本編主人公のエイペックス君よりも遥か古の時代の狩人のお話的な?
深淵を歩く者
宇宙は広い。
どれほどの距離を飛び、いくつの星を巡っても、その全てを知ることはできない。
光が届くよりも速く闇は広がり、星はその闇の中で燃え続けている。燃える星もあれば、冷えて死んだ星もある。だが、どちらにも命は潜んでいる。氷の殻の下で牙を研ぎ、暗闇の中で獲物を待つ者。灼熱の火山に覆われた大地で、溶岩の海を泳ぐ捕食者。宇宙は、そうした存在で満ちている。
我ら狩人にとって、宇宙は獲物の巣であり、墓でもある。
掟も言葉も通じぬ獣がいる。
牙だけで生きる怪物もいれば、我らを逆に狩ろうとする知性ある種族もいる。
危険は計り知れない。
だが、その危険の中にこそ、美しさがある。
光の海の中で赤い巨星が膨れ上がり、最後の鼓動を迎える瞬間を見たことがあるか。彗星が闇を裂き、幾つもの衛星を粉砕しながら尾を引く光景を見たことがあるか。それらは獲物を追う手すら止めさせるほどの光景だ。そして美は往々にして死と隣り合わせにある。見惚れている間に、牙は迫ってくる。
「静かに降り、静かに仕留める……それが生き残るための爪だ」
俺はそう呟く。
それは美しさに目を奪われて命を落とした者たちを、いくつも見てきたからだ。
宇宙は、油断した者を必ず喰らう。
俺の目には、星々は獲物に見える。そして星々もまた、俺を獲物と見ている。互いが互いを喰らおうとする、その均衡の中で俺は生きてきた。
狩る日もあれば、狩られる日もある。
逃げ場のない宙域で、敵の艦影が背後に現れたときの冷たさを俺は知っている。死が背中に触れた瞬間、肺が固まり、指が重くなる。その感覚は一度味わえば二度と忘れられない。
だから、俺は臆病だ。
臆病であることが、生き延びる術になる。
獲物の匂いを嗅ぎ取る前に、獲物がこちらを見ているかもしれない。視線を感じたら、一歩退く。相手が一歩踏み込めば、二歩下がる。そうして機を待つ。
宇宙に時間の感覚はない。ただ影と光が交互に訪れるだけだ。その中で俺は獲物の息を数え、星の鼓動を読む。危険が近づき、遠ざかる。その流れを見極めた時、俺は牙を剥く。
潮の満ち引きのように、宇宙の危機は寄せては返す。
近づいた瞬間に攻め、遠ざかったら息を殺す。
これが生き残るための呼吸だ。
光の下で牙を研ぎ、闇の中で血を洗う。
数え切れぬほどの星を渡り歩いてきた。だが、それでもまだ宇宙は俺を知らない。俺もまた、宇宙のすべてを知らない。この闇の海に、どれだけの危険と美が潜んでいるのか。それを知りたくて、俺はまた新しい航路を選ぶ。
危険と知っていても、足を踏み入れる。
その先に、俺の牙が届く獲物が待っているかもしれないからだ。
そして今日も、俺は星々を見下ろしている。燃えるもの、冷えるもの、朽ちたもの、芽吹くもの。その全てが俺の狩場になる可能性を秘めている。
俺は狩人だ。
それ以上でも、それ以下でもない。
俺たちは自らをヤウジャと呼ぶ。
他の種族はプレデターと呼ぶが、その呼び名に誇りを抱く戦士は多くない。狩りを知らぬ者が付けた名に、刃の重さは宿らないからだ。ヤウジャにとって狩りは、生きるための糧ではない。生きる理由そのものだ。生まれた瞬間から牙を学び、歩けば足音を殺し、武具を持てば掟を刻む。掟は血よりも重く、骨よりも硬い。弱き者を狩らず、戦えぬ者を獲物とせず、背を向けることは恥。狩りの証を偽ることは最大の汚辱。これらは世代を超えて受け継がれ、ヤウジャの魂に刻まれている。
しかし、その掟を破る者が必ず現れる。
欲に呑まれた者、名誉を急ぐ者、あるいは狂気に堕ちた者。
彼らはやがてバッドブラッドと呼ばれ、血を汚す者として狩られる。
そして、その役目を担うのが、俺の生まれたアヌ族だ。
アヌ族――ヤウジャの部族の中で唯一、同族殺しを許された断罪の部族。その存在は、他の部族から忌み嫌われる。表では軽蔑の視線を向けられ、裏では恐れられる。宴の火の輪に混じることはあっても、盃の香りには必ず棘が混ざる。血を断つ者と呼ぶ者もいれば、血を汚す者と罵る者もいる。それでも我らは必要とされる。掟を守るためには、掟を破る者を討たねばならない。他の部族がその手を汚さぬよう、その汚れ役を俺たちが引き受けるのだ。
アヌ族の掟は冷酷だ。
標的がどれほどの地位や戦績を持とうと、必ず首を落とさねばならない。
獲物を逃せば、次に狩られるのは自分だ。
失敗は許されず、失敗するくらいならその場で死ぬほうがまだ名誉だとされる。
そのため、アヌ族の戦士は常に死の匂いを纏っている。
宴の場を思い出す。炎が高く燃え、戦果を語る声が夜空に響く。武具の金属光沢が火に照らされ、焼けた脂の匂いが漂う。骨が積まれ、酒が回り、笑いがこだまする。その外側に俺たちアヌ族の影がある。誰も近づこうとしない。近づけば、自らの名が汚れると信じる者もいれば、刃が理由を欲しがると怯える者もいる。
俺たちは黙って座り、炎のはぜる音を数える。ぱち、と木が裂ければ、かつての戦場で骨を砕いた感触が蘇る。沈黙こそが俺たちの褒美であり、それを破るのは標的の首を掲げた時だけだ。
アヌ族に生まれるということは、生まれた瞬間から孤独を背負うことだ。血の重さも、誇りの痛みも、すべて自分の中で抱え込む。吐き出す場所はない。だからこそ、俺たちは誰よりも鋭く、誰よりも速く獲物を仕留める。
俺の名はヤウジャの言葉で【底】を意味する。
老狩人は俺に言った――「お前は深淵を歩く者だ」と。深淵とは、裏切り者の血が流れる場所。掟が砕け、名誉が崩れ落ちる場所。そこが、俺たちアヌ族の狩場だ。他の部族が決して近寄らぬ場所で、俺たちは牙を研ぎ、血を洗う。誇りと呪いを同時に背負いながら、深淵を歩き続ける。
そして、その道の先に、俺の次の標的が待っている。
アヌ族の任務は、血で刻まれた掟そのものだ。
俺たちは、ヤウジャの中で唯一、同族を狩ることを許された存在。
禁忌を犯す者の首を刎ねることが、我らの役目だ。
それは決して誉れある仕事ではない。
だが必要だ。
掟は守られねばならない。
裏切り者が生き延びれば、狩場は腐り、部族全体の名誉が失われる。
バッドブラッドは、己の欲望のために戦場を汚す。弱き者を嬲り、狩りの証を奪い、偽りの戦果で己を飾る。そして時に、同族をも平然と殺す。その瞬間、そいつは獲物になる。俺たちの刃は、そのために存在している。
任務は常に孤独だ。
狩場の場所は他の部族から知らされるが、援軍が来ることはない。
アヌ族は自分の標的を自分の手で仕留めなければならない。生還の道は用意されない。標的を討つか、討たれて死ぬか、それだけだ。
だからこそ、俺たちは他の部族よりも生き残り方を知っている。
アヌ族の戦は、正面からぶつかるものではない。
影から影へと移動し、獲物の油断を待つ。息を潜め、距離を詰め、狙いを定める。そして一撃で終わらせる。
遅れれば、逆にその刃を喉に受けることになる。
標的は常に用心深く、逃げ場を用意している。追う側が臆病でなければ、追跡は長くは続かない。臆病さは、俺たちにとって武器だ。
時には標的の背後で何日も待つ。食料も水も尽きかけ、肉体が悲鳴を上げても動かない。待つのは、ただ一瞬の隙のためだ。その瞬間が訪れたとき、刃は必ず首を断つ。
アヌ族の任務は、他の部族から見れば卑しいものかもしれない。だが、俺たちは知っている。掟を守るためには、掟を破る者を断たねばならないことを。腐った血は必ず広がる。放置すれば、部族全体が腐臭に包まれる。俺たちはその腐敗を切り落とす刃であり、汚れを背負う盾でもある。
「お前が行け」
任務を与えられるとき、長はそう言うだけだ。
場所、時刻、標的の名――それだけが渡される。
そこから先は全て俺の仕事になる。
背を押す者も、見送る者もいない。ただ深淵の縁に立ち、標的を見つけ、踏み込むだけだ。討った後に残るのは、静寂と血の匂い。
賞賛も歓声もなく、ただ任務は終わる。
そして、次の名が告げられる。
アヌ族に休息はない。深淵を歩く者に、終わりはない。
俺は、そんなアヌ族に生まれた。
誇りや名誉の話を聞く前に、まず知ったのは冷たさだった。
アヌ族の赤子は、生まれて一年を迎えると選別を受ける。
選別とは、生きるか死ぬかを決める儀式だ。
理由はただひとつ――弱い血を部族に残さないため。
儀式の日、俺たち赤子は一列に並べられた。まだ立つこともおぼつかない者、牙も生えていない者、泣き声ばかり上げる者。母の腕を離された瞬間に動きを止め、恐怖に固まる者もいた。大人たちは一人ずつその身体を持ち上げ、重さと筋肉の付き方、目の光を確かめる。短い時間で命が決まる。
落とされた者は、その場から戻らない。
泣き声が途切れるのは一瞬だ。
俺は、なぜか残された側に立っていた。
理由はわからない。筋肉の張りか、目の光か、ただ運か。
だが、その時点で俺は、生き残った少数の一人になった。
選別を通った赤子は、すぐに母の手から離される。親はもう子ではなく戦士の卵として見るようになる。優しさや抱擁は消え、代わりに鍛錬と監視が始まる。泣けば叩かれ、立てなければ立たされ、食わなければ飢えさせられた。俺にとって遊び場は、砂と石と骨が転がる地面だった。
覚えている。夜、眠ろうとしたとき、遠くから獣の咆哮が響いた。皮膚の下を走るような低い振動が、幼い骨を震わせた。恐怖で目を閉じても、瞼の裏に闇の中の牙が浮かんだ。逃げ場はない。俺は膝を抱え、音が遠ざかるのをただ待った。その時初めて、臆病さが俺の中で根を張った気がする。
アヌ族では、生まれた日から深淵の縁を歩かされる。
誰も手を差し伸べない。
這い上がるか、落ちるかだけだ。
俺はその縁で、小さな爪を必死に立てていた。
そして、この縁を歩くために必要なことを、自然と覚えていった。
俺の教育係の名は、オリオン。
大きな体躯に、古傷で削られた顎。
片方の目は白濁し、視線は常に刺すように鋭い。
その目は、獲物を見る目ではなく、獲物を作る目だ。
オリオンは俺を戦士にするために送られてきた。
鍛錬は朝から始まる。太陽が昇る前に起こされ、身体を動かす前にまず武具の手入れをさせられる。刃の角度、弦の張り、金属の継ぎ目の油。わずかな異常も許されない。指の動きが遅ければ拳骨が飛び、目が逸れれば足払いを食らう。身体の痛みは日常であり、そこで泣くことは許されない。
「戦士は、武器の延長だ」
オリオンはそう言った。
「武器が鈍れば戦士も鈍る。戦士が鈍れば、狩場で死ぬ」
その言葉は何度も繰り返され、骨の奥にまで刻まれた。
昼になると鍛錬は苛烈さを増す。重い石を抱えて砂地を走り、槍を持ったまま急斜面を駆け上がる。足を止めれば砂が崩れ、足場を失う。息が切れ、視界が白むまで動き続ける。体力が尽きる瞬間こそ、オリオンはさらに負荷をかけた。疲れ切った身体に、刃を避け、槍を突き、網を投げる動きを叩き込む。
夕刻には格闘の訓練が待っている。素手で組み合い、倒すか倒されるかの勝負。手加減は一切ない。骨がきしみ、皮膚が裂け、血の味が口に広がる。倒されればすぐに立ち上がれ、立てなければ蹴り飛ばされる。そこに温情はなかった。
夜になっても休息は与えられない。焚き火の明かりの下、暗闇の中での戦いを想定した訓練が行われる。視覚を奪われ、音と匂いだけを頼りに標的を探す。背後から風が動くわずかな気配を感じ、反射的に身を捻って回避する。耳と皮膚で世界を読む感覚を叩き込まれた。
オリオンは一度も褒めなかった。
だが、時折見せる沈黙と頷きが、俺には褒美だった。
その無言の承認こそ、俺を立たせ続けた。
成人の儀式の日、俺は決められた装備だけを手に降下艇へ乗り込んだ。
スピア。
リストブレイド。
ディスク。
そして標準装備のコンピューターガントレットとバイオマスク。
他の武具は許されない。
狩りは己の力で成す。
降下艇が惑星の大気に突入し、船体を叩く衝撃音が響く。バイオマスクのレンズ越しに、荒れ果てた地表が見えた。古びた石造りの遺跡が砂漠の中央に鎮座している。あそこが、俺の成人の舞台だ。
足を踏み入れると、遺跡の内部は薄暗く、空気は冷たい。壁一面には古代の彫刻と、硬化した黒い物質が張り付いている。水滴が天井から落ち、静かな空間に小さな音を刻む。俺は慎重に歩を進め、奥へと向かった。やがて広間の中央に、安置されたプラズマキャスターが見えた。古代の台座に置かれ、装飾の埃をかぶっている。
俺はスピアを収め、両手でそれを持ち上げた。
その瞬間、遺跡全体が低く唸った。
足元の石床がわずかに震え、壁の陰から鎖で繋がれた人間の生贄が引き出される。顔には恐怖が張り付き、次の瞬間、天井から落ちてきたフェイスハガーがその頭にしがみついた。指のような脚が頭部を締め上げ、尾が首に巻き付く。
生贄の体が痙攣し、やがて静かになる。
儀式は始まった。
通路の奥から湿った足音が近づく。バイオマスクが熱源を捉え、赤い影がゆっくりと姿を現した。艶やかな黒い外骨格、長くしなる尾、そして内側に潜む第二の顎――ゼノモーフだ。
俺はスピアを構え、低く息を吐く。
奴は最初から全力だった。尾が鞭のように唸り、俺の脇をかすめて壁を砕く。石片が飛び、マスク越しに砂埃が舞うのが見えた。間合いを詰め、リストブレイドで脚を狙う。だが、硬い殻に刃は浅くしか入らず、酸の飛沫が飛び散って床を焼いた。
ゼノモーフは一歩も退かず、鋭い顎を突き出してきた。俺はディスクを抜き、低い軌道で投げるように振るう。回転する刃は奴の右肩を裂き、黒い体液が弧を描く。酸の滴が床と俺の腕に落ち、瞬く間に装甲を焦がした。
「ッ……!」
熱と痛みに歯を食いしばりながらも、俺は踏み込んだ。ゼノモーフの尾が横薙ぎに迫る。体を沈めてかわし、同時にスピアを突き上げる。刃先が顎下を貫き、甲高い悲鳴が遺跡に響いた。酸が雨のように降り、床と壁が煙を上げる。
ゼノモーフが痙攣し、動きを止める。
俺はその頭部を掴み、膝で首を押し潰して完全に動きを断った。
儀式の最後――酸の血で印を刻む。
ゼノモーフからもぎ取った指から流れ出る体液を床に垂らし威力を確認して、それを自らの腕に押し付けた。皮膚と装甲が同時に焼け、白い煙が立ち上る。痛みが骨まで響くが、耐える。印は消えない。成人の証として、俺の肉に刻まれた。
その時、奥の闇で動く巨大な影が見えた。
クイーン――ゼノモーフの女王が、無数の卵を産み続けている。鋭い視線がこちらを刺した。
だが、儀式は一体を倒せば終わりだ。
生きて戻ることが、今の俺の任務だ。
俺はスピアを握り直し、背を向けずに後退を始めた。
そして遺跡の入り口から差し込む光に足を踏み出したとき、俺は初めて、深淵を越えた戦士になったのだ。
成人の儀式を終えて間もなく、俺に与えられた最初の本任務はバッドブラッドの討伐だった。
標的は、かつて北方宙域で名を馳せた狩人。
だがその名は、今や汚れている。
弱き者を嬲り、戦わぬ者を狩り、証を奪って偽りの栄光を重ねた。
そして仲間を背後から刺し、獲物を独り占めした。
その瞬間、奴は狩人ではなく、俺の獲物になった。
情報によれば、奴は辺境の密林惑星に潜伏している。そこは厚い樹海と湿地が広がり、空からの熱源探知も難しい。湿気は重く、地面には無数の生物の足跡が交差している。雨上がりの空気に混じるのは、血と腐敗の臭い。ここは奴のような裏切り者には都合のいい隠れ家だ。
「見つけ出す……必ず」
声に出すことで、狩りの始まりを自分に刻み込む。
俺は木々の間を音を立てずに進む。バイオマスクが赤外線を描き出し、わずかな熱の差を映し出す。だが、この星には温血の獣が多すぎる。熱源の海から標的の輪郭を見つけるのは容易ではない。
数時間の探索の後、ようやく異質な熱の流れを見つけた。
それは大きく、重く、そして動きが滑らかすぎる。獲物を追う狩人の歩み。俺はその尾を踏まぬよう距離を保ち、影から影へと移動した。
やがて、奴の姿が見えた。
装備はスピアとリストブレイドに加え、奪ったプラズマキャスターを肩に載せている。面の片方には深い亀裂が走り、そこから覗く目は獲物ではなく獣の目だ。
「やはり……腐ってやがる」
奴は湿地の中央で、縄に吊られた人間の遺体を弄んでいた。すでに息はない。掟を守る狩人なら、そんなことは決してしない。
俺は樹上から飛び降り、距離を一気に詰めた。
着地と同時にスピアを突き出す。奴は反射的に身を捻り、刃は肩口をかすめるにとどまった。反撃のリストブレイドが横から迫る。俺は腕で受け流し、回転しながらディスクを投げた。回転刃は奴の脇腹を裂き、明るい血が飛び散る。
バッドブラッドは怯まず、距離を詰めてくる。
尾のように伸ばしたスピアを振るい、突きと薙ぎを繰り返す。衝撃が腕に響くたび、過去の鍛錬が脳裏をよぎる。オリオンの声が、ここでも俺を立たせた。
奴の刃が俺の胸甲を掠め、火花が散る。
間合いが近い。
俺は自ら距離を詰め、リストブレイドを深く突き立てた。腹部の装甲が割れ、血が溢れ出す。奴は咆哮し、最後の力でプラズマキャスターを撃とうとした。
だが、遅い。
俺はガントレットの制御で干渉し、照準を狂わせた。放たれた光線は空を裂き、遠くの木々を焼き払っただけだった。
「終わりだ」
短く告げ、首を刎ねる。
重い音とともに、バッドブラッドの体が湿地に沈んだ。
静寂が戻る。
湿った空気の中で、血と腐敗の臭いがさらに濃くなる。
俺は首級を掴み、掟に従いその場を離れた。
背後に残ったのは、裏切り者の骸と、腐敗した名の終焉だけだった。
それからの年月、俺はエルダーの命に従い、ひたすらバッドブラッドを狩り続けた。
標的の名は次から次へと告げられ、休息の暇はない。
星々を渡り、様々な環境で血を流し、影の中で息を殺す。
冷たい宇宙船の中で眠り、起きれば次の狩場に立つ。
命乞いをする者もいた。
武器を捨て、跪き、額を地に擦りつけて許しを乞う者もいた。
中には、自分が犯した掟破りを涙ながらに語る者もいた。
だが、俺の任務は情けをかけることではない。
刃は迷わず振り下ろされ、首は落ちる。
その瞬間、静寂と血の匂いだけが残る。
そんな日々が、いったいどれほど続いただろう。
数えたこともない。数えれば終わりが見えてしまう気がして、あえて数えなかった。
だが、胸の奥ではずっと同じ思いが渦巻いていた。
俺はこんなことをしたくない。
掟を守るため、部族を守るため、それが必要なことは理解している。
裏切り者を放置すれば、狩りの誇りは崩れ落ちるだろう。
だが、それを狩ることが俺の生きる意味ではない。
俺は、獲物を追う瞬間が好きだ。未知の星の空気を吸い、足跡を辿り、気配を探り、ついに姿を捉えるあの高揚。危険と隣り合わせのあの瞬間こそ、俺が生きている証だ。
バッドブラッド狩りは違う。
そこにあるのは腐敗と陰鬱、そして同族の死だけだ。獲物の息遣いから学ぶことも、未知の動きに驚くこともない。すでに知っている手口、すでに見た裏切り、すでに終わった誇りの断末魔。
それは狩りではない。処刑だ。
俺はもう、心のどこかで限界を感じていた。
そしてある日、誰もいない輸送艇の中で、とうとう声に出してしまった。
「……俺は、俺は自由気ままに狩りをしたいーーー!!!!」
腹の底から、怒鳴るように、叫ぶように吐き出した。
胸の中の澱みが一瞬で吹き飛ぶような感覚があった。
その叫びは船内の壁に反響し、何度も何度も俺に返ってきた。
笑うしかなかった。
誰も聞いていない。エルダーも、仲間も、この声を知らない。
だが、俺は知ってしまった。
俺はもう、深淵だけを歩く狩人じゃない。
これからは、自分の狩場を、自分の足で選ぶ。選べるよな?
エルダーが何と言おうと、掟がどうであろうと――
俺は、俺の狩りをする。星々を渡り、未知の獲物を追い、好きなときに仕留めるそのために、俺は生き残ってきたのだから。
俺の狩りは、まだ終わらない。はずだ。多分。
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