に受け入れながら、ただ黙々と歩いた。
幾日が過ぎたのか、自身のクロノメーターにも記録はない。
何度か“獣”に遭遇した。牙の生えた虫のような生物。突如地面から現れた多脚の爬虫類。
そして、時折、プレデターたち――だが、それらは皆、どこか“狂って”いた。
泥にまみれ、血走った眼で訳の分からぬ言葉を呟きながら彷徨うその姿は、まさに“落ちた戦士”たち。
彼女は接触を避け、ただ静かにその群れを抜けていった。
そして、湿地帯を抜け、瘴気の濃い黒森を越えたその先――
開けた岩場にたどり着いた。
風が強く吹いていた。空は濁り、遠くで雷鳴が響いている。
そんな中、彼女は二つの熱源に気づいた。
視線を上げると、そこに――ふたりのプレデターがいた。
ひとりは、未だかつて見たことのない巨体の個体だった。
身長は優に三メートルを超え、肩幅も、腕の太さも、人間とは比べものにならない。
全身の筋肉は、過酷な重力下で生まれた彫刻のように盛り上がっており、しかし防具は極めて簡素だ。
両腕には金属製のガントレット、腰には獣革を編んだ防具と金属の武具。
それ以外は、網タイツと顔に装着された無骨なバイオマスクのみ――
まるで“自分の肉体こそが鎧だ”と誇示しているかのようだった。
隣にいたのは、それよりは一回り小さい個体。
だがその赤い肌と、明らかに鍛え抜かれた筋肉の張り、鋭い視線がただ者ではないことを物語っていた。
鈍い金色の瞳が、マスクをつけていない顔面から、まっすぐに彼女を射抜いてくる。
長いドレッドヘアは後ろで束ねられ、腰には一本の刀のような武器を携えていた。
防具はそちらも簡素な造りで、戦闘のためだけに磨き上げられた肉体を包んでいる。
その赤い肌のプレデターが、一歩前に出て身構えた。
その瞬間、空気が張り詰める。
視線の交差。武器を抜くか、声を発するか――そのわずかな分岐が、命運を分ける。
しかし、先に言葉を発したのは、巨体の方だった。
「ん? お前……アンドロイドか?」
低く、しかしよく通る声だった。
問いは彼女に向けられたが、その声音に敵意は感じられなかった。
だが隣の赤い肌のプレデター――“デク”は、なおも警戒を解かない。
わずかに腰を落とし、利き手を柄に添える。
何かあれば一息で間合いを詰め、首を斬る構えだ。
「……待て、デク」
巨体のプレデターが穏やかに片手を上げて制した。
そして再び、彼女へ向き直る。
「おい、そこのアンドロイド。話、できるか?」
女は、ほんのわずかに顔を上げた。
金髪が風に揺れ、露出した義眼が青く光る。
“彼ら”の言語は、断片的な記憶と語彙インデックスから翻訳可能だった。
しばしの沈黙。
そして、電子的なフィルターを通したような、だがどこか柔らかい声で、彼女は答えた。
「……可能よ。私は……通信可能なアンドロイド」
次の瞬間、赤い瞳がわずかに細まった。
風が、血の匂いを運んでいった。
バッドランズに来て――数日が経った。
いやぁ……楽しいなこの星。
来る前は「バッドブラッドのゴミ捨て場」なんて言われてたけど、蓋を開けてみりゃ、どうしてどうして。
頭のおかしなプレデター、改造されたゼノモーフ、毒持ちの鳥、牙の生えた木、話の通じないデカい虫……
どれもこれも俺の心を躍らせるようなヤツらばかりだ。
それと、やっぱり――デクだな。
赤い肌の狩人。
体格は俺よりも一回り、いや二回りくらい小さいけど、芯がある。動きも鋭いし、剣術においては完全に自分のスタイルを持ってる。
よくぞまあ、あんな過酷な星で生き抜いてきたもんだと感心するよ。
最初は警戒されてたけど、今じゃすっかり狩り仲間だ。
“狩り友”ってやつよ。しかもかなり気が合う。
飯はほとんど食わないけど、筋トレはしっかりやる。
俺が教えてやったんだ。ベーシックな懸垂とディップスから、プレデター式の崖登りトレーニング、毒ガス吸入持久走法まで。
何も言わず、黙々とついてくるんだよな。
しかも、手を抜かねぇ。疲れたそぶりも見せない。
……カッコいいよなぁ、あれ。
「プロテイン何味がいい?」って聞いたら、「飲んだことがない」と返されたのも印象的だった。
だから俺の抹茶味を半分あげたら――あれ以降、ちょっとだけ筋肉が増えてきた気がする。
でも、デクには――目標がある。
そう、“復讐”だ。
あいつが最初に見せてくれたマスクの記録。
あれ、俺は今でも忘れられない。
デクの母ちゃんの出産記録かと思いきや、その後に映ってたのは――
白い髪のプレデターに、クラシック族の男――つまり、デクの親父が“処刑”される映像だった。
冷徹な所作、まったく迷いのない一撃。
おそらく、白髪はバッドランズの看守側……いや、処刑官クラスだろう。
デクは、その男を殺す――いや、狩るためにここで生きている。
剣を見せてもらった時、俺は思わず唸ったね。
「これ、よく研いでるな」って。
そしてデクが一言も発せず、地面に突き立てたその剣を睨んでいたときに気づいたんだ。
あの剣、白髪が捨てていった武器だったんだ。
自分の親を殺した相手の武器を拾い、それで“仇を狩る”。
……くぅ〜〜〜!痺れるよなぁ!!
“獲物で獲物を狩る”。これ以上にプレデターらしい美学、あるか?
でな、デクは一度――挑んでるんだよ。
白髪の看守に。
でも、そのときは負けた。
ボロボロになって、命からがら逃げて、また牙を研ぎ続けたってわけだ。
そして――今。
俺と出会い、狩りを共にし、日々を戦い抜きながら、着々と力をつけている。
うん、もう立派な相棒だ。
……いや、俺の中ではもうちょっと上かもな。弟分って感じ?
最近じゃあ、戦闘中に呼吸のタイミングまで合ってきてる。
俺がスピアで足を止めて、デクが横から首を切る、みたいな連携もバッチリ決まってきた。
こうなってくるとさ――
“狩り”ってのが、ただの生存行為じゃなくなるんだよな。
魂が乗る。誇りが生まれる。
それが、狩人同士の“絆”ってやつだ。
俺は――この星に来て、本当によかったと思う。
そして、思うんだ。
このままいけば、デクは――
必ず奴を狩る日が来る。
俺もその日まで、隣にいるつもりだ。
だって――それが狩り友ってもんだろ?
そんなこんなで、今日も狩りを終えて、俺たちは拠点に戻っていた。
戦利品は獣の牙と、黒い羽根を持つ飛行型クリーチャーの片翼。
筋トレもバッチリ済ませたし、プロテインもデクに押しつけたし、今日の充実度は星五つだ。
夕陽が毒の大気を透かして薄紅色に染まり、森の影が地面を滑っていく。
こうして一日が終わる――かと思ってたんだが。
――目の前に、“何か”が現れた。
「ん?」
森の奥、岩場の先に立っていたのは――
金髪の女のアンドロイドだった。
背丈は人間の平均女性より少し高め。体表には細かな傷や煤が残っていて、服は風化してボロボロ。
白い肌、切り揃えられたショートボブ。表情は虚無的。だが、何かを観察するようにこちらを見ている。
その目――義眼の奥で、青い光が蠢いた。
「……ウェイランドユタニ社、か」
俺は小さくつぶやいた。
この星に来てから、何度か似たような個体に遭遇していた。
人間型で、でも人間じゃない。アンドロイド型の兵士たち。
だがこいつは、他と違って“迷い”があるように見えた。
「お前、話できるか?」
俺がそう聞くと――
しばしの沈黙。
だが次の瞬間、口元がわずかに動いた。
そして、出てきた声が――
「……可能よ。私は……通信可能なアンドロイド」
――ん?
俺は少しだけ眉を上げた。
声は確かにクリアで冷静。発音も完璧だ。
けど、どこか妙に“ラフ”な感じがあった。文法は正確なのに、響きがどこか人間臭い。
いや、人間臭いっていうか、ちょっと粗い。
言い方で言えば、「やけに達観してるけど、ちょっとズケズケした姉ちゃん」って感じ。
「ふぅん……面白ぇな」
その隣で、デクが警戒を解かずに俺の前に立った。
目は細めたまま。すぐにでも抜刀できる体勢だ。
「落ち着け、デク。まだ危険と決まったわけじゃない」
俺はそう言いながら、金髪のアンドロイドにもう一歩近づいた。
「名前は?」
「記録にはあると思うけど……今はまだ、アクセスできないみたい」
返答は速い。そして妙にドライだ。
「自己識別コードなら渡せるけど、機械語で返しても、あんたたち理解できないでしょ?」
「……いや、俺、翻訳モジュール積んでるからいけるよ」
「へぇ、やるじゃない。……じゃあ、あとでね」
“理知的”だけど、“どこか粗い”。
言葉の選び方がプレーンすぎるし、余計な敬語もない。無駄もないが愛想もない。まるで――自分のことを道具として自覚しながらも、道具扱いされることを心のどこかで嫌がってるような。
「……で? 君は何しにこんなとこに来たんだ?」
俺が軽く肩を回しながら問うと、彼女は少しだけ目を細めた。
いや、義眼だから正確には“光の収束率”が下がったように見えた。
「それが分かってれば、こんな風に歩き回ってないのよね」
「記憶喪失?」
「部分的に、ってとこかな。誰かに消されたか、自爆プログラムで飛んだか……詳細は調査中ってことで」
「なるほどねぇ」
俺はマスクを少し上げて、冷えた空気を吸い込んだ。
「ま、喋れるなら敵じゃねぇってわけでもないが……この星で人間に会うのもアンドロイドに会うのも、珍しくはない。けど、“意識がある”やつは、珍しい」
彼女は首を傾けた。
「そりゃそうでしょ。“意識があるアンドロイド”なんてのは、普通じゃないって知ってるから、私も驚いてるわ」
……ふむ。
この女、ただの道具じゃないな。
意思がある。感情もある。なのに、それを自分では持て余してる。
「お前、名前も目的も思い出せねぇなら……とりあえず“仮の名前”でも決めといたらどうだ?」
「は?」
「呼びにくいだろ、“お前”とか“そこの女”とか」
「……あー……そうね。たしかに」
少し考えて、彼女は肩をすくめるような仕草を見せた。
「じゃあ……“ヴェロニカ”でいいわ」
「ヴェロニカ?」
「ふと思いついただけ。でも、言いやすいし、忘れにくい。あんたらプレデターでも発音できるっしょ?」
「……ああ。覚えとくよ、“ヴェロニカ”」
その名を繰り返したとき、風がまた、湿った土と酸の匂いを運んできた。
なんだか、嵐の前の静けさってやつが近い気がする。
「……で?」
湿地帯の外れに建つ、半壊した輸送機の機体――今や俺とデクの拠点みたいなもんだ。
その片隅、かつて座席だった場所にヴェロニカはどかりと腰を下ろし、膝を組んだ。
「あんたたち、ここのプレデターじゃないよね?」
「まぁ、俺は違う。彼――デクは生粋のバッドランズ産だけどな」
俺はトロフィー用に削いだゼノモーフの骨を、ナイフでゴリゴリ削りながら返す。
「君こそ何者だよ。なんでこんな星に吊るされてた?」
「そりゃこっちが聞きたいわ」
ヴェロニカはそう吐き捨て、破れた袖から露出した前腕を見せた。そこには焦げ跡、露出した金属フレーム、その隙間に刻まれた一連の刻印。
「通信データは破損、記録装置も一部焼失。けど、断片的に残ってた。
この星の名は“バッドランズ”、監獄であり実験場。送られた理由は……“観察任務”だってさ」
「誰を観察する任務だ?」
「不明。そこが問題なのよ。おそらく、観察対象は“プレデター”だったと思う。
でもその中でも――“異常な個体”って記述があった。多分……あんたたちのどっちか」
……俺?
それとも――デク?
「異常、ねぇ」
デクは黙っていた。彼はいつも、初対面の相手には余計な言葉を吐かない。
だが今、その瞳だけはほんの少しだけ鋭さを増していた。
「観察っていうか……監視だろうな」
俺はそう呟き、削っていた骨を放る。軽く地面に突き刺さったそれを見て、ヴェロニカは鼻を鳴らした。
「監視か。じゃあ、私をここに送った奴らが敵ってことになるわけね。ま、驚きはしないけど」
彼女の口調は、相変わらず理知的で、でもどこか雑。
自分のことを他人事みたいに話すのは、記憶が曖昧なせいか、あるいは――壊れてるのか。
「そのうち思い出すよ。任務ってのは、忘れた頃に思い出すもんだ」
「楽観的ね。脳が焼けた感覚って、あんたにゃ分からないでしょ?」
「焼けた筋肉なら腐るほど経験あるけどな」
俺がそう返すと、初めてヴェロニカの口元が――
ほんの少しだけ、笑った。
「……変なプレデター」
「そうか?」
「ええ。“変”よ。あなた、“人間っぽい”」
人間っぽい、ねぇ。
褒め言葉かどうかはともかく、少なくとも敵意は感じなかった。
俺は立ち上がり、肩を回す。
「さて、雑談はこの辺にしておこうか。今夜は一狩りしにいく予定だったが、予定変更だ」
「何かあるのか?」
ヴェロニカが問うと、俺は窓の外を指さす。
「見えるか? 空の、あの黒い雲の下。あの辺りにな……“人間の基地”がある」
「!」
彼女の表情が、ほんの一瞬だけ変わった。
「……私、そこから来たのかも」
「可能性は高い」
俺は頷いた。
「だから確かめに行く。“観察対象”が俺たちなら、その理由もデータも、そこに残ってるだろ」
「……リスクが高いわよ。普通の人間じゃない。あそこにいるのは、“開発された兵器”」
「上等じゃねぇか」
俺はスピアを背中に背負い、リストブレイドを軽く起動した。
「俺はプレデターだ。狩る相手が強けりゃ強いほど、魂が沸騰してくる」
「……アンタ、ホントに変」
「褒め言葉として受け取っとくよ」
その隣で、デクも立ち上がった。
構えは取らない。けれど、その姿勢は“いつでも抜ける”構え。
この沈黙が、彼の“肯定”だった。
「よし。行くか。目的は三つ。データの回収、人間の施設の把握、それから――」
「ついでにちょっとだけ暴れて帰る」
「アンタ、ほんと戦闘狂ね」
「“ほんのちょっと”だって」
俺は笑いながら言う。
だが、その奥ではすでに――
獣のように昂ぶる“狩人の本能”が目覚めていた。
まぁ、すぐには行かず、ちょっとだけ拠点で休んでからにした。
バッドランズの夜は湿気が濃いし、ゼノモーフの死体を漁ってたヴェロニカが異常に手際よかったせいで、思ったより疲労が溜まってたからな。
でも、夜が明けりゃ話は別だ。
俺たちは森を抜け、谷を越え、湿地帯を踏みしめて進んでいった。
そして今――
“ウェイランドユタニ社の施設”が見下ろせる、崖の上に来ていた。
しゃがんだ俺の両隣には、当然、デクとヴェロニカ。
デクは相変わらず無言だ。膝をつき、剣を静かに背に固定したまま、目だけを動かして全体を観察している。
一方、ヴェロニカは崖の土に肘をついて、目を細めていた。
「……何か思い出したか?」
俺がそう聞くと、彼女はほんの一瞬だけ視線を切って、答えた。
「いえ、何も」
「そうか」
口調は変わらず理知的、でもやっぱりちょっとだけ雑。
なんというか、丁寧な言葉で投げやりに返される感じ、結構クセになる。
俺は視線を前に戻し、マスクを軽くタップした。
“ピッ”
スキャナ起動。熱源、通信波、電磁反応、生命体反応、構造データの統合解析。
このマスクはフジティブがチューンしてくれたから精度が高い。無線帯域にノイズは少ないし、構造スキャンもすぐ完了する。
施設全体は、直径約300メートル。地下構造あり。
表面に露出しているのは防壁と監視塔、それと格納庫が一つ。
が――
「……人間、いねぇな」
熱源反応は複数確認できるが、どれも一定のリズムで動いている。
生物特有の体温変動や呼吸周期がない。つまり、あれらは“人間ではない”。
「アンドロイドばっかだな」
「やっぱり……」
ヴェロニカがぼそっと呟いた。
「いるのは兵士タイプと……多分、私と同型の連中。性格設定は別として、基本フレームは共通」
「共通フレームってことは、接続できる?」
「可能性はある。相手がプロトコルを拒否しなければ、ね」
「つまり、近づいてみないと分からんってことか」
「そうなるわね」
俺は少し考えてから、再度スキャンに集中した。
施設の周囲には自動監視システムが稼働中。
レーザーフェンス、ドローン哨戒、小型セントリータレットの配置もある。
「デク、どう思う?」
声をかけると、彼は視線だけで俺に答えた。
“行ける”って目だった。
俺はふっと笑って、肩を回す。
「よし、ちょっとずつ近づいて、外装の端末まで行ってみよう。ヴェロニカ、お前がそこに接続して、内部構造とログを探る。いけるか?」
「上等よ。変な電圧で焼かれなきゃ、どうとでもなるわ」
心強いんだか、無鉄砲なんだか。
でも、悪くない。
この三人なら、やれる気がする。
目の前に広がる施設。
そこに何があるのか、アレがどこから来たのか、あるいは――
“何のために送り込まれたのか”。
全部、分かるかもしれない。
「さて、今日はちょっとした遠足だな」
俺は立ち上がり、スピアを肩にかついだ。
「行こうぜ。俺たちの“狩り”の時間だ」