深い霧の中を俺たちは進んでいた。
音が、ない。
いや、まるで何かに吸い取られるみたいに、耳の奥まで霧が入り込んできそうな静寂だった。どこかで何かが鳴いている気もするけど、それが本当に鳴き声なのか、俺の脳がそう錯覚してるだけなのか、よく分からねぇ。
「うわ……皮膚がちょっとピリピリするな、ここ」
俺はマスクの内側から鼻を啜りつつ、自分の腕を軽く叩いた。皮膚の表面に細かい粒子が付着していて、それが微弱な静電気を起こしているみたいだ。
ちら、と後ろを振り返ると、デクも同じだった。マスク越しに無表情だが、わずかに腕を擦っている。
「お前もか。さすがにここは、俺の耐性でもキツめってことか?」
デクは何も言わず、こくりと小さく頷いた。
そのさらに後ろ――ヴェロニカはいつもの通り、完璧に無表情だった。霧によって金髪の端が湿って垂れ、彼女のバイザーの内側には無数のデータウィンドウが展開されているように見えた。
「座標まではもうすぐだな」
俺は腕のガントレットを確認しながら言った。地図に表示されている座標には、あと三百メートル。距離にすればすぐだが、今は視界が三メートルもあればマシという状態だ。油断は禁物ってやつだ。
「そうね。目標の地点までは一直線よ。けれど……」
ヴェロニカがそこで少し口を噤んだ。
「ただの地形異常じゃないわ、この霧。散布されているものに『動き』がある。粒子が何かに反応してる。つまり、こっちを“感知している”可能性が高い」
「霧に意志があるってことか?」
「断定はできない。でも、少なくとも生物的な反応があるわ」
俺は無意識に背中のスピアに手を伸ばした。自然と、空気が重くなる。プレデターとしての直感――いわゆる「狩猟センサー」が、徐々に警鐘を鳴らし始めていた。
「おい、デク。剣、いつでも抜けるようにしとけ」
デクはもうすでに、右手を刀の柄に添えていた。やっぱりこいつ、勘が良い。
「ヴェロニカ。敵が来たら、どう動く?」
「背後を任せて。前方はあなた、側面はデクでカバーできる。三角形の布陣が最適解」
「了解。お前、マジで頼りになるな」
ヴェロニカは何も言わず、ただ一歩前に出た。
この時点で、もう何かが――俺たちを見ている気がしていた。
獣の目か。人の目か。あるいはそのどちらでもない“何か”か。
霧の奥に、気配だけが確かにある。俺たちはそれを迎え撃つのか、それとも引き寄せられているのか。
何にせよ、ここはもう――ただの霧じゃねぇ。狩るか狩られるかの、いつもの場所だ。 そんな事を思っていたら来やがった。
それはまるで、獣のような気配だった。
「グガッ!!!!!」
咄嗟に振り返ったエイペックスの前、霧の奥から影が飛び出した。人間の三倍近い跳躍力をもって飛びかかってきたその影は、しかし――一閃。
ズボッ、と深く鈍い音。
スピアの切っ先が、襲いかかってきた“それ”の腹を抉るように突き刺さっていた。突き入れた瞬間、内部の臓器を引っ掻く感触が、柄を通じて手に伝わる。
「プレデターか……」
エイペックスが片目を細める。霧の中で形すら判別しにくい敵の装甲。その質感、そのサイズ、その匂い――まぎれもない同族、いや“元”同族。
ブラン、と力を失ったその個体がスピアに吊られるように垂れ下がる。傷口から濃緑の血が流れ、地面に染みを作っていく。
「バッドブラッドといえど……あんまり殺したくねーんだがな」
スピアを振り払い、落ちた死体の肩に刻まれたマーキングを見た。見覚えのない紋章。掟に背き、名もなく、意味すら持たぬ存在――。
その時だった。
「くるわよ!!!」
ヴェロニカの声が飛ぶ。
――地鳴り。
霧の中に、異質なリズムが走る。大地を蹴る重い音。それが一つ、また一つ、そして――一斉に、十を超える振動がエイペックス達の足元を揺らした。
「来やがったな」
エイペックスがマスクの視界を切り替える。熱源表示、ノイズ混じり。だが分かる。多数の熱源が、こちらを包囲するように動いている。
「五時方向、三体! 九時方向に大型! 一時から突っ込んでくるわ!」
ヴェロニカの報告を受け、エイペックスはすぐさま跳んだ。
右手のリストブレイドがカシャンと展開する音が霧に響く。
まずは右手――シュリケンディスクを腰から抜き放ち、構えた。
ドガッ!!
最初の一体が霧の中から姿を現した。巨大な四足獣。毛皮も鱗もない、皮膚むき出しのような異形。顎が左右に開き、上下から牙が飛び出していた。
「お前からだ!!」
エイペックスがシュリケンディスクを横一文字に投擲。
ディスクは回転しながらその頭蓋を切り裂き、顎から後頭部へと貫通した。バギャッという音とともに獣は前のめりに倒れ、草を引き裂いた。
デクも動いていた。
無言のまま剣を抜き、霧の中から飛び出した別の獣に斬りかかる。腕の筋肉が緊張し、最小限の動きで力を集中――
ズバンッ!!
一閃。刃が霧を裂き、獣の首を斜めに切断した。吹き上がる血飛沫を身体を回転させて避け、次の敵に備える。
「デク、右!」
エイペックスの声と同時に、もう一体の獣が背後からデクに襲いかかる。
だが、間に入ったのはヴェロニカだった。
「どきなさい」
低く、静かな声と共に、ヴェロニカが蹴り出した。
衝撃波が霧を裂き、獣の胴体が鈍くのけ反る。骨が砕け、皮膚が裂ける音。倒れかけたその頭部に、ヴェロニカの刃が突き刺さった。
「こっちは片付いたか?」
エイペックスがそう呟く間もなく、霧の中に再び気配。
今度は――プレデターだった。
霧の奥、ゆらりと姿を現す数体の影。全身に無造作に武器をくくりつけ、動きが乱れている。だがしかし、さきほどのプレデターよりも明らかに“戦うために訓練されている”個体。
「なぁ、あいつら……明らかに《イかれてる》よな?」
エイペックスがスピアを構え直す。
霧が濃く、視界は奪われている。だが、この緊張感。この殺気。この一瞬で空気が変わる感じ――
「こっからが本番か……!」
霧の深奥、空気の重さが肌にまとわりつくように感じられる中、エイペックスたちはその場に立ち止まった。
地面を駆ける獣の足音。風を切る咆哮。濃霧の向こう側から迫る気配は、ただの猛獣ではない。異形の獣、バッドブラッド、そしてそれに追随するような動きの乱れたプレデター――いや、元プレデターと呼ぶべき存在が、霧の向こうから突進してくる。
最初に飛び出してきたのは二足歩行のケモノだった。ゼノモーフに似た骨格を持ちながらも、背面から突出する骨質の刃が鋭く、まるで他の種と交配されたかのような異形の個体。鋭い四肢と紫色の体液を撒き散らしながら、エイペックスに飛びかかってきた。
「チッ……」
エイペックスは即座に右腕を振るった。リストブレイドがカシンと音を立てて展開される。突進してきた異形の首を正確に捉え、音もなく切断する。
ザシュッ!
血飛沫が霧の中に弾けた。その紫色の体液は酸性を帯びていたが、エイペックスはまるで気にする様子もなく、すぐさまもう一体へと対応を切り替える。
背後、わずかに空気が歪む。そこに現れたのはバッドブラッドのプレデターだった。左右非対称の武装、眼光は濁っている。既に狩人としての誇りを捨てた獣だ。エイペックスが振り返る前に、その異端の刃が襲いかかる。
ガキィィン!
エイペックスは左腕のガントレットで受け止めた。火花が散る。瞬時に反撃、右肘から繰り出すリストブレイドの一閃で相手の喉を貫いた。
「狩人の誇りもねぇのかよ」
獣が倒れるよりも早く、今度はデクが動いた。
赤い肌に霧を纏い、影のように動くデク。その剣はまるで生き物のようにしなり、次々と獣たちを捌いていく。彼の狙いは確実で無駄がなく、しかも鋭い。小柄な体躯だが、鍛え上げられた肉体と技術がすべての攻撃を回避し、致命打のみを与える。
「……やるじゃん、ほんと」
エイペックスは霧の向こうで戦うその姿をチラリと見やっただけで、次の敵へと意識を向ける。
そして――
「こっちも来るわ!」
ヴェロニカが叫ぶ。
霧を割って現れたのは四脚の大型獣だった。金属質の外殻を持ち、目のない頭部からは連続する低音の咆哮を発している。エイペックスと同じ三メートル級の巨体。アンドロイドである彼女に向かって跳躍した。
しかしその動きよりも一瞬早く、エイペックスのシュリケンディスクが宙を舞った。
カシャン――ギュン――!
六枚の刃が回転しながら獣の側頭部を切り裂き、跳躍中の身体を半身ごと切り裂いた。
「遅ぇんだよ、動きが」
シュリケンディスクが自動で手元に戻ると同時に、エイペックスは次の戦いに備え腰を落とした。
だが、終わりはしない。
霧の中から新たな獣が姿を現す。今度は、身体の一部が金属で補強された“改造型”ゼノモーフ。尾の先に取り付けられた刃が回転している。
「また新手かよ!」
叫ぶ間もなく、その尾が地面を裂いた。
ヴォンッ!
地面の砂が弾ける。だがその尾の先端を、エイペックスは右手でガシッと掴んだ。
「はっ、力比べならこっちの勝ちだ!オラ!!!」
ブンッと振るうようにしてゼノモーフの身体ごと霧の中に叩きつける。その一撃で地面は凹み、獣の身体は大きく裂けた。
静寂。霧の中で血が蒸発する音。
やがて、霧の奥で一体のプレデターが逃げ出す気配があった。
「狩人が逃げるなよ」
エイペックスが低く呟き、スピアを背中から引き抜いた。
次の瞬間、霧を裂いてその刃が走った。
突如、霧の奥で肉を裂く音とともに短い悲鳴があがった。
静寂が戻った。
エイペックス、デク、ヴェロニカの三人は背を預けるようにして再度周囲を確認する。
「……終わった、か?」
「いいや」
エイペックスは言う。
「まだ何かいるな」
マスクのスキャンが示す複数の反応。だが、それらは霧の向こうで、こちらを“試す”ようにして止まっていた。
“死の霧領域”。ここはただの瘴気の土地ではない。何かが、意志を持って彼らを見ている。
戦いは、まだ始まったばかりだ。
すぐにスピアを回収し、エイペックスは倒れ伏したプレデターの首を無造作に掴み上げた。酸性の霧が立ち込める中、ブランと垂れた腕が微かに痙攣している。まだ生きているようだ。
「おい、なんで襲った?」
エイペックスの問いかけに、傷ついたプレデターは喉の奥から異様な音を絞り出した。
「ぐぐふぃふぃふぃぎぐ!!」
声というより、内側から湧き上がる泡のような音。マスクの翻訳機も意味を拾えず、表示はノイズだらけだった。
「喋れねーのか?」
エイペックスは眉をひそめると、その顔に僅かに違和感を覚えた。瞳が揺れていない。感情の波も、誇りも、何もない。ただ喉と肺が反応的に声を発しているだけだった。
「……こりゃ、駄目だな」
デクが無言で近づき、腰の剣に手をかける。彼の瞳は静かだが、その奥には確かな怒りが宿っていた。無差別に襲いかかるプレデター――かつて彼の一族を殺した存在と重ねたのだろう。
「待て、デク」
エイペックスが手を挙げて制した。
「まだ利用価値があるかもしれねぇ」
その言葉に、ヴェロニカが静かに歩み寄ってきた。
「顔、見せて」
彼女はそう言うと、倒れたプレデターのマスクのロックを素早く解除し、外した。
現れた素顔は、赤黒く変色し、一部の皮膚は裂けて剥き出しになっていた。どこか人為的に弄られたような不自然さがある。額の奥には金属片、そして耳の後ろには小さなポート――制御装置か。
「……やっぱり。これ、脳の制御チップね。戦闘用に調整された“飼いプレデター”。つまり、プログラムされた殺戮個体」
「……なるほど。じゃあ本人の意志で襲ったわけじゃねぇのか」
「正確に言えば、“本人”という概念すら曖昧。生きてるけど、狩人としては死んでる。魂のない個体」
エイペックスはその言葉を聞くと、ゆっくりと相手の首を離し、地面に転がした。
「……こんなのを量産してたのか。ウェイランドユタニ、マジでやべぇな」
ふと、霧の中で何かが光った。ヴェロニカが反応する。
「敵、まだいる」
「見えてる」
エイペックスはスピアを肩に担いだ。
「気配が変わった。今度のはただの量産型じゃねぇ……」
霧の濃さが一段と深まったように思えた。音も匂いも、全てが沈み込むような感覚。次に現れる相手は――格が違う。
そして、霧の向こうから、重々しい足音が響いてきた。
最初は、湿地を踏みしめる鈍い水音だけだった。だが徐々にそれは地響きへと変わり、やがて濃霧のカーテンを裂くようにして、巨大な影が姿を現した。
「ハッ、お出ましかよ!」
エイペックスの口角が僅かに上がる。
霧を割って現れたのは、先日地下施設で打ち倒した白髪のプレデターと酷似した風貌の存在だった。
だが違う。
さっきスピアで貫いた操られたプレデター達とは、その動きも、その雰囲気も、まるで異なる。
それは“狩られる側”ではなく、“狩る者”の気配をまとっていた。
「……あれは、本物だ」
ヴェロニカの声が静かに響く。
白髪のプレデターは、無言のまま三人を睨みつけていた。
肩幅はエイペックスと変わらない。だがその筋肉の膨らみ、皮膚の色合い、そして瞳の鈍く光る橙色の光は、まるで何か“別の生物”のようだった。
右手にはエナジーソード。スイッチが入れられると、刃には不気味な赤黒いエネルギーが走り、霧の中で淡く明滅した。
左手には見慣れぬ大型のガントレット。通常のプレデターが使用するコンピューターガントレットよりも一回り大きく、内部に何が搭載されているかは分からない。
「……来るぞ」
デクが低く唸った。
次の瞬間だった。
霧の中を滑るようにして、白髪のプレデターが突進してきた。
その速度は、あの巨体からは想像できないほどだった。
「速っ!!」
エイペックスが反射的に右腕のリストブレイドを展開し、正面から迎え撃つ。
ギィン!
赤黒いエナジーソードとエイペックスのリストブレイドが正面で激突し、火花とエネルギーの断裂音が周囲に炸裂した。
激突の衝撃で地面が抉れ、跳ね上がった泥が霧と共に宙を舞った。
その一撃で押し返される形になったエイペックスは、一歩下がりながらスピアを抜く。
「なるほどな……こいつ、戦いを知ってる」
白髪のプレデターは無言のまま次の一撃に備えた。
デクが横から素早く駆け出し、彼の懐を狙って跳ぶ。
「デク、いくぞ!」
エイペックスの声と同時に、デクの剣が唸りを上げて振り下ろされた。
しかし、白髪のプレデターは僅かに身体を捻り、刃をエナジーソードで受け止める。
ザンッ!
火花が飛び、空気を裂く音が周囲を揺るがした。
エナジーソードのエネルギーが剣の刃に侵食するように走り、デクが咄嗟に跳び退く。
その背中をヴェロニカの持つハンドガンから放たれたプラズマボルトが援護する。
白髪のプレデターは瞬時に腕を交差させ、左のガントレットからエネルギーシールドのようなものを展開。
着弾したプラズマが、霧の中で紫色の爆発となって弾け飛んだ。
「マジでヤベェ装備してやがる……」
エイペックスはスピアを構え直し、霧の中で再び突進する。
今度は正面から行かず、斜め上から跳んだ。
高く跳躍し、空中から一気にスピアを振り下ろす!
ズガァッ!!!
白髪のプレデターはそれを右腕で受け止めた。エナジーソードとスピアが激しくぶつかり合い、二人の巨体が空中で一瞬、均衡する。
地面に着地したエイペックスの足元が、衝撃で陥没した。
だが、力負けしていなかった。
「へへ……楽しくなってきたじゃねぇか……!」
その顔には、戦いの興奮が浮かんでいた。
白髪のプレデターは僅かに口角を吊り上げるような表情を見せた。
彼もまた、この戦いを“狩り”として楽しんでいるのかもしれない。
そして――霧の中、二つの巨影がぶつかり合う。
その瞬間、激突の衝撃が周囲の空気を圧し、まるで爆風のように霧を吹き飛ばした。鈍い衝突音が地面を震わせ、足元のぬかるみが吹き飛ぶように抉れた。
土砂が宙に舞い、倒木が破砕される。湿った泥と共に空気が震え、その場にいる者すべての皮膚を貫くような圧力が走った。
反動でわずかに後退した二体の巨影は、即座に再び飛び込む。間を置かない。
鋼鉄を叩き割るような音と共に、スピアとエナジーソードが斜めに切り上げられた。
エイペックスは右腕に装備されたリストブレイドを畳み、代わりにスピアを両手で握り直す。刃先を下段から跳ね上げるようにして突き上げた。
対する白髪のプレデターも、腰を沈めた姿勢からエナジーソードを逆袈裟に振り上げる。エネルギーの軌跡が赤黒く空間を裂き、霧の名残を引き裂いた。
ガギィィィン!!!
刃と刃が激突し、空気中に粒子がばら撒かれる。赤と青の残光が交錯し、ふたりの姿が閃光の中心に浮かび上がる。
「――ッ!」
デクが横から走り込む。だが、巨大な力の衝突が発する衝撃波が彼の動きを鈍らせた。
白髪のプレデターは左のガントレットを振る。内蔵された機構が唸り、そこから重々しい金属音と共にフック状の金属刃が飛び出した。それは鞭のようにしなり、デクの方向へ飛翔した。
「デク、下がれ!」
エイペックスが怒声を飛ばす。
デクは地面に滑り込み、刃がかすめるように頭上を通過していく。鞭刃は地面の岩をえぐり、火花を散らして戻っていく。
「ちっ、あのガントレット……普通の装備じゃねぇな」
エイペックスは霧の中で呼吸を整えながら、わずかに後退し間合いを取る。
その刹那――白髪のプレデターが地を蹴った。
視認できないほどの速度で間合いを詰め、刃を横薙ぎに振り払う。
「ハッ、甘ぇ!」
エイペックスはリストブレイドを再展開し、右腕で受け止める。スピアを地面に突き刺し、テコのようにして力を逃すと、そのまま軸足で回転し、カウンターの一撃を叩き込んだ。
ズドッ!
白髪の巨体が吹き飛ぶ。数メートル先の木に激突し、幹ごと粉砕される。枝葉が降り注ぐ中、そいつはゆっくりと立ち上がった。
「――壊れてねぇのかよ。マジで丈夫だな」
エイペックスは唇を吊り上げる。口の端から、興奮と愉悦の混ざった低い笑いが漏れた。
ヴェロニカがその隙を突くようにプラズマボルトを連射する。狙いは白髪のプレデターのガントレット。正確な射撃が集中し、エネルギーシールドが展開される前に数発が命中した。
「効いたか?」
煙が舞う中、わずかに右肩を崩す白髪のプレデター。その動きが僅かに鈍る。
「今だ、行け!」
エイペックスが跳ぶ。
宙を舞うようにして白髪の頭上から襲いかかり、スピアを渾身の力で振り下ろした。
ガァン!!!
今度こそ、エナジーソードの構えは間に合わなかった。スピアの一撃が肩口に深々と突き刺さる。
だが、白髪のプレデターは呻くこともなく、ガントレットをエイペックスの胸元に叩きつけた。
「がはッ!」
衝撃で吹き飛ぶ。背中から地面を滑り、泥と霧の中を転がる。だがエイペックスは即座に起き上がった。左腕のガントレットに裂傷があるが、致命傷ではない。
「お返しか……いいねぇ……!」
霧の中でふたたび間合いが開いた。
デクが一瞬を突いて跳び込み、低い姿勢から刃を突き込む。白髪はエナジーソードを振り下ろすが、デクは咄嗟に逆方向へ跳び避ける。
その間に、エイペックスは再びスピアを引き抜いた。
――勝機は近い。
白髪のプレデターの呼吸が荒くなってきた。先ほどの肩への打撃が効いている。エネルギーソードの振りも、最初ほど鋭くはない。
霧の中、三人の影が再び揃った。
「次で終わらせるぞ」
エイペックスの声に、デクとヴェロニカが頷いた。
――狩りは、終盤へと向かっていく。